第十六話「防戦」
突然の第一騎士団第四大隊の反乱、それはあまりに急な展開であったため、父や兄、従士たちは防具をつける間もなく、武器を手にしているに過ぎない。
そして、自警団の若者、ブレットとシドは敵兵に斬り伏せられ、深い傷を負った。
前線で戦っていた兄ロッドや従士バイロンも深手では無いものの、小さな手傷を何箇所も負っている。
今は最初の猛攻を俺のオリジナル魔法、爆風の気塊で凌ぎ、ようやく一息吐いているという状態だった。
(長期戦になればなるほど、こちらは不利だ。時間を稼ぐには俺の魔法が一番有効なんだが、魔力がもたないだろうな……)
俺のすぐ横では、リディが重傷を負ったブレットとシドに応急処置を施している。二人は腹部を刺され、内臓を傷つけていた。本来なら、治癒魔法の得意な俺が治療すべきだが、この状況では魔力を温存せざるを得ない。
俺は無理やり二人のことを意識から締め出し、敵兵の動きについて想いを巡らす。
(さすがに精鋭だけあって、実力的にはうちの自警団よりやや上と言ったところか。だが、それにしてはあまりに動きがおかしい……)
敵は倒れている仲間を踏み付けながら、未だに前進を続けようともがいている。
(ただ闇雲に前に出るだけで、味方を助けようともしない……こちらから打って出られないのは分かっているはずだ。それなら、味方の体を引き摺り下げれば、いいだけなんだが……操られていると考えるのが妥当だろうな)
俺は闇属性魔法か何かで、兵士たちが操られているのではないかと考えていた。
(黒蝶の円舞が効かなかった。ということは、先に精神を乗っ取られているのかもしれない。スパングルワルツは毒で麻痺させる魔法じゃない。闇の特性である恐怖を利用して体を麻痺させる魔法だ。それが効かないということは精神が既に冒されている可能性が高いということだ……)
俺は父にそのことを伝える。
「……確かに敵は死の恐怖を全く感じていなかったな。どんな兵士でも恐怖は感じるものだ。それが全く見られん。まあ、それで助かっているところもあるのだがな」
父の言わんとすることは理解できた。もし、連携を取られていたら、今のような状況は作り出せなかったはずだ。闇雲に攻めてきているからこそ、こちらにつけいる隙があったのだ。
「……ザック、お前ならどう手を打つ?」
父は打開策を見いだせないのか、独り言のようにそう尋ねてきた。
「分かりません……いえ、一つだけ手があります」
父は俺の答えに目を輝かす。
「どんな手でもいい。これ以上敵を近づけさせてはならんのだ」
俺が考えたのは、この廊下を利用する方法だ。
この廊下は外面に面していないため、窓は一つもない。
そして、各居室につながる扉も、木製だが頑丈に作られている。その証拠にさきほどの爆風の気塊でも一つも壊れていなかった。
もう一つ大事なことは、この空間には空気の流れがほとんどないことだ。元の世界のように、灯りに松明などの火を使う場合は、煙を排気するための通風が考慮されるのだろうが、灯りの魔道具と言う便利な照明器具があるためか、通風はほとんど考慮されていなかった。
俺はこの特性を利用し、廊下の酸素濃度を下げ、敵を足止めしようと考えた。
最初は木属性魔法で毒を作り出して充満させることも考えたのだが、毒の場合、即効性のある強力な毒物を作り出すと、扉の隙間から入り込み、味方に悪影響を及ぼす恐れがある。
その点、酸素濃度を下げるだけなら、扉程度の阻害物があれば、部屋の中の酸素濃度はそれほど低下せず、味方に影響を与えない。また、自分たちが廊下に出る場合は、窓をあけて十分に換気を行うことで容易に対応できる。
今回は火属性魔法で細い炎の糸を作り、周辺の酸素を焼き尽くして酸素濃度を下げる方法を試すつもりでいた。これなら結構な速度で酸素濃度を下げられるはずだ。鉄などの酸化反応を使うことも考えたが、即効性なら燃焼の方があるとの判断だ。
