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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第四章「冒険者時代:ラスモア村編」

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第八話「対価の考え方」

 トリア暦三〇一七年十一月五日。


 蒸留酒定期便(スコッチライナー)と共にスコットたちが帰ってきた。無事に帰ってきたことは喜ばしいことだが、鍛冶師ギルド・ウェルバーン支部職員、ジョニー・ウォーターが厄介な話を俺のところに持ち込んできた。


 ザックコレクションの分配を巡り、ここラスモア村でドワーフの鍛冶師たちが腕試しをするというのだ。その“お題”が父マサイアスと祖父ゴーヴァンの武具造りなのだ。


 ロックハート家にとっては非常に喜ばしい話なので、“厄介”という言い方は失礼極まりないのだが、この先、俺に面倒ごとが降りかかってくることは目に見えているので、どうしても厄介ごとに思えてしまう。


 そうは言っても、この問題をクリアしなければならない。まずは父と祖父の説得が必要だ。


 二人とも支配階級の者としては珍しく、無欲な人物だ。物欲が全く無いというわけではないが、正当な対価を支払わずに一方的に貢物を受け取るということをよしとしない。その二人に“数億円相当の武具”を“無償ただ”で受け取ってもらわなければならないのだ。その説得が俺の仕事になっている。


(どう説得するかだが、正面から行くしかないだろうな……)


 その夜、父の執務室に行き、父と祖父に事情を説明する。

 話が進むにつれ、二人の表情が唖然としたものに変わっていき、何度も頭を振っていた。父が「つまりだ……」と口を開き、少し間をおいてから話し始めた。


「私の理解があっているなら……ウェルバーンの鍛冶師たちは自分たちもアルスの鍛冶師に負けない武具が作れることを証明しようとしている。そのためにデーゲンハルト殿だけでなく、鍛冶師ギルドの匠合長ウルリッヒ・ドレクスラー殿がここに来る。その目的が酒の分配を決めるため……そして、その武具は私と父上の物……そう聞こえたのだが、間違いないのか?」


 父はあまりの事態に思考が付いていかないのか、事実を一つずつ確かめるように口にした。


「その認識で間違いありません。ジョナサン・ウォーターが言うには、“少なくとも”ウェルバーンから五名、アルスから十名の鍛冶師がここを訪れるそうです。ですが……」


 俺がその先を言うのを躊躇うと、父が「まだ何かあるのか? いや、先ほどの言い方から、何となく分かる気はするが……」と不安そうな表情でそう言った。


「いえ、私の思い違いならよいのですが、恐らく、鍛冶師の数は倍以上になるのではないかと……」


 祖父が「なぜそう思うのじゃ?」と口にしたが、すぐに「“ザックコレクション”があるからか」と呟く。


「ウルリッヒ殿にしても、デーゲンハルト殿にしても、ここラスモア村へ行くメンバーを決めるのは容易なことではないでしょう。おじい様がおっしゃったように、ここにはザックコレクションの原酒が山のように眠っているのですから」


 二人は無言になるが、祖父が「断れぬのか」と呟く。


「酒の分配はこのようなことをせんでもお前が決めればよいのではないか。そもそも、鍛冶師ギルドだけに売るわけではあるまい」


「確かにそうなのですが……当面は、ザックコレクションの大部分は最大の顧客である鍛冶師ギルドに売ることになると思います。スコッチを作り始めた時に“すべて買い取る”とまで言ってくれたのです。ある意味、ドワーフたちが“スコッチを育てた”と言っても過言ではありません。その恩に報いるためにも、でき得る限り彼らに配分すべきだと思っています……もちろん、ここ以外で蒸留酒が造られるようになれば、他の顧客にも回すことになると思いますが……」


 今のところ、アルスの鍛冶師ギルド総本部とペリクリトルの宿“荒鷲の巣”だけに蒸留酒を売っているが、ザックコレクションは当面、主にアルスへ売るつもりでいた。

 スコッチの黎明期、アルスの鍛冶師たちはスコッチを待ち続けてくれた。


 更にロックハート家の危機を救ってくれた恩もある。もちろん、極少量だが、ペリクリトルにも売るつもりではいるし、ウェルバーン支部にも適正な量の分配は考えていた。しかし、その他の地では信頼できる卸し先が見つかっていないため、あまり考えていない。


