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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第三章「冒険者時代:諸国編」

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第五話「尋問」

 トリア暦三〇一七年七月七日。


 俺は盗賊たちを捕縛している自警団のブレットたちを手伝いながら、盗賊の装備を少しずつインベントリーに収納していった。


 この収納魔法“インベントリー”は、ほぼ無限の収納力を持っている。

 正確に言うと一つの“収納空間”の容量には制限があるが、収納空間自体はいくつでも作ることができるため、理論上は無限だ。


 魔法の維持に使用する魔力だが、収納空間を作成する時に消費する魔力は結構な量だが、維持と出し入れにはほとんど魔力を使わない。このため、数を増やしても全く問題はなかった。

 そして、このインベントリーのいい点は、念じるだけで収納空間を呼び出すことが可能なところだ。


 問題があるとすれば、ゲームのようにメニュー画面で簡単に中身が確認できないことだろう。

 インベントリーすなわち直訳すれば“在庫目録”と名付けた割に、どの収納空間に何を入れたかを記憶していないと、取り出すことができなくなるのだ。

 この問題だが、意外な解決策を思いついた。最初は紙に書いて覚えていたのだが、便利なスキルを持っていることを思い出した。


 それは“参照”だ。

 参照は触ったものの名前と簡単な説明が分かるというものだが、抽出(アブストラクト)の魔法の際に分離した金属の名前を確認できるくらいであまり使い道がなかった。

 しかし、今回、この参照をインベントリーの補助に使うことを思い付いたのだ。


 収納空間を作る際に、空間に番号を振るように強く念じる。すると、収納空間の名称が番号になり、呼び出すことが容易になるのだ。


 更に収納する物の名称を強くイメージしながら収納すると、その収納物品が情報として登録される。

 ちなみに番号については、一定のルールを決め、Aなら武器、Fなら食料といった具合に分類し、それに数字で子番号を振っている。これで“在庫目録(インベントリー)”らしくなった。


 一つの収納空間の容量の制限だが、収納できるものの重量と容積に限界がある。重さについては、俺が持ち上げることができる重さが限界となっており、おおよそ七、八十kgと言ったところだ。


 容積については、大きなものをたくさん入れようとしても、一定以上の量は入れることができない。理由は不明だが、前に入れた物が詰まっているかのように感じるため、心理的な安全装置が掛かっているのかもしれない。

 つまり、腕を入れて触れることが条件になっているから、触れられなくなるとそれが限界だと勝手に判断しているのではないかと考えている。


 今のところ、容積は一立方メートル程度。もちろん、形状によって収納力は変わり、棒状の物などは比較的多く収納できる。


 また、重量制限のため、短期熟成用に使っている小型のクォーター樽すら収納できない。更に小型の樽を使えば、スコッチの熟成加速は可能だが、まだ実験していない。

 重量制限についても、土属性魔法によって重力コントロールができないか試行錯誤をしているところだが、未だに目途は立っていない。

 村に戻ったら、小型の樽を使って試すつもりだが、今はある酒で熟成加速を試している。


 そのインベントリーに十五人分ほどの武具を収納し、残りは荷馬車の隙間に入れていく。

 俺は一本のバスタードソードを手に取り、感じている違和感の正体について考えていた。


(不自然というほどじゃないが、今回の盗賊が使うにしては上質すぎる。物がいいのは奪ったからかもしれないが、無法者が使っている割にはきちんと油で手入れされて錆一つ浮いていない。鍛冶師が仲間にいるか、鍛冶師に伝手が無ければ、この状態は維持できないはずだ。さっきの革鎧もわざと汚してある感じがしたしな……印象的には中堅どころの傭兵か冒険者の持ち物といった方が違和感はない……)


 盗賊が使うにしては上質な武具が多く、手入れも十分になされていることから、武器を集めるうちに、最初に感じた違和感、盗賊にしては統制が取れ過ぎているのではないかと言う違和感が、疑念に変わっていた。


