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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第四章「冒険者時代:ラスモア村編」

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第四十一話「襲来」

 トリア歴三〇一八年十月十二日。


 神々より遣わされた者、ルナを救出してから一年。未だに心を閉ざしたままで会話もままならない。そろそろ何かアクションを起こした方がいいのではないかと考え始めている。

 ルナの心の状態も気になるが、それ以上に気になることがある。


 ここ一ヶ月ほどアクィラ山脈の魔物の様子がおかしいのだ。

 十一年前のオーガとオークの群れの移動時にも異変はあった。前回は比較的弱い魔物が山から逃げるように下りてきたというものだが、今回の異変は飛竜ワイバーン有翼獅子グリフォンなどの飛行型の魔物がアクィラの頂を旋回する姿が見られるようになったのだ。


 この情報はラスモア村の偵察班が見つけたもので、望遠鏡による監視で初めて明らかになっている。念のため、冒険者ギルドを通じて各地に情報を流しているが、今のところ異変の情報は入っていない。


 アクィラ山脈近くで活動するペリクリトルやその最前線であるリッカデールですら、異常があるという情報はなかった。但し、ペリクリトルはともかくリッカデールの情報については、単に確認できていないだけという可能性がある。


 先月、シーウェル侯爵から得た情報とも関係があるのだが、ルークスへの懲罰出兵が長引き、帝国北部総督府軍が未だに戻っていない。このため、アウレラ街道の西側の治安が悪化しており、優秀な冒険者や傭兵が商隊の護衛に借り出されている。


 この影響をもろに受けているのが、ペリクリトルとリッカデールだ。この二箇所から二級や三級の優秀な冒険者が多く引き抜かれ、アクィラから絶えず下りてくる魔物の間引きすら充分に行えなくなっている。そのため、リッカデールからアクィラ山脈の状況を探る優秀な斥候たちの負担が大きくなり、充分な情報収集が行えずにいるらしい。


 また、ペリクリトルやリッカデールの冒険者たちはラスモア村の自警団が使っている望遠鏡を持っていない。視力に優れたエルフはいるものの、望遠鏡の倍率には敵わず見逃している可能性があった。


 望遠鏡が普及していないのは、俺が望遠鏡など人間同士の戦いに利用できる道具についてはあえて秘匿しているからだ。これは俺が生み出した道具で戦争が激化することを恐れるためで、科学技術は魔法で代替できるもの以外は可能な限り開発しないようにしている。


 秘匿している理由だが、この世界を変えたくないという俺のわがままが一番の理由だ。もちろん批判を受けることを覚悟の上でやっている。


 一つだけ気になるのは、“これをやってはいけない”と心の中で囁かれているような気がする点だ。操られるという感じはないが、俺自身、日本にいる時に文化や伝統を守ることに強い拘りがあったわけではなく、不思議な気はしている。


 話を戻すが、父や従士たちとアクィラの異変についてはすでに協議している。しかし、安易に険しいアクィラの山に入ることは危険であり、現状では麓の森の偵察を強化するしか打てる手がないという状況だ。


 但し、できることはやっておくべきということで、敵の襲撃を想定した訓練は強化していた。特に住民たちの避難訓練は二度行っており、緊急時には一時間以内に村人全員が避難できることを確認している。また、収穫期の直後ということもあり、食糧の備蓄量も充分で、今なら村人全員が手ぶらで館ヶ丘に避難してきても二ヶ月は篭城できる。


 できる限りの準備を終えていると思っているが、どうしても抜けがあるのではないかと焦りを覚えてしまう。

「焦っても仕方がないでしょ」とリディに言われ、更にベアトリスからも「あたしらもいるんだよ。一人で抱えるな」と諭されるほどだ。


 そしてここ数日、十一年前と同じ現象が再現されつつあった。

 まず、槍鹿スピアディア角兎ホーンラビットといった弱い魔物が村周辺に現れるようになった。更にゴブリンの群れが逃げるように北に向かい、灰色熊クリズリー剣牙虎サーベルタイガーなど比較的大型の魔物の足跡も北に向かっていた。


 この情報はすぐにキルナレックにある冒険者ギルドと傭兵ギルドの支部に伝えられ、更にカウム王国のボグウッドの町の守備隊を通じ、王国政府にも伝達している。


 祖父と父は警戒レベルを上げ、東の森への偵察も三班体制にした。また、村人たちに避難準備を行わせるとともに、自警団員には常に武具を携行するよう命じてある。

 収穫祭を終えた直後の長閑さが消え、ピリピリとした空気が村全体を包んでいた。



 十月二十日。それは唐突に始まった。


 午後の訓練を始めるため訓練場に向かった時、屋敷の横にある物見台を兼ねた防空用の塔の鐘が激しく打ち鳴らされた。その音は敵襲の合図に他ならない。


 カンカンカンと打ち鳴らされる鐘の音の中、父が状況を確認するため、塔に走っていく。兄と俺も父に続く。後ろでは祖父と従士たちが待機していた自警団員に対し、館ヶ丘の門の警備を命じていた。

