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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第五話「獅子心」

 バイロンとの交渉を終えた俺たちは、街に繰り出していた。

 南からの商隊が到着したことから、大通りは活気付き、商店の呼び込みも多くなっている。


 傭兵らしい格好の男女が通りを練り歩く姿は、いかにもファンタジーという感じで、俺は辺りをキョロキョロと見回しながら歩いていた。


「そういう姿をみると、さっきの傭兵と渡り合った姿が、見間違いかと思えちゃうのよね」


 リディが呆れながら、ガイに話しかけていた。


「しかし、先ほどは溜飲が下がりました。さすがはザック様です。あのバイロンという男、剣の腕なら、私より上、ニコラス殿が相手でも良い勝負をするほどの強者(つわもの)と見ました」


 ガイが嬉しそうな顔で俺に話しかけてきたので、


「そう言えば、いつ気付いたんだ? 俺が芝居を打っているって」


 ガイは「そうですね」と少し考えた後、


「……バイロンの能力を疑うような発言をされたところからでしょうか」


 俺もそのタイミングだと思い頷くが、気付いた理由が分からない。


「何で分かったんだ?」


「ザック様は普段、能力のある者はどのような身分の者でもお認めになるお方です。猟師のロブたちのように、ザック様を試すようなことをしても、決してお怒りにはなりませんでした。ですが、今回は説得を試みようともせず、喧嘩を売るような言動を取られました。そこでおかしいと感じたのです。何か意図があるのではないかと」


 俺はガイの観察力に感心した。


(意外とよく見ているんだな。ちょっと買被りが過ぎるが、じい様もこういう所を気に入って従士にしたのかもしれないな)


 俺は買被られているのが、少し照れ臭かった。


「確かにそうだが、俺も嫌いな奴は嫌いだぞ。たまたま、ラスモア村には嫌いな奴がいなかっただけだ」


 ガイは首を横に振り、


「しかし、会った瞬間から、あの男の能力をお認めになっていたのではありませんか? 私はあの時、頭に血が上っていましたが、ザック様は冷静でした。そこで、何か打開策をお考えではないかと」


 俺は手をひらひらと振りながら、「買被りだ。最初からじゃないよ」と笑って答える。


「本当、あなたって面白いわね。私はあの時、“ああ、これは駄目ね”としか思わなかったわ」


 リディがそう言うと、普段無口なシャロンも「私は最後まで分かりませんでした」とコクコクと頷いている。


 俺は少し気恥ずかしくなり、話題を変えることにした。


「そう言えば、ノートンやバイロンがおじい様のことを獅子心(ライオンハート)って呼んでいたけど、あれはどういう意味なんだ?」


 その言葉にガイが嬉しそうに答える。


獅子心(ライオンハート)という名は、先代様がラズウェル辺境伯閣下から授かった通り名なのです。先代様が北部総督府軍におられる時に……」


 ガイの説明では、祖父がカエルム帝国の北部総督、ラズウェル辺境伯の部下だった頃に辺境伯の嫡男、現辺境伯の命を救ったことがあった。その活躍を聞いた先代の辺境伯がロックハートという名に引っ掛けて、獅子の心=ライオンハートという通り名と、家紋として獅子の紋章を贈ったそうだ。


 もう少し詳細に聞いてみると、ガイは嬉しそうに説明してくれた。その概要は次の通りだ。


 北部総督府軍の小隊を率いていた祖父は、辺境伯の嫡男の中隊に配属されていた。その当時から若いながらも豪傑として有名で、辺境伯も嫡男を預けるに足ると信頼していた。

 嫡男の率いる中隊がルークス聖王国との戦場に赴くことになったが、途中で道に迷い、ルークス国内のモエニア山脈に入り込んでしまった。


 すぐに引き返せば問題は無かったのだが、中隊長である辺境伯の嫡男が山道を突破することを強硬に主張したため、更に山奥に入り込んでしまう。

 運が悪いことにその山奥には、ルークス聖王国の最精鋭部隊、獣人の暗殺部隊の村があった。


 祖父たちは、山の中でその獣人部隊にゲリラ戦を仕掛けられた。一個中隊百名の兵たちも、祖父が率いる小隊以外はほぼ壊滅し、ケガ人を含め五十人ほどにまで減らされてしまった。そして、中隊は全滅の危機を迎えた。


 祖父は主君である辺境伯の嫡男を守るため、自らの小隊を率いて反撃を開始する。

 その当時、祖父の部下にはウォルトやニコラス、ヘクターといった優秀な者が多く、彼らを中心にして、ほぼ同数の三十人ほどの獣人部隊と死闘を繰り広げた。


 祖父も全身に傷を負いながらも数人の獣人を倒していた。丸一日戦ったあと、味方が救援にやって来たが、彼らが見たものは、敵味方の死体が散らばる戦場で、獣人たちを威圧する血塗れの祖父の姿だったそうだ。


 その話が辺境伯に伝わり、威を持って野獣(獣人)を従える獅子に(なぞら)え、獅子心(ライオンハート)という通り名を贈った。


(五歳の誕生日に貰ったミスリルのナイフが、その中隊長から贈られた物なんだな。しかし、そんな話は一度も聞いたことがなかったな……)


「しかし、おじい様からも父上からもそんな話は聞いたことがないが?」


「私もその当時はお仕えしていなかったので、よく分からないのですが、騎士に叙された先代様は、ことあるごとに貴族たちから嫌がらせを受けたそうです。平民が辺境伯閣下に通り名まで授かったことが気に入らなかったようです。そのせいもあり、この話はお屋敷で話されることがなかったと思います」


