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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第七章「嚮導者時代:諸国編」

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第三十話「竜人との邂逅」

 二月二十七日。

 クーラト村で竜人の伝説を聞き、火山であるシレクス山に入った。伝説を教えてくれた老人の記憶を頼りに痕跡を探したが見つからず、更に奥地に向かうため山を登る。

 四時間ほど登ったところで不自然な岩を見つけた。


 調べてみると他と組成が違う岩があり、更に調査をしようと岩を崩そうとしたところで精霊の力が見えるリディが何か来ると警告を発した。

 彼女が指差す方向を見ると、岩の一部が崩れ始めていた。


「何か出てくるぞ! みんな一旦、下がれ!」


 そう言いながら俺も剣を構えながらゆっくりと下がっていく。


「リディとシャロンは魔法を撃てるように準備だ! だが、俺の指示があるまで撃つな!」


 二人から了解の声と呪文の詠唱が聞こえてきた。


 その間にも岩は崩れていく。その様は砂生成(サンドクリエイト)の魔法で岩に穴を開けているように見える。


 穴は徐々に大きくなっていくが、角度が悪いため中が見えない。しかし、時折手のようなものは見え、人型の存在が魔法を使っていることは分かった。


 相手を刺激しないように更にゆっくりと下がり、十メートルほど距離を取る。

 穴は更に大きくなり、高さ百五十センチ、幅五十センチほどになった。そして、そこから鈍い銀色をした足が見えた。


 ハンドサインでリディとシャロンに“合図をしたら攻撃”と伝え、ベアトリスには“周囲の警戒”と伝える。


 ゆっくりとした動きで銀色の人型が穴から出てくる。


(鱗や皮膚じゃない。明らかに靴だ。一体型の防護服のようなものなのか?)


 ゆっくりと全身が現れる。腕も同じような鈍い銀色でグローブなのか手の先まで同じ素材だ。ただ一見すると、全身が銀色のゴーレムに見えないこともない。しかし、その動きはゴーレムにしては滑らかで、生物であることは明らかだ。


 頭が現れるとメルが「えっ!」と驚きの声を上げる。

 頭部は同じメタリックな感じだが、形は爬虫類のように長かった。目の部分はヤモリのように大きくそこだけ瞳のように黒くなっている。


「竜人……」というメルの呟きが聞こえる。


「いや、あれはヘルメットだ……目の部分はゴーグルだ……」


 俺が思わず呟いたように、特殊な形のヘルメットに全身スーツといういでたちの人だった。


 その人物はゆっくりと両手を上げ、敵意がないことを示した。


「敵対するつもりはない……シュハァ……武器を向けるのと呪文の詠唱をやめてくれないか……シュハァ……」


 その声は男性のものだが、質の悪いスピーカのように音がこもっており、呼気がところどころで入るため聞き取りづらい。

 場違いだが銀河帝国の暗黒卿を思い出した。


 俺は警戒しつつも、「魔法はなしだ。武器も下ろしていい」とリディたちに伝える。但し、ハンドサインでいつでも攻撃できるよう指示を出しておく。


「私たちも攻撃する気はありません。一つ伺いたいのですが、あなたは“竜人”と呼ばれる種族の方でしょうか」


「外でそのように呼ばれていることは承知している……シュハァ……その認識で問題ない……シュハァ……」


 聞きたいことはあるが、それ以上に彼の目的が何かを探らなくてはならない。


「あなた方は滅多に姿を見せないと伺いました。なぜ急に出てきたのでしょうか? それもカモフラージュされた岩を壊してまで」


「君がこの岩に穴を開けて入ろうとしたからだ……どうせ岩を壊されるなら、こちらから出ていった方がよいと考えたのだ……」


 気配は感じなかったが、監視されていたようだ。

 俺たちが竜人に興味を持っていることを知って、中に入られるくらいなら外で交渉した方がいいと考えたのだろう。


「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はザカライアス・ロックハートと申します。冒険者ですが、研究者の助手もやっていました。後ろにいるのは私の妻たちです……」


 リディたちを紹介していくが、トカゲの頭のようなヘルメットのせいで表情が全く見えず、何を考えているのか分からない。


「私はリーナス・ヒロスコルピ……私も研究者の端くれだ……」と僅かに笑っている雰囲気を感じた。


「私たちは竜人が住むと聞いてこの地を訪れた者です。七十年ほど前に猟師の親子がカスパルという方に会ったと聞きました。もしご迷惑でなければ話を聞かせてもらえないでしょうか」


