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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第七十三話「三年後:前篇」

一気に三年が過ぎました。

 トリア暦三〇一六年十月二日


 メルとダンも一緒に暮らすようになってから、三年の時が流れた。

 俺とシャロンは最上級生である五年生に無事進級した。そして、メルとダンも含め、森での修業が功を奏し、順調にレベルアップしている。


 俺たち“ザックカルテット”は揃って四級冒険者になっており、リディも三級冒険者になっている。ベアトリスは俺たちに付き合っている関係で三級のままだが、彼女に言わせると、ソロでやっていても三級より上に上がることはなかっただろうとのことだった。


 俺のレベルは、剣術士が四十一、剣術スキルが四十二と一応の目標である卒業までに四十オーバーはクリアしている。更に得意の回避スキルは五十二となり、回避だけなら一流の傭兵である四級傭兵と互角に渡り合えるところまで成長している。

 魔法の方は、風、土、金属性が四十六で、その他の属性も四十二から四十四まで上がっており、冒険者の魔術師としてはトップクラスで、魔法で有名なサルトゥース王国の宮廷魔術師でもこのレベルの魔術師は少ないそうだ。

 ただ、一つ心配なことがある。それは剣術に関してだ。

 レベル三十五を超えた辺りから伸びが鈍化し、今のペースだと、卒業までにレベル四十五を超えるのが精一杯だろう。ある一定のレベルを超えるとスキルの伸びが落ちるそうで、俺は十三歳にしてその限界に達したようだ。

 幸い魔法に関しては順調で、戦闘で風属性が上がり、ラスペード教授の手伝いで土属性と金属性が上がっている。このペースで行けば、卒業までにレベル五十を超えることができるだろう。

 そして、大事なことは身長が伸びたことだ。命に関わるスキルや魔法に比べ、たかが身長のことでと言われそうだが、俺にとっては重要なことだ。

 今の身長は百八十cm弱。ようやく、リディを見上げることがなくなったのだ。ただ、筋力が低いからか少し痩せ過ぎの感はあるが、まだ、順調に成長している。


 シャロンは、風属性四十四、火属性四十二と順調だ。だが、ここ一年ほどはレベルアップスピードが落ちており、教授の話ではこれが俺とシャロンの才能の差だそうだ。まあ、一般の魔術師は年に一レベル上がるかどうかだそうだから、鈍化したとは言え、年に三から四レベル上がっているので、かなりの才能を秘めているのは間違いない。

 更にリディとの剣術の稽古の成果で剣術スキルも十五を超え、駆け出しの若い冒険者より余程優秀だ。

 彼女の容姿だが、身長は百五十cmを超えたくらいで、俺たちの中では一番小さいが、薄い色のきれいな金髪に、薄い青色、澄んだスカイブルーの大きな瞳、長い睫毛が印象的な美少女に成長している。

 以前とは違い、革鎧を身に着け、細身にショートソードを腰に吊るしているため、お忍びのお姫様が冒険者のまねごとをしているような微笑ましい印象を受ける。


 メルについてだが、剣術では完全に俺は置いていかれている。

 彼女の剣術士レベルは四十四、スキルが四十五で、俺のような伸び悩みはまだ始まっていない。俺は彼女がレベル百を超えられる才能、俺のキャラクター設定で言えば、才能レベル四以上ではないかと密かに思っている。

 十五歳になったメルは、元々大きな茶色の瞳に赤毛の健康的な美少女だったが、今では女性らしい体つきになり、少女から大人の女に脱皮しようとしている。無骨な革鎧にバスタードソードを振り回す姿ですら、戦乙女を彷彿とさせるのか、一種の色気すら感じさせる。

 以前のように精神的な不安定さはなくなり、快活な性格は子供の頃のままだ。その点だけでもここに連れてきてよかったと思っている。


 ダンは俺たちに隠れて目立たないが、俺は彼が一番成長しているのではないかと思っている。

 彼の剣術士レベルは三十二、スキルが三十四。

 弓術士レベル三十五で、スキルが三十六。

 十五歳にして、これだけのスキルを持っているだけでも十分凄いのだが、気配察知と隠密については、俺はもちろん、ベアトリスすら凌駕し、彼の父であるガイに匹敵している。

 ダンは母親であるクレア譲りの整った顔立ちをしており、少し色あせた麦藁のような色の金髪と、すらりとした体形の二枚目(イケメン)に成長している。

 このため、彼に言い寄る女性は数知れず、新市街にいる同世代の少女からベアトリスと同世代の三十代半ばの女冒険者まで様々だ。

 だが、未だにメルへの思いが断ち切れないのか、彼はそのすべてをきっぱりと断っている。そのせいかは知らないが、俺の男色疑惑は消えては現れと、何時まで経っても無くならない。


