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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第一章「少年時代:ラスモア村編」

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第三十八話「東の森」

 午後四時、初めて実戦を見たザックカルテット(俺たち)は、無事、館ヶ丘に帰ってきた。

 最初は蒼ざめていたシャロンも村が見えてきた頃から元気になっていた。メルとダンは初めての戦闘に恐怖を感じたらしいが、子供らしい適応力で、村に入った時から戦闘の話で盛り上がっている。


 俺はシャロンの手を握りながら、考えていた。


(野犬はゴブリンと同程度の弱い魔物だ。それでも俺は恐怖に足がすくんでしまった……)


 俺は命懸けの戦いという物を根本的に理解していなかった。相手は俺を殺すという意思をストレートにぶつけてきた。その純粋な殺意という物を自分に向けられ、俺は怯えてしまったのだ。

 平和な日本で殺意、それも本気の殺意をぶつけられることは、まずないだろう。


(この先、俺が相手にするかもしれない敵は神に挑むような奴だ。俺はそんな奴の殺意を受けても、平静にしていられるのだろうか?……)


 屋敷に戻ると、ガイが祖父と父に森での出来事を説明していく。

 ガイが俺を危険に曝したことを謝罪すると、祖父は小さく首を横に振る。


「森に入れば、その程度の危険は当たり前じゃ。まして、お前たちがついておる。実際には危険は無かった。そうじゃろう、ザック?」


 俺はそれに頷くことしかできなかった。言葉を発すれば、俺が恐怖に震えていたことを告白することになり、ガイたちに責任を感じさせてしまっただろう。

 ガイたちが下がると、俺は祖父に俺が感じたことを話していく。


「……野犬が、敵が、とても恐ろしく感じました。自分を殺そうという意思があれほど強烈だとは思ってもみませんでした……私は臆病なのでしょうか?」


 祖父は笑うでもなく、怒るでもなく、俺の話を黙って聞いていた。俺が話し終わると、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「儂の初陣の話をしてやろう。儂が初陣に出たのは十三歳の時じゃ。その当時、儂はラズウェル辺境伯領の都ウェルバーンの守備隊に新米従士として配属されておった……」


 祖父は俺が感じた恐怖の話ではなく、自分の初陣の話をし始めた。

 祖父はカエルム帝国北部総督であるラズウェル辺境伯領の兵士の家に生まれ、十二歳になると騎士団に見習いとして入団したそうだ。


 その当時から腕には自信があり、十五歳の従士と互角に戦えたため、僅か一年で従士として守備隊に配属された。


 カエルム帝国の北部は、帝都にいる皇帝の気まぐれで北のラクス王国に出兵することがあったが、基本的には平和な土地だった。

 祖父は平民の生まれながら、十三歳にして従士となり、増長していたそうだ。


 そんな時、ウェルバーン周辺で盗賊団に商隊が襲われる事件が頻発した。

 守備隊から一個中隊約百名が討伐に派遣され、その中に祖父も選抜されていた。

 盗賊団は護衛、商人を含め皆殺しにするという残虐さを持っていた。だが、一方では討伐隊を見通しの利かない丘陵地帯に巧みに誘い込むなどの狡猾さも持っており、討伐隊は盗賊団に翻弄されていく。


 祖父の分隊は盗賊の居場所を探す斥候隊として、本隊から離れて行動していた。

 盗賊団はその斥候隊を待ち伏せし、数倍の戦力で攻撃を掛けた。数で劣り、奇襲を受けた斥候隊は反撃する間もなく、斬り殺されていった。


 祖父は恐怖のため、体が言うことを聞かず、ここで殺されると死を覚悟したそうだ。

 だが、盗賊団は狡猾だった。まだ子供である祖父をわざと逃がし、本隊を誘導しようとしたのだ。祖父はそのことに気付かず、半泣きになりながら本隊に戻っていった。


 討伐隊の指揮官である中隊長は盗賊団の罠を見抜き、現場に急行するように見せかけながら一個小隊を盗賊団の背後に迂回させた。


 祖父は自分の分隊が全滅したことから、中隊長の分隊に配属され、その指揮振りを間近に見ていたそうだ。最初は自分の仲間を見捨てるような指揮を執る中隊長が許せなかったが、その後の戦闘で盗賊団を殲滅し、斥候隊の遺体の前で涙している中隊長を見て、考えが変わったそうだ。


