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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第四話「傭兵バイロン」

バイロン視点です。

 商人のノートンが俺のところに話を持ってきた時、こいつは拙いことになったと俺は思った。

 ノートンはいつもの愛想笑いを浮かべながら、


「バイロンさん、あの人たちは、あの(・・)ロックハート家なんですよ。この辺りじゃ、人気も高いですし、最近ではアルスのドワーフたちにも名が通っているんです。是非ともよしみを結びたいんです。協力して下さい」


 ノートンはカウム王国とペリクリトルの間で商売をしている。

 カウム王国の王都アルスのドワーフが作る武器を冒険者たちに売りさばくため、ドワーフたちの機嫌を取っておきたいと考えているようだ。


「そうは言ってもだな、子供二人に女一人、護衛が一人なのだろう。護衛に腕があっても、俺としちゃ、リスクが大き過ぎるとしか思えん」


「一度、会ってもらえませんか。もう宿の入口まで来ているんです」


 俺は軽く肩を竦め、ノートンの後について一階に降りていった。



 宿の入口には、革鎧に身を固めた細身の男が待っていた。

 その後ろには、体格に似合わない大きな真新しい剣を背負った十二、三歳くらいの少年と、それより少し幼い少女、更にフードを被った女冒険者がいた。


(剣術を齧った貴族のガキか……こういう奴が一番性質(たち)が悪い。英雄気取りでこっちのいうことなんざぁ全く聞かねぇ。それにもう一人の嬢ちゃんも不味い。一応、変装はしているが、いかにも貴族のご令嬢って感じで襲ってくださいといわんばかりだぜ)


 俺はノートンの提案を拒否することに決めた。

 露骨に嫌がる芝居をし、彼らが別の商隊にいくよう仕向けることにしたのだ。


「ノートンさん、契約と違うんじゃないか? 契約ではこれ以上荷物は増やさないという約束だったはずだ。明らかにこいつらはお荷物(・・・)だ」


 ノートンはいつもの愛想笑いを崩さなかったが、目はもう少し言葉を選べと抗議している。


「バイロンさん。お荷物と言ったら失礼ですよ。こちらのガイ・ジェークス様はあの獅子心(ライオンハート)のゴーヴァン・ロックハート様の従士の方です。それにもう一方も四級の冒険者で治癒師の方ですから」


 彼の言うことが間違っているとは思っていない。


(確かにこの従士はできる。剣術は俺の方が上だろうが、足捌きを見る限りうちの連中じゃ相手にならんほどだ。だが、ガキ二人は余分だな。)


 俺は胡散臭そうに見つめる視線を改めず、ノートンを諦めさせるため、更に文句をいうことにした。


「確かにこの男はできる。その女も治癒師なら役に立つんだろう。だが、貴族の子供を連れて行くのはゴメンだぞ。役に立たないだけじゃねぇ、我が儘を言って、足手纏いになるのがオチだからな」


 俺の言葉にガイという男がキレる。


「気に入らぬな! ザカライアス様は先代様、ゴーヴァン・ロックハート様のお孫様だ。ただの貴族の子息と同列に扱うとは無礼であろう」


(この男、本気で忠誠を誓っているようだな。これほどの男が忠誠を誓うのだ。獅子心(ライオンハート)と呼ばれるだけのことはあるということか。だが、このガキに対しても本気のようだな。これほどの男がこんなガキを認めているのか? いや、ただ尊敬する主君の孫だから、怒りを覚えているだけだろう)


 俺はこのとき、自分の考えに少しだけ違和感を覚えていた。

 ガイという一流の男が十歳そこそこのガキの力量を認めているように見えたからだ。


 俺とガイが睨み合っていると、横にいるノートンの愛想笑いが徐々に引きつったものに変わっていく。


(ノートンには悪いが、俺には十五人の部下がいる。何を言われても、ここは俺の考えを通させてもらう)


 俺がそんなことを考えていると、ロックハートの孫が俺に声を掛けてきた。


「バイロンと言ったな。俺が足手纏いになるといったが、俺の能力を見なくても分かるのか?」


 その口調には子供らしさの欠片もなく、かといって、傲慢な貴族のガキという感じもしない。ただ事実を淡々といっているように思えるほど冷静、いや、冷徹な口調だった。


(こいつは俺の見立て違いだったかもしれん……いや、そんなことはないはずだ。俺は貴族の子供と話したことなんかねぇから、そう思うだけなんだろう)