酸素濃度を下げて敵の足止めをするという案だが、これは諸刃の刃とも言える。
もし、救援部隊が向かっているとすると、必ず辺境伯の安否を確認しようとするはずだ。そうなった場合、味方である救援部隊に損害が出る可能性がある。
更に術者である俺の身も危険だ。
酸素を焼き尽くすほどの火属性魔法を使うということは発火源である俺の周りの酸素もなくなることを意味している。
(どのくらいの時間で酸素を減らせるかだな。確か酸素濃度を十パーセントくらいにすれば、重い酸素欠乏症の症状が出たはずだ。空気中の酸素濃度は約二十パーセント。だとすれば、その半分程度の酸素を燃やせばいい。あとは息を止めている時間でどこまで出来るかだ……やってみるしかないな)
父には敵が近づいてきたらやってみるが、危険な魔法なので俺以外は部屋の中に退避してほしいと説明する。
父は俺一人を危険に曝すことに、一瞬躊躇いを見せた。
「だが、それでは我らは袋のネズミということか……いや、今はそれしか手がないのだ。お前に賭けよう」
父は兄やバイロンらを部屋の中に向かわせ、俺の肩に手を置いた後、「頼んだぞ」と言って、部屋に向かおうとした。
俺は父の背中に話しかけた。
「一つだけお願いがあります」
父は「何だ」と振り返る。
「ダンが戻り、脱出路が使えないと分かった場合のことです」
父と兄は顔を見合わせてから、俺に先を促す。
「誰かがこの城から脱出し、外にこの状況を伝えるのです。騎士団すべてが裏切っているとは思えません。恐らく、闇属性魔法か薬物で操られているのではないかと思うのです。それなら外に伝えさえできれば、この状況を何とかできるはずです」
父は少しだけ考えた後、「そうだな。ならば、現役の小隊長からの報告が良かろう。ロッドを行かせる」と頷く。
「脱出路が使えない、そして、私の魔法が効かなければ、打つ手がなくなることを意味します。バイロン、ベアトリスといった猛者でも部屋に突入されれば、数で押し切られます……」
俺はうごめいている敵兵と、それを踏み潰しながら近づいてくる敵兵に視線を向け、
「敵は我々を皆殺しにするつもりで攻めてきています。敵に攻め込まれる前に増援が来なければ我々は全滅するのです……」
「だから、急いで城外に助けを求めることが重要だということだな」
「はい、何とかしてみますが、私の魔法が確実に効くという保証はありません……」
父は僅かに顔を歪めた後、「悲観しても仕方あるまい」と言って笑顔を見せた。
父は片手を上げてから、部屋に入っていった。
俺の後ろには、まだリディ、ベアトリス、メル、シャロンの四人が残っていた。
「話を聞いていただろう? リディたちも早く部屋に入ってくれ。ここじゃ、危険なんだ」
俺の言葉に四人は無言で首を横に振る。
「時間がないんだ。それに一人じゃないと……」
そこまで言ったところで、リディが俺の言葉を遮る。
「一人に出来るわけないじゃない! 無茶なことをしようとしているんでしょ。私もここに残るわ」
ベアトリスも「あたしもリディアーヌと同じだよ」と笑顔を見せる。
メルは俺の背中に抱き付き、
「私も残ります! 邪魔はしません! お願いです……」と涙声で訴える。
俺が答えに困っていると、シャロンも同じように俺にしがみつき、
「ザック様の魔力はもうほとんどないのではないですか? それなのに一人で……私たちを信じて下さい。絶対に役に立ちますから……」
彼女たちの言葉に混乱するが、状況を考えれば、俺が犠牲になって皆を救おうとしているように見えると気付く。
俺は無理やり笑顔を浮かべ、「死ぬ気はないよ」と言った後、