 リディだが、彼女も風属性魔法がレベル五十五に達し、弓術も五十を超えた。ドクトゥスに来る前の数年間はほとんどレベルが上がっていなかったが、ここで俺たちと一緒に魔物を狩るようになったためだ。

 最近ではこの街にも慣れ、フードを被ったままということは無くなりつつある。やや薄い緑色を含んだ黄金色の髪に、濃いエメラルド色の瞳、すっと通った鼻梁、白磁のようなくすみのない肌、そして、すらりとした体形だが、女らしい曲線を持つスタイル。そのどれもが完璧と思える美で、ドクトゥスの男たちは彼女を見るたびにため息をついている。

 それでも、男性から声を掛けられるのが嫌なのか、俺たち以外に笑顔を見せることは滅多にない。雪嵐(ブリザード)の魔法を使うことから、一部では“氷の姫君”と言われているそうだ。


 ベアトリスは出会った頃から槍術士レベル五十一の凄腕だったが、今年レベル六十になった。三十四歳にしてレベル六十というのは、祖父であるゴーヴァン・ロックハートの同時期と比較してもかなり高い。これにはベアトリス本人が驚いていた。


「あたしのレベルは頭打ちだと思っていたんだがね。ここに来て上がるなんて思っていなかったよ」


 俺には彼女の言っている意味が良く判らなかった。俺たちのレベルからすればそれほどおかしくはないし、第一、祖父や従士たちは未だにレベルを上げている。


「まだ若いんだから、レベルアップしてもおかしくないだろう。それより、俺たちのお守のせいでレベルの上がり方が遅くなったんじゃないかと心配していたんだが」


 俺がそう言うと、ベアトリスは大きく首を横に振る。


「あんたに会う前は、レベル五十から五十一に上がるのに一年半も掛かったんだ。あたしはあんたと一緒だから、上がりがよくなったと見ているんだよ」


 ベアトリスはそう言って、俺に仲間の能力を上げる力があり、それは神から与えられたものだと力説した。リディもメルたちも彼女の考えを支持するが、俺はそれを否定する。


「今となってはこの世界に来た時の記憶は怪しいものだが、そんな力を与えられた覚えは無い。それにダンもメルもシャロンも信じられないくらい努力している。もちろん、君もだ。それが神から与えられた俺の力だと言われるのは、正直気持ちのいい話じゃない。俺はみんなの努力の成果だと思っている」


 ベアトリスはまだ何か言いたそうだったが、俺の言いたいことを理解したのか、それ以上何も言わなかった。


 俺たちは順調に成長しながら、平和な三年間を過ごしていた。



 この三年間で、俺たち以外で大きく変わったのは、魔術師ギルドのワーグマン議員だ。彼は遂に魔術師ギルドのトップ、評議会議長、一般に言われるギルド長になった。

 彼の政敵たちだが、人事委員長だったイベットソン議員は任期終了後、閑職を与えられ、今ではギルド内で彼の話題が挙がることは無くなった。もう一人のライバル、財務委員長のフォーサイス議員も同じく閑職に回っている。

 そして、最大の敵とも言えるマイルズ・イシャーウッド参事だが、彼はイベットソン議員の後任になることなく、カエルム帝国の帝都プリムスの支部長に就任した。表面上は栄転だが、実質は左遷だ。

 プリムスは魔術師ギルドの本部がここドクトゥスに移る前に本部があった歴史ある街であり、数ある支部の中でも五本の指に入る大きな支部だ。だが、退廃的な帝都では魔術師ギルドの仕事は少なく、帝国側もギルドに対して、それほど積極的なアプローチはしていないため、外交官としての活躍の場も無い。

 イシャーウッドは失意の中、単身プリムスに向かったそうだ。

 政敵を無力化した議長は、現在魔術師ギルドの改革を進めている。

 そして、ワーグマン議長の魔術師ギルド改革がティリア魔術学院にも及んでいる。

 ワーグマンは学院の教員について、一定の能力以上の者を選抜するため、資格制度を導入した。この制度の導入に当たっては俺の意見も参考にされている。

 まず、教諭についてだが、今までのようなギルド職員が横滑りで教職に就く制度は廃止された。教職免許のような資格試験を導入し、教職者としての能力を見極めた上で採用される。さすがに数年ですべて入れ替えることは叶わないが、それでも低学年の教師を中心にやる気のある若手が多く採用され、一定の成果を上げている。

 更に研究者については、一定期間に一定の成果を上げられなかった者は学院を放逐されるようになった。研究の成果は論文と学院内での発表で評価され、教育研究委員会がその審査に当たっている。今のところ、数人の研究者が瀬戸際に立たされている状況のようだ。


 俺とシャロンの学院の生活だが、学院の改革の影響はあまり受けていない。

 ほとんど一年生の時と変わっていない感じで、ラスペード教授の指導を受けるか、森に入るかで、あまり教室には足を向けていない。唯一、四年生からリディの旧友、キトリー・エルバイン教授の講義が始まり、それに出席している程度だ。

