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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者時代:諸国編」

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第八十一話「ある中鬼族の末路:前篇」

別視点です。

 中鬼族の操り手(テイマー)、カウノ・ハールラの命は今まさに消えようとしていた。消えゆく意識の中で、これまでの人生が走馬灯のように流れている。


 彼は魔族の国ソキウス――アクィラ山脈の東側にある国、西側諸国は永遠の闇(クウァエダムテネブレ)と呼んでいる――において、中鬼族の名家として知られるハールラ家に生まれた。幼少期は一族の誰もが彼のことを天才と呼び、長じるに従って他の鬼人族――大鬼族、中鬼族、小鬼族等――からも一目置かれる存在だった。そして、二十歳になる頃には中鬼族一のオークの操り手(テイマー)として、その名を不動のものにしていた。


(思えば二十歳になるまでが俺の絶頂期だったな。しかし、いつ道を誤ったんだ、俺は……そうか。あの時か……)



 彼が鬼人族の都、ザレシュを発ったのは一年ほど前のことだった。

 彼の叔父テイヨ・ハールラからの話を聞き、居ても立ってもいられず、飛び出すように西に向かったのだ。


(思えば、叔父貴の罠に嵌ったのかもしれん。まあ、今となってはどうでも良いが……)


 テイヨ・ハールラは、彼にとって英雄だった。

 ハールラ氏族の族長である彼の父ヨウニは戦士というより政治家だが、テイヨは生粋の戦士だった。十年ほど前には裏切り者を抹殺するため、二百匹のオークを率いて敵国に潜入し、難しい任務を成功させている。

 当時、カウノは成人である十五歳になったばかりで、その作戦に同行を許されなかったが、大鬼族の操り手(テイマー)ユハナ・ヘラスヴォと翼魔族の呪術師イラリ・コランデルの三人だけで敵地深くに侵入する豪胆さに感動を覚えた記憶があった。

 だが、任務に成功し凱旋してからのテイヨは変わってしまった。酒に溺れた敗残者のような男になってしまったのだ。

 彼と共に作戦に参加したユハナとイラリの二人は戦死し、更に率いていたオークもすべて失っていた。裏切り者を倒してから、なんとか西への侵攻拠点であるレリチェ村――トーア砦の五十km東にある村。トーアの北にある抜け道を使い、侵攻するための重要な拠点――に帰還したものの、その時の彼はボロボロの状態だった。その後は酒に溺れる生活を送り、些細なことでも荒れるようになった。親族たちは想像を絶する戦いで、心が病んだのではないかと考え、強く諌めようとするものはいなかった。


 それでもカウノにとっては英雄だった。常に酔っているが、機嫌が良いときのテイヨから話を聞くことが楽しかった。

 アクィラでの火竜《サラマンダー》との戦い。西の戦士との駆け引き。更には裏切り者である月魔族の呪術師マティアス・ヴァロとの死闘……

 テイヨの話は時々辻褄が合わないことがあったが、カウノはあまり気にしなかった。酔えば話が大きくなることもあるが、実際テイヨは戦果を上げ、鬼人族に栄誉をもたらしたからだ。


 そのテイヨが一年ほど前に病に倒れた。

 まだ、四十五になったばかりの働き盛りだったが、頑健な中鬼族戦士といえども十年に渡る不摂生には耐えられなかったのだ。テイヨが死の床に就いた時、カウノは衝撃的な話を聞かされる。


「カウノよ。俺は卑怯者だ……お前が思うような男じゃない……」


 カウノは即座にそれを否定した。


「そんなことはない! 叔父貴はハールラの誇りだ。いや、中鬼族の誇りなんだ!」


 テイヨは弱った体を起こし、カウノの手を取った。


「俺は裏切り者を倒してはおらんのだ……恐らく、奴は今も生きている。月魔族のマティアス・ヴァロは生きておるのだ……」


 その言葉にカウノは声を失った。


「俺たちは奴を見付けた。だが、大鬼族のクソ野郎、ユハナは勝手にオーガを引き連れ、別行動を取り始めたのだ……」


 テイヨの話は、大鬼族ユハナが別行動を取り、翼魔族の呪術師イラリもそれに同調したため、孤立無援になり、任務に失敗したというものだった。

 テイヨたち潜入部隊には裏切り者である月魔族マティアスの抹殺だけでなく、もう一つ任務があった。それは西に侵攻した本隊が動き易くするため、冒険者の街と呼ばれるペリクリトル周辺で陽動作戦を行うことだった。ちょうど裏切り者が逃げた先がペリクリトル周辺の村ということで、裏切り者を見付けだした上で、タイミングを合わせて村を襲うことでペリクリトルより北の軍勢を釘づけにする作戦だったのだ。

 本来なら一ヶ月ほど掛けて裏切り者を探すはずだったのだが、運良く裏切り者と一緒に逃げた人間の女の居場所が分かった。

 テイヨは冬場であることと長期戦になることを考慮し、拠点を作って待機することを提案したが、ユハナとイラリは森の中を移動し続ける方が安全だと言って譲らなかった。

 結局、テイヨとユハナ、イラリとの間で合意することができず、ユハナたちとは別行動を取ったが、いずれも作戦開始前に敵に発見され、テイヨはすべてのオークを失った。彼自身もイラリの手を借りて、何とか脱出できたに過ぎなかった。