 あと十年もすれば、アルスやウェルバーンでもスコッチは造られるようになるから、他の販売先を探すことになるのだろうが、今のところ需要と供給の関係で売り先を増やすことができない。


 俺の言葉に祖父が「だとしてもじゃ。お前が適正だと思う金額で公正に分配すれば、ドワーフたちも文句は言うまい」と言ってきたが、俺は小さく首を横に振った。

 父も「鍛冶師たちもお前の言葉なら聞くのではないか」と言うが、俺はもう一度首を横に振る。


「今回の話は鍛冶師たちにとって単に酒の分配を決めるという話ではないのです。彼らの矜持が掛かっているのですから。“ザックコレクション”を飲むに相応しい腕を持っていることを世に知らしめたい。そういう思いもあるのではないかと思います」


 祖父が「それでも儂らが武具を受け取る必要はないのではないか」と言ってきた。


「鍛冶師たちは“武具は使う者に合わせて作るものであり、単に作ればよいというものではない”と考えているようです。私たちの武具を見ても分かりますが、一人ひとりの特性に合わせて、最高の物を作っています。ですから、ウェルバーンに馴染みの深い、おじい様と父上の武具で確認したいと……」


 二人とも首を小さく振り、あまり納得したように見えなかった。

 そこで「本当の目的は他にあると思います」と言うと、二人とも思いつかないのか、首を傾げる。


「恐らくアルスの鍛冶師たちの目的は“本場でスコッチを浴びるように飲みたい”のだと思います。特にウルリッヒ殿は」


 父たちは呆れたような顔で何も言わない。

 俺はここで父たちを納得させる提案を出すことに決めた。


「アルスの鍛冶師たち、特にウルリッヒ殿はここに来たがっています。ですが、立場が立場ですから、おいそれとアルスを出ることができません。今回のような口実を欲しているのです」


「そうだとしてもじゃ、無償でミスリルやアダマンタイトの剣など受け取れん」


 俺はそれに頷き、更に話を続けていく。


「素材はアルスから最高の物が持ち込まれます。そうなれば、デーゲンハルト殿たちが作る武具はウルリッヒ殿、ゲールノート殿の武具に匹敵するでしょう。剣ならば一振り数十万(クローナ)、防具なら一揃えで百万Cになる可能性があります。その対価をロックハート家では“現金”で支払うことはできません」


 父は「もちろんだ」と頷く。

 百万(クローナ)は日本円で十億円に相当する。ロックハート領の現金収入はスコッチで得ている収入が年間二百万強。つまり、二人の武具だけでその金額を超える可能性があるということだ。


「払えたとしても鍛冶師方は受け取らないでしょう。ですが、鍛冶師方が求める物を対価としたらどうでしょうか」


 二人はすぐに気づいたようだ。父が「酒か」と呟く。


「はい。ここには試験的に蒸留した、“十一年物”が僅かですがあります。うまいかどうかは別にして、この樽は今のところ販売するつもりはありませんから、それを飲んでいただこうかと」


 祖父は「しかし、それでも釣り合わん。超一流の職人が作る剣と酒では……」と反対する。


「もし、十一年物のスコッチを売りに出せば、恐らく一樽数万(クローナ)の値が付くでしょう。もしかしたら、十万を超えるかもしれません」


 二人はあまりの額に言葉を失った。


「当時の樽はエール用のホグスヘッド樽ですから、二百リットル以上です。年を経ているのである程度減っていますが、グラスで百ccずつ売れば、千五百杯は取れるでしょう。一杯百Cでも十五万Cになります。ドワーフの鍛冶師が相手なら百Cでも確実に売れますから」


 父は「それでも全く釣り合わんだろう」と首を横に振る。グラス一杯百Cということは、十万円だ。どこのぼったくりバーだと言われそうだが、実際売りに出せば確実に売れる。更に言えば、鍛冶師ギルドを動かしうるネタであり、金に換えられない価値がある。アウレラの商業ギルド辺りなら、その数倍でも喜んで出すはずだ。


 それだけではない。元々十数樽しかなく、飲めば飲むほど減っていくから、希少性は年々上がっていくだろう。“幻の三〇〇六年物”などという噂が出れば、いくらになるか想像もできない。だから、十一年物、三〇〇六年物を売り出すつもりはなかった。


