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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第二章「学院生時代:学術都市ドクトゥス編」

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第五十五話「助っ人の報酬」

 ソルジャーアントの痕跡を追い、西に向かっていく。

 十二匹のソルジャーアントを倒した場所から、三十分ほど移動すると、前方から戦闘の音が聞こえてきた。どうやら、本隊を見つけた他の冒険者たちが攻撃を掛けているようだ。


 俺たちから見て南側、山の麓側で十数人の冒険者が百匹近いソルジャーアントと戦っていた。

 上から見ると、黒いアリたちが餌に群がるように移動していることが見て取れる。

 冒険者たちはかなりの手練てだれなのか、剣術士を前衛にして、槍術士たちがその間から的確にダメージを与えていた。

 更に前衛には両手用の斧を持った重装の戦士もおり、あの硬い頭を叩き潰すように割っていった。

 後方から疾風の刃(ウィンドブレード)光の槍(シャイニングスピア)などが時折飛んでいくが、こちらは牽制以外の効果は無さそうだった。


 俺は「凄いな」と呟き、「どうすべきだと思う?」とリディとベアトリスに意見を求めた。


「そうね。これだけの数がいるなら、横取りとかって言われないでしょうし、第一、あのままじゃソルジャーアントに押し切られるわね」


「あたしも同意見だ。数が多過ぎる。助太刀した方がいいだろう」


 俺がなぜ聞いたのかというと、以前、苦戦していると思って助けに入ったら、邪魔するなと言われたことがあるからだ。

 客観的に見れば、明らかに苦戦しており、俺たちが助けに入らなければ、かなりの損害を受けていた。それでも報酬を奪われたくないと思ったのだろう。命が助かった後に、俺たちに文句を言ってきたのだ。それがあってから、リディやベアトリスの意見を聞くようになった。


 俺たちの今の位置は、戦闘を繰り広げているところの北、約百m。ソルジャーアントたちは冒険者たちだけに注意が向いており、俺たちは奇襲を掛けることができる絶好の位置にいた。


 出来るだけ静かに坂を駆け下りていく。

 五十mほどの距離に近づいた時、ソルジャーアントの中に、異様に腹が大きいアリを見つけた。どうやら、あいつが女王蟻(クイーンアント)のようだ。


 更に近づき、俺とシャロンは岩の上に立った。そして、兵隊蟻の中心にいる女王蟻を狙って炎の嵐(ファイアストーム)を放った。

 今回も二本の巨大な炎の渦を動かしていくのだが、今回は中心から時計回りに螺旋を描くように動かしていく。

 シャロンとは何も言わなくても呼吸を合わせられるため、二本の炎の渦が美しい渦巻き模様を草原に描いていく。


 女王蟻を守るため、ソルジャーアントたちは逃げることが出来ず、次々と炎に足を焼かれていく。二十匹ほどがひっくり返り、更に十匹ほどの動きがおかしくなったところで、ファイアストームは消滅した。


 その頃にはアリたちも冒険者たちと俺たちの二方向に分かれていた。

 リディとシャロンが岩の上からアリたちに魔法を放っていく。俺はベアトリスの横に行き、リディたちを守ることにした。

 ベアトリスの惚れ惚れするような槍捌きを見ながら、俺もソルジャーアントの口に剣を突き入れてみた。だが、槍と剣ではレンジが違うためか、俺の方は何度も巨大な顎に挟まれそうになった。結局、俺は一撃で倒すことを諦め、足を断ち切ることに専念した。

 今回は数が多いので、魔闘術を使って筋力を強化し、足を叩き折る感じで攻撃を加えていく。

 ベルトラム――ラスモア村のドワーフの鍛冶師――の剣はさすがに切れ味がよく、魔闘術で筋力を強化すると、割と簡単に硬い外殻を断ち切ることができた。

 それでも一匹に対し、最低三回の攻撃が必要なため、何度も囲まれそうになった。だが、その都度、ベアトリスかリディがフォローしてくれる。


(結局、二人に助けられているな。魔法はともかく、剣の腕をもう少し上げないと……)


 魔法はイメージ力で何とか出来る部分が多い。だが、剣術は自分の技量以上の力を出すことはほぼ不可能だ。修行して力を付けた分だけが、成果として現れる。だから、どうしても未熟さが目立ってしまう。


