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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第一章「少年時代:ラスモア村編」

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第三十三話「石鹸製法の売却」

ニコラス視点です。

 私が家で石鹸を作っていると、イーノスが家にやってきた。


「ニコラスさん、お館様がお呼びです。すぐに執務室に上がってきて欲しいとおっしゃっておられます」


「どんな用件か、聞いているか?」


「来客だそうです。ザック様がおっしゃるには、石鹸の製法を買いに来た商人だそうです」


 私はすぐに作業服から着替え、屋敷に向かった。

 お館様の執務室にはお館様とザカライアス様が待っておられ、すぐに商人の話が始まった。

 ザカライアス様の説明を聞いていくが、私には商才はないから、一々聞かないと理解できない。だが、ザカライアス様は私の理解の状況を確認しながら、分かりやすく説明して下さる。


 いつも思うのだが、なぜここまで考えられるのだろうか。私ならすぐに交渉に入り、恐らく買い叩かれていただろう。

 ザカライアス様も本来なら、ご自分で交渉されたいのだろうが、あのお体ではそれは不可能だ。次善の策なのだろうが、私を信頼して任せて下さる。何とかそのご期待に沿わなければならない。


 そして、お館様とともに応接室に向かった。

 ザカライアス様は我儘息子の振りをして、お館様に付いていかれる。

 応接室に入ると、先代様より少し年上の五十代前半くらいの紳士が待っていた。

 お館様の姿を認めると、すぐに深々と礼をしてきた。そして、商人らしい笑顔で挨拶を始めた。


「これはお忙しいところ、お時間頂き申し訳ございませんでした。私はマスグレイブ商会のエドモンドと申すものにございます」


 エドモンドは慣れているのか、お館様相手に物怖じもせずに話している。


「マサイアス・ロックハートだ。先に言っておくぞ。先触れも無く領主との面会を要求するとは不愉快だ。我らのことを田舎騎士と侮っておるのではないか」


 お館様はいつもの明るい感じではなく、口を曲げ不機嫌さを表しておられる。


「そのようなことはございません。先触れにつきましては、真に申し訳ございません。私どもの落ち度にございます。何卒、ご寛恕の程を」


 エドモンドは慌ててそう答え、もう一度、深々と頭を下げる。


「ここにいるのは息子のザカライアスだ。領地を出たことがないから、商人というものを見たことがない。騒がぬから、ここに居させるが構わぬな」


 エドモンドは全く表情を変えず、「もちろんでございます」と言って、ザカライアス様に笑顔を向ける。

 そして、彼の視線が私に向かったところで、お館様が私を紹介される。


「ニコラス・ガーランドだ。内政一般を任せておる」


 エドモンドが優雅に私に礼をし、すぐに「それでは早速本日の用件を……」と用件を話そうとした。

 お館様はすぐに彼の言葉を遮り、


「先ほども言ったはずだ。先触れも無く無礼であろうと。まだ、分かっておらぬようだな」


 そして、ザカライアス様から私に合図を送られる。私は心の中で頷き、


「エドモンド殿、真にすまぬが、今日は出直してほしい。だが、それでは貴殿も困ろう。訪問の目的だけ、お話してもらえないか」


 エドモンドの表情が僅かに曇ったような気がするが、すぐに元の笑顔に戻る。


「これは真に申し訳ないことを致しました。それでは明日にでも出直して参りましょう」


 そう言って、もう一度頭を深々と下げる。


「本日参りましたのは、ご領地では石鹸をお使いとのこと。噂によりますれば、この村で製造されておられると。もし、よろしければ、その製法を我が商会にお譲り頂きたいとお伺いした次第にございます……」


