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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第五章「教導者時代:帝国編」

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第三十七話「新たな可能性」

あけましておめでとうございます!

 一月三十日の午後。


 蒸留所の候補地探しの途中、シーウェル市の北にあるソルスギス村でワインの試飲をした。その際、ベアトリスが変わった香りがすると言い出し、確認してみると長期熟成に向くカベルネ・ソーヴィニヨンのような香りがしたため、それがあるのか確認することになった。


「このワインを頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?」


 俺の問いにラドフォード子爵は「もちろん」と言って頷く。


「しかし、何かあるのかな? ベアトリス殿の感想を聞く限りではそれほど魅かれるとは思えんのだが?」


「全く自信はないのですが、熟成させると化ける可能性があります。私にはほとんど感じられませんが、彼女の鼻を信じるなら、恐らく二種類以上のブドウが使われているはずです」


 俺がそう言うとダルントンが醸造責任者を呼んだ。その男は五十歳くらいで、シーウェル侯爵領のナンバーツーであるラドフォード子爵を前にしてオドオドとしている。ダルントンは彼に使われているブドウについて確認する。


「この村のブドウはすべて同じ種類のものなのか?」


 その責任者は叱責されると思ったのか、「も、申し訳ございません!」と言って大きく頭を下げる。


「謝ることは何もない。このワインについていくつか聞きたいだけだ」


 子爵にそう言われ、ゆっくりと頭を上げる。そして、汗を拭きながら説明を始めた。


「何十年も前の話ですが、この村のブドウの木が病気で枯れたことがあったそうでございます。その時に北のレスコビー村や対岸のムーラン村などからブドウの木を分けてもらったと聞いております……恐らくですが、それで近くの村のものとは違う味がしたんじゃねぇかと……」


 詳しく聞くと彼の祖父の時代に病気でブドウの木が枯れ、近隣の村から木を分けてもらった。その後、何度か挿し木をしているため、いろいろな種類の木が混在しているらしい。

 そのため、同じ畑でも実の色や味が微妙に異なるそうだ。


(自然交配で品種改良になったのかも。カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールみたいな最高品質のブドウが出来ている可能性もあるな……)


 俺が考え込んでいると、子爵が「気になることでもあったかな」と聞いてきた。


「もしかしたら宝が眠っているかもしれません。シーウェルワインに革命を起こすようなブドウが……」


 俺の言葉に子爵とダルントンが「「本当か(ですか)!」」と言って同時に立ち上がる。

 俺は言葉を間違えたと後悔し、「少し大袈裟に言いすぎました」と謝り、


「いろいろな品種のブドウがあるので、新しい品種ができている可能性があると言いたかったのです。このワインに使っているブドウに長期熟成に適したものがありそうです。ブドウの品種ごとにワインを醸造し、味を確認してはいかがでしょうか」


「ザカライアス殿がそう言うのであればやってみる価値は充分にある。ダルントン、ブドウの品種について村の者に確認させ、今年の収穫時に今の提案を試してみるのだ。無論、私も収穫には立ち会う」


 ラドフォード子爵は珍しく興奮気味で、俺は言葉を選べばよかったといたたまれなくなる。


「なあ、本当に別の品種があるのか? ブドウなんて赤ワイン用の黒ブドウか白ワイン用の白ブドウしかないんじゃないのかい?」


 発端になったベアトリスが不安げにそう聞いてくる。俺が答えようとしたが、リディが代わって答えていた。


「あら、ブドウはいろんな種類があるのよ。ラスモア村のブドウとここのブドウでは全然違うし、ラクスやサルトゥースのはもっと違うわ。そうよね?」


 そう言って俺に振ってきた。彼女には魔法の勉強の時、前の世界の話をいろいろとしており、それを覚えていたようだ。


「ああ、ブドウに限らず、植物はその土地に合わせて変わっていくんだ。それに微妙に違うものを掛け合わせても味は変わる。だから、熟成に適したブドウがあってもおかしくないんだ」