 武具の積み込みを終え、縛り上げた盗賊たちを集めていく。

 盗賊たちは未だに麻痺が残っているのか、呂律が回らない口調で悪態をつき、ブレットたちに引き摺られながら馬車の横に集められていった。


 既にイーノスが戻ってから三十分以上経っているが、未だに出発の合図はない。

 父はこの時間を利用し、盗賊たちを尋問していくが、頭目らしい男はバイロンやガイの恫喝にも屈せず、不敵な笑みを浮かべるだけだった。


 他の盗賊たちも頭目の命令に従っただけだというだけで、こちらも処刑か犯罪奴隷に落とされる危機が迫っている割には落ち着いている。


(ロークリフの守備隊に引き渡されれば、処刑されるか、良くて犯罪奴隷として生きていくしかない。それが分かっているのになぜ落ち着いていられる? 昔、カルシュ峠で捕らえた盗賊は自分の将来を悲観して呆然としていたんだが、こいつらは悲観する理由がないとでも言うように平然としている……ロークリフの守備隊がグルなのか? それとも守備隊に手を回せるほど大物がバックにいるのか……)


 父たちが尋問するが、名前すら答えないため、全く情報が得られない。

 俺は頭目の尋問を行うため、父に断りを入れる。


「私に任せていただけませんか?」


 父は「良かろう」と言って小さく頷く。だが、小声で一言付け加えてきた。


「怪しい魔法は使うなよ。もちろん、拷問もな」


 俺は大きく頷き、「そんな無粋なことはしませんよ」と笑って答え、頭目に近づいていく。


 頭目は十五歳の少年が近づいてくることに一瞬不審そうな表情を見せるが、すぐに俺が黒い蝶の魔法を使った魔術師で、自分たちが捕らえられた元凶だと気付き、殺意を込めた視線を向ける。

 俺は縛り上げられた頭目の肩に手を置き、


「俺の名はザックだ。そろそろ名前くらい教えてくれてもいいだろう?……」


 頭目は何を言い出すんだとでも言いたいのか、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。だが、次の瞬間、表情が一変する。


「まあ、別に教えてくれなくても困らないがな。なあ、マドック?」


 俺が頭目の名を出した瞬間、彼は目を大きく見開き、噛み付くような勢いで喚き始めた。


「怪しい魔法を使いやがったな! くそっ! これ以上は近付くんじゃねぇ!」


 俺は彼の肩に手を置いたときに“参照”のスキルを使い、名前を調べておいただけだが、黒蝶の円舞(スパングルワルツ)の魔法の印象が強いようで、自分の知らない魔法を使われたと思い込んだようだ。


「俺が何も知らないとでも思っているのか? まあいい」


 俺は全て分かっているような演技を始める。


「さて、お前が期待しているロークリフの伝手なんだか……」


 俺はそこで言葉を切り、相手の反応を目の端で窺う。マドックは“ロークリフの伝手”という言葉に、声こそ発しないものの大きく動揺していた。


(単純な男だな。まあ、動揺していれば仕方がないか……しかし、本当にロークリフに手が回してあるとはな……)


「ロークリフで何を期待しているのかは知らないが、お前たちは消されるだろうな。間違いなく」


 マドックは未だ動揺しているが、何とか冷静さを取り戻したようで、笑みを浮かべる余裕を見せる。


「俺たちは手配されていねぇんだ。せいぜい奴隷に落とされるだけだ。生きていられりゃ、何とかなるもんだ」


 その言葉とは裏腹に、彼の目は泳ぎ、額には暑さが原因ではない汗が浮かんでいる。


 俺は大袈裟に首を振り、「おめでたい奴だな。お前の肩の上に載っているのは飾りか?」と自分の頭を指差しながら嘲笑する。


 マドックは激しやすい性格なのか、すぐに俺の挑発に乗り、「てめぇ!」とつばを飛ばして詰め寄ろうとした。しかし、縄の存在を忘れていたようで、後ろで縄を持つブレットに引き戻され、その勢いで尻餅をついてしまう。


「お前の頭でも理解できるように教えてやろう。お前たちは、父上、つまりロックハート卿を暗殺しようとした。それがどういう意味か分かっているのか?」


 マドックは鼻で笑ってから、


「金を持っていそうな田舎騎士からお宝を奪おうとしただけだぜ」


 俺はもう一度大袈裟に首を振り、肩をすくめてみせる。


「本当にお前の頭は飾りだな。ヘルメットをかぶるためにしか使っていないんじゃないか? まあいい。ロックハートを敵に回すことがどういうことか教えてやろう……」


 そこでわざと言葉を切り、反応を窺うが、本当に理解していないようだ。


「何年か前にルークスの司教がロックハートに喧嘩を売った。そして、その後どうなったか……それすら聞いたことがないのか? アルスの鍛冶師ギルドが世界中に何を宣言したのか、それも知らないのか?」