「本当に一人じゃないと出来ないんだ。この廊下の空気を汚す。だから、一人の方がやり易い。ただそれだけの理由なんだ。リディ、ベアトリス……」
俺は死ぬ気が無いということをどう伝えるか考えた。
(……とりあえず、この後のこと言っておけば、リディなら俺に死ぬ気が無いと分かってくれるだろう。リディが動けば、メルたちも納得するはずだ……)
俺が年長組の二人に声を掛ける。
「俺が中に飛び込んだら、すぐに扉の隙間を布か何かで塞いで欲しい。それと、大きめの家具で扉を押さえる準備を頼む」
リディはベアトリスと顔を見合わせた後、
「死ぬ気はないのね。分かったわ」
「もちろんだ」と言って笑い、二人に片手を上げる。そして、メル、シャロンに言葉を掛けた。
「俺が飛び込んだら、二人で俺を引き摺り入れて欲しい。多分、魔力切れで足がもつれるだろうから。頼む」
その言葉にシャロンは頷くが、メルは俺にしがみついたまま離れようとしない。
その間にも敵兵は倒れた味方の兵士を踏みつけながら、少しずつ接近してくる。
敵兵の金属鎧を踏むバキッともガツンとも聞こえる不気味な音が廊下に響く。踏み潰されている兵士たちはうめき声を上げるものの、なおも立ち上がろうともがき、それが敵の進軍を遅らせていた。
「メル、聞き分けてくれ。もう時間がないんだ……そうだな、これが終わったら、二人だけで街を散策に行こう。だから、今は大人しく部屋に入ってくれ」
メルは鼻をすすりながら、「ぐすっ……約束ですよ。絶対に死なないでください……」と言って、ようやく俺から離れた。
シャロンが、「メルちゃんだけずるいです」と言い、更にベアトリスも同じように「そうだな。あたしたち全員にその約束をしてもらったことにしよう」と言って笑う。
「仕方がない。だが、一人一日だけだぞ……さて、時間だ。二十分くらい経っても俺が中に戻らなければ、扉を内側から開かないようにしてくれ。頼んだぞ」
北の廊下の敵兵がゆっくりと近づいてくる。時折、転んでガシャンという大きな音をたてるが、徐々に廊下を埋め尽くしていった。まだ、五分ほどは掛かるだろうが、それほど時間の余裕はない。
南側はまだ階段辺りでもたついているようだが、こちらも同じようなものだろう。
ベアトリスがメルを引き摺るようにして、部屋に入っていく。シャロンもそれに続き、リディが最後に「おまじないよ」と言ってキスをしてから、部屋に入っていった。
俺は気合を入れ直し、収納魔法からあるものを取り出した。
(さて、ぶっつけ本番だ。これを使えば何とかなりそうだな)
俺は全員が部屋に入ったことを確認すると、防音の魔道具を床に置く。
防音の魔道具は空気で二重の板を作り、その板の間の空気を抜いて音を遮断する魔道具だ。防音性能を上げるため、ほとんど隙間はできないから、空気を遮断することも可能だ。
(魔道具で作った板越しに魔法が撃てるかだが……)
一応そう考えたものの、不可能だと思っているわけではない。
魔法は必ずしも肉体の表面から発するわけではない。炎の嵐や刃の竜巻などは、手から離れた遠距離で発動する。
こういうところが魔法のいい加減なところで、イメージ力さえあれば何とでもなることが多い。
もう一つ問題があるとすれば、魔法の炎に必要な酸素の下限値がいくらかということだ。魔法の炎の限界酸素濃度が十五パーセントくらいだとすると、それ以下に酸素濃度を下げることができない。
(確か水素の燃焼だったら、酸素を十パーセント以下にできたはずだ。それをイメージすれば……さて、そろそろ呪文を唱える頃合だな……)
俺は味方同士もつれ合いながら近づいてくる敵を見ながら、新たなオリジナル魔法の呪文を唱えていった。
「火を司りし火の神よ。燃え盛る火蜘蛛の糸を我は求めん、我は御身に我が命の力を捧げん。我が敵を焼き尽くせ! 火蜘蛛の糸!」