 その後、ソルスギス村の農夫たちが集められ、情報収集が行われる。特に老人たちから過去の経緯を聞き取り、どの畑がどこの村のものかを聞き取っていった。


 そして、五十年以上前に葉に粉がふくような病気が流行り、多くの木が枯れたことが分かった。


「城に戻ったら昔の資料を漁って何があったか確認する。ザカライアス殿、何か意見はないかな?」


「自然交配でできたのか、別の村に元々あったものなのかを確認すべきです。ベアトリス、今日飲んだワインの中に同じ香りのものはなかったよな」


 突然話を振られ、ベアトリスは慌てて「ああ」とだけ答える。


「後はここより北のワインも試飲してみるべきでしょう。ベアトリスの鼻なら同じものがあれば嗅ぎ分けられるはずです」


「それがよい。ベアトリス殿、よろしく頼む」と子爵が頭を下げる。


 ベアトリスは急展開に理解が追い付いていなかったが、突然何を求められているのか理解し及び腰になる。


「いや、あたしには無理だよ。ザックみたいに酒の知識なんてないんだから……」


 若干涙目になって俺を見る。


「味の違いを確認してくれって言っているわけじゃないんだ。さっき言っていたクローヴみたいな香りのものがあれば教えてほしいってだけだ。それならできるだろ」


「ああ、それなら。だが、それ以上は期待するな。あたしはただの槍術士なんだからね」


「分かった、分かった」と言って宥める。


(獣人の嗅覚は凄いな。やっぱり獣人のソムリエを養成すべきだな。しかし、ベアトリスが警察犬代わりか……)


 その後、レスコビー村やその先のクライタイモア村でワインの香りを確認したが、ベアトリスの言う“クローヴの香り”は見つからなかった。


 もちろん、当初の目的である蒸留所候補地の確認も行っている。その中でクライタイモア村が最有力候補となった。

 しかし、シーウェルワインの新たな可能性ということで、ラドフォード子爵が乗り気になり、どちらかというと新たなブドウの品種探しになってしまった。



 その日の夜、晩餐の後にシーウェル侯からワインの品質向上と販売戦略について、素案ができたと聞かされる。

 僅か一日で作り上げさせた侯爵の執念と、それを成し遂げた文官たちの有能さに驚きを禁じえない。

 侯爵の書斎に行くと、そこには熱心に書類を読むラドフォード子爵と昨日より顔色は悪いものの、目だけが異様に輝いているレドリー・サザーランドら文官たちがいた。


 子爵が侯爵と俺に気づくと、「なかなかよくまとまっていると思います」と言って、会議用のテーブルにそれを置く。


「済まぬが、一度目を通してくれんか」と侯爵がいいながら書類を手渡してきた。


 その書類は枚数にして五十枚ほど。まだインクの強い匂いがするほどで、パラパラと見てみると、書き上げて間もないものも多い。


「拝見させていただきます」と言い、灯りの魔道具の下で書類を読んでいく。もちろん、手元にはメモ用紙も用意し、気づいた点を記載していった。


 三十分ほどで読み終えると、手元のメモ用紙を確認していく。


(計画の骨子は問題ない。目的も充分に理解しているし、概略ながらも目標は決めてある。行程表(ロードマップ)も一応あるし、重要な節目(マイルストーン)も設定されている。それに必要な資金や人員の概算も出してある……俺が示唆したとはいえ、僅か一日でここまで作りこむとは思わなかった。後は実施計画に落とし込んでいけばいい……)


 メモから目を離すと、サザーランドらに大きく頭を下げて敬意を表した後、侯爵に向かって、


「素晴らしいです。僅か一日でこれほどのものを作られるとは思いませんでした」


 侯爵は「そうか」と笑みを浮かべると、「改善点はないかね? 他に付け加えることとか?」と確認する。


 この計画は年オーダーのものであり、長期的な計画としては充分に役に立つだろう。しかし、資金の流れ、すなわちキャッシュフローが考えられておらず、資金がショートする可能性は否定できない。また人員の確保についても具体性に欠けている。