 俺が四匹、ベアトリスはその倍以上倒した頃、ようやくソルジャーアントの攻撃が止んだ。

 戦っていた冒険者の方を見ると、アリが俺たちにも向かったことから、彼らへの圧力が緩み、一気に盛り返していた。

 まだ、何匹か残っているが、ほぼ全滅させたと言っていいレベルだ。


 残敵の掃討を終え、一息つく。

 最初に戦っていた冒険者は三つのパーティが共同で当たっていたようで、全部で十六人いた。ケガは負っているものの、死者はいないようで、治癒師がケガ人の治療を行っている。

 俺たちが立ち上がると、向こうのパーティから三人の冒険者がやってきた。どうやら、代表者が話し合いに来たようだ。


 ベアトリスが俺たちの代表として、交渉に当たる。俺もその場に行き、話を聞くことにした。

 向こうのパーティの冒険者は三級冒険者の槍術士マリオン。ベアトリスに匹敵する巨体で厳つい顔をした三十代半ばくらいの男だ。使い込まれた革鎧を着込み、ハルバートを持っている。

 同じく三級冒険者の剣術士ネヴィル。マリオンより頭一つ分小さいが、それでも百八十cmくらいありそうだ。よく日に焼けた顔には笑みが浮かんでいる。細身の長剣と小型の盾を持ち、ところどころ金属で補強された鎧を着けている。

 最後が四級の女冒険者で剣術士のエミリア。背はそれほど高くなく、不機嫌そうな鋭い目付きをしている、三十歳くらいの女性だ。バスタードソードを持ち、くすんだ朱色の革鎧を着けている。

 彼らを代表して、マリオンが話しかけてきた。


「正直、助かったぜ。俺たちだけじゃ、そのうち押し切られたからな」


 ベアトリスは「ああ、すぐにどうこうじゃないが、打つ手が無さそうに見えたからな」と頷く。それに対して、エミリアが口を挟んできた。


「別に助けがなくても何とかなったわよ。マリオンは余裕が無いって言うけど、うちにはあったわ。はっきり言うけど、余計なお節介だったよ」


 ベアトリスがエミリアを見下ろし、「言うじゃないか。あたしの見た感じじゃ、あんたたちが一番やばそうに見えたんだけどね」と言って鼻で笑う。

 そして、「で、邪魔をしたから、分け前は渡せないって言う気かい」と言って睨みつける。


 エミリアもベアトリスを睨み返し、二人の女冒険者は一触即発という感じになっていた。それに対し、マリオンが慌てて間に入った。


「いや、分け前はそっちが倒した分はそっちの物でいい。俺たちが止めを刺した分は俺たちが頂くがな」


 マリオンの言葉に、エミリアを睨みつけていたベアトリスが、マリオンを睨む。


「そりゃおかしいだろう。止めを刺したって、こっちの魔法で足をやられたアリもそっちが持っていく気かい。ネヴィル、あんたも同じ考えかい」


 ネヴィルは浮かべていた笑みを消し、何も言わない。

 ベアトリスは呆れたような口調で、


「なら、このことは酒場でたっぷりと話させてもらうよ。それでもいいんだね」


 マリオンが「いや、待ってくれ。ちょっと時間をくれ」と言って、他の二人と相談を始めた。


 俺は呆れていた。

 今回はかなりヤバい状況だったが、それでもこういう態度を取れる彼らに対し、怒りを感じる前に呆れてしまったのだ。


(しかし、こんなことをしていたら、誰も助けてくれなくなるっていうことが判らないようだな。いや、ネヴィルは判っているようだが、二人に押し切られたって感じか)


 俺はベアトリスの脇をつつき、注意を向けさせた。


「俺に交渉させてくれ。俺たちに有利になるように話を付けるから」


 ベアトリスは頷くものの、本当に大丈夫かという顔をする。

 何か言おうとした時、マリオンたちが戻ってきた。


「やはり、止めを刺した分は譲れんな。別に酒場で話してくれても構わん」


(ベアトリスがうちにいることを知っているから、強気に出ているな。今じゃ、ほとんど酒場に行かないし、噂を広められることがないと気付いたんだろう)


