第一話「キャラクター作成」
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(ここはどこだ?……ああ、懐かしい部屋だな。アキラの部屋か……何でここにいるんだろう?)
俺はぼんやりとした頭で、なぜ、中学時代の友人、アキラの部屋にいるのか考えていた。
アキラの部屋には俺以外、誰もおらず、いつも置いてあるコタツの上には、TRPG――テーブルトークRPG――の説明書と、十面体サイコロが二つ置いてあった。
(十面体サイコロか。懐かしいな……何々、タイトルは“トンネル&ドラゴンズ”、略して“T&D”か。パクリもここまで来たら潔いな(注)……)
(注:タイトルを見て、有名なTRPG、トンネル&トロールズ(T&T)とダンジョン&ドラゴンズ(D&D)を合わせたパクリだと考えた)
『おい、弥太、弥太郎。早くキャラクターを作ってしまえよ。遅いぞ!』
突然、アキラの声が聞こえてきた。
周りを見ても姿は見えないが、俺は特に気にすることもなく、返事をしていた。
「ワリィな。でも、まだ説明書すら読んでいないんだ。もうちょっと待ってくれよ」
『分かったよ。さっさと済ませてくれ』
俺はT&Dの説明書を開き、読んでいく。
読み進むうちに自分の知っているTRPGと、それほど変わりないことに気付き、気になるところ以外は読み飛ばしていく。
(何々、種族を選んで、ステータスを設定、キャラクターポイント(CP)を決める。CPはスキルの修得やステータス強化に使えるポイントか……スキルを選んで、それから、出生環境を選ぶか。階級が王家から奴隷まであるのか。それに、生まれた家が繁栄しているか、没落しているか、都会に生まれたのか、辺境に生まれたのか……なるほどね。意外と細かいな。全部、十面体サイコロで決めていくんだな)
ステータス設定の項目を読み始めた。
ステータスは戦闘に特化したものではなく、筋力、反射神経、肉体制御能力、耐久力、魔力、精神力、知力、製作能力、容姿、魅力の十個あり、十面体を二つ振って、一から百までの数字を決めることとなっていた。
(筋力とか反射神経は分かるけど、肉体制御能力ってなんだ? 何々、“命中率、運動関係の成功率に影響するステータス”って、それだけしか説明がないのかよ。詳しくは“戦闘”の項を参照のことか……)
その他のステータスについても説明書を斜め読みしていく。
説明書には、一般的な人間のNPCでは、ステータスの平均値は五十、標準偏差は十であると書いてあった。
(標準偏差シグマが十ってことは、三シグマが二十と八十。五シグマが百か。それをランダムで選ぶっていうのは、無茶苦茶なバランスのキャラができるってことか。まあ、RPGの主人公だから、こういうのも有りなんだろうけど……)
そして、面白いルールを見付ける。
(キャラクター設定で一度だけサイコロの振り直しが可能。但し、その場で決めなければならないか。何々、出生環境にキャラクターポイントを振ることができる。その場合、消費したポイント以下の数値は無効となり、振り直しが可能となるか。要はCPを振った分、“足切り”が出来るんだな。三十つぎ込めば、三十以下のサイコロの目は無効になるから、振り直しができる。そういうことか)
ルールを理解した俺は、何十年振りかに十面体サイコロを手に取る。
(懐かしいな。こいつはよく転がるんだよな。いつものように“〇”が上に来るようにしてと……)
俺にはサイコロの最大の数字が、上に来るように持つ癖があった。
そんな癖を忘れていないことに、少しだけおかしさを感じながら、最初に種族を決めていく。
(十面体二つで一から百のランダムで種族を選ぶか……竜人一〇〇、魔族九十六、エルフ九十一、ドワーフ八十一、獣人六十六、人間一……三分の二が人間か。CPは決めていないから完全にランダムになるんだな。人間以外がいいな)
俺は最初の一投に少しだけ、緊張する。
気合を込めて、サイコロをコタツの天板の上に振りだす。
出た目は、“四十一”
(人間か……振り直しもできるけど、振り直しても人間だと馬鹿らしい。このまま進めよう)
次にステータスを設定するとあるが、俺は先にキャラクターポイントを決めることにした。