 防空用の塔に着くと下りてきた自警団員が報告を始めた。


「狼煙台に赤色の煙です! 場所は十番です!」


 俺が作った狼煙台には番号をつけており、どの狼煙台か見極められるよう訓練も行われていた。


「十番か! アクィラに一番近い狼煙台だな! ザック、あの辺りの偵察はダンで間違いないな」


 父の確認の問いに「間違いありません」と答えながら塔の中に入る。自警団員を先頭に螺旋状の階段をもどかしい思いをしながら上っていく。最上階に到着するとさすがに息が切れるが、すぐに望遠鏡を取り出し、狼煙台に向けた。

 曇り空であり少し見辛いが、確かに赤い煙が真直ぐ上がっている。


「間違いありません、父上。後はどの程度の戦力かということですが……私が偵察に出ましょうか?」


 赤色の狼煙は最高レベルの警報で、村人を直ちに避難させる必要があることを示している。しかし、どの程度の危険かはそれだけでは分からない。更なる情報を入手するため、俺自身が偵察に出るつもりだった。


「ダンの報告を待つ。お前はリディアとシャロンと共にここで待機だ」


「しかし……」と反論しようとすると、「お前はこの村の最大戦力なのだ」と言って遮られ、


「ダンは優秀な斥候スカウトだ。必ず生きて情報を持ち帰る。だから、信じてやれ」と諭されてしまった。


 俺は頭に血が上っていたことに気付いた。それまでの焦りの蓄積が冷静な判断を失わせ、自分が何とかしなければと考えてしまったようだ。


「分かりました。ダンなら誰かに情報を持たせてこちらに向かわせているでしょう。それを待ってから対策を考えても遅くありませんね。まずは村人たちの避難を急がせましょう」


 父は見張りの自警団員に「他の狼煙台にも注意しておけ。何かあればすぐに報告しろ」と命じて塔を降りていった。

 塔から出るとすぐに兄とシム・マーロンを呼び、


「馬に乗れる者に村人の誘導をさせてくれ。お前たちは家を見て周り、病人や年寄り、子供が残っていないか確認を頼む」


 父が兄たちに命じている横を抜け、リディたちと合流する。午後の訓練を行うために防具はつけており、準備は終わっている。

 簡単に物見台で確認したことを説明する。


「赤色の狼煙だった。どの程度の敵かは分からないが、ダンが戻れば情報が手に入るはずだ。それまでは訓練どおりに準備するだけだ」


 リディが「分かったわ」と答え、ベアトリスが「準備はできているよ」とニヤリと笑う。メルが「私もです」と大きく頷くと、シャロンは無言で同じように頷いていた。


「リディは俺と一緒にいてくれ。ベアトリスはおじい様から指示があるはずだ。それに従ってくれ」


 そしてメルとシャロンの前に立ち、


「ルナを見てやってくれ。敵が来たら母上や義姉上たちに任せるつもりだが、今は前のようにパニックになることが心配だ」


 今回の敵がルナを狙ったものかは分からない。しかし、ティセク村であったように闇の精霊たちが暴走すると何が起きるか分からない。


 それに彼女の心の状態を考え、自分が狙われていることを極力知られないようにしている。このため何が起きているか説明することが難しく、彼女が信頼している二人に安心させる役目を頼んだのだ。


「分かりました。ルナさんにできるだけ付いているようにします」とメルが言うと、シャロンも「ルナさんには大したことがないと伝えておきます」と俺の意を汲んでくれた。


 二人の頭をポンポンと触ると、そのまま屋敷に向かった。



 狼煙が上がってから二時間後の午後三時頃、俺は館ヶ丘内の見回りをしていた。

 既に村人たちの避難はほぼ終わっており、自警団員以外は避難所になっている学校に集められている。


 老人や主婦たちは不安そうな面持ちでひそひそと話し、幼い子供たちは何かのイベントだと思っているのか元気に走り回っている。また、西斜面の草原には村人たちが連れ込んだ家畜たちが長閑に草を食んでいた。


 そんな中、父がイーノス・ヴァッセルを引き連れて学校に立ち寄った。


「まだ、詳細は分からんが魔物の群れがここに向かっているらしい。だが、心配はいらん! ここの城壁はオーガといえども破ることはできんし、武器も食料も十分にある。不安に思うこともあるだろうが、我々を信じて訓練通りに行動して欲しい」


 村人たちも父の言葉に安堵の表情を浮かべる。


「恐らく今日はここに泊まることになる。訓練通り、校舎と訓練場は病人と年寄り、幼い子供たちを優先してくれ。天幕はすぐに準備させる。後でターニャを寄越すから不都合があれば言ってくれ」