「世界最古の蒸留酒なのです。飲めば確実に減っていきます。ですから、金には換えられない物として、喜んでいただけると思います。もちろん、これだけではなく、いろいろと趣向は凝らして、金では買えない満足を得ていただくよう努力します」


 祖父が「金に換えられぬか……」と呟き、


「確かにドワーフの鍛冶師たちは金より酒の方がよいのかもしれん。金で支払うという考えを捨てれば、ザックの案は良い考えかもしれん」


 俺が考えていたのは、父たちの考え方を変えてもらうことだった。通常、剣や防具などの武具の対価は、皇帝や国王といえども現金で支払う。

 他の芸術品などでは名誉、例えば騎士の爵位などを与えることで対価とすることもあるが、ドワーフたちはそんな物を欲しないから、正当な対価として分かりやすい現金で受け取っているのだ。


 しかし、対価ということであれば、現金にこだわる必要はない。特にドワーフの鍛冶師が欲するものなら、十分に対価になる。要は相手が十分に対価となると考えるものなら、何でもいいと考えたのだ。


「確かに。私も地位や名誉より、家族や領民が幸せに暮らせる方がよい。そう考えれば、鍛冶師たちが望むなら、それでよいと考えるべきか」


 父の言葉に俺が頷くと、父は「父上もそれでよろしいですか」と祖父の意向を確認する。祖父も大きく頷いた。父は俺の方に向き直り、


「鍛冶師たちが最高の武具を贈ってくれるなら、我らはそれ以上に満足させねばならん。それが分かるのはお前だけだ。領内にあるものであれば、好きに使ってよい。無い袖は振れんが、金もお前が必要と考えるなら最大限出そう」


「分かりました。金は大して掛けませんが、必ず満足させてみせます」


 父が「任せたぞ」と言うと、祖父が「ところでじゃ」とやや困惑した顔で聞いてきた。


「ロックハート家の総力を挙げて歓迎するのはよい……その歓迎を気に入り、今後も武具を贈ると言い出さぬか心配なのじゃが……相手はドワーフじゃ、突飛なことをせんとも限らぬ……」


 俺はその問いに答えられなかった。


(確かにウルリッヒやデーゲンハルトを歓待すれば、その話は全世界に伝わる。そうなれば、各国の鍛冶師ギルドの支部が自分のところもと言い出しかねない。いや、ウルリッヒたちなら、自分たちが来たいがために焚き付けないとも限らない。酒が絡むとドワーフは何をするか分からないからな……)


 俺の沈黙により、三人の間に微妙な空気が流れた。父も同じことを考えていたようだ。

 その後、ジョニーに父と祖父の説得がうまくいったと報告すると、心底ホッとした表情を見せた。


「本当に助かりました。お二方がお認めになられなければ、どうなったことか……後は支部長に手紙を書けば、とりあえずは終わりです」


 安堵しているジョニーに「ところでだ」と言うと、「何でしょうか」と首を傾げている。


「ウェルバーンからは五人なんだな。アルスは十人。そう言っていたんだな、ウルリッヒは」


 ようやく肩の荷が下りたと思っているジョニーに、この質問はかわいそうだと思ったが、しないわけにはいかない。ジョニーは悲しそうな顔で「分かりません」と答え、


「恐らくですが、その倍は来られるかと……私の思い違いならいいのですが……」


 ジョニーの予想も俺の予想と同じだった。俺は天を仰ぎ、フゥーと息を吐き出す。


 俺が「もうひとつ聞きたいんだが……」と言うと、ジョニーは「まだ、何かございますか」と身構える。


「いや、俺の思い違いならいいんだが、ウェルバーン支部の後に他の支部が同じ事を考えないかと思ってな。その辺りのことはウルリッヒから聞いていないか?」


 ジョニーはどう答えていいのか迷っているのか、僅かに間が空いた。


「……いえ、聞いておりません。ですが、少なくともペリクリトル支部は手を上げるのではないかと……」


 これも俺の予想と同じだった。ペリクリトルでは既にスコッチを販売しているから、ウェルバーン支部の話を聞けば、必ず自分たちもと考えるはずだ。後はラクス王国の王都フォンスとカエルム帝国の帝都プリムスの支部が手を上げる可能性がある。