 単刀直入にこちらの考えを伝える。具体的に何かを調べているわけでもないし、してほしいことがあるわけでもないので、知的好奇心でここにきたことを正直に話したのだ。


「この場で、短時間であれば……但し、ここで聞いたことは口外せず、この場所のことも誰にも言わないという条件であればだが……」


 竜人は秘密主義のようだが、公表するメリットもないので素直に了承する。


「立ち話もなんだ。少し待ってくれたまえ……」と言って、地面に手を付ける。


 すると、土属性魔法で作られた椅子が出てきた。作りは精巧で、更に完成時間も短かった。ラスペード先生並のレベルがあるのだろう。


「私たちの分はこちらで用意します」と言って、収納魔法(インベントリ)から折り畳み椅子を取り出す。


 彼と同じように土属性魔法で作ってもよかったが、収納魔法を見てどう反応するか確認したかったのだ。


 表情は見えないものの、驚きの声や仕草はなかった。収納魔法が使えるか、その存在を知っているということだ。これで古代文明に関係がある可能性が更に高まった。

 全員が座ったところでリーナスは小さく頷いた。それを合図に質問を始める。


「単刀直入に伺いますが、あなたは既に滅んだ古代文明の人たちの末裔ではありませんか?」


「古代文明が何を指すのかが明確ではないが……今より四千年ほど前に滅んだ文明の末裔ということであれば……その通りだ……」


「では、四千年前からあなた方は文明を維持されているのでしょうか? 私が調べた範囲では古代文明の遺跡はすべて虚無神(ヴァニタス)による情報改変の影響を受けています。情報改変の中には遺伝に関するものもあって、多くの人が姿を変えたと聞いています。大変失礼な質問かもしれませんが、今のあなた方は祖先と同じ姿なのでしょうか」


 口に出したとおり、非常に微妙(センシティブ)な話題だ。自分の姿がヴァニタスによって醜く変えられたのかと聞いているのだから。

 しかし、リーナスは特に気を悪くした様子はなく、即座に答えてくれた。


「文明の維持の定義があいまいで答えられない……ただ、一定の水準の文明は維持できている……君たちの文明をすべて知っているわけではないが……我々の方が進んだ文明だろう……」


 そこで一旦言葉を切った。そして、考えがまとまったのか、再び口を開く。


「残された情報から祖先とほぼ同じ姿であると断言できる……但し、我々は地下で生活している……だから、祖先たちのように日に焼けることはないが……」


「では、その防護服は情報改変を防ぐものと考えていいのでしょうか?」


「その通り。情報改変の原因がマナであることは知っている……外部のマナを取り込まないよう完全に遮断している……ただそれでは魔法が使えぬので、単方向、すなわち外側に向けて魔力を出せるようにはしてあるが……」


 魔力を外向きにしか出せないため、治癒魔法が使えなかったのだろう。


「先ほど先祖から残された情報とおっしゃいましたが、あなた方は情報改変の影響を受けていない文献やデータを持っておられるということでしょうか」


「申し訳ないが、それについて私には答える権限がない……ただ、姿だけなら情報改変の影響を受けても図として残るとだけ言っておこう……」


 有益な情報があると知られることを警戒しているようだ。

 そして、徐々に核心に迫る。


「ヴァニタスと神々について、どの程度ご存知ですか? 先ほど情報改変がヴァニタスによって引き起こされたと私が言っても特に疑問を口にされませんでした。神々とあなた方の関係はどのようなものなのでしょうか」


「漠然とした質問で答えにくいが……強いて答えるなら、我らは神々の側にいた……魔道工学などという邪悪なものを遠ざけて……」


 魔道工学を邪悪と言ったことに驚くが、確かに以前出会った古代の研究者は魔道工学を利用してヴァニタスが侵攻したといっている。そう考えればあながち間違った認識ではない。

 また、“神々の側にいた”と過去形を使っていることも気になった。


「神々の側にいたと過去形でおっしゃられましたが、今は神々ではなく、ヴァニタス側についているということでしょうか?」


「神々に見捨てられたのだ、我らは……ヴァニタスに付くなどありえぬよ。あの神は人を利用するのみ……五百年前の哀れな男のようにな……」


 突然出てきた言葉に驚きを隠せない。


「五百年前の哀れな男ですか?」


「名は忘れたが、十名ほどの従者と共に我らを探していた男がいる……光の神(ルキドゥス)の世界を作るために我らに協力しろと叫んでおった……火口にある放棄された火の神(イグニス)の神殿で力を得たのだろう……禍々しい力を振り撒き続けて我らが出てくるのを待っておった……」


