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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第七章「嚮導者時代:諸国編」

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第五十六話「邪竜襲来」

 三月三十日の午前十時過ぎ。

 遂に敵が姿を現した。

 館ヶ丘の防空塔では敵襲の警報が鳴り、見張りからは竜らしき魔物が村に向かってくるという興奮気味の声が聞こえている。


「私も見に行く! イーノス、お前は防空体制を整えるよう、各隊に指示を出せ! ザック、私に付いてこい!」


 それだけ言うと、城の屋根にある塔に向かう。

 階段を駆け上がりながら、竜が一体だけという事実に違和感を抱く。


 確かに竜はこの世界で最も危険な魔物だ。

 過去にも全長五十メートルを超える巨大な竜は存在していた。その竜は邪竜と呼ばれ、邪悪ながらも知性を持ち、強力なブレスと爪、魔法をも跳ね返す鱗は災厄そのもので、帝国の城塞都市を五千人の守備兵ごと、一夜にして焼き払ったという記録が残っている。


 そう考えると決して侮っていい相手ではない。

 しかし、敵は虚無神(ヴァニタス)だ。あの存在が関与していることを考えると、平凡すぎる気がするのだ。


 もし確実に俺を殺すつもりなら、竜と共に他の魔物も送り込んでくるはずだ。

 いかに最強の魔物、竜であっても、単体なら何とでもなる。

 最悪の場合、地下十メートルに作られた頑丈な地下室や下水道に逃げ込めば、どれほど強力なブレスや爪を持っていようと手を出すことはできないのだから。


 そんなことを考えながら階段を駆け上がっていく。

 塔にはリディと見張りの弓術士が待機しており、東の空に望遠鏡を向けていた。


「敵はどうだ」という父の言葉にリディがやや北よりの東を指差しながら望遠鏡を手渡す。


「あそこよ。遠すぎて大きさははっきりしないけど」


 俺も収納魔法(インベントリ)から望遠鏡を取り出し、彼女の指した方向に向ける。

 アクィラの山に残る雪が岩肌とコントラストを成して見づらいが、ゆっくりとはばたく竜の姿を見つけた。


 目印のない空であり、比較対象がないため、正直大きさは分からない。ただ、翼の動かし方や風のはらみ方で飛竜(ワイバーン)の数倍はあるように感じらえる。


「大きそうですね。あれだと(クロスボウ)長弓(ロングボウ)では傷すらつかないでしょう。攻城弩(バリスタ)では動く敵に当てることは難しいですし、私の魔法しかないようですね」


「そうだな。あれを使うのか?」


「あの魔法のチャンスは一度しかありません。奇襲を仕掛けるしかないですね」


「よかろう。許可する。リディアも同じようにあの魔法を使って足止めをしてくれ」


「シャロンはどうするの? 三人の方が効果はあると思うのだけど」とリディが確認する。


「シャロンは温存する。他の敵が来ないとも限らない。それに竜に火と風は相性がよくないからな」と父に代わり俺が答える。


 大した時間話していたわけではないが、竜は肉眼で見えるほどまで近づいていた。


「それでは」と父に言い、リディと共に下に降りていく。


 城の外まで一気に走ると、そこには弩を持った自警団員たちが空を見つめていた。

 地上の敵なら防壁に配置されるのだが、今回は戦力を集中するため、城と周辺の防空塔を拠点にする。


「敵に奇襲を掛ける! ウィルの班は俺についてきてくれ! ルークの班はリディの指示に従え!」


 そう言いながら用意してあった杖を渡していく。

 この杖はドクトゥスで作ったアークライトの魔法陣が書き込まれたもので、奇襲で最大出力の魔法を叩き込み、一気に片を付ける。


 ウィルとルークの班はそれぞれ三十名ずつ。リディが光属性の流星雨(ミーティアシャワー)で竜の翼を傷めつけ、その後に俺が光神の雷霆ライトニング・オブ・ルキドゥスで止めを刺す。