 俺は「俺はザカライアス・ロックハート。多分名前くらいは聞いたことはあるだろう」と名乗り、話に加わった。

 エミリアが何か言いだしそうだったが、それより先に話し始める。


「魔法でほとんど動けなくした魔物の所有権を主張するわけだ。それも単に転がっているアリに剣を突き立てたからと。そういうことだな」


 ネヴィルは嫌そうに顔を逸らすが、エミリアは「止めを刺した奴のもんだろうが」と息巻く。


「だが、俺たちの魔法で死んでいた奴に剣を突き立てただけかもしれない。どうやって証明するんだ?」


 エミリアは「ガキがゴチャゴチャうるさいんだよ」と切れる。


 俺はエミリアを無視してマリオンに同じ問いをした。

 マリオンは「死体だってどうやって証明するんだ? 俺たちだけが証明するっていうのはおかしいだろう」と反論してきた。

 俺はそう言ってくるだろうと思っていた。俺は可能な限り冷静な声で、


「俺たちの魔法で倒れた奴には焼けた跡がはっきり残っている。俺たちの方はそれで証明出来るが、そっちはどうやって止めを刺したって証明するつもりだ?」


 その言葉でマリオンが固まった。

 俺は頃合かと思い、


「じゃあ、こうしようじゃないか。火属性魔法を食らった()の権利は俺たちのものだ。俺たちはそのソルジャーアント(・・・・・・・・)の魔晶石を貰う。あんたたちには、ここに転がっている、すべてのソルジャーアント(・・・・・・・・)の素材をやろう。それなら、割が合うだろう」


 エミリアはまだ何かブツブツ言っているが、マリオンは黙り、頭の中で計算しているようだ。

 俺は彼の決断を促すため、業を煮やしたような演技をする。


「それが嫌なら全部くれてやる! その代わり、俺たちから奪ったと言ってギルドに訴えるからな。この状況でオーブ――身分証明用の魔道具。犯罪行為などをすると記録される――を調べれば、他人の報酬を奪ったと記されるはずだ。それでもいいなら、勝手にしろ! ベアトリス、行くぞ!」


 俺はギルドの規定に人の成果を奪わないという項目があることを利用した。

 当たり前の規定なのだが、これが割とよく起きる。特に新人に対し不当な報酬の分配をするベテランがいる。これを防止するための条文なのだが、もちろん、彼らもその条文について知っているはずだ。

 俺の一言でネヴィルが折れた。


「待ってくれ。俺はさっきの条件で十分だ! マリオン、エミリア、お前らは勝手にしてくれ! だが、二度とお前らとは組まん! だいたい、子供に助けられただけでも情けねぇと思っているんだ。俺にだって、プライドってもんがある。これ以上ごねる気はねぇ!」


 マリオンは「判ったよ。それで納得してやるよ」と譲歩した。エミリアはネヴィルとマリオンを睨みつけた後、俺を睨みつけてきたが、ベアトリスに睨み返され、目を逸らす。


「なら、もう一度確認するぞ。真ん中にあるアリ(・・)の死体のうち、魔法の痕跡があるものは俺たちの物だ。代わりにここにあるソルジャーアント(・・・・・・・・)の素材はすべてあんたたちの物だ。これでいいな!」


 ネヴィルは納得したという表情で、マリオンはやられたなという表情で、エミリアは納得できないという三者三様の表情で頷いた。


「じゃあ、まず、俺たちが魔晶石を回収した素材を剥ぎ取ってくれ。誰か一緒に来てくれ。後で揉めたくないからな」


 マリオンが「俺が確認しよう」とついてきた。

 ベアトリスは「大損だよ。全く」と呟いているが、俺は気にしなかった。

 魔法で焼けているソルジャーアントから魔晶石を回収すると、全部で二十五個。更に近づいてきたソルジャーアントが十三匹いたから、全部で三十八個ある。

 そして、一番の大物、クイーンアントに取り掛かる。さすがに大物だけあって大きな魔晶石が取れた。

 魔晶石を取ったことを確認したマリオンが、クイーンアントの剥ぎ取りを命じようとした。

 俺は「待てよ」と言って、それを手で制する。


「こいつは俺たちのものだろう。さっき言っただろう。ソルジャーアント(・・・・・・・・)の素材はすべてやると。だが、クイーンアントは俺たちが倒した()だから、素材も俺たちのものだ」


 マリオンは口をあんぐりと開け、言葉が出ない。

 ベアトリスが大笑いして、「子供だと思って気を抜いた罰だね」とマリオンの背中をバーンと叩いた。マリオンは何か言いたげだったが、首を振るだけで何も言わなかった。

 悔しいのだろうが、ここで揉めてギルドでオーブを調べられるわけにはいかない。彼らは俺の条件で納得したと宣言しているから、調べられれば横取りしたと認定されてしまうからだ。