 もちろん、今の段階で完璧なものを作ることは困難なのだが、それでも指摘しないと失敗する可能性があった。


「改善点はございません。この概略計画を実行段階の詳細計画に落とし込めば、すぐにでも実行が可能だと思います」


「実行段階の計画ですか」とサザーランドが確認してきた。


「はい。この計画では概算の資金や人員、大まかな流れは決めることができますが、いつ、どこで、誰が、何を、どうやるという点を決めなければ計画は動きません。責任者を任命してプロジェクトとして動かすために必要なことを調査、検討させ、詳細な計画を詰めるべきです」


「具体的にはどういったことなのだろうか」と子爵が聞いてきた。


「例えば販売戦略ですが、目標として帝都と主要な大都市に拠点を設け、試飲会を兼ねた園遊会を行うとありますが、帝都ではいつ頃、どこに拠点を設け、誰が責任者になり、どうやって人を集め、その後の販売にどうつなげるかを決めなければなりません」


「しかし、そこまで細かいことを決めねばならんのだろうか」


「少なくともいつ、どこで、誰がという点は決めなければなりません。現地に入り、実情を見た上で実行に移してもいいでしょう。また、どの程度の資金をいつの時点までに投入するかは事前に計画しておかないと、領地の経営に影響します。これだけ大規模な計画であれば、商人たちから借り入れも必要でしょうし、人の手配にも金は掛かりますから」


「なるほど」と侯爵が頷き、「その計画も見てもらいたいが、頼めるか」と言ってきた。


 侯爵の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 今の段階で作れないことはないが、そのためにはサザーランドら文官たちに今以上に負担を掛けることになる。


「見させていただくこと自体に異論はございませんが、それほど急ぐ必要はないのではないかと。まずはある程度体制を整えてから、責任者と部下の方にこの計画を理解させることが重要ではないかと思います」


 俺がそう言うと文官たちから僅かに安堵の息が漏れた気がした。やはり、限界のようだ。


(詳細計画まで作れと言われたら、倒れるしかないからな。さすがにそこまでは言えないよ。それにこの世界の商取引のスピード感からいえば、それほど急ぐ必要はないしな。しかし、何でこんなに急いでいるんだろうな……もしかして、俺の意見を聞きたいからか?)


 俺の内心の疑問にサザーランドが答えてくれた。


「私とダルントンである程度計画を詰めてみます。それをザカライアス卿に見ていただきたいのですが」


 俺としては彼らの顔色の悪さが気になる。


「私は構いませんが、お体は大丈夫ですか? あまり休まれていないようですが」


「シーウェル領を発展させるためです。それにこれは文官にとっての戦争だと思っています。戦争であれば、この程度は無理をしているうちに入らないでしょう」


 そう言って落ち窪んだ目のまま笑っている。

 その姿に同情の念が湧く。


「明日は蒸留所候補地の視察がありますから無理ですが、明後日以降ならお手伝いできるかと思います」


 しかし、サザーランドは首を横に振った。


「これはシーウェル侯爵家で解決すべき問題です。ご助言はありがたいですが、助力まで頂いては我々文官の立つ瀬がありません。我々にも矜持(プライド)があります」


 俺の中に湧きあがっていた同情の念が、尊敬に変わった。

 彼らは愛する故郷のために努力を惜しまないと言っているのだ。その熱い気持ちにシーウェル侯も感動し、「よく言った。レドリー」と言って称賛する。


「ザカライアスは二月七日に出発する。その前日までに計画を作り上げるのだ。人も金も好きに使って構わん。よいな、イグネイシャス」


「はっ、御意のままに」と家宰であるラドフォード子爵も部下の想いを感じたのか、今まで以上にやる気になっている。


 俺はその様子を見て、不意に宰相フィーロビッシャー公のことを思い出した。


(シーウェル侯爵家でこれほどなら、辣腕の宰相がいる宰相府はもっと凄いんだろうな……帝国が世界最強の国家として君臨し続ける理由を見た気がするよ……)


 その後、今日の蒸留所建設候補地視察とブドウの品種の報告をし、部屋に戻っていった。

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします!


今日は実家から帰ってくる日なので、例年通り、神戸のどこかで飲んだくれている気がします(笑)。

ジーク・スコッチ!

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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