「そうね。村に来た当時のことはしらないけど、一度ゴーヴィにどうして村に引っ込んだのか聞いてみたことがあったわ。その時もはっきりと言わなかったけど、主君への義務は果たしたとだけ言っていたわ。相当いろいろあったようね」


 リディも詳しくは知らないようだ。


 平民の無骨者が騎士になった。そして、その無骨者は貴族としての付き合いをしらない。謙って仲間に入れてくれと言えば、貴族たちも嫌がらせを控えたのだろうが、祖父の性格からいって、そんなことはしなかったはずだ。


 先代の辺境伯が隠居したのを機にウォルトたちを率いて、自由なラスモア村に移住した。そのきっかけとなった獅子心という名は、祖父たちにとってはあまりいい思い出ではないのだろう。


(獅子心といえば、王様につくような二つ名だからな。平民上がりにはもったいないと考える輩が多かったんだろうな……)



 そんなことを話しながら、街の中を歩いていたが、夕食の時間が近づいてきたので、宿に帰ることにした。

 宿に戻り、いつものように訓練をしようとしたが、ガイから明日以降に疲れを残さないよう、今日は休むように言われる。


 俺としてはそれほど疲れている意識はないが、旅慣れているガイのいうことを聞くことにし、部屋に戻った。

 俺は食事のことを思い出し、ガイに部屋食にした理由を尋ねた。


「そういえば、部屋で食事を取ることになっていたんだが、それで良かったのか」


「食堂でも良かったのですが、この街には私の顔を知っているものが多いですから、ザック様やリディアさんに迷惑が掛かると思いまして……」


 ガイは自分と共に食事を取っていると、知り合いが声を掛けてくるため、俺やリディが嫌がるだろうと気を使ったようだ。

 俺はあまり気にならないと思うが、リディのことを考えてくれたガイに俺は感謝していた。


 部屋割りは予想通り、俺とガイ、リディとシャロンの組合せだった。

 少し残念だが、仕方がない。

 もう一つ残念なのは、この宿には浴室がないのだ。旅の疲れを流すのに風呂に浸かりたかったのだが、この宿というか、この街にはそういう施設はないとのことだった。


「恐らくペリクリトルに行くまで風呂はないと思います。体を拭くのであれば、湯を貰ってきますが」


 ガイの一言で、ラスモア村の共同浴場が、貴重な施設だったのだと思い知らされる。俺が湯を頼むと、


「私も遠出をすると、ザック様のお造りになった風呂のことをよく思い出します。あれは本当に村の宝だと思いますよ」


 ガイがフロントに湯を頼みに行くと、俺は一人になった。

 ベッドに寝転がり、今日一日のことを考えていた。


(今日一日でいろいろなことがあったな。今でも村のことを思い出すと目頭が熱くなる……だが、初めての街には興奮した。見知らぬ土地、見知らぬ人、見知らぬ文化……明日からは危険な街道に入ると言っていた。気を引き締めていかないといけないのだが、どうしても心が躍ってしまう……)


 俺は自分で思っていたより、疲れていたようだ。体が疲れているというより、精神が疲れていたようで、ガイが戻ってくるまで、寝ていたようだ。

 扉を開けるバタンという音に驚き、目覚める。


(駄目だな。気配察知が役に立っていない……この街は安全だからいいが、気を引き締めないと……)


 ガイの持ってきてくれた湯で体を拭き、少しさっぱりとしたところで夕食を摂る。


 俺たちの部屋にリディたちが合流する。屋敷の食事ほどではないが、思ったより味はよく、ゆっくりと食事を味わっていく。

 開け放たれた木窓からは酒場の喧騒が微かに聞こえてくる。


(そう言えば、こんな雰囲気は久しぶりだな。日本にいた時以来か……本当に田舎だったんだな、うちの村は……)


 リディたちとおしゃべりをした後、まだ早い時間ではあるが、寝ることにした。

 ベッドに寝転がると、すぐに睡魔に襲われ、眠りに落ちていった。



 翌朝、夜明けと共にすっきりと目覚めた俺は、横で寝ているガイを起こさないように静かに部屋を出て行く。

 いつものように朝の鍛錬を行うため、宿の裏庭に向かった。


 宿の従業員たちは既に朝食の準備を始めていた。

 俺は従業員たちの邪魔にならないようにしながら井戸で軽く顔を洗った後、ベルトラムに打ってもらった真新しいバスタードソードを振り始める。


 俺はこの剣に馴染んでいなかった。かなり大きめに作ってもらっているため、今までの木剣より重く、振るたびに体がふらついていた。


(休憩時間も素振りをした方がいいな。これじゃ、実戦には全く使えない。この新品の剣を見て、バイロンも足手纏いと言ったのかもしれないな。そうなら、(あなが)ち間違ってはいないな……)


 十分ほどすると、ガイも体を動かすために裏庭にやってきた。

 ロックハート家(うち)の従士たちはどんな状況でも鍛錬を欠かさない。内政担当のニコラスですら、朝と夕方の鍛錬に加え、数日おきに自警団の訓練に参加していた。

 当然、ガイも鍛錬を欠かさない。彼は祖父に心酔して従士となったため、祖父に認められようと、ハードな訓練をこなしていた。


 挨拶を済ませ、二人で素振りをする。時々、ガイの指摘を受けながら、三十分ほど素振りを続けていく。途中でシャロンが合流し、自分の細身のショートソードを振り始める。

 素振りに集中していくと、汗が飛び散り、息が上がっていくが、これをやらないと一日が始まらない気がするようになっていた。


(四歳から続けているからな。もう六年になるんだな……)


 素振りを終えた俺は、顔を洗い、井戸の冷たい水で汗を流して、部屋に戻っていく。

 その頃にはリディも目覚めており、気だるげな表情で挨拶をしてきた。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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