 当時、鍛冶師ギルドが全支部を通じ、全世界に公表した話は有名だ。酒場で酒の肴にされていたから、ならず者といえども必ず知っているはずだ。

 俺がそこまで言うと、マドックもようやくその事実に気付いたようだ。


「お前たちは、()ドワーフを敵に回したんだよ。そんな奴を助ける馬鹿がいると思うか?」


 俺は少し大袈裟に言ったが、マドックはそのことに気付かず、俺に殺気を込めた視線を向けるだけで言葉を発しない。


 俺はここで賭けに出た。

 先ほど考えた推論を基に、マドックを引き込むことにしたのだ。


「たかが傭兵崩れ(・・・・)の盗賊、そうお前たちのことだ。その傭兵崩れをお偉い飼い主(・・・)が、わざわざ助けると思っているのか? それを信じるほどお前もお人好しでもないだろう。それとも何か? お偉いさん(・・・・・)が裏切らない保証でもあるのか? そんなものはないんだろ?」


 「傭兵崩れ」と「お偉いさん」と言ったところで激しく反応する。彼らが雇われた傭兵崩れのならず者で、更に彼らに指示を出したのは、権力を持つ者で間違いないようだ。


 マドックは俺の指摘に対し、唸るだけで何も言わない。だが、自分が窮地に立たされていることは理解できているようだ。


「お前さんたちは最初から捨て駒だったんだ。俺たちを殺し、馬車の中の誰かを拉致してロークリフに行ったとしても結果は同じだったろうな……」


 マドックの表情を見ていると、俺が馬車の中の人物を拉致すると言ったところでは顔を上げるが、ロークリフという言葉に対する反応は薄かった。どうやらロークリフに連れて行く予定ではなかったようだ。

 完全にこちらのペースに嵌っているようで、俺の言葉に一々反応してくれる。


「ロークリフは次善の策だったな……どこか人里離れた場所にでも連れて行けと言われたんだろう」


 人里離れた場所と言ったところで、マドックは目を大きく見開く。


「まあ、どちらにしても、そこで実行犯として処分されたはずだ」


 マドックは下を向き、唸るように何か呟いている。俺の言葉に自分が捨て駒だったと確信し、心の中で誰かを罵倒しているようだ。


(ドンピシャだな。それにしても分かりやすい奴だな……俺の推論が正しいとすると、目的は母上たちの誘拐と、その後に誘拐犯と交渉したことにして母上たちを取り戻し、ロックハート家に恩を売ることか。そして、何とかして蒸留技術を手に入れる……少しずつ分かってきたぞ……)



 俺が考えたのは、こういうことだ。


 今回の襲撃で父を殺害し、母を誘拐する。誘拐された母を取り戻し、ロックハート家に恩を売る。

 その時、ロックハート家の当主である父は死亡しているから、嫡男である兄ロドリックが交渉相手になる。


 兄の性格をある程度知っていれば、彼が義理堅い性格であると知っている。

 黒幕は、兄が母を取り戻したことに対して恩を返そうと考えることを期待しているはずだ。そして、恩人として登場した黒幕が蒸留技術の移転の話を切り出せば、兄が蒸留技術を手放すと考えてもおかしくはない。


 マッチポンプの典型だが、成功した可能性は高い。もし、俺たちの実力をもう少し高めに評価していたら、あるいは、俺に黒蝶の円舞(スパングルワルツ)の魔法か、それに代わる強力な魔法がなかったら、父も俺も殺されていた可能性がある。


 あの時、俺を含めて前衛に立てたのは、父たち八人とベアトリス、メル、ダンの十二人だ。ガイ、バイロン、ベアトリスという三人の実力者はいるが、三倍の戦力で奇襲を掛ければ十分に圧倒できると考えてもおかしくはない。