 そう言うとイーノスと共に門の方に歩いていった。

 村人たちは“訓練通り”という父の言葉に何となく安心感を持ったのか、てきぱきと動き始めた。


 村人たちの中で最後に避難してきたのはスコットたち蒸留酒造りの職人たちだった。運が悪いことに蒸留の真っ最中であったため、その始末を付けていたのだ。彼らも午後三時半頃には館ヶ丘に入り、すべての村人の避難が終了した。



 午後四時頃、偵察に出ていた若者が屋敷に走りこんできた。猟師であるロブの息子ダヴィだった。彼は俺と同じ十六歳だが、父親譲りのがっしりとした体つきで既に一人前の猟師の風格がある。

 その彼が荒い息のまま、父の前で片膝をつき、報告を始める。


「ハァハァ……ジェークスの若様より……ハァハァ……伝令です! ハァハァ……」


 息が完全に上がっており、言葉が紡げない。


「トリシア! 彼に水を! ダヴィ、よくがんばったな。ゆっくりでいい。落ち着いてダンからの伝言を教えてくれ」


 見かねた俺がそう言うとダヴィは大きく頷き、深呼吸をする。トリシアが水の入ったゴブレットを手渡すと一気に飲み干す。


「すみません。ではジェークスの若様のお言葉です。“屍喰鬼グール骸骨スケルトンが森を埋め尽くしております。数は不明。指揮を執っていると思われる首なし騎士(デュラハン)一体を確認。更に詳細を調査してから帰還する”とのことです!」


 父は「ご苦労だった」と労うと、


「グールとスケルトンが森を埋め尽くすか……」と呟き、ダヴィに「こちらに向かっているのだな」と確認する。


 ダヴィは「はい」と答え、


「ダン様は今夜にも村に到達するのではないかとおっしゃっておられました」


 父がそれに頷くと、祖父が代わって質問する。


首なし騎士(デュラハン)の姿を見たのじゃな。他には変わった魔物は見ておらんか?」


 ダヴィは「空に白い幽霊(ゴースト)がいたような気がします」と答え、「それ以外は見ていません。すみません」と頭を下げた。


 祖父は「その情報を持ってきただけでも充分な手柄じゃ」と褒めると、父を見ながら、

「マット、すぐにでも警備を強化したほうが良さそうじゃな」と付け加える。


 父もそれに頷き、


「そうですね。ダンが戻ればもう少し情報が入りますが、今はゴースト対策をした方がよさそうです」と言った後、従士たちに向かって、


「それぞれ自分の部下に今の情報を伝えよ。夜が本番だ。敵が来るまで身体を休めるように指示しておくんだ」と命じた。


 ニコラス・ガーランド、バイロン・シードルフ、イーノス・ヴァッセル、ウィル・キーガンがきれいな敬礼をして部下たちのところに向かった。


 父はシムに向かって、「ボグウッドに走ってもらうかもしれん。準備を頼む」と告げる。ダンの情報を確認した上でカウム王国に救援を要請するつもりらしい。

 祖父にこの場の指揮を任せると、救援要請のための書状を書くといって執務室に向かった。


 祖父は従士頭のウォルト・ヴァッセルを従え、物見櫓に向かい、兄はシムと共に厩に行き、騎馬隊の準備を確認しにいく。

 俺たちだけが残ると、母ターニャが心配そうな表情を浮かべていた。


「大丈夫かしら……アンデッドなんでしょう。怖いわ……」


 この村の近くで大規模なアンデッドの襲撃は起きていないが、古戦場近くでは数千体のアンデッドが村や町を襲い全滅させたことが何度もある。特にカエルム帝国とラクス王国の国境近くでは伝承として語られており、ウェルバーン生まれの母や義姉ロザリーにとって、アンデッドはまさに死そのものというイメージらしい。


「グールとスケルトンなら問題はありませんよ。スケルトンはゴブリンと大差ありませんし、グールもオークに比べれば弱い魔物ですから。それにゴーストに対しても準備はできています」


 母を安心させるように笑顔で伝える。


 実際、グールにしてもスケルトンにしても特殊な攻撃は行ってこないため、うちの自警団なら一対一でも充分に対処できる。通常武器が効かないゴーストに対しても、ロックハート家にはアダマンタイトやミスリルと言った魔法金属の武器が多く、更にミスリルコーティングの剣や槍があるため、強敵ではない。


(むしろデュラハンの方が危険だろうな。あまり情報はないが、知性を有しているという話だ。しかし、魔族が来ると思っていたんだが、アンデッドの群れとは……一応準備しておいたからいいが、どちらかと言えば対魔族戦ばかり想定していたからな……)


 敵の全容が掴めないが、敵が現れたことに僅かに安堵していた。


(見えない敵より見える敵の方がいい。後は想定以上の敵が来ないことを祈るだけだ……)

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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