 一方の大鬼族のユハナもほぼ同時に敵に発見され、オーガを全滅させられた。ユハナは何とか逃げ延びたものの、左手を失った。結局すべての戦力を失った彼らの任務は失敗に終わった。


 生き残ったテイヨらはソキウスに帰還しようとアクィラの山裾の森を彷徨ったが、あと少しでレリチェ村というところでユハナとイラリが火竜(サラマンダー)に殺され、唯一人、彼だけが逃げ延びた。

 任務に失敗したテイヨは、当初は正直にそのことを報告しようとしたが、彼がレリチェに戻った時には西に侵攻した大部隊が全滅――アクリーチェインの戦いで敗北――しており、その原因がテイヨらの部隊が敵を引き付けるという任務に失敗したからだと言われていた。

 実際、予定より一ヶ月以上前に見つかり、更にあっさりと全滅させられたことから、西側の諸国はペリクリトル周辺に戦力を割くことなく、南部のカウム王国に兵を送ることができた。これにより、アクリーチェインの戦いを前に大幅な戦力増強を図ることができたのだ。

 たらればの話になるが、もし、ペリクリトル周辺にラクス王国軍を釘付けに出来たら、アクリーチェインの戦いは起きなかっただろう。そうなれば、破竹の勢いで進軍するソキウス軍を止めるものはなく、アルス街道を封鎖することに成功し西側諸国軍が合流することはなかったはずだ。

 そんな事情から、テイヨは虚偽の報告を行ってしまった。月魔族の裏切り者が逆襲してきたため、何とか裏切り者を倒したものの、その死闘によって戦力を削られ、陽動に失敗したと報告したのだ。当初はその報告が虚偽ではないかと疑われたが、翼魔族の呪術師イラリが残していた詳細な行動記録と地図が証拠となり、疑惑は払拭された。


 テイヨは死の床で告白を続けていく。


「俺は皆の視線に耐えられなかった……お前が失敗したから、仲間が死んだのだ。そのお前がなぜ生き残っている……そんな視線に耐えられなかった……だから俺はお前の思っているような男ではないのだ……」


 カウノはテイヨが死に際して、甥である自分が崇拝していることに耐えられなくなり、真実を告白したと思った。


「本当なのか、叔父貴……」


 テイヨは弱々しく頷き、一枚の地図をカウノに手渡した。


「これがあれば奴がいる場所にいけるはずだ。俺が言えた義理じゃないが、この無念を晴らしてくれんか。裏切り者を倒してくれ。頼む……お前なら、操魔術(テイム)の天才であるお前なら、必ずできる……」


 カウノは中鬼族に知らぬ者がいないほどの天才であり、中鬼族随一のオーク使いとして知られている。実際、彼が操るオークたちは他のテイマーのオークより優秀だった。

 カウノはテイヨの提案にすぐには乗らなかった。

 十年にもわたって嘘をつき続け、彼の想いを踏みにじった叔父が許せなかったのだ。


「俺を憎むのは当たり前だ。だが、ハールラの男として、一族の恥を雪いでほしいのだ。これはお前にしか頼めぬ」


「ハールラの恥を雪ぐというなら、族長に、親父に言うべきことではないのか」


 テイヨは小さく首を横に振り、自嘲気味に「兄貴は俺に口止めするだけで何もしてはくれぬよ……」と言った。

 テイヨは既に族長である兄ヨウニに真実を話していたのだ。だが、この事実が発覚することを恐れ、族長は彼の願いを聞かなかった。


「兄貴の言うことも一理ある。ブドスコ家、バインドラー家が知れば、ハールラは今以上に力を失うのだからな」


 ハールラ家は中鬼族の中でも歴史ある有力な氏族だ。だが、ここ百年ほどで力を失いつつあり、代わってブドスコやバインドラーと言った氏族が中鬼族を牛耳っている。族長ヨウニ・ハールラはそのことを憂い、先の大侵攻で別働隊という難しい任務を受け、それを全うすることで力を示そうとした。


 テイヨはカウノに地図を見せながら、十年前に自分が使ったルートを説明していった。その地図には詳細な情報が書き込まれており、カウノには十分な情報に思えた。


「奴は月魔族随一の闇の使い手。お前が操るオークといえども五十や百では返り討ちにあうかもしれん……間違っても夜襲は掛けるな。月魔族の呪術師にとって夜は最も力が発揮できる時なのだからな……」


 テイヨは自分が考えていた策を次々と説明していった。


「……人間の協力者を得るのだ。レリチェで見付けろ。あそこの連中なら西に恨みを持っている奴もいるはずだ……」


 テイヨの考えは西側への侵攻拠点であるレリチェ村で人間の協力者を得て情報を入手すること、アクィラの西側に拠点を設けてオークの数を増やすこと、敵に発見されたら南で騒ぎを起こして敵を引き付け、一気に北に進み、裏切り者である月魔族のマティアス・ヴァロを倒すというもので、それを咳き込みながら説明していった。