 特に俺たちは父と馬車を守る必要があったから、各個撃破される可能性は十分にあった。いかに実力者といえども、守りながら優勢な敵を撃退するのは至難の業だからだ。


 たらればの話だが、もし、俺たちザックセクステットの実力を正確に把握していたら、更に戦力を増やしていただろう。

 三級冒険者二人に四級冒険者が四人、更にドクトゥスで噂を聞けば、俺たちの戦力が二級冒険者のパーティに匹敵することは容易に分かる。


 冒険者と傭兵の級は単純には比較できないが、ある程度の目安にはなる。今回の盗賊たちの実力を見る限り、レベル三十前後の六級傭兵クラスが主力だろう。

 冷静に戦力を分析できる者がいれば、二級クラスの戦闘力を持つパーティに対して、数をもって確実に勝利を収めようとするなら、五倍程度の戦力を充ててもおかしくはない。


 つまり、単純計算だが俺たちだけでも三十人程度の戦力を揃える必要がある。更にバイロン、ガイが四級傭兵相当、父、イーノスが五級傭兵相当だから、少なくとも五十人程度の戦力を揃えなければ互角にはなりえない。つまり、数で圧倒しようとすれば、七十人程度、今回の盗賊たちの倍程度の戦力が必要になるのだ。


(こう考えると、出発時に父上が言っていた三倍程度の数なら圧倒できるという分析は意外に正確だな。こっちがリディとシャロン、それに自警団の弓術士マークを含めて十五人だから、少なくとも五倍と考えれば七十五人は必要か……奇襲効果を考えてもバランスの良い五十人程度の部隊は必要だったな……)


 話は逸れたが、敵はある程度こちらのことを調べてはいる。だが、正確な情報を入手していない。つまり、ドクトゥスを通るアウレラ街道で頻繁に情報収集を行っていないということだ。


 そうなると、今回の黒幕の候補から、アウレラの商人たちは排除できる。彼らが蒸留技術を手に入れるために俺たちを襲ったのなら、ドクトゥスで簡単に手に入る俺たちの情報を利用しないはずがない。


 マドックたちのような中途半端な戦力ではなく、確実に成功させるために必要な手を打っているだろう。

 更に言えば、ルークスの狂信者は完全に除外できる。彼らは情報の重要性など全く理解していないからだ。


(だとすると、やはりラズウェル辺境伯の縁者が怪しいな。地理的にも近いし、この辺りに土地勘のある傭兵崩れを雇うことも難しくない。それにこの地域の支配者である北部総督に近しい者だと匂わせれば、さっきのマドックの態度も理解できる……さて、もう一押しするとするか……)


 俺はマドックに「さて、ロークリフで何が待っているんだろうな」と言って背中を向けた。

 既にマドックの顔面は蒼白になっており、今頃になって自分が危機的な状況にあることに気付いたようだ。

 俺はささやくように「一つだけ助かる方法がある」と言って振り返る。

 マドックの顔に希望と絶望がない交ぜになった混乱したような表情が浮かぶ。


「最初に言っておくが、我々に協力したとしても、お前を犯罪奴隷から解放することはできない」


 マドックの顔に絶望が広がる。


「だが、ロックハート家に協力すれば、お前は俺たちを殺そうとした奴の情報を握る大事な証人だ。俺たちがお前を守ってやる理由ができる……ロックハート家の嫡男はラズウェル家の令嬢と結婚するんだ。つまり、北部総督がお前を守ることになる」


「……本当に守ってくれるのか? いや、本当にそんなことができるのか?」


「さあな。少なくともロークリフの役人に圧力を掛けることはできるだろうな。もし拒めば……」


 俺はあえてそこで言葉を切る。

 マドックはその先の言葉を期待しているが、俺はそのまま再び彼に背を向け、「誰に雇われたのか、言う気になったか?」と問いかける。


 背を向けていてもマドックの動揺が手に取るように分かる。

 そして、十秒ほどの沈黙のあと、彼はおちた。


「ハロルドだ。俺たちを雇った奴は……」


「ハロルド? そいつは何者だ? 特徴は?」


 マドックを問い詰めると、彼は素直に答えていく。

 マドックの話をまとめると、彼らは元傭兵のならず者でアウレラ街道からカエルム北部域を中心に用心棒をしたり、時には盗賊紛いのことをしたりして糧を得ていた連中だった。


 ある日、ハロルドと名乗る四十歳くらいの暗い雰囲気の男が彼の前に現れた。ハロルドは小さな村の酒場でマドックに声を掛け、彼と彼の手下たち――その時は十人ほど――に対し、「自分はさる身分の高い者に仕えており、新たなオーブと金をやるから、ある貴族の馬車を襲い、身分の高そうな女性を拉致するように」と言ったそうだ。


 何人かが危ない橋は渡りたくないと断ったが、結局、半信半疑ながらも逃亡生活に疲れていた彼らはその話に乗った。その後、彼のようなならず者たちが次々と集められていき、最終的には六、七十人ほどになったそうだ。