 俺たちが話していると、周りに人が集まってきた。俺の部下たちも騒ぎを聞きつけ、階段を降りてくる。


(不味いな。これ以上、時間を掛けると部下たち(こいつら)が突っかかるかもしれん。断ることは構わんが、貴族とトラブルになるのはごめんだ……)


 俺が部下たちに下がれと言おうとした時、貴族のガキ、ザカライアスが俺の部下を挑発してきた。


「ガイ、止めておこう。この男は人の力量を計ることすらできん。そのような男が率いる傭兵が優秀であるはずがない。一緒に行動する方がよほど危険だろう……ノートン殿、折角の話だが、断らせて……」


 ザカライアスの挑発に若い部下が反応する。


「聞き捨てならねぇな! 隊長、この生意気なガキを絞めてもいいっすか?」


 予想通り暴発した。こめかみを押さえたくなる衝動が湧く。


(馬鹿野郎! 相手は貴族なんだぞ……どうする。ここで先に手を出したら、俺たちは傭兵として食っていけなくなる。貴族とトラブルを起こした傭兵団など、商人は雇う気にならんだろうからな……)


 俺が僅かに逡巡していると、ガイが「絞めるだと! 貴様!」と一歩踏み出してきた。

 俺は部下を止めるため、ガイの前に出ようとした。


 ほんの一瞬だった。俺がザカライアスというガキから目を離したのは。


 次の瞬間、奴は俺の懐に入り込んでいた。そして、俺の心臓辺りに変わった形のナイフを突きつけ、「この程度の動きについて来れないのか」と呟いていた。


 俺を含め、誰も動きについていけなかった。

 確かに油断はしていた。

 しかし、これでも守備隊、傭兵とこの腕一本で二十年以上やってきた自負はある。その俺がこんなガキにいいようにあしらわれてしまったのだ。


 俺が動けないうちに、奴はガイに声を掛け、宿を出て行こうとしていた。


 俺は思わず、「待て!」と叫んでいた。


 このまま、こいつらを帰したら、俺たちはこの辺りで仕事ができなくなる。

 十五人の部下を抱える傭兵が、いかに武に優れたロックハート家の者とはいえ、十歳そこそこの子供にあしらわれたとなれば、いい笑いものだ。ここにいる野次馬たちが面白おかしく話を広めるだろう。


 特にここキルナレックではロックハート家の人気は絶大だ。当然、酒場ではこの話題で持ちきりになる。アルス街道沿いに広まるのにそれ程時間が掛かるとは思えなかった。


 奴は俺の言葉に振り向こうともせず、「俺のような子供は相手にしないのだろう?」とさっきと同じ冷徹な口調で答えた。


 慌てて、「待て! このまま帰すわけにはいかねぇ」ともう一度叫んでいた。この時、俺は完全に冷静さを失っていた。


 奴はゆっくりと振り返った。

 そして、表情を全く変えず、「何だ? 子供相手に本気の喧嘩でもしたいのか?」とわざとらしく首を傾げていた。

 俺はその芝居掛かった様と、ガイの勝ち誇った表情にキレそうになった。だが、何とか怒りを抑え込み、


「ガキに馬鹿にされたままじゃ、この先この仕事を続けられねぇ。ライオンハート・ゴーヴァンの孫の実力とやらを見せてもらおうじゃないか」


 俺が搾り出すようにそう言うと、奴は追い討ちを掛けてきた。


「その必要があるのか? 俺を見ただけで足手纏いだといったのはお前だ。少なくともそれが間違いだと認めないなら、俺がここにいる理由はない」


(このガキは見た目通りじゃねぇ。本当に可愛げのねぇガキだ。ここまで追い込まれるとは思わなかったが、そもそも俺の判断ミスだ……やはり、獅子の子は獅子ということか。いや、獅子の孫か……)


「さきほどの言葉については謝罪する。ロックハート殿と手合わせをお願いできないか」


 何とか冷静さを取り戻し、頭を下げる。

 一瞬、奴の顔が微笑んだように見えた。


(まるで心の中を見透かされているようだ。こいつは大物になるな。ノートンではないが、よしみを結ぶのも一興かもしれん)