 最初の構想ではリディは風属性の大嵐(テンペスト)に限ることにしていたが、属性による相性を考え、リディは光属性の流星雨(ミーティアシャワー)を、シャロンは火属性の炎龍の咆哮(ドラゴンローア)も使えるようにしている。


 光神の雷霆ライトニング・オブ・ルキドゥスは強力な単体攻撃魔法だが、レーザー兵器を模倣しているため、発動までの時間が長く、更に増幅中に強い光を発するため、本来なら奇襲に使いにくい。

 そのため、同じ光属性の流星雨(ミーティアシャワー)で比較的弱い翼の皮膜を狙いつつ、強い光で俺の魔法をカモフラージュするのだ。


 問題は竜の行動だ。

 今のところ真っ直ぐに向かってくるが、射程内に入らなければ流星雨(ミーティアシャワー)を撃っても意味はない。

 また、真っ直ぐ向かってきたとしても、地上で待ち受ける俺たちに気づき、先に攻撃してきた場合、奇襲は諦めざるを得ない。


 魔法陣による魔力の注入は人数が多くなるほど長くなる。魔力消費量によっても変化し、比較的消費量が多い魔法の場合、一分以上かかる。

 また、光神の雷霆ライトニング・オブ・ルキドゥスはレーザーの増幅のため、発動後も一分以上時間が必要だ。

 上空で自在に動き、いつでも攻撃できる竜から、この二分という時間を稼がねばならないのだ。


 そう考えると竜が一体だけで来てくれたことは俺たちにとってはありがたい誤算だ。

 魔将(アークデーモン)のアシュタルのように魔法を弾くことができたとしても、上空からのブレスだけなら城に篭れば被害は出ない。


 ロックハート城は俺の最大出力の魔法の十倍程度まで耐えられるよう設計されている。つまり、レベル百を超える魔術師の最大級の魔法でも余裕で耐えられるのだ。

 いかに竜のブレスが強力でも遠距離攻撃に対しては鉄壁だと自負している。

 竜が上空からの攻撃では埒が明かないと業を煮やして地上に降りてきたら、その時は接近戦を挑めばいい。


 危惧しているのは竜が上空から攻撃を加えている間に地上から別の魔物が襲ってくる状況だ。そうなったら防壁での防衛戦ができず、館ヶ丘内での乱戦に持ち込まれてしまうだろう。

 更に竜が地上の魔物に頓着せずに上空から攻撃してくると、ロックハート家側の被害は甚大なものになる。


 杖を受け取ったルークの班がリディと共に防空塔に向かう。

 ミーティアシャワーは敵の上空から降り注ぐ形であるため、空を飛ぶ敵に対しては高いところの方が狙いやすいためだ。

 リディが塔の上に立ち、自警団員たちが塔の中から魔力を送る。ルークはミスリル製の大型の盾でリディの防御に回る計画だ。


 俺の班は地上だ。

 ウィルを始め、全員がミスリルコーティングの盾を持ち、城の陰に隠れている。これは準備中に敵に見つからないようにするためだ。また、ライトニング・オブ・ルキドゥスはレーザー兵器であるため、下からの撃ち上げでも威力は落ちないから無理に塔に登る必要はない。


「あと数分で上空に到着します! 体長五十(メルト)以上の超大型の漆黒の竜です!」


 城の塔から見張りが叫ぶ。


「俺たちも準備だな」とベルトラムがジョッキを呷った後、攻城弩(バリスタ)の弦を引き始める。


 最初はバリスタを防空塔に固定して使おうかと考えていたのだが、ベルトラムから「俺たちが弦を引けば多少は早く撃てるんじゃないか」と言われ、ヘクターたちの弓術士部隊の補助に回した。

 ドワーフたちが弦を引き、バリスタ本体を担ぐ。弓術士が照準を行うという分業制だ。


 さすがに怪力のドワーフといえども一人では引けないため、三人で力を合わせて弦を引いていく。元々は巻き上げ機を使って二人がかりで弦を引くため、撃つためには二分程度かかるのだが、ドワーフに掛かれば二十秒ほどで済んでしまう。