 拉致に成功したら、ファータス河――カウム王国からアウレラまでを流れる大河――のほとりに用意した船を使って河を渡り、カエルム側のある場所に行く。そこで新たなオーブと金を貰う約束だった。


 今回、ロックハート家を強襲したマドックたちの他に、ほぼ同数のならず者たちが先頭の荷馬車を襲撃している。俺が疑問に思った弓術士の数が少ないことだが、別働隊に弓術士を集中させ、キャラバンの先頭を混乱させるためだったようだ。


 ハロルドについては問い質すと、四十がらみの黒髪の男で、感情を一切表わさない冷たい灰色の瞳が印象的だという。更にマドックの見立てでは相当腕の立つ剣術士のようで、息が詰まるような陰気な雰囲気を持ちながらも、細身の体から抜き身の剣のような殺気を放つことがあったそうだ。


 念のため、ファータス河を渡った後の行き先について聞いてみるが、やはり聞かされていなかった。


 ロークリフの伝手について聞いてみると、ロークリフの代官、アルマン・ボイエットが協力者だと言われたとのことだ。もし襲撃に失敗しても、ロークリフの町を出た後に再度襲撃を掛けるようにと言われていたそうだ。

 念のため、他の盗賊を尋問してみたが、マドックの証言と食い違う事実はみつからなかった。


(こいつらは完全にハロルドという奴に捨て駒にされる予定だったようだ。だが、今なら、この情報を使ってハロルドを捕らえることができる。マドックたちを言いくるめて、シャロン辺りに人質の演技をやらせれば……いや、駄目だな。これだけ準備をしている奴だ。きっと、マドックたちを監視しているだろう。だとすれば、既に襲撃に失敗したことを知っているはずだ……)


 一応、父にそのことを相談するが、


「証拠がないのだ。それにロークリフの代官の権限を侵すことになる。例え被害者であっても手を出さぬ方が良いだろう。それに下手に手を出せばやぶへびということもあり得るからな」


 確かに父の言うとおり、ロークリフの代官が俺たちを襲った奴とグルならば、下手な動きをすれば、それを盾に何を言ってくるか分からない。


(面倒だが、敵の動きに対応するしかないな。力押しをしてくれれば簡単なんだが、搦め手でこられると厄介だな。北部総督府に味方を作っておかないと……兄上の伝手で何とかならないかな……)


 俺は更にマドックの処遇についても相談する。


「マドックの処遇ですが、カエルムの騎士である父上を襲撃した以上、ロークリフで処刑されるのは間違いないでしょう。それでは証人を失ってしまいます。我々を襲ったのだから、我々が裁くと言えば、ロークリフの代官も強くは言えないはずです」


「それではロークリフの代官の権限を侵すことになるが……」


「そこは強く出るしかないでしょう。我々が保護すれば、今回の黒幕から守ることができると思うのですが」


 父は渋い顔をしながら、承諾する。


「仕方あるまい。盗賊との交渉は気に入らぬが、一度ロックハートの名で約束したのだ。しかし、総督閣下にご納得いただく理由は考えておけよ」


 俺は小さく頷き、「既に考えております」と答える。


 俺が考えている説明ロジックは、ラズウェル家にあだなす可能性がある黒幕を炙り出すためにロックハート家が保護するということだ。

 実際、俺たちがマドックをウェルバーンに連れて行けば、ハロルドなる人物を特定するときに証人として使える。一人で良いのかと言われれば心許無いが、あまり大勢を連れて行くのも不自然だ。


 本来ならロークリフの街で報奨金が掛けられていないか、傭兵ギルドや冒険者ギルドに所属していないかを調べ、報奨金などを確定させた上で処刑か、犯罪奴隷に落とすのだが、そうすると、ロークリフの守備隊にマドックの身柄を渡すことになる。


 ロークリフの代官が黒幕と繋がっているなら、マドックを渡してしまえば問答無用で始末される可能性は高い。罪をでっち上げて処刑すれば良いだけだから、それほど面倒ではないはずだ。


(ロークリフの代官、ボイエットという人物がどういう人物かだな。最悪、俺が交渉して言いくるめることもできる。父上は嫌がるだろうが、とりあえず、守備隊の詰め所に連れて行くとして、そこからが勝負だな……)


 その後、三十分ほどで商隊は動き始めた。

 ロークリフまでは約七キロ、あと二時間で到着する予定だ。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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