「……戦場では冷静な判断が必要なのじゃ。お前は初めての戦いで幼い仲間を庇い、更に冷静に戦いを見ていた。恐怖を感じることは恥ずべきことではない。恐怖を感じぬ者は真の強さを得ることはできぬ。儂の初陣は酷いものじゃった。恐怖で何もできないどころか、味方を窮地に陥らせたかもしれんのじゃ。それに比べれば、お前は良くやった。今の恐怖は必ず克服できる」


 俺は祖父の言葉で少し気が楽になった。

 剣の腕一本で騎士にまで成り上がった祖父が、初陣で恐怖を感じたという話に自分だけが臆病ではないと安心できたのだ。


 しかし、今の話が本当のことなのかは分からない。俺を力づけるための作り話の可能性もある。

 それでも祖父が俺の考えに共感を示してくれたことで、恐怖を克服できそうな気がしていた。


 祖父のもとを後にすると、リディが待っていた。


「初めての戦いだったそうね。どうだった?」と茶化すような口調だが、その顔には俺のことを心配していると書かれていた。


「怖かったよ。今もおじい様にそのことを話してきた。正直、俺は戦いに向かないんじゃないかって思ってね」


「そうね。あなたがすぐにゴーヴィのような戦士になれるとは思っていないわ。でも、それはあなたが戦いに向いていないということじゃないわ。今のあなたには経験が足りないだけ。経験を積めば必ず強くなれる。私が保証するわ」


 いつにない真剣な表情のリディに少し面食らうが、


「ありがとう。これからできるだけ森に行こうと思う。少なくとも恐怖で足が竦んで、リディたちが傷つくなんてことは嫌だからな」


 リディは俺の言葉に笑っているが、すぐに真剣な表情になる。


「嬉しい言葉だけど、無理は絶対駄目よ。それから調子に乗るのも。あなたはすぐに調子に乗るから」


 そういいながら俺を抱き締める。


「無理はできるだけしないようにするよ。それよりシャロンが心配だな。メルとダンは何とかなりそうだったが、シャロンはかなり怯えていたからな」


 リディは少し笑い、


「多分大丈夫よ。あなたが一緒だったんでしょ。なら、明日にはいい思い出になっているわ」


 俺には何のことか分からなかったが、翌日、シャロンはいつと同じように笑顔で屋敷にやってきた。

 唯一の変化は、剣術を習いたいと言い出したことだ。

 理由を聞いてみると、


「昨日、怖かったから、怖くならないように強くなろうと思って……ザック様の邪魔にならないようになりたいの……」


 俺はその言葉に思わず照れてしまったが、すぐに祖父に相談しにいく。


「シャロンは魔術師じゃ。基本は護身になるの。ならば、お前やメルのように剣で敵を倒す戦い方とは異なる……リディアに習うのが良かろう」


 リディにそのことを話すと、


「ゴーヴィの言う通りね。後衛の剣術は敵の攻撃を捌くことが目的だから。魔法の訓練の合間に私が教えてあげる」


 その日からシャロンは、リディから剣と魔法を習うことになる。


 リディの使う剣は短めの片手剣で、彼女はそれで打ち下ろされた剣を弾き、素早い動きで突きを繰り出してくる。膂力の弱い彼女は祖父のような斬撃のスピードはないが、軽量の剣を最小限の動きで使ってくるため、結構攻めにくい。