「こいつは兄貴の名で作らせた命令書だ。これがあれば、レリチェの西に行けるはずだ」


 そう言って一枚の紙をカウノに渡した。中には眷族召喚用の苗床――オークやゴブリンを生み出すために使う若い女性――を得るために、西側に潜入するという命令が書かれていた。


「……これは本物なのか」


 テイヨは不敵にも見える笑顔を見せて首を横に振った。


「いや、偽物だ。兄貴の部屋にあった命令書をもとに作らせたものだ。だが、普通は気付かんはずだ」


 カウノは躊躇いを覚えながらも単身敵国に侵入し、裏切り者を倒すという冒険に魅力を感じ始めていた。


(成功すれば、叔父貴の恥を雪げる。それに俺の力を大鬼族の連中、いや、妖魔族の連中にも知らしめることができる……)


 元々、中鬼族に思慮深い者は少ないが、カウノはそれに輪を掛けて短絡的な思考の持ち主だった。もし、慎重な性格であれば、月魔族の裏切り者を倒すためとはいえ、命令書を偽造しただけでなく、重要な拠点であるレリチェ村の存在を暴露する可能性があることを考慮し、実行することはなかっただろう。

 だが、カウノは自らの力に自信を持つ若者らしく、それらの不都合なことはすべて考えなかった。


「俺がハールラの名誉を守る」


 カウノはそう言うとテイヨの部屋を出ていった。

 残されたテイヨは再び寝台に身を預け、ぼんやりと天井を見ていた。その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。だが、その笑みは酷く歪んだ醜いものだった。


(これで俺を無能と罵った連中、兄貴、それに長老どもに意趣返しができる。ククク……確かにカウノは天才だ。俺など足元にも及ばん。だが、奴は考えが足りん……自慢の息子が祖国(ソキウス)に損害を与えた時、兄貴はどんな顔をするんだろうな。それが見れぬのは残念だが、これでハールラの名誉は地に落ちる。あまつさえ偽の命令書を使い、西に出張った上、レリチェを危険に曝すのだ……ククク、笑いが止まらぬ……)


 自らに与えられた任務に失敗した時、彼は武人らしく死をもって償おうと考えた。

 彼は大鬼族の操り手(テイマー)ユハナと共に敵に一矢報いるべく、敵陣に突撃しようとしたのだ。だが、翼魔族のイラリは今後のことを考え、レリチェ村から侵入するルートが特定されることを恐れた。そのため、野生のオーガとオークが偶然群れを作っていたと見せかけた。だから、鬼人族らしき死体を残すわけにはいかないと主張したが、鬼人族の二人はイラリの思惑を一蹴した。

 イラリは彼らの死体が残るリスクを重く見て、二人の説得を諦め、同胞に対して闇属性魔法を使った。魔法に対する耐性が低い鬼人族の二人はあっさりと意識を奪われた。本来なら傀儡の魔法で操りたかったが、彼の手に必要な道具はなく、催眠術のような暗示をかけることしか出来なかった。

 それでも鬼人族の二人には十分な効果があった。数日間は何事もなく、イラリの命令に従っていた。

 だが、アクィラの山の中を行く中、ユハナは失った左腕の傷が開き、その痛みで術が解けた。彼はイラリを殺そうとし、死闘の末、逆に殺されてしまった。その際、テイヨの術も解けたが、彼は術が効いている振りをし、レリチェ村近くまで戻ったところで油断したイラリを殺した。

 レリチェに何とか帰還した時、族長である彼の兄ヨウニ・ハールラが一番に出迎えた。テイヨは正直に事の顛末を話し、罪を償うと言ったが、ヨウニは自らの一族の失態を隠蔽しようと虚偽の報告を強要し、テイヨも最終的にはそれに従ってしまった。


 戦士としての誇りを踏みにじられ、酒に溺れた。

 作戦の失敗と同胞を殺害した苦悩、自らの誇りを奪った兄への鬱憤など様々な思いが彼を蝕み続け、ついには一族への恨みに変わった。何となく自分の死期が近いことを感じ、どうせ死ぬのならと一族に対する暴挙に出ることを決めた。


(皆、滅べばいい! 一族もこの国も……それを見ることが叶わんのが心残りだが、大したことじゃない……ククク……)


 テイヨはこの世を去った。その死に顔は歪んでいたが、満足げな笑みを浮かべているようにも見えた。

ドリームライフで本格的に鬼人族が出てきたのは、初めてのような気がします。

本編トリニータス・ムンドゥスを読んでいないと分かりにくいかもしれませんが、あくまでこちらは外伝ですので、ご容赦を。

(この作品が外伝だと認識しているのは作者くらいですが(笑))

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
[気になる点] この作品のこの続きって、トリニータス・ムンドゥスを読まないと置いてけぼりくらったりわからなくなったり、面白さ半減したりしてしまうのでしょうか…?
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