 そう考えていると、ザカライアスが真面目な顔で、謝罪を受け入れると言ってきた。だが、その後の言葉に、更に衝撃を受けた。


「……手合わせと言っても、俺は剣術士としてはまだまだ未熟だ。魔法の実力を見てもらった方がいいかもしれん」


(あれだけの動きを見せておいて、魔法の方が得意だと! あの体術で魔術師だと信じられん……)


 俺はザカライアスという少年に興味を持った。そして、自然と「ギルドの訓練場で見せていただきたい」という言葉が出ていた。


 その後は驚きの連続だった。

 まず、完全な足手纏いだと思っていたもう一人の子供に驚いた。

 虫も殺せないような女の子が、ペリクリトルにいる一人前の魔術師並の魔法を放ったのだ。


(あれを喰らったら、俺でもよろめく。その隙にザカライアスがさっきの動きで距離を縮めたら、確実にやられるな……こんなガキ相手に自分が負ける姿を思い浮かべられるとは思わなかったな。まあ、あの嬢ちゃんが実戦で使えるとは思えねぇが……)


 それでもまだ余裕はあった。だが、奴の魔法を見たとき、俺は口を開けたまま、数秒間固まってしまった。


(嬢ちゃんの魔法は的を根元から吹き飛ばす程度だった。それでも田舎では凄ぇことだ。だが、こいつのは土台ごと吹き飛ばしていやがる。あれを喰らったら、間違いなく吹き飛ぶ。それもかなりのダメージを負ってだ。何とか立ち上がれたとしても……末恐ろしいとかいうレベルじゃねぇ……)


 俺は自嘲気味に奴を見ていたが、野次馬たちからもため息が漏れていた。

 俺が何も言わないからか、実戦経験があることを告げてきた。


「ちなみに俺もこのシャロンも実戦経験はあるぞ。まあ、狼やゴブリン程度だがな」


(完全に読まれている。こいつが言ったとおり、俺には人を見る目がねぇな……)


 俺は完全に負けを認めた。


「ザカライアス様だったな。いや、でしたな。先ほどは失礼しました。これほどの魔術師なら、足手纏いになることはございません。更に先ほどの神速の足捌き。さすがは獅子心(ライオンハート)と呼ばれた方の血を引くお方。是非とも我らと行動を共にして頂きたい」


 俺がそういうと、ザカライアスは人好きのする笑顔で手を差し出してくる。


「ザックでいい。それに敬語はいらない。ガイ、俺はバイロンと一緒でも構わないと思うが、判断はお前に任せる」


(こいつは本当に子供なのか? 今の一言で俺は救われた。野次馬たちはロックハートの天才が俺を認めたと思ったはずだ。それにガイという男のこともきちんと立てている。ガイが俺に対して怒りを覚えていると知って、あえて判断を委ねたのだ。俺より余程カリスマ性がある……)


 俺はどうしていいのか判断がつかず、とりあえず差し出されていた右手を握った。

 その右手にはグローブの上からでも感じられるほどの剣ダコがあり、厳しい修行をしていることが感じられた。


(頭でっかちの男でもねぇ。剣は未熟だと言ったが、恐らくかなりの腕だろう。これほどの従士が心服するのも当たり前だな)


 結局、俺たちはペリクリトルまでザカライアス様と同行することを許された。


 その後、ノートンからザカライアス様の年齢を聞いたが、最初は信じられず、二度も聞き直してしまったほどだ。


(僅か十歳であれだけの魔法と剣術。それより恐ろしいのはあの洞察力だ。英雄の血筋だが、“獅子”が“竜”を生んだのかもしれんな……次男だと聞いたが、あの器ならその方が良かったのではないか? ロックハート領という枠を超えて、大きなことをしでかしそうだ……)


 俺はザカライアス様が大物になると確信した。そして、二流どころの傭兵として燻っている俺にチャンスを与えてくれるのではないかと期待している。


(もしかしたら、運が向いてきたのかもしれないな。この方は必ず世に出て行く。そんな方と知り合えただけでも良かった……だが、このままじゃ、俺の印象は薄い。何か手を考えておいた方がいいだろうな……)

意外とものを考えている傭兵でした。

このくらい考えれない傭兵は仕事にあぶれてしまうのでしょうが。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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