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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第七章「嚮導者時代:諸国編」

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第五十七話「竜牙兵」

 三月三十日の午前十時過ぎ。

 アクィラの山から漆黒の竜が急襲してきた。

 リディと俺の魔法で地上に引き摺り下ろし、祖父たちが止めを刺した。これで勝ったと思ったが、敵はそれほど甘くなかった。


 竜は最後の力を振り絞り、竜牙兵ドラゴントゥースウォーリアを召喚したのだ。

 ロックハート城の西の訓練場近くに落ちた竜の死体から、漆黒の魔物が湧き出すように召喚されていく。


 竜牙兵は竜の牙や体を触媒にして召喚される魔物と言われている。

 見た目こそ大きめの漆黒のスケルトンに過ぎないのだが、その能力は非常に高い。


 竜牙兵は触媒となった竜の強さに比例して強力になる。小型の地竜の牙で召喚した竜牙兵ですらオーガやトロールに匹敵する三級相当と言われているが、今回のような最大級の邪竜の例はなく、一級相当の危険度になってもおかしくはない。


 召喚された魔物は二メートルほどの身体で、刃渡り一・二メートルほどの漆黒の曲刀(シミター)と直径八十センチほどの同じく漆黒の丸盾(ラウンドシールド)を装備している。

 記録にある三級相当でも一流の剣術士、つまりレベル五十程度の剣術スキルを持つと言われており、その大型の曲刀は充分に脅威だ。


 骨格は高品位鋼であるアルス鋼に匹敵する強度を誇り、並の攻撃では傷つけることすら難しい。更に魔法に対する耐性も高く、その防御力は基になった竜より高いとすら言われていた。


 そして、最も重要なことは集団戦に秀でていることだ。

 召喚される数は決まっていないが、一度に五十から八十もの数の竜牙兵が召喚されると言われている。その数十の竜牙兵が一個の生物のように連携し、様々な戦術を駆使して襲ってくるのだ。


 無限の体力を持つ非生物(クリーチャー)であり、絶大な攻撃力と絶対的な防御力を誇るだけでなく、戦術まで駆使する。

 その最悪の敵が防壁の中に現れたのだ。



 竜牙兵の出現に一瞬我を失ったが、まだ敵は完全に召喚されたわけではない。

 今ならまだ対応できると頭を切り替え、未だに茫然としている祖父や父に代わり、指示を出す。


「敵は竜牙兵だ! ベテランが主体となって対応しろ! できる限り戦線を小さくして側面に回り込まれないようにするんだ!」


 俺の言葉に祖父が「ザックの指示に従え!」と命令し、その声でロックハート家の戦士たちも我に返った。


 そして、俺の横にいるウィル・キーガンにも指示を出す。


「ウォルトの指示に従え! 敵の動きは思った以上に速いし硬いぞ。翻弄されないように注意しろ」


「了解しました!」というと、竜牙兵に向かって走り出した。


 ウィルたちを見送りながら、どう動くべきかと考える。


(魔法で支援するか、前線に立つか……どっちも一長一短だな……ん? あれはなんだ?)


 その時、上空に小さな影を見つけた。

 よく見ると、五十メートルほど上空に俺たちを見つめる浮遊する眼球(ゲイザー)の姿があった。


 ゲイザーは六級から七級の比較的弱い魔物だ。闇属性魔法による精神攻撃を仕掛けてくるが、単独行動をしていない限り、若い自警団員でも対処できる程度だ。


(ゲイザーか、珍しいな。山の中では何度か遭遇したが、村まで来たのは初めてじゃないか?)


 ゲイザーはアクィラの山にある洞窟に生息していることが多く、珍しいものではない。しかし、飛行速度が遅く、他の飛行型の魔物に襲われるため、滅多に縄張りから離れない。そのため、村の近くで見たことはなかった。


(魔法で支援するつもりか? それも単独で?……魔法を撃つにしても遠すぎる。何をしているんだ?……)


 邪竜や竜牙兵という強力な魔物にゲイザー程度の支援が必要とは思えない。支援するにしても精神攻撃を行うにしては距離が離れすぎている。


 違和感を覚え、ゲイザーの動きを観察する。

 ゲイザーは場所を微妙に変えながら、俺たちを順番に見ている感じだ。


(俺たちを観察しているのか? 何のためだ? 虚無神(ヴァニタス)が俺たちを見ているのか? 神がそんな面倒なことをする必要があるとは思えないが……)


 そして、ゲイザーと目が合う。


(俺を見ている……攻撃の意志は全く感じられない。ヴァニタスが直接、竜牙兵の指揮を執るつもりなのか? そのための中継器ならあり得るが……もしかしたら!……)


 そこで俺はある考えが浮かんだ。


(……ルナたちにこの戦いを見せているのか? 彼女を絶望させるか、俺たちを助けるために取引に応じろとでもいうために……ありえない話じゃない……)


 アクィラの東でヴァニタスらしき者の力が強くなった。このタイミングで村が襲われ、今まで村まで来たことがないゲイザーが不可思議な行動を取っている。

 ゲイザーが映像を送るという話は聞いたことがないが、神であるヴァニタスならできないことはないだろう。

 それに俺の考えが間違っていたとしても不利益は生じない。


(……だとしたら、俺にできることはこれしかないな……)