防音の魔道具の透明な板に手をつけるように構え、両手から一斉に炎の糸を敵に向けて放つ。それは直径数mmの細く真っ白な炎で構成され、俺の手の平の先、三十cmほどの距離から一斉に伸びていく。
その数は両手合せておよそ百本。
長さは二十mほどだ。目を開けているのが辛いくらいの眩しさで、一本一本が高温になっているはずだ。
防音の魔道具により、ほとんど音は聞こえないが、恐らく轟という激しい燃焼音が廊下に響いているはずだ。
倒れている兵士の体が炎の熱に当てられ、徐々に焼け爛れていく。さすがに兵士たちも炎の中に突入することはなく、僅かに躊躇いの色が見える。
徐々に炎の長さを伸ばしながら、二分ほど継続する。
愚直に前に進もうとしていた兵士たちだったが、少しずつ崩れるように倒れていく。その間に、炎の色が赤くなったりオレンジ色になったりと不安定になるが、それでも炎を止めることなく、更に一分ほど継続した。
それが功を奏したのか、炎の届かない範囲にいる兵士たちも膝を突き、つんのめるように倒れ始める。更に後方から前に出てくる兵士たちの動きにも効果が現れ、同じように膝をついていった。
念のため、南側にも同じように魔法を放ち、酸素を奪っていく。
敵兵の様子に低酸素状態を作り出せたと確信する。
(ふぅ……何とか成功したようだが、これがどのくらい効果が持つのかは全くの未知数だな。魔道具で風は感じなかったが、何となく燃焼で空気が動いていたような気がするし……隧道だと考えれば、数十分は稼げるはずだが……)
俺は息を止め、防音の魔道具を停止した。その瞬間、熱せられた空気が肌を突き刺す。俺はそれに構わず、辺境伯の部屋に飛び込もうとした。
だが、魔力の枯渇が原因なのか、体が言うことをきかず、目眩を起こして片膝をついてしまった。
(息を止めている間に部屋に飛びこまないと……)
焦りを覚えながらも、剣を杖に何とか立ち上がり、部屋に飛び込む。そこには約束どおりメルが待ち構えており、倒れ込みそうになる俺を支えてくれた。
その直後、ベアトリスが扉を閉め、下の隙間にシーツを押し込んでいく。俺はメルに支えられながら、父に状況を報告する。
「とりあえず、多少は時間を稼げると思います」
父は俺に頷くと、辺境伯に向かって「扉の前に家具を積みます!」と言い、バリケードを作り始めた。
今回俺が使った魔法だが、元々は群れを成す小型の飛行型の魔物対策で作ったものだ。一度、数百匹の吸血蝙蝠――体長五十cmほどで通常は数十匹で群れを作っている蝙蝠の魔物――に襲われ苦戦した。この時に低威力だが広範囲の攻撃魔法を作ることを思い付いた。
今回のオリジナル魔法、火蜘蛛の糸は、糸のように細い炎を作り、ネットのように大きく広げることで攻撃範囲を大きくする魔法だ。
更にこの魔法は手の動きと炎の糸を連動させることにより、攻撃範囲を移動させることができる。このため、広い空間であれば、数を頼みに群がってくる雑魚に対しては十分に使える魔法となった。
今回、通常の炎の魔法ではなく、この火蜘蛛の糸の魔法を選んだのには理由がある。一つには空気との接触面積を大きくすること、もう一つが火災を恐れたことだ。
今回の目的は炎の熱によって敵を倒すことではない。酸素を奪って敵を倒すことが目的だ。そのためには可能な限り付近の酸素を消費する必要がある。
不確定な要素として、魔法の炎が酸素をどの程度消費するかというものがあった。つまり、魔法の炎は酸素をあまり必要としない可能性があるということだ。
火の精霊の力を炎に変えると考えると、酸素が必須なのか疑問だ。精霊の力が可燃性物質と助燃性物質の混合体であれば、燃焼時に周囲の酸素は必要としない。だが、炎という現象であれば、必ず周囲の酸素を取り込むと考えた。だから、炎の糸で出来るだけ空気との接触面積を増やし、空気中の酸素を消費させたのだ。