 十台のバリスタに鋼鉄製の大きな矢が装填される。水平に撃てばオーガですら一撃で倒せるほどの威力を誇るが、上に向かって撃つため効果は未知数だ。どちらかと言えば敵に標的を絞らせないという意味の方が強い。


 準備が終わった頃、大きな影が通り過ぎた。


「でかい!」という声が聞こえるが、俺も同じことを思うほどの大きさだった。


 体長五十メートルという話だが、二回りくらい大きく感じる。空港で双発のジェット旅客機が頭上を越えていく感じに近い。


 一度、上空を通り過ぎた後、城の南側の上空で空中停止(ホバリング)した。

 漆黒の身体が太陽を遮り、大きな黒い影を作る。その禍々しさにたじろぎながら、小声でウィルに指示を出す。


「ここから奴を仕留める。魔力を送ってくれ」


 ウィルたちは左手に持つ盾を上に掲げながら、右手の杖を構え、魔力を送りこんできた。

 一気に魔力が送り込まれ、力が暴れそうになる。


「世のすべての光を司りし光の神(ルキドゥス)よ。御身の槍、雷の力を我に。我、御身に命の力を捧げん……」


 膨大な魔力を精霊たちに分け与えていく。俺の周りに光が溢れ始めた。

 ちょうどいいタイミングでリディの魔法が完成し、上空が一気に明るくなる。これで俺の方の光は誤魔化せるはずだ。


 光が強くなったと思った直後、一気に光が流れていく。


「やった! 命中したぞ!」という誰かの声が聞こえるが、すぐに「ああ」という落胆の声に変わる。


「落ち着け! この程度で倒せる敵なら苦労はせん!」


 祖父の厳しい声が響く。


 竜は慌てたのか、二度ほど羽ばたいたが、皮膜にいくつかの穴が開いただけで悠然と浮いている。

 ベルトラムたちも姿を現し、装填してあったバリスタを撃ち込んでいくが、竜の鱗に弾かれ、傷一つ付けられない。


『小賢しいまねを』と竜は念話で嘲笑する。


 そして、自分に魔法を放った不埒な敵に必殺のブレスを放った。


 リディがいる防空塔が紅蓮の炎に包まれる。

 思わず名を叫びそうになったが、それを意思の力で抑え込み、精霊の力を集めていく。更に光は強くなるが、竜は防空塔に気を取られており、俺たちに気づいていない。

 ここまでは作戦通りだ。


 紅蓮の炎が消えた時、魔法が完成した。怒りを込めて巨大な胴体に向け、魔法を放つ。


「……我が敵に神の鉄槌を! 光神の雷霆ライトニング・オブ・ルキドゥス!」


 俺の右手から直径十センチほどの光の束が一瞬にして伸びていく。

 目を開けられないほどの眩い光が竜の首の下に命中した。しかし、竜は悠然と浮かんでいる。


(こいつも魔法を無効にできるのか……いや、リディの魔法でも皮膜に穴を開けられたんだ。完全に無効化できるわけじゃない……)