 まだ話を続けようとしたため、


「ご用向きは承った。申し訳ないが、明日もう一度来てほしい。時間は今日と同じで構わぬかな」


 話の腰を折られ、僅かに表情を硬くするが、すぐに頷く。



 そして、翌日。

 エドモンドは約束通りの時間にお屋敷を訪問してきた。

 彼が応接室に入った後、お館様、ザカライアス様、そして私の三人はゆっくりと応接室に入っていく。

 我々が入っていくと、エドモンドは笑みを浮かべて立ち上がる。


 お館様が正面に座り、私は側面の席に座る。ザカライアス様が私の対面に座られたところでエドモンドに話を促す。

 エドモンドが「昨日はご無礼を致しました」と詫びを入れ、手土産を置いた。お館様が頷くと、すぐに用件に入っていった。


「ご領地では石鹸の製造をされておられるとのこと。我がマスグレイブ商会にその製造法を独占的(・・・)にお売りいただけないでしょうか」


 お館様は右の眉をピクリと動かすが、何も言わずに顎で話を続けろと指示されている。

 私が言うのもなんだが、お館様もなかなかの役者で強欲な領主をうまく演じておられる。


「我が商会では五千(クローナ)(=五百万円)で買わせて頂きますが、いかがでしょうか?」


 お館様は話にもならんという顔をされ、私の方を見る。

 私は出来るだけ、ふてぶてしく聞こえるように注意しながら、


「エドモンド殿。我らを愚弄しておるのか?」


 エドモンドは「これは異なことを」と大きく相好を崩す。


「石鹸の製法を僅か五千Cで手に入れようなどと……」


 ここで私は計算している振りをする。


「……相場の半額、一個五Cで売ったとしても、僅か千五十個ほど売るだけで利益が出るのだ。全く話にならん」


 その言葉にエドモンドの表情が一瞬変わった。ちらりとザカライアス様を見ると、そのまま“攻勢を掛けろ”という合図を送ってこられた。

 エドモンドは少し申し訳無さそうな顔を作り、


「それほど原価が掛からぬとは思ってもおりませんでした。それでしたら、一万Cでいかがでしょう?」


 そこでザカライアス様の合図を受けたお館様が、


「話にならんな。そもそも独占的に売る気はない。我が領地でも作り続けるつもりでおるし、他の商人にも売るつもりでおる。そのような金額しか提示できぬなら、これ以上は時間の無駄だな」


 お館様はそう言って不機嫌そうに立ち上がろうとされる。

 エドモンドは慌てて、


「お待ち下さい。それではご領主様のご提示金額をお教え下さい」


 お館様は不機嫌そうにどっかと腰を下ろしなおされ、私に視線を送られた。


「お館様は五万Cなら教えても良いと」


 エドモンドは「そ、それでは利益が……先ほどの条件でしたら、八千が限界でございます」と汗を拭く振りをしている。

 私はザカライアス様をちらりと見ると、まだ“攻勢を掛けろ”との合図を続けておられる。


「では、話にならん。我らは貴殿らに売らねばならぬ義理はないのだ」


 エドモンドは私とお館様を何度も見ている。

 どちらと交渉すべきか悩んでいるようだ。どうやら、私と交渉するようで体の向きを僅かに私の方に向ける。


「ガーランド様。我が商会も利益が出る金額でなければ困ります……」


 私は彼の話を遮り、


「先ほども申したが、五千Cなら千五十個で利益が出る。八千Cならいくつだ?」


「……千六百八十個でございます。ですが、それが本当にそうなるかは……」


「私が嘘を言っていると言いたいのか! それに千七百個ほどであれば購入者が百ほどおれば一年ほどで回収出来るではないか。買い手が千になれば僅か一ヶ月ほどで儲けに変わる。まだ言いたいことはあるか」


 エドモンドは私の勢いに押され始めている。ザカライアス様を見ると、指示は“少し引いてやれ”だ。


「では、こうしよう。我らは貴殿に売らねばならぬ義理はない。だが、わざわざここまで来てくれたのだ……」


 私はザカライアス様の作戦通り、お館様から全権を委任してもらうよう芝居を打つ。


「お館様、私に全権を委ねて頂けないでしょうか」


 お館様は「良かろう。ニコラスにすべて任す」と頷かれる。


「エドモンド殿、五万でも充分に利益は出る。だが、そちらも分からぬことが多ければ不安だろう。四万Cでどうだ? 更にそちらの職人に作り方を直接伝授するというのも付けてやろう」