「ルチオ・ブリッラーレという名ではなかったでしょうか?」


「そのような名であった気がするが……君は知っているのか?……」


「ええ、ここより西の地に光神教という一神教を作った宗教家です。既に亡くなっていますが、未だにその影響力は計り知れません」


「なるほど……ルキドゥスのみを崇める一神教か。奴も考えたものだな……」


「ヴァニタスの考えが分かるのでしょうか。できれば教えていただけませんか?」


「我ら人の子に神の考えなど分からぬよ……」と言うだけでそれ以上は何も言わなかった。


 話題を変えるため、魔道工学について聞いてみた。


「魔道工学を否定されるということは転移門(ゲート)や情報通信システムを使っておられなかったということですか?」


 俺の質問に動揺が見えた。


「君はゲートのことを知っているのか?……先ほど位相変移理論を用いた魔法を使っていたが、君も我々と同じ生き残りなのか……それとも“神人”の生き残りなのか……」


 “神人”という単語が気になるが、誤解を解くほうが先だと考え、


「私がこの魔法を使えるのは偶然です。古代文明の研究者と出会ったことがあるからです。もっともその方は肉体を捨て、精神だけの存在でしたが。その研究者にいろいろと教えてもらったのです」


「なるほど……」と納得する。


「それでは先ほどの問いに答えよう……我々はゲートだけでなく、あらゆる魔道具を使わない……我らは神々に与えられた魔法のみで生活することを信条としている……これは文明の崩壊前から行われていたと伝えられている……」


「その防護服にも使われていないのですか?」


「一切使われておらぬ……」とやや不機嫌そうに伝えてきた。魔道工学というものに強い忌避感があるらしい。


 その後、更に質問をし、疑問を解消していく。

 彼らに関することはあいまいにしか答えてくれず、ほとんど分からなかった。ただ、俺たちを監視していた方法は魔法によるものだと教えられた。しかし、これについても具体的な方法は聞けなかった。

 また、神人という存在についても質問している。


「神人は神々に仕える神官たちのことだ……長命で神に最も近いとされていた種族だ……神に最も近くで仕えていたにも関わらず魔道工学に溺れ……その挙句にヴァニタスに利用されて世界を崩壊に導いたのだ……」


 言葉の端々にあざけりを感じた。何となくだが、神人を嫌っている気がした。しかし、それ以上に気になったことがあった。


「恐らく私はその神人に会っています」


「な、何……」と絶句する。


「先日までジルソール島にある創造神(クレアトール)神殿に滞在しておりました。その際、神官長を始め、神官たちが文明崩壊時より生きているのではないかと感じました」


「クレアトール神殿か……ならばありうるが、まだおめおめと生きていたとは……」


 神人に対し思うところがあるらしいが、神々を崇拝していると言っていたので明確に対立しているわけではなさそうだ。どちらかというと内輪揉めに近い感じがする。

 この件についても聞きたいが、時間がないと言われているので、聞きたいことから聞いていく。


「あなた方は何を目指しているのでしょうか? ほとんど外界と接触していないようですが」


「我らの存在意義か……そのようなものはない。生きることで精一杯なのでな……強いて言うなら、神々に見捨てられた種族として少しでも長く生き残ることくらいか……」


 自嘲気味に答えるが、「そろそろ時間だ……」と会談を打ち切ってきた。


「最後にこれだけは伝えておこう……神々を信用しすぎるな。奴らは我ら人を平気で切り捨てる。我らがどれほど崇めていてもな……しかし、それは邪悪だからではない。単に価値観が違うだけなのだ……」


 その言葉に思わず頷いてしまった。

 神々の存在理由は世界の存続であり、そのためにはどのようなことでもするというのは理解できる。


「ありがとうございました」と礼をいうと、「こちらこそ楽しい時間だった……」と答え、穴の中に入っていく。そして、石生成(ストーンクリエイト)の魔法で自ら空けた穴を塞いだ。


 完全に穴が塞がり、ほとんど痕跡は残っていない。

 話をしていたのは三十分ほどだが、濃い内容であったのでもっと長く感じている。


「竜人にまで会えるとは思っていなかったよ。あんたと一緒だと飽きないね」


 ベアトリスがおどけた感じでそういうと、フッと力が抜ける。


「そうだな。ここにいても仕方がないし、帰るとするか」


 そういって山を下ろうとしたが、シャロンが「火口を見に行かなくてもいいのでしょうか」と聞いてきた。

 ブリッラーレが力を得たというイグニスの神殿跡を確認してはということだろう。


「いや、やめておこう。触らぬ(ヴァニタス)に祟りなしだ。下手に近づいて奴が出てきたら目も当てられないからな」


「そうですね」とシャロンはすぐに引き下がった。リスクが大きいと思っていたのだろう。


 その後、山を下り、日が落ちる前にクーラト村に到着した。


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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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