 俺は僅かな金で揉めるつもりはなかった。

 頃合かと思ったところで、笑いながら「冗談だ。こいつは山分けでいいだろう。俺たちはこいつの素材の査定金額の四分の一をもらえればいい」とベアトリスを含む四人に言い放った。

 四人は何をいっているんだと言う顔になるが、ベアトリスだけは俺の肩に手を掛け、


「さすがはザックだ。あたしもそれでいいぞ。だが、このことはギルドに報告しておくからな。誤魔化そうとするなよ」


 そう言って笑っていた。


 俺はマリオンたちの対応に頭に来ていたが、今後のことを考え実利を取った。


 まず、俺が抜け目がないと言うことを、女王蟻を独占することで認識させる。

 だが、このままで終わらせたのでは、俺のような子供にプライドを傷付けられたことになるから、恨みが残るだろう。それでは後が面倒なので、奴らに譲歩することで俺が度量を見せる。

 金に汚そうなエミリアはともかく、ネヴィルとマリオンはこれで何も言えなくなるはずだ。

 今回の女王蟻の討伐は、俺たちの手柄としてギルドに報告するから、素材を売りに来た時に確認されるだろう。更に彼らのパーティには火属性魔法の使い手はいないから、焼け焦げた外殻を見れば、俺たちが関与していることはすぐに判る。三分の一近い数のソルジャーアントの魔晶石を売るから、俺たちが最も活躍したことは容易に知れ渡る。


 この状況で彼らが何か仕掛けてきても、他の冒険者たちは助けてもらった恩を忘れた狭量な奴らという評価をするだけで、誰も支持しない。逆に彼らと組もうとするパーティがいなくなるので、普通なら何も仕掛けてこないはずだ。


 現にネヴィルはマリオンたちと組まないと宣言しており、彼が酒場でこの噂を流す可能性は高い。だとすれば、マリオンもエミリアもこれ以上変な噂が広がることを恐れ、大人しくしているはずだ。


(しかし、面倒なことだな。冒険者稼業で食っている連中には悪いが、俺たちはそれほど金に困っているわけじゃない。今回も最初にあんなことさえ言わなけりゃ、魔晶石を四分の一だけくれたらいいと言うつもりだったのにな。変に欲を出すから、嫌な思いをした上に損もしたってことだ……)


 結局、ソルジャーアントの魔晶石は一個十五(クローナ)(=一万五千円)で五十匹分、七百五十C(=七十五万円)、クイーンアントの魔晶石が五十C(=五万円)で売れた。更に四級の討伐報酬として一人二百Cとクイーンアント討伐のボーナスとして四百Cを得た。それだけで一人当たり、五百C(=五十万円)のおいしい仕事だった。


 更にソルジャーアントの外殻も三十二Cで売れ、クイーンアントの素材は四百Cだったため、百Cの分け前があった。

 マリオンたちは、百匹近いソルジャーアントの素材のうち、状態のいい五十匹分ほどを持ち帰ったそうだ。それでも、一人当たり三百Cに届かなかったそうだ。

 俺たちのパーティが、いかに効率がいいかがよく判った。


 そう言えば、行きに一緒だった四級になりたてのパーティだが、彼らは僅かに五匹のソルジャーアントを狩っただけだった。

 今回はソルジャーアントの群れを狩るということで、四級としての報酬条件が定められていた。それは一人三匹以上、パーティの場合は平均三匹以上の討伐が必要だった。そのため、彼らは一人二百Cの報酬を受けることなく、通常の六級の討伐報酬一匹当たり十Cの報酬しか得られていない。

 ベアトリスは彼らに対し、こう感想を述べていた。


「無事に帰ってきただけマシだね。あの調子だと、大ケガをするんじゃないかと思っていたからね。引き際を知っている点だけは評価してやってもいい。だが、ザックとシャロン(あんたたち)の実力を確かめなかったのはいただけない……」


 彼女に言わせると、こう言う時のために、仲間となる冒険者の情報は積極的に集めておくべきだと言うのだ。その点は俺も怠っているので、何も言えなかった。

何とか百話まできました。

読者の皆様のおかげです。今後ともよろしくお願いします。


活動報告でも書きましたが、仕事が無茶苦茶忙しくなりました。

当分、土日も仕事ですし、ウィークデイは出張で仕事場とホテルの往復のみ。

これがどのくらい続くか判りませんが、半年くらいは覚悟しないといけないようです。

継続できるよう、二日に1話から週1話更新頻度に落とし、何とかで凌いでみます。

これからも応援よろしくお願いします。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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