 エドモンドは汗を拭きながら、必死に考えている。


「二万では……それ以上は……」


 私は考える振りをしながら、ザカライアス様を覗き見た。ご指示は“否”だった。


「そうか。残念だな。お館様……」


 私がお館様に話し始めたところで、エドモンドが叫ぶように遮ってきた。


「三万Cでいかがでしょう。本当にこれ以上は……」


 ザカライアス様のご指示は“了”。だが、“条件をつけさせろ”だ。


「そちらから条件をつけることはないのか? こちらはかなり譲歩しておるのだ」


 エドモンドは必死に条件を考えているようで、汗を拭きながら話し始める。


「……私どもマスグレイブ商会では多岐にわたる商品を取り扱っております。宝飾品から魔道具、穀物など食料品。何かご入用のものがございましたら、格安でお譲りすることをお約束しましょう」


 この条件の想定はしていなかった。ザカライアス様との打合せで想定した条件は、宝飾品や武具などの献上くらいだと思っていたからだ。私は焦るが、ザカライアス様に聞くわけにはいかない。


「魔道具と申したが、時を計る魔道具はあるか?」


「はい、ございます。値段が少々張りますが……」


 そこでお館様が「いくらだ」とおっしゃられると、「通常のもので五千Cほどでございますが、特別・・に無償でお譲り致しましょう」と笑みを浮かべながら答える。

 お館様は「それでは五千が丸儲けだな」と呟かれ、エドモンドは再び汗を拭き始める。


「もう一つ聞きたい。本などの取り扱いはあるのか?」


 エドモンドは一瞬「本でございますか?」と口に出すが、


「取り扱っております。さすがに魔導書はございませんが、その他の専門書から娯楽用の物語までいろいろと取り揃えております」


「教本のようなものはあるか? 読み書きや計算などの初歩のものだが」


 エドモンドは不思議そうな顔をしながら、「ございます」と答える。

 私は「どの程度、譲って(・・・)もらえる?」と強気に出る。


「それほど在庫があるものではなかったはずですので……百冊程度ならお譲り致しましょう」


 ザカライアス様が満足そうに頷いているのを見て、


「それで頼む。では、三万Cで指導もつける。こちらの条件も了解したと考えて良いな」


「はい。他の業者にお売りになること、こちらの村で作られることに対し、当商会は異議を申しません」


「後ほど、契約書をしたためて持ってきてくれ」


 エドモンドが頷き、退出しようと立ち上がったところで、


「エドモンド殿にはかなり無理を聞いて貰った。一つ、良い話を聞かせやろう」


 エドモンドは浮かしかけた腰を再び下ろし、「どう言ったお話でしょう」と少し警戒している。


「我らが在庫で持っておる石鹸を買わぬかということだよ。今なら千個ほどある。一つ辺り七Cと言いたいところだが、五Cでどうだ」


 エドモンドは話の展開についていけず、「石鹸が千個でございますか……それを五Cで……」と呟いている。


「相場は小さいもので一つ十Cと聞いた。我らのものはそれよりも大きく、更に香りも良い。十Cで売ったとしても売れるはずだ。それだけで五千ほどの利益が上がる。先ほどの無理を聞いてくれた礼を兼ねておる。お館様、それでよろしいでしょうか?」


 エドモンドが考えている間にお館様の了承を得る。

 彼はその流れに交渉もせず、「ありがとうございます。当商会で引き取らせて頂きます」と頭を下げている。

 ザカライアス様は“交渉が終わり、油断しているところを狙って、利益を上げられそうな餌を投げれば必ず食いつく”とおっしゃられた。全くその通りだった。



 エドモンドが退出すると、お館様、ザカライアス様が笑い始める。


「ニコラス、よくやった。最低の一万Cの三倍。更に魔道具に教本を付けさせるとはな」


「ニコラスは本当に凄いよ。まさか、教本を付けさせるなんて思ってもみなかった」


 お二人に褒められるが、私はザカライアス様のご指示に従っただけだ。


「すべてはザカライアス様のご指示通りでした。しかし、エドモンドも不幸でしたね。あれほど焦られれば、こちらも大きく出ることが出来ます」


 私がそう言うと、ザカライアス様が首を振る。


「恐らくエドモンドは今頃ほくそえんでいるはずだ。粘れば五万でも売れたかもしれない」


 私はその言葉が信じられず、理由を尋ねた。


「恐らく彼の交渉可能金額はもっと高かったはずだ。こちらが素人だと思って演技で誤魔化していたと思う。理由は……」


 ザカライアス様がおっしゃるには、二万Cから三万Cに上げたあと、あっさりと魔道具を付けてきた。仕入れ値がどの程度かは分からないが、数千Cのものを迷いもなく渡し、更に追加で一冊数Cはする本を百冊付けてきた。