キャラクターポイントはサイコロを三回振った数の積。つまり、一から千までになる。
(普通に振れば百から二百くらいの数字になるんだろうけど、振り直しはここで使った方がいい。CPが大きければステータスの補正はできるし、スキルもたくさんとれる。それに環境にも使える)
まずCPを決めるため、サイコロを一回ずつ振っていく。
一投目は“九”が出た。俺は幸先のよさにガッツポーズを決める。
二投目は何と“十”だ。これで最低九十のCPを確保した。
そして、三投目。“てえぃ!”と気合を入れて、賽を振る。
俺の目の前にあるのは、“二”の数字が上を向いた十面体サイコロだった。
(えっ? “二”かよ……まあいい。振り直しだな。下がる可能性は十分の一、上がる可能性は十分の八。完全にリスクよりリターンが上回っている……)
俺は三度目の数字をキャンセルし、振り直しを選択した。
そして、もう一度気合を入れ直し、十面体サイコロに念を送って転がした。
よく転がる十面体サイコロが“コロ”という音を立てて止まる。
出た数字は“九”。
(ヨッシャ! 九掛ける十掛ける九で八百十。相当ステータスが低くてもリカバリーできる。みんなには悪いが、チートキャラにさせてもらう。ふふふ……)
俺はほくそ笑みながら、数字を眺めていた。
そんな姿を見ていたのか、『早くしろよ。遅いぞ』と、アキラの急かす声が聞こえてきた。
「わりぃ。つい夢中になった」
俺は慌ててステータスの設定に入る。
筋力から決めていく。
気合を込めて、サイコロを振っていき、筋力:三五、反射神経:八二、肉体制御能力:八三、耐久力:二〇、魔力:九六、精神力:四一、知力:九九、製作能力:四五、容姿:八七、魅力:八一となった。
(結構いい数字が集まったな。これだけ見れば、完全に魔法使い系キャラだな。肉体労働は誰かにお任せしますっていう感じだ)
いい感じの数字に気を良くした俺は、スキルの獲得の項目に移った。
スキルの説明では、“才能”と“特殊能力”があると書かれており、それぞれCPを使ってキャラクターに付与できるとあった。
才能は武術系や魔法系、生産系など、生まれながらの才能に関するもので、才能を修得したからといって、すぐに使えるわけではない。修行や訓練、教育によって使えるようになるとあった。
もう一つの特殊能力は、頑健、病気耐性、毒耐性など基礎能力に関わるものと、よく分からない“前世記憶”というものや、簡易なヘルプ機能のような“参照”のような、まさに“特殊”な能力もある。
(武術だけでも十個以上あるな。魔法は八つの属性があるのか。おっ、お得な八属性全部って言うのもあるな。八百十もCPがあると、取り放題な感じか……うん? 才能はレベルがあるのか。一で村一番、二で街一番、三で名人、四で天才、五で百年に一人の天才か。分かりにくいな。おっ、例が書いてあるな。何々、野球に例えると、一で草野球のスター、二で甲子園出場クラス、三でプロの二軍クラス、四でプロの一流選手、五はMLBの殿堂入りクラスか……才能が高ければ高いほど、スキルレベルの上昇速度が上がるか……本職にするなら三以上、普通に使うなら一でも十分ってとこか)
俺はステータスの特性を生かし、魔法関連の才能を多めに取得した。
(魔力付与がよく分からないな。五〇CPもするし、生産系に関連するだけならいらないか……)
肉体強化系も可能な限り修得する。そして、護身術くらいは使えるようにと、武術系のスキルもいくつか押さえることにした。
修得した才能を並べると、
武術系:剣術一、格闘一、回避五
魔法系:魔法才能全属性修得、魔力効率向上、魔力防御
生産系:なし
その他:体術三、馬術一、調教一、交渉一、気配察知三、隠密三、罠二
特殊能力:頑健、病気耐性、毒耐性、精神耐性、視力強化、死力発揮、前世記憶、参照
これだけのスキルを修得してもCPは五百七十。
(回避を五にしたから、回避しながら華麗に魔法を打ち込むって感じか。“当たらなければ、どうということはない”っていうセリフが使えそうなキャラだ……冒険に必要なスキルは押さえたし、次は出生環境だな。まずは身分か)