 絶望しそうになる気持ちを無理やり抑え、更に出力を上げていく。

 過剰な魔力が体の中を駆け巡り、神経を焼かれるような猛烈な痛みを感じる。確認する余裕はないが、恐らく体力(HP)も削られているはずだ。


 その甲斐はあった。それまで悠然と浮かんでいた竜が苦しげに体を捻り始めたのだ。


「効いているぞ!」という声が励みになる。


 逃れようとする竜に対し、角度を微調整しながら追従する。

 俺を見つけたのか、『貴様か!』という怨念のような思念が頭に響く。


 強い憎悪を受け、吐き気を催すが、魔法の行使に意識を集中する。その努力が功を奏したのか、光の束は胴体を貫通し空に抜けていった。


「やった!」という誰かの歓声が聞こえた。しかし、それでも手を緩めず、落ちていく竜にレーザーを当て続けていく。


 五秒ほどで竜は館ヶ丘の西にある訓練場近くの草原に墜落した。

 そこで俺も魔法を止める。


「勝ったのか……」と思わず呟く。その直後に変なフラグにならなければと後悔する。


 さすがにそれはないだろうと思い、横にいるウィルに顔を向けた。


「竜が!」という声に思わず視線を戻す。


 胴体に三十センチほどの穴が開いているにもかかわらず、竜はゆっくりと起き上がろうとした。やはりフラグになったかと後悔する。


「全員で止めを刺すんじゃ!」という祖父の言葉で地上に待機していた部隊が走り出す。


 俺もその命令に従って、城の陰から竜を目指した。


 俺たちに気づいた竜は(あぎと)を大きく開き、正面から迫るロックハート家の戦士にブレスを放った。祖父たちは即座に地面に身体を投げ出し、そのブレスを回避する。

 しかし、不運な自警団員が数名、その紅蓮の炎に包まれてしまった。


「あぁぁ!」という短い悲鳴が聞こえたが、すぐに崩れ落ちるように倒れていく。


 竜はブレスを止め、四肢を踏ん張るようにして立ち上がろうとした。しかし、俺の魔法によるダメージが大きいのか再び倒れ込んでいった。


「槍術士は左右から攻撃! 剣術士は儂に続いて正面じゃ! ブレスと尾の攻撃に注意せよ!」


 祖父は走りながら命令を下す。


 竜は最後の足掻きとでもいうように横倒しの状態から頭を振り、再びブレスを放った。しかし、その状態から向きを変えることはできないのか、ブレスは一直線に飛んでいくだけだ。


 祖父は竜の頭にたどり着くと、長さ五メートル、幅二メートル以上あるその頭蓋に魔法を纏わせたアダマンタイトの剣を叩きつける。


『ガァッ……おのれ!』という竜の思念が響く。


 祖父に遅れてメルやバイロン・シードルフと言った手練れの剣術士が竜の頭に群がる。

 竜は身体をよじるようにして抵抗するが、ロックハート家の精鋭たちにダメージを与えることはできない。

 更に胴体部分にベアトリスやウォルト・ヴァッセルら槍術士が到着し、頑丈な鱗の間に槍を突き入れて出血を強いていく。


 俺も祖父に合流し、ウルリッヒの名剣に魔法を纏わせると、その無防備な喉に突き刺した。

 魔法を纏わせても強靭な鱗は容易に断ち切れない。強い抵抗を感じながら体重を預けるようにして剣を深く押し込んでいった。


『このようなところで我は……このままでは終わらせぬ……我が名において命ずる……この者らに災いを……』


 その呪詛は途切れ途切れで聞き取れないが、強い力を感じさせた。


 しかし、そこで竜の思念は途絶えた。


「竜を討ち取ったぞ!」という祖父の勝利宣言が館ヶ丘に響く。


 魔力を大量に使ったが、残りの魔力(MP)量はまだ半分以上残っている。心配した体力(HP)も二割ほどの減少で済んでいた。

 正直なところ、これほど作戦がきれいに決まるとは思っていなかった。


 周囲でロックハート家の戦士たちの歓声が上がっている。

 俺はブレスを撃ち込まれたリディの安否が気になっており、皆と共に歓声を上げることなく防空塔に向かおうとした。


 その時、強い力を背後から感じた。

 振り返って竜の死体を見る。


「精霊の力が竜に収束していきます! 一旦離れてください!」


 俺の言葉に祖父が「下がれ!」と即座に反応し、ロックハート家の精鋭たちは城に向かって退避する。


 竜の身体に俺でも見えるほどの精霊の力が集まっていく。

 魔法を撃ち込みたいところだが、藪蛇になる可能性があり、見守るしかない。


 十秒ほどその状態が続いたところで竜の身体が蠢き出す。


 ゾンビ化したのかと思ったが、すぐに違うことが分かった。竜の死体から漆黒のスケルトンが現れたのだ。


竜牙兵ドラゴントゥースウォーリア……」という声が聞こえた。それは俺の発したものだが、自分で言ったことに気づかないほど衝撃を受けていた。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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