もう一つの理由は単純だ。この状況で城が燃えれば、我々も焼け死んでしまう。いくら石造りの城とはいえ、可燃性の素材を使っていないわけではない。実際、柱や梁にも木は使われているし、廊下には絨毯が敷き詰められ、壁にはタペストリーのようなものもある。だから、炎が直接建物に接触しないよう制御できる火蜘蛛の糸を使ったのだ。
俺が部屋を見回すと既に兄の姿はなかった。ガイとダンを引き連れ、城の外に向かった後だったようだ。
俺は魔力切れで立っていられず、へたり込むように床に腰を下ろす。
心配するメルやシャロンを他所に、リディに今の状況を確認する。
リディの話では、脱出路の先に十人以上の気配があり、辺境伯は抜け道を使った脱出を諦めたそうだ。
この判断は頷ける。
脱出路の幅は人が一人歩ける程度しかなく、出口は城の外にある倉庫の地下室に繋がっており、待ち伏せされると逃げようがない。脱出路に逃げ込み持久戦に持ち込もうとしても、油や可燃物を投げ込まれ火をかけられたら一巻の終わりとなる。敵はこちらを皆殺しにすればいいだけだ。手段を選ぶことはないだろう。
リディとシャロンが魔法を使い、城の下で待ち構えていた敵兵を排除した隙を突き、兄たちは窓からロープを使って城の外に出ていったそうだ。だが、騎士団本部に行くには、更に城壁を乗り越える必要がある。
そして、城と城壁の間には反乱を起こした兵士たちが巡回しており、その目を掻い潜る必要があった。
それだけでも大変だが、今日は雨が降っており、城壁が滑りやすい。この状況では、如何に体術に優れたガイとダンがいたとしても、無事に外に出るにはある程度の時間が必要だろう。
ふと、父と辺境伯の会話が聞こえてきた。
「……この状況では早くても一時間。敵に発見され、全滅することも考えておくべきかと……」
その言葉にため息が漏れるが、父はそれに構わず話を続けていった。
「……敵の数は分かりませんが、一個中隊以上と思われます。こちらは十六名。ここに篭るしか手はないかと」
そして、俺のほうを向き、「ザック、お前の考えを閣下にお聞かせしろ」と突然俺に話を振ってきた。
辺境伯は俺のことを過大評価しているから、俺から楽観的な話をしてほしいのだろう。
俺は何とか、片膝をつく姿勢を取り、
「恐らく父の言う一個中隊というのは最少の数かと。一階で戦闘が始まり、三階に上がってくるまで僅かな時間しか掛かっておりません。ならば、警備の大隊のほとんどが敵に回ったと見るべきかと……」
俺の否定的な言葉に辺境伯と、彼の腹心のオールダム男爵は僅かに落胆の色を見せている。
俺はそれに構わず話を続けていく。
「しかしながら、我々にとって有利な点がいくつかございます……」
敵が魔法か薬物によって操られているということは、自発的な謀反ではないため、城内の兵士以外は味方であること、先ほどの魔法――爆風の気塊――の音で、外にいる味方が異変に気付くだろうこと、雨が降っているため壁を登って窓から侵入される恐れが少ないことなどを説明していく。
「……つまり、時は我らにとって味方ということです。こうしている間にも我々の生き残る確率は上がっているのです。我々がすべきは扉と窓の死守。敵をこの部屋に入れないことが勝利への道なのです」
辺境伯は「真にその通りだ」と頷き、全員に向かって話し始めた。
「儂は此度より危機的な状況に陥ったことがある。その時も“ロックハート”が儂を助けてくれた。マサイアス殿。卿に指揮を一任する。頼んだぞ」
父は片膝を突き、「御意」と答え、窓の監視をリディに命じ、自らはバイロンとともに扉の前に立つ。
それから俺たちは不安な時間を過ごすことになった。