身分には王家から始まって奴隷まであり、七十以上で支配階級である騎士以上、四十以上で商人、十五以上で農家、五以下は奴隷となる。
(奴隷に生まれるのは絶対に嫌だな。ステータスにもCPを振りたいし、奴隷以外なら、良しとするか。後は、出生家系と家庭環境のバランスだな。もし、農民になったとしても、環境を昇運にしておけば、成長に問題はなさそうだし、家系は奴隷を回避するだけにしておくか。それにしても、五以下なんて、確率は二十分の一。勿体ない気もするな。まあ、保険と考えれば安いものか……)
俺はCPを五だけ使い、五以下の数字を無効にした。
そして、サイコロを振ると、“〇三”。
(あぶねぇ! CPを使わなきゃ、奴隷だった……)
気合を込めて振り直すと、“七十一”、底辺ではあるが、支配階級の騎士となった。
(よし、いいぞ! 騎士の家に生まれた。騎士の家で魔法使いはしんどそうだな。後で武術の才能を見直すか)
次に家の状況を決める。
昇運から崩壊までの環境があり、最低崩壊していない三十以上となるように、俺はCPを三十使った。
出た結果は、三十八の“没落気味”。
(折角三十も使ったのに、三十八かよ。なんか損した気分だな。まあ、落ちぶれつつある騎士の家っていうのも、キャラ設定的にはありってことにしておくか。没落しつつある家を建て直すため、冒険者になった。ありそうな設定だ)
俺は気楽にそんなことを考えていた。
そして、出生地を選ぶが、これも首都から人跡未踏の荒野まであり、俺はこれにもCPは使わなかった。
その結果は、“辺境”。
(辺境の没落気味の騎士の家。名声と富を求めて旅立つ主人公。完璧な設定じゃないか……)
出生環境も決まり、残りのCPは二百五。
(これをステータスに割り振るか。それとも、更に才能を取るか……まずは武術の見直しをするか)
俺は、騎士の家ということもあり、剣術を三に上げ、更に投擲と盾防御を一ずつ修得した。そして、魔闘術という魔力を攻撃等に使える特殊技能を付けることにした。
(これで残りは百四十か。ステータスを上げていくか……)
俺は再度説明書を読む。
才能とスキルの習得方法の説明を見ると、成人(このゲームでは十五歳)までにスキルを習得するには、訓練が必要とあった。
そして、訓練でのスキル習得については、家庭環境(家が裕福で教師を付けられる)と、訓練の成功判定を行う必要があると書いてあった。
幼少期の訓練成功判定は、精神力以下の数字で成功。訓練実施回数は年間、耐久力数までとなっている。
(……つまり、幼少期の訓練は耐久力と精神力によって、習得速度が変わるということか……体が丈夫で根気のある奴が訓練をやり抜く。妙に現実臭いな……どっちも低いんだよな。思い切って上げておくか……)
俺はまず耐久力を二〇から八〇へ、精神力を四一から八〇に上げる。
(後は短所を改善するか、長所を伸ばすかだな。才能的には十分にとってあるし、残りのCPを使い切ってステータスを上げてしまうか)
俺はそう考え、筋力を三五から五〇、反射神経を八二から九〇、肉体制御能力を八三から九〇、魔力を九六から一〇〇、知力を九九から一〇〇、製作能力四五から五〇、魅力を八一から八二にした。
最終的には、筋力:五〇、反射神経:九〇、肉体制御能力:九〇、耐久力:八〇、魔力:一〇〇、精神力:八〇、知力:一〇〇、製作能力:五〇、容姿:八七、魅力:八二となった。
修得した才能を並べると、
武術系:剣術三、格闘一、投擲一、盾防御一、回避五
魔法系:魔法才能全属性修得、魔力効率向上、魔力防御
生産系:なし
その他:体術三、馬術一、調教一、交渉一、気配察知三、隠密三、罠二
特殊能力:頑健、病気耐性、毒耐性、精神耐性、視力強化、死力発揮、前世記憶、参照、魔闘術
すべてのキャラクターポイントを使い切り、もう一度、確認する。
(ふふふ……ステータスの平均は八十。ファイブシグマ、十万人に一人のステータスが二つ、千人に一人のステータスが六つ。平均以下なしか……くくく、正にチート。才能も豊かだし、育てがいのあるキャラだよ……)
「アキラ、終わったぞ……」
アキラに終わったことを告げようとした瞬間、唐突にコタツの天板に突っ伏してしまった。そして、再び意識が混濁していった。