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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第七話「剛剣使い」

 七月三日、午後四時。


 キルナレックを出発した俺たちは、何事もなく無事にボウデン村に到着した。

 到着したボウデン村は、人口三百人ほどの小さな村で、高さ三mほどの木の塀に囲まれていた。だが、木の塀はところどころ破損しており、魔物の侵入を防ぐ役にはあまり立っていない。

 主要街道であるアルス街道の宿場であるため、宿は十軒ほどあるそうだが、あまり豊かには見えない。村を歩く人々に老人たちが多く、子供や若者が少ないことと、その老人たちに疲れたような、そして、諦観したような表情が浮かんでいることが、そう見える原因かもしれない。

 ガイにそのことを聞いてみると、


「この辺りは魔物がよく出没するので畑を広げられないと聞きました。宿場としての価値がなければ、とうに放棄されているはずだとも……ですから、村での生活に希望を見いだせない若者たちが村を出て行ったのではないでしょうか」


 俺はなぜ魔物を狩らないのか疑問に思った。


「うちの村のように魔物を狩ればいいんじゃないのか? それにここなら傭兵を雇うこともできるだろうし……なぜ、それをしないんだ?」


 ガイは首を横に振り、ラスモア村が例外であると説明する。


「ラスモア村が特別なのです。先代様やウォルト殿のような強者(つわもの)がおらねば、魔物に対抗などできません。傭兵を雇ったとしても、彼らもこの村に愛着があるわけでもなく、報酬分の仕事しかしないのです……」


 祖父のような力のある指揮官がいなければ、そして、うちの従士たちのような優秀な兵が核にならなければ、普通の村人が束になったとしても、オーク程度の少し強い魔物には全く敵わない。

 ラスモア村でも最初はかなり苦戦したそうだから、村の自警団程度が魔物に対抗するのは無理な話なのだろう。

 もう少し大きな村なら、冒険者ギルドの支部が設置されるのだろうが、あまりに小さい村であるため、ここに支部は設置されていない。一応、ギルドから常時討伐依頼は出されているのだろうが、支部のある南のキルナレックと北のソーンブローの双方から離れていることが、冒険者たちの足を遠のかせる原因になっている。

 魔物討伐の依頼は非常に危険な仕事であり、その分報酬が高いが、同じ魔物なら報酬はほとんど変わらない。そのため、町から遠いこの村にわざわざやってくる冒険者は少ない。豊かな村なら、村が報酬に上乗せをするのだろうが、この小さな村では常に上乗せるだけの余力がない。

 村人のほうも、村には定期的に商隊がやってくるから、その護衛がいる限り、村の中なら安全は確保されると考えている。ならば、無理をして村を広げず、商隊相手に商売をするだけで十分という結論になったのかもしれない。


 だが、これだけ小さな村だと、自前の食料を生産するだけで手一杯だ。だから、商隊用の食料は外から買うことになる。当然、その費用は宿代に上乗せされるが、村の農民たちにその金が流れることは無い。村全体で見れば、宿は大した利益を生まず、結局村は発展しない。


(キルナレックのような城砦都市なら、もう少し発展する余地もあったんだろうが、今の状態は商人たちに生かされているだけの状態だな。しかも、外から情報が入ってくるこの村では、若者たちはここに未来を見いだせず、捨てていく。領主がいる村なら何とかなったのかもしれないが、指導者のいない村では、その日を生きるので精一杯だ。何とかしなくてはと考えるのだろうが、具体的なことまでやれる余裕がないのだろうな……そう考えると、うちのラスモア村というのは、恵まれている村なのだな……)


 そんなことを考えながら、村の中を進んでいく。

 村自体は五百m四方くらいの広さがあり、宿はその中心部に固まっていた。

 荷馬車は宿から東側に向かっていく。その先に百m四方くらいの広場というか草原があり、そこに荷馬車を止めることになっているようだ。


 商人のノートンたちと別れ、俺たち四人は宿を探しに行った。

 宿はすべて木造二階建ての古い建物で、どれがいい宿なのか全く判らない。ガイもこの辺りには滅多に来ないそうで、お手上げの状態だった。

 俺たちが悩んでいると、護衛隊長のバイロンが声を掛けてきた。


「宿が決まっていないようでしたら、我々と一緒の宿ではいかがですかな? 大した宿はありませんが、一応マシな部類に入りますが」


 俺はガイに目で任せると合図をする。彼が俺に代わって答えてくれた。


「バイロン殿にお任せしよう。二人部屋を二部屋で頼む」


 バイロンは頷くと、俺たちを先導していく。

 彼は一軒の宿の前で止まり、「ここです」と指を差す。彼の言うとおり、建物も庭も比較的手入れが行き届いており、この村の中では一番まともそうに見える。


 中に入ってもその印象は変わらず、清潔そうな部屋で少し安心していた。


(ダニやシラミがゾロゾロ出てくるようなベッドだったらどうしようかと思ったが、これなら大丈夫だろう。この宿を紹介してくれただけでも、バイロンとやりあった甲斐がある)