 もし、ギリギリならそんな余裕はないし、こちらの条件もあっさりと飲んできたことがおかしいとおっしゃるのだ。


「俺がエドモンドだとして、本当に厳しいと思ったなら、別の業者に売るまでの猶予期間を条件に付けてきたはずだ。例えば、うちの職人が技術を修得するまでは次の業者に売らないようにって感じで」


 私は今になって相手の姿に騙されていたことに気付いた。


「申し訳ございません。私は全く気付きませんでした。教本ではなく、もっと価値のあるものを……」


 ザカライアス様は謝る私の言葉を遮り、


「俺の指示に従っただけだし、俺自身、すべてが終わってから気付いたんだ。それに時の魔道具と教本は価値のあるものだよ。特に教本を選んだニコラスのセンスは凄いと思う」


 お館様も横で頷かれている。


「ニコラスは商人じゃないし、俺が交渉しても同じ結果だったと思う。それに元々石鹸で儲けようというつもりはないんだ。誇ってくれていい」


 そして、お館様に


「予定より高額で売れました。恐らく他の業者も同じような金額で売れるでしょう。この資金の使い方は父上とニコラスにお任せします」


 ザカライアス様は訓練に行くといって腰を上げられたが、何かを思いつかれたのか、再び腰を下ろされる。


「今、思い付いたのですが、あれほどあっさりと他の業者に売っても良いといったのには、裏がありそうです」


 お館様が「それは何だ?」と前のめりになる。


「我々は滅多に街に出ません。もし、マスグレイブ商会が独占的に製造法を手に入れたか、かなり高額で買い取ったという噂を流せば、他の業者は手を出しにくくなるでしょう。そうなると、次の業者がなかなか来ない可能性があります」


 お館様は「うむ、確かにな。で、どうするのだ?」と唸るように尋ねられる。

 ザカライアス様は少しお考えになり、


「行商人に噂を流させましょう。それから、ニコラスやガイにキルナレックに行ってもらい、噂を流してもらいましょう。ニコラスには商業ギルド関係を、ガイには冒険者ギルドや傭兵ギルド関係にそれとなく話を流せば、瞬く間に広がるはずです」


「具体的にはどのような話をさせればよいのだ?」


「商業ギルドでは、数万Cで売れたが、誰でも買えるようにしているから、まだまだ売れそうだといった感じでいいでしょう。傭兵ギルドや冒険者ギルドでは、盗賊が心配だが、自警団の良い訓練相手になるといった感じで、あまり露骨にではなく、さり気なく流した方がいいでしょうね」


 そして、くすりと笑い、


「実際、盗賊団が襲ってきたらおじい様が喜びそうですけど、ロックハート家(うち)に喧嘩を売るには儲けが少ないですから来そうにないですね」


 ザカライアス様はそれだけ言うと、部屋を出て行かれた。


 お館様と私は正直、マスグレイブ商会がそこまでするのかと考えていたが、商人たちと渡り合うことにかけては、私の感覚よりザカライアス様のお考えの方が信頼できる。

 残されたお館様と私は、最後のザカライアス様の話で、高揚した気分も幾分しぼんでいた。


「三万五千Cか……ニコラス、どう使う?」


「とりあえず、ザカライアス様が一番力を入れていらっしゃる蒸留所に回してはいかがでしょうか? 特産品となれば領地の収入も増えますし、何よりあの方が喜ばれます」


 お館様は私に笑いかけ、「いつもの通り、ニコラスに任す」とおっしゃられた。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
うーむ。なんでなろう世界には石鹸がないのだろう? 現実だと5000年前から存在しているのに。
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