 ただ、フォンス支部は帝国とラクス王国が準戦争状態――二九九〇年に停戦したが、その後も帝国がラクスに何度も侵攻している。至近では三〇一〇年に大規模な武力衝突が起きている――であるため、王国政府が許可を出さない可能性が高い。

 また、プリムスは距離的に遠く、鍛冶師たちの不在期間が長くなるため、こちらも許可が下りない可能性が高い。


 ただし、これは常識的な考えであって、相手は常識が通用しないドワーフたちだ。何が起こってもおかしくはない。


 ジョニーと別れた後、精神的な疲れが襲ってきた。俺はそのまま地面に座り込む。


(どうしてこうなった? ザックコレクションを正当に……いや、過大すぎるほど評価してくれるのはうれしい。俺の考えていたスコッチを普及させるという目的は達成できるだろう……だが、少しおかしな方向に向かっている気がする。前にも蒸留酒が戦略物資になっていると考えたが、今ではそれ以上だ……俺たちの武具を見たら分かるが、これだけの装備を持っている騎士の家は、いや、公爵クラスでもいないだろう。国宝級の武具が何個もあるんだ。それがまだ増えようとしている。その対価が酒……これでいいのか……)


 俺は途方に暮れていた。この先のことを考えれば、祖父や父の装備が更新され、更には主だった従士たちの装備が超一流の物に代われば心強い。祖父の言葉ではないが、俺の持っている剣と同じクラスの武具を祖父たちが持てば、ドラゴンですら倒せる可能性がある。


(じい様がこのアダマンタイトの魔法剣を持てば、世界最強レベルの戦士になるはずだ。レベル的には七十台後半だったはずだが、これだけの装備を持つ者は少ないからな。俺ですら普通の剣を断ち切ることができる。剣や盾で受けられない攻撃は避け続けるか、先手を取って押し切ってしまうしかない。並みの剣士ならそれも可能だろうが、超一流同士になれば、そう簡単にはいかない……俺程度の腕でも本気で魔法剣を使えば、じい様も梃子摺るはずだ……)


 戦ってみると分かるのだが、レベルが低い時の方がレベルの差をより感じる。同じレベル差であっても、レベル五とレベル十ではほとんど相手にならないが、レベル四十五とレベル五十では相手との相性によっては、レベル四十五の方が勝利することもあり得る。


 これはレベル差の絶対値ではなく、比率の差が効いている感じなのだ。レベル十から五を見れば、比率は五十パーセントも違う。これがレベル五十と四十五の比率差だと、僅か十パーセントしかない。


 この関係を祖父に当てはめると、仮にレベル七十五であるとすれば、レベル九十の相手に対して、二十パーセントの技量差があるが、その二割の技量差を覆すだけの武具を持てば、勝利することも可能なのだ。


 そこで今回手に入れたウルリッヒの剣の話に戻るが、この剣は感覚的には技量を五割り増しにするくらいの能力があるように感じている。レベル四十五の俺の場合、レベル七十くらいの超一流の剣術士と互角に戦えるということだ。


 ウォルトやベアトリスのような超一流の槍術士が相手だと、槍と剣のレンジ差で簡単にはいかないだろうが、殺す気で戦うのなら、祖父やニコラスでも腕の一本くらいは奪える自信はある。


 これを祖父に当てはめると、レベル百の剣術士を凌駕することになる。もちろん、レベル百の強者つわものがそこらに売っているような量産品を使っていることはないため、単純に比較はできないが、使っている俺の感覚ではそんな感じなのだ。

 つまり、それほどの強化が図れる武器を手に入れることになるのだ。


(うちの主だった従士たちが超一流の鍛冶師の武具を手に入れたら、神々の敵ですら倒せそうな気がする……もしかしたら、今回のことは神々からの援助かもしれないな……)


 ジョニーは祖父と父が了承したことをアルスの鍛冶師ギルド総本部に伝え、ウェルバーン支部にも来年の春にラスモア村でザックコレクションの配分を賭けた腕試しが行われるという知らせを送った。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
[気になる点] ようやく剣と魔法に戻ったのにナチュラルに閑話がぶっこまれるとしんどい… 問答もテンポが良くないと感じました。
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