 学院のカリキュラムでは、四年以上の高学年になると、各属性ごとに専門教育を受けることになるため、元々全員が同じ教室にいる時間は少ないそうだ。


 先月、五年になってすぐの九月に恒例の野外訓練があった。

 北の森にクラス単位で魔物を狩りに行く訓練なのだが、はっきり言って俺たちには必要ないものだった。

 学院が手配した冒険者たちが危険な魔物を排除しておき、ゴブリンや野犬、角ウサギなど十級程度の弱い魔物だけを残した場所に行くのだ。更にクラスには指導教官だけでなく、十名程度の傭兵が護衛につく。

 他の学院生たちは、初めての実戦に興奮気味だが、俺とシャロン、それに森に入ってレベルアップに励むクェンティン・ワーグマンは、白け気味に野外訓練を受けていた。

 ちなみに護衛の傭兵たちより、俺とシャロンの方がレベルは高かった。結局何事もなく、二泊三日の野外訓練は無事終了している。


 三年間の学院生活の成果で最も大きな物は、オリジナル魔法の開発と、魔道具の製作だ。

 オリジナル魔法は教授の目に付かないところでコツコツと作り出していたが、魔道具については、教授の専門分野と言うこともあり、堂々と学んでいる。


 魔道具作りだが、生産系の才能を選ばなかった割には、かなりいい物が作れるようになっている。

 魔道具はエネルギー源である魔晶石と起動回路である魔法陣の組合せで出来ている。

 魔法陣だが、これは簡単な論理回路であり、一度理屈を覚えればそれほど難しくはない。前世の記憶のお陰で教授に匹敵する魔道具の専門家との評価を受けている。

 今のところ、世界を変えるような魔道具の発明(・・)はやっていない。精々、既存の魔道具の性能向上程度で抑えている。

 そのせいで教授からの勧誘が激しくなっている。


 勧誘と言えば、昨年くらいから教授以外からも、頻繁に勧誘を受けるようになった。最初のうちは、魔術師ギルドのワーグマン議長が青田買いのつもりで声を掛けてきたようだが、すぐに各国――サルトゥース王国、ラクス王国、カウム王国など――の宮廷からも、声が掛かるようになった。

 有名なラスペード教授が千年に一人の天才と絶賛し、四年生の段階で魔道具に関してはラスペード教授に並ぶと言われているから当たり前なのだろうが、卒業の二年以上前から勧誘が始まるとは思っていなかった。


 魔術師ギルドの勧誘では、当初はティリア魔術学院の准教授としての待遇を約束すると言うものだったが、すぐに卒業と共に教授とすると言ってきた。

 これは各国の勧誘合戦の結果で、サルトゥースは何の功績もない俺に対し男爵位を約束し、カウム王国は准男爵と子爵領に匹敵する領地を、ラクスも同じくらいの待遇を約束したからで、ワーグマン議長が提案したそうだ。

 プロスポーツ選手のスカウト合戦のような様相を呈し、俺としては断るのにかなり苦労した。

 更に俺の争奪合戦の情報を聞きつけたのか、カエルム帝国からも声が掛かった。これは勧誘というより命令に近い形で、帝都プリムスへの召喚要請だった。カエルムとしては形式上とは言え、自らの家臣を他国に奪われるのはプライドが許さないという程度の考えのようで、大した条件は提示していなかった。

 そんな中、断るのが最も面倒だったのが、カエルム帝国の北部総督、ラズウェル辺境伯からの勧誘だった。ロックハート家は形式上、帝国の、そして、より直接的にはラズウェル辺境伯の配下に当たる。祖父は辺境伯より騎士の位を与えられているし、また、兄であるロドリックは、現在北部総督軍の騎士として辺境伯領にいる。

 更にその兄が辺境伯の末娘と婚約したため、より問題が複雑になった。

 結局、どの組織にも属さないと宣言し、最後にはロックハートの名を捨てると半ば脅すような形で、辺境伯の勧誘を断った。


 自分の能力を評価してもらえるのは嬉しい半面、名が売れすぎて厄介事を招きそうでこの先が心配にもなっている。


 兄の話が出たが、兄ロドリックは現在十八歳、北部総督軍の小隊長を任されており、ラズウェル辺境伯領でかなり手柄を上げている。

 その割に腰が低く、誰とでも分け隔てなく接するため、平民から上級貴族まで幅広い層に好感を持たれているようだ。辺境伯が最もかわいがっている末娘の婚約を許したことがそれを物語っている。

 兄は来年の夏頃に辺境伯領の都ウェルバーンで挙式後、それを機に北部総督軍を辞め、ラスモア村に戻る予定のようだ。これは婚約者のロザリンドが望んだ結果だそうだが、詳細は聞いていない。

 俺も来年の夏には村に戻るはずだから、再びロックハート家が館が丘に集まることになるだろう。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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