 村を出ると決めた後、俺はリディやガイ、ヘクターなど旅慣れた人たちにいろいろ聞き回っていた。その話の中で宿についての不満が多く、特に害虫に関する不満が一番強かった。

 日本で住んでいる時は、都会のマンションだったから、害虫らしい害虫はいなかった。寝具も割と頻繁に天日干ししていたし、害虫駆除の薬剤も定期的に散布していた。

 ラスモア村でも、周りには自然がいっぱいあるが、使用人たちが清潔にしていてくれたおかげで、シラミやノミとは無縁の生活だった。


 そこで俺は、害虫駆除の魔法が出来ないか考えることにした。

 最初に思いついたのは、薬剤噴霧式の殺虫剤。

 バ○サンのようなものだが、殺虫成分が思いつかず断念した。

 次に考えたのが、温風布団乾燥機。風と火の魔法で温風を作るというものだった。

 一応完成したのだが、複合魔法になるため呪文が作れず、魔力(MP)消費量が無駄に大きかった。諦め掛けたとき、偶然リディの姿が目に入り、簡単な解決策を思い付いた。

 つまり、一人でやるから複合魔法になるわけで、二人で協力すれば単純な魔法で済む。それを実現するため、俺が空気の温度を上げて、彼女に風を送ってもらう方法をとったのだ。

 これならどちらも呪文があるし、擬似ペルチェ効果の魔法が使えるから、温度制御も簡単で、なおかつMPの消費量も少ない。風も強風を作り出すわけではないから、リディの負担も少なくて済む。

 二人で何度も練習し、温風式害虫駆除魔法を完成させていた。

 念のため、今日もその魔法を使ってみたのだが、ダニが死んだのかはよく判らない。

 明日の朝、痒くなければ成功したと思うことにした。


 夕食まで時間があるため、近くの空き地でガイと剣術の訓練を行うことにした。

 シャロンもリディ相手に護身用の剣術を習い、四人で汗を流していく。

 さすがに素振りだけでは退屈なので、近くの木の棒を木剣に見立て、模擬戦を始めた。


 相手のガイの剣術は祖父やニコラスとは異なり、自己流のスピード重視の剣術だ。左右に小刻みに動き、こちらの隙を突いて首や手首、膝などの急所を狙ってくる。従士になってからは、祖父たちに剣術を習っているため、自己流ながらもかなり完成度の高い剣術になっている。

 一方、俺の剣術は祖父に習った正統派のものだ。だが、俺はそれに少しアレンジを加えている。

 一番大きな変更点は、魔闘術の筋力強化と反射神経強化を併用したことだ。

 魔闘術は魔力を身体に流し、一時的に身体能力を上げる技だが、使いどころが難しい。

 魔力の消費量が大きく、常時魔力を流し続けることができない。バイロンに使ったように瞬間的に使う方法が望ましいが、剣を打ち合わせている時には、闘いの方に集中しなければならず、魔力を身体に流す余裕などない。

 そのため、距離を取った時などに瞬間的に魔闘術を使えるように訓練している。


 この魔闘術なのだが、使いすぎると筋肉痛が酷い。無理やり筋肉を動かしているからだろうが、酷い時には疲労骨折を起こすこともある。筋肉痛も疲労骨折も治癒魔法で対応が可能だが、いざという時に疲労骨折したのでは使い物にならない。体に負担を掛け過ぎないように注意し、常に最適な魔力制御を意識して訓練を行っている。

 最近はかなり慣れてきており、バイロンに使ったような“縮地”に似た動きや、一流の体操選手のようなアクロバティックな動きもできる。俺にとっては、魔法と並んで切り札になりうる技だと思っている。