 実際、レベル三十程度の父と模擬戦を行っても、防御に徹すれば、かなりいいところまでいける。


 最初はおっかなびっくりだったシャロンだが、俺たちの訓練を毎日見ていたせいか、割とすんなり剣を扱えるようになっていった。



 俺たちの日課に森での訓練が加わった。

 ガイかヘクターが同行し、森に入っていくが、一月もすると比較的危険な東の森にも行くようになった。


 そして、七月七日。遂に二度目の実戦を迎えることになった。


 その日は朝から蒸し暑く、朝の訓練を終えたところで汗だくになるほどだった。

 午前八時の鐘の音を聞いた後、ヘクター、ガイ、ウィル、猟師のロブと共に東の森に向かう。館ヶ丘を下り、ため池の南側を通って森に入っていく。


 西の森に比べ雑木が多く、夏の日差しの中でも森の中は薄暗く、視界が利かない。

 髭面の無口な大男の猟師、ロブが先頭に立ち、下生えの草や潅木をなぎ倒しながら、森を分け入っていく。


 ロブの後ろにヘクターが続き、その後ろに俺たち、更にウィル、ガイと続いていく。

 俺の装備はショートソード――俺にとってはショートではないが――と小型の丸盾ラウンドシールド。防具は合うものが無く、皮製の帽子、ベスト、手袋をつけているだけだ。

 メルは盾を持たず、剣のみを持ち、ダンは練習用のショートボウとダガー、シャロンは護身用のダガーを持っている。


 まだ東の森は三度目で、俺たちは皆、緊張した面持ちでヘクターの後ろを歩いていく。

 今日はアクィラ山脈の麓近くまで足を伸ばす予定で、いつも以上に危険な区域に入っていく。


 うるさいくらいのセミの鳴き声をBGMに、森の中を四時間ほど東に進み、ウッドフォード川の上流に到着する。


 ウッドフォード川は幅五mほどの渓流で、大きな岩が転がる清流だ。

 木々の緑が川面に映り、中天から照りつける太陽の光が川底を照らすと、きらりと魚が煌いているのが見える。


 俺たちは深い森の中を歩き、疲労していた。しかし、隊長であるヘクターの指示がないため、座り込まず立って指示を待っている。


 周囲を見回したヘクターが、ここで休憩することを宣言した。


「ここで休憩する。ガイとロブは周囲に危険が無いか調べてくれ。ウィル、ザック様たちから離れるな。ザック様、この辺りには魔物が多くいますので、油断なされないように」


 俺が頷くと、メルたちにも注意を促していく。


「ダン、メル、シャロン。お前たちも油断するな。私の命令には絶対に従え。分かったな」


 三人が「「「はい!」」」と元気に答えると、


「ガイとロブが戻り次第、ここで食事にする。ザック様たちは休憩してください」


 すぐにガイとロブが戻り、危険が無いことが報告される。

 俺たちは背嚢を降ろし、その場に座り込む。

 俺は荷物を降ろしながら、その生命力溢れる森を見ていた。


(さすがに疲れた。ここまで来たのは初めてだな。それにしても凄い原生林だ。全く人の手が入っていない)


 いつものようにメイド長のモリーの作った弁当を広げる。

 最近ではメルもシャロンも自分で作った料理を加えているようで、俺にお裾分けしてくれる。時々、微妙な味のものもあるが、八歳くらいの少女が作るにしては良くできている。


 一時間ほど休憩し、川に沿って村に戻り始める。

 ウッドフォード川は黒池ブラックラフに流れ込む水量豊かな川で、よく野生動物が水を飲みに来る。

 帰りは猟師のロブが獲物を探しながら進むため、彼一人が先行して進んでいた。


 前を歩くヘクターが静かに手を上げ、身を伏せる。

 俺たちも黙って身を伏せるが、何が起こっているのか分からず、四人ともキョロキョロと周りを窺っていた。

 後ろからガイとウィルがヘクターに合流し、状況を確認していた。


「ロブが何か見つけたようだ。獲物ではなさそうだな。ロブが戻るまで、ウィルはザック様たちの護衛を頼む。ガイはいつでもロブの援護にいけるように準備をしてくれ」


 俺には見えなかったが、先行するロブが何か見つけ、ヘクターに合図を送ったようだ。

 しばらく身を潜めているとガサガサという音が聞こえ、俺たちは魔物が現れたのかと緊張する。だが、現れたのはロブだった。


「前にゴブリンがいますだ。数は十匹以上だと。ヘクター様、どうしますかね?」


 ロブはやや訛りのある話し方で報告し、ヘクターの判断を待つ。


「ガイ、正確な数が知りたい。偵察してくれ」


 彼はそういいながら、風向きを確認するためか、指を舐めて上に向けている。


「迂回するにしても風上を通ることになるな。ロブ、ウィル、数にもよるが戦うつもりでいてくれよ」


 二人が頷くと、ヘクターは俺に対し、


「数にもよりますが、二十匹程度なら殲滅します」


 俺はメルたちがいることを考え、「避けることは無理なんだな?」と尋ねると、


「川を渡らなければ風上を横切ることになりますから、敵に気付かれ襲われる危険があります。それならばこちらから奇襲を掛けて一気に殲滅したほうが危険は少ないと思います」


「分かった。ヘクターの判断に任せる」と大きく頷く。


 ヘクターは俺に頷き返した後、俺たち四人に指示を出していく。


「この辺りなら、二十から三十といったところでしょう。その程度の数なら、ザック様は魔法での攻撃をお願いします。シャロンもザック様と一緒に魔法だ。ダンは我々が討ち漏らした敵を弓で狙え。メルはシャロンを守ってやれ」


 俺たちは静かに頷き、それぞれ準備を始めていく。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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