 ハンドサインで“支援不要”と“手近な敵に当たれ”というメッセージを送る。

 ハンドサインの語彙ではこれが限界だが、もしヴァニタスと対峙しているなら、俺の意図は理解できるはずだ。

 二度メッセージを送った後、燕翼の刃(スワローカッター)の魔法をゲイザーに放った。


 魔法の燕は弧を描くように敵に向かっていく。

 ゲイザーも魔法に気づいたのか、逃げ始めるが、燕の速度に敵うはずもなく、あっけなく命中する。

 ゲイザーが地上に落下するが、竜牙兵たちの動きに変化はない。


 その間に祖父たちは城を背にして隊列を組み、約五十体の竜牙兵と戦い始めていた。

 ロックハート家側の剣術士は二百名以上いるが、前線に出ているのはレベル三十五を超える百名程度だ。レベルが低い者は竜牙兵の攻撃に対抗できないため、予備兵力として後方に置き、負傷者を退避させる役を担わせるようだ。


 槍術士もレベルの高い五十名程度が前線に立ち、剣術士の間から攻撃を加えている。

 弓術士はヘクター・マーロンが指揮を執り、城のバルコニーや防空塔から支援射撃を行っているが、ヘクターの強弓ですらほとんど効果が見られず、牽制にすらなっていない感じだ。


 他にもシャロンが城の上から魔法で支援を行っているが、魔法防御力が高いため、こちらも効果がなかった。そのため、直接攻撃を諦め、空気の槌(エアハンマー)で敵の隊列を崩すことに切り替えていた。


 邪竜のブレスを撃ち込まれたリディだが、無事だったようだ。防空塔から出て城に向かう姿が見えた。

 防空塔から弓で支援するより、塔から降りて治癒師として働く方が役に立つと判断したらしい。


 ロックハート家は数こそ多いものの、竜牙兵に押されていた。祖父やニコラス・ガーランド、バイロン・シードルフら優秀な指揮官がいるため何とか拮抗しているが、それでも竜牙兵がシミターを振るうたびに自警団員が倒されている。


 竜牙兵たちの動きはまるで機械だ。

 五十体が二列の横隊を作り、交互に前に出ながら巨大なシミターを振り下ろす。寸分の狂いもない動きは大きな工場の工作機械を思い浮かべたほどだ。


 ロックハート家側もその入れ替わりのタイミングを見計らって反撃するが、盾を巧みに使って防御し、なかなか有効な攻撃にならない。逆に強引に前に出た兵士に対し、カウンター気味の攻撃を加えてくるため、ロックハート家の兵士たちはその都度出血を強いられている。


 戦い始めて五分ほどしか経っていないが、既に十人以上が戦闘不能に陥っていた。しかし、竜牙兵は一体も倒せていない。

 ダメージは与えているのだが、すぐに再生されてしまうのだ。ロックハート家一の猛者、獅子心(ライオンハート)ゴーヴァンですら梃子摺っている。


 俺もその戦いの場に飛び込もうとしたが、総司令官である父から止められた。


「今は何とかなっているが、このままでは我々の敗北は必至だ。打開する策を考えてくれ」


 父の言う通りで、ロックハート家側は急激な状況の変化に対応が後手に回っている。

 当初は竜に対するため、空からの攻撃に対応する体制を敷いていた。しかし、突然竜牙兵が召喚されたため、満足な準備を行うことなく戦闘に雪崩れ込んでいる。

 祖父たちの尽力で何とか指揮命令系統は維持できているが、効率的な戦闘とは言い難い。


「ベルトラムたちは城の上からバリスタを撃ってくれ!」


 ハンマーを手に戦場に踊り込もうとしていたドワーフたちに指示を出す。


「オオ! 任せておけ!」という声が返り、そのまま城の中に入っていく。


 彼らの技量では間合いの広い竜牙兵の攻撃をかわして懐に飛び込むことは難しく、このままではいたずらに犠牲を出すと考えたためだ。


(危なげなく戦えているのはじい様とバイロン、メル、ウォルト、ベアトリスくらいか。イーノスやウィルでも荷が重い感じだな……最低でもレベル七十くらいと考えておくべきだが、それにしても回復力が異常過ぎる……)


 メルが魔法を纏わせて竜牙兵を袈裟懸けにして倒したのだが、肋骨部分だけでなく背骨も断ち切ったはずなのに僅かな時間で再生し、戦線に戻ってくる。倒したはずの敵が短時間で復活する姿は、自警団員たちの士気を着実に下げていく。


(確かにジリ貧だ……アンデッドでもあれほど簡単に再生できない……やはり倒すには魔晶石を砕くしかないのか……)


 竜牙兵の魔晶石は頭蓋骨の中にあった。怪しい赤い光を発していることから場所はすぐに分かるのだが、頭蓋骨は並みの斬撃では破壊できず、祖父たちのように闘気を使って破壊するか、直接狙うしかない。