 俺とガイが模擬戦をやっていると、知らない間に傭兵たちが集まっていた。

 バイロンたちも訓練をするのかと思い、邪魔なら退くがと声を掛ける。

 バイロンは小さく首を振った後、「私と手合わせしてもらえませんか」と頭を下げながら、俺の前にやってきた。

 ガイは「お止めになった方が」と俺を庇うように前に出る。


 バイロンは大型の両手剣を使う剛剣使いだ。

 俺の周りには彼のような剛剣使いがいなかったことから、一度手合わせをしてみたいと思っていた。

 ガイは俺が大ケガをすることを心配しているのだろう。俺はそんな彼を手で制しながら、バイロンの前に出ていった。


「一手、ご教授願いたい。即死さえしなければ、骨折程度は気にしない。よろしく頼む」


 俺が頭を下げると、傭兵たちから意外だというようにどよめきが起きる。偉そうな口を利いている貴族の子供が、一介の傭兵に頭を下げるのが意外だったのだろう。それともケガをしても文句を言わないと言ったことが意外だったのかもしれない。

 バイロンは「静まれ! ザカライアス様に失礼だろうが!」と一喝し、部下たちを黙らせた。


 彼は訓練用の木剣を持っていた。その木剣は一・五mを超える巨大なもので、頭に直撃すれば、ただのケガではすまないだろう。これを知っているから、傭兵たちは驚きの声を上げたのかもしれない。

 彼がその木剣をゆっくりと持ち上げていくと、彼の巨体が更に大きくなったように感じた。


(まるで棍棒だな。しかも威圧感が凄い。じい様やニコラスのような正統派の剣術士じゃないが、実戦で鍛え上げた強者つわものの風格があるな。これは最初から飛ばしていかないと、一分も経たないうちに叩きのめされるな……)


 俺は彼に勝とうとは思っていなかった。

 彼のようなタイプと手合わせをすることにより、今後の参考になればいいと軽く考えていたからだ。

 だが、バイロンが木剣を構えると、すぐにその考えが変わった。

 彼から放たれる殺気が尋常なものではなく、皮膚が粟立ち、ビリビリと電気が流れるような殺気を感じていた。


(殺しに行くつもりじゃないと、こっちが殺される。俺は初めて人から本気の殺気を当てられている気がする……)


 俺はバイロンが仕掛けてくる前に先手を打とうと、魔闘術を使って右に跳んだ。

 瞬時に三mほど横に動き、彼の左側から直線的に突っ込んでいく。


 その時、何かが揺らいだ。

 俺は本能に従い、攻撃を諦め、更に右に転がるように跳んだ。

 その直後、俺のいた場所の地面が爆発し、その衝撃が俺を襲ってきた。

 バイロンの本気の一撃が地面に炸裂し、その余波を感じたようだ。

 俺はその一撃に戦慄していた。


(今のは何だ? あのまま突っ込んでいたら、あれを喰らったのか……本気で殺しに来ていやがる。じい様と初めて模擬戦をやった時を思い出したぞ……)


 俺は再び距離を取り、一旦呼吸を整える。


「さすがですな。今の一撃を避けるとは。では、今度はこちらから行かせて貰います」


 ガイが何か叫んでいるが、俺にはそれを聞きとる余裕が無かった。なぜなら、二m近い巨体が信じられないほど鋭い動きで俺に接近してきたからだ。

 更に彼の攻撃は先ほどのような大振りではなく、巨大な両手剣の長さを生かした鋭い突きを放ってきた。

 シュ!ともビュン!とも感じるような風を斬る音が聞こえ、俺はその攻撃の鋭さに死の恐怖を感じた。

 俺は心の中で“拙い!”と叫びながら、必死にバイロンの剣を打ち払う。

 だが、俺の軽い打ち払いは、カツンという乾いた音を立てただけで、攻撃の軌道はほとんど変わっていない。

 体を捻り、何とか剣先を避けたものの、その動きのため完全に後手に回った。バイロンはその隙を見逃さず、その巨体ごと俺にぶつかってきた。

 剣先を避けるのに必死だった俺は、車に跳ね飛ばされたような衝撃を受け、数m吹き飛び、受身を取る間も無く地面に叩きつけられていた。

 肺が空になると思うほどの衝撃を受け、俺は無様に地面に転がっていた。


 その様子を見たガイが「ここまでにしてもらおう」と俺たちの間に入ってきた。

 俺は彼に言葉を掛けようとしたが、地面に叩きつけられた衝撃のため声が出ない。

 その時、俺はまだ続けるつもりでいた。せめて一太刀だけでも入れたいと木の棒を杖に、立ち上がろうともがいていた。

 バイロンは何も言わず、その場に立っているが、俺が立ち上がるのを見て、


「ザカライアス様はまだやるおつもりだ。ジェークス様、もう少し見ていてはくれまいか」


 その間に何とか立ち上がった俺は、「ガイ、大丈夫だ……大丈夫だと思う……」と囁くような声で彼を下がらせる。


(じい様の剣ですら何とか弾くことはできたのに……それなのに、この男の剣は……どうする? 避け続けるしかないのか。他に方法は……)


 その時の俺はこの状況の打開策を見付けることができていなかった。

 ただスピードを生かして撹乱することしか頭になかった。

 俺は深い意味もなく、再び魔闘術を脚に掛けていた。


 魔闘術を掛け終えた直後、隙を突くように左に跳ぶと見せかけて右に跳び、更に加速を加えて彼に肉薄する。

 俺はその時、“懐に入るしかない”と考えていたのだ。懐に入りさえすれば、何とかなると。

 そして、フェイントを数回掛け、意を決してバイロンの懐に飛び込んだ。

 彼の振り下ろした剣が俺のいた場所を通り過ぎた時、俺は勝ったと確信した。


(よし、これで決まりだ!)


 俺は彼の無防備な脇腹に剣を打ち込んだ。

 だが、次の瞬間、俺の視界が回転する。

 そして、地面に仰向けに倒され、空を見上げていた俺の目の前に、彼の巨大な木剣が突きつけられていた。俺は何が起こったのか、全く判らず混乱していた。


(何が起こった? 最後の攻撃を仕掛けたところで、俺の勝ちだったはずだ。なぜ、俺は地面に転がっているんだ?)


「お見事です。これでも私は四級の傭兵なのですよ。それが、僅か十歳の少年にここまで梃子摺らされるとは思いませんでした」


 バイロンは微笑みながらそう言うと、剣を引き、俺に右手を差し出してきた。俺はその手を取り、体を起こす。


「いい勉強になった。ありがとう。本当に……ところで最後は何をしたんだ?」


 彼はごつい顔を綻ばせ、「足払いです」と足を少し振る。


(あの状況で足払いを出せるのか……これが実戦で鍛えられたものの強さなのか……じい様の言ったとおり、俺には経験が圧倒的に足りないな……)


 俺はもう一度、「いい勉強になった。時間があったときに稽古をつけてもらえないだろうか」と頭を下げる。


「判りました。私にとってもいい勉強でした」


 俺は彼に笑いかけ、「なあ、もうそろそろ敬語は止めないか」と言うが、彼は首を横に振る。


「将来、あなたに仕えるかもしれません。その時のために今から慣らしておくんです」


(どうやら本当に見た目通りの男ではないということだな。俺に仕えるつもりだと言っておけば、あの場で恥を掻かされたことすら美談に変えられる。英雄譚を好む奴らが聞けば、負けたことを素直に認めて仲間に加わった従者のように聞こえるだろう。それに、こうしておけば時間が解決してくれるかもしれない。将来のことを考えて、子供に花を持たせたという言い訳に使えるからな……)


 そして、この模擬戦の目的についても何となく判ってきた。


(これは部下たちへのアピールというか、配慮だな。自分で言うのもなんだが、俺の動きは十歳の子供にしちゃ尋常じゃない。自分たちの隊長がただの子供に負けたわけじゃないということを見せたかったのだろう……もう一つ考えられるのは、俺に敬意を持って接する理由を明らかにしたかったんだろうな。あのままの状態なら、傭兵たちは俺に反感を持つ。それを緩和させるために一芝居打ったというところか……そう考えると、最初の一撃の殺気もわざと見せたんだろうな……)


 模擬戦のあと、宿に戻り、埃だらけの身体を拭く。

 地面に叩きつけられた跡はあるが、体当たり、足払いによるあざはなかった。


(かなり手加減されていたな。ガイの見立てでもニコラス並の腕だ。今の俺が逆立ちしても勝てる相手じゃない。まあ、面白い男と出会えたと思っておこう)


 その後、リディとシャロンがかなり憤慨していたので、俺の推論を聞かせてやった。二人はあまり納得できなかったようだが、ガイが俺の考えに賛同してくれたため、何とか怒りを納めてくれた。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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