 しかし、直接狙うには眼窩を通すか、下方から顎の隙間を通すしかなく、達人並みの動きを見せる竜牙兵を相手にそんな芸当を見せることは、至難の業というより不可能と言った方がいい。

 それでもそれを言うしかない。


「魔晶石を狙ってください! 直接は難しいので、転倒させて動きを止めた後に槍術士が狙う形で!」


 しかし、俺の助言はほとんど効果がなかった。

 そもそも竜牙兵を倒すこと自体が難しく、倒れたとしても付近にいる竜牙兵がすぐにフォローに入り、追撃を許さない。それを無視して攻撃を加えると逆に反撃を受けてしまい、こちらの戦力が消耗してしまう。


 城の上にいた父も既に下りてきており、俺の横で全体の指揮を執っている。


「疲れを感じたらすぐに交代するのだ!」と指示を出した後、俺に向かって小声で


「この状況を何とかできぬか。あの再生能力を何とかできればよいが、せめて敵の動きを阻害することができれば……」


「再生能力の方は難しいですが、動きを阻害するだけなら何とかできます。ただ、一度に一体に限りますが」


「それでもよい。一体でも倒せば希望が生まれる。ベアトリスかウォルトのところで試してみてくれ。槍ならば隙を突いて魔晶石を破壊できるかもしれんからな」


「了解です」といってベアトリスが戦う右翼側に行く。


「今から敵の動きを遅くする。隙を突いて魔晶石を狙ってくれ!」


 ベアトリスの了解の声を聞くことなく、呪文を唱えていく。


「数多の風を司りし風の神(ウェントゥス)よ。彼の者への加護を拒みたまえ。我は命の力を御身に捧げん……加護の阻害(インヒビション)!」


 加護の阻害(インヒビション)はゴーレムの研究の時に思いついた魔法だ。

 ゴーレムの魔法陣には風属性が使われており、それがロボットアームなどのサーボモーターの役割をしていることを発見した。この特性により、無生物であるアンデッドやゴーレムなどが動けると考え、その役割を邪魔することで動きを止めるというものだ。


 サーボモーターのように物があるわけではないため、イメージが作りにくかったが、風の神(ウェントス)の加護そのものを“阻害”することで解決できないかと考えた。

 但し、この魔法はぶっつけ本番であり、効果を確かめられていない。動きが少しでもおかしくなれば儲けものという程度だ。


 加護を邪魔するため、結界のように範囲を指定している。どの程度の効果が出るかは相手の能力次第であり、少し多めに魔力を投入した。

 その結果、竜牙兵の動きが僅かに鈍った。その隙をベアトリスは逃さず、必殺の突きを頭蓋骨に叩き込んだ。


 パリンという音と共に竜牙兵が崩れ落ちる。魔晶石に槍が直撃し、制御を失ったようだ。


「やったぞ!」という自警団員の声が響く。


 しかし、その穴は即座に埋められ、その自警団員はシミターの一閃を受け、後方に吹き飛ばされていった。


「油断するんじゃないよ!」とベアトリスが叱咤し、更に俺に向けて、


「もういっちょいけるかい!」と歯をむき出しにして言ってきた。


 それに頷き、再び呪文を唱えていく。

 もう一体にも同じ魔法を掛けた。魔法自体は上手くいったようだが、奇襲効果が少なかったためか、ベアトリスの鋭い突きでも魔晶石に届かない。

 彼女の鋭い突きを予想し、身体を傾けることで対処してきたのだ。


「厄介な奴らだよ。一度見ただけで対応するなんてね」


 更にもう一度試してみたが、結果は同じで結局一体を倒すことしかできなかった。


 その後、収納魔法(インベントリ)に入れてあった鎖を使って足を引っかけたり、土の壁を作って足元を不安定にしたりといろいろと試したが、その都度対応されてしまう。


 (クロスボウ)を持つ主婦を主体とした弓術士部隊に対し、一箇所への飽和射撃を命じた。

 百を超える数の太矢(ボルト)やミスリルの鏃の矢が数体の竜牙兵に降り注ぐが、そのほとんどが盾で防がれ、盾に止められなかった物も骨格を削ることが精々で、有効な攻撃とは言い難い。


 上からの支援と手数の多さで何とか戦線を維持しているが、ロックハート家側の被害は増え続けている。


 戦いを見て思い知らされたが、文献にあった竜牙兵以上の存在だった。剣術の技量はレベル七十を超えるメルに匹敵し、辺境の雄ロックハート家でも祖父を始めとした数名しか技量で凌駕できていない。

 村を訪れる優秀な傭兵たちと手合わせしていた経験があるから戦線は崩壊していないが、これだけの技量を持つ集団との戦闘に戸惑いを隠せない。


 打開の糸口すら掴めない状況で、俺が確認しているだけで既に十人以上が命を落とし、その倍以上が重傷を負って戦線に戻れていない。この状況が続けば、一時間もしないうちに戦線は崩壊するだろう。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
[気になる点] 世界設定そのもの ・双方制約がある中での神々のこの世界を巡る争いということであるが、虚無神側が自ら降臨するということまでしている割には、直接関与していない創造神側の制約が厳し過ぎるよう…
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