第二章:姫抱きのままですが、約束通り大人しくしていますよ 2/3
※次回は明日20時~20時半の間に更新
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道中、鳥の鳴き声や木々がざわめく音に、由香は反射的に身体を強張らせていたが、その都度デヴィットが力強くも安心するように声をかけてくれた。
「大丈夫だ。怖いことからも、危ねぇことからも俺が守ってやるから安心していい」
由香自身、知らない男性に抱き上げられるなんて普段の自分であればもっと警戒するのが当たり前の筈なに、この腕の中は安全なのだと身体が判断してしまったのか、どうにも安心してしまう。
それにこの腕の中から出てしまったら、またあの恐怖に苛まれるかと思うと耐えられなかった。
道中、自分が冒険者であることなど少しずつ話をしてくれるデヴィッドのお陰で、恐怖も緊張も確実に和らいでいき、由香の心には余裕ができ始めていた。
「そう言えば、名前」
「……え?」
「お前の名前は?」
「あ……曽根崎由香です」
「ソネザキ……ユカ?」
「はい」
「ユカ、か」
低い声で自分の名前を呼ばれただけなのに、胸が少しだけ変にくすぐったく感じる。
「俺はデヴィッド」
「デヴィッドさん……」
「ディーでいい」
「……え?」
「さっきの奴らもそうだが、仲間からは大抵そう呼ばれてる」
「でも……」
「と言うか、その呼ばれ方は妙にこそばゆいんだよ」
「……分かりました」
少し考えて。
「では……ディーさん」
「……まあ、それならいいか」
「ふふ」
思わず笑ってしまった由香の姿に、一瞬デヴィッドが驚きの表情を浮かべるがすぐに目を細めた。
「何だ?」
「いえ……」
「言えよ」
「思っていたより、気さくな方なんだなと思って」
「さっきまでめちゃくちゃ怖がってたくせに」
「それは……追いかけられていたからであって……」
由香はどんどんと声を小さくしながら少しだけ視線を逸らす。
「本当は…今も少し怖いです」
「おう」
「でも……」
服を掴む指に力が入る。
「ディーさんは、もう怖くないです」
「……そうか。なら、なおさら俺のことはディーでいい」
「……」
「その代わり、俺もユカって呼ぶぞ」
「はい」
「敬語もそのうちやめろ」
「それは少し時間をください」
「真面目だな」
「仕事柄、初対面の方にはなかなか……」
「仕事?」
由香は簡単に自分の普段の生活について説明する中で、会社員として仕事をしながら日々を過ごしていたことを話した。
資料を作ったり打ち合わせの準備をしたり、その進行役をしたり関係者との調整や急なトラブルの対応をしていたことを伝えると、どこか感心したように相槌を打ってくれた。
「へぇ、結構すげぇことやってたんだな」
「そうですか?」
「俺は紙仕事は嫌いだ」
「……そうなんですか?」
「文字やら数字見ると眠くなる」
「ふふ」
また笑ってしまった。
それからデヴィッドが何気なく尋ねる
「ところで、ユカは何歳だ?」
「…35です」
「……」
「?」
デヴィッドが妙に黙っている。
「どうしました?」
「いや」
「俺、39」
「……そうなんですね」
「四十近いオッサンだと思ったか?」
「いえ」
由香は首を横に振る。
「もっと上かと思っていました」
「おい」
「すみません…」
「傷つくぞ」
「……でも、熟練の冒険者って感じがしたので」
「それなら許す」
随分とリラックスしてきた由香の様子に安心しながらもデヴィッドは苦笑していたが、内心では別のことを考えていた。
――四歳差。
たった四歳。
異世界から来た小柄で華奢な彼女は、どこかもっと年下の少女のように見えていたが、たった四歳差ならば十分に大人の女性だ。
「四歳差なら……」
――嫁にしても、別におかしくねぇな。
「……何考えてんだ、俺」
すぐにかぶりを振りながら、否定しきれない小さな声で呟いた。
「?」
由香が不思議そうに見上げる。
「何でもねぇ」
彼女にはそう返したが、一度浮かんだ考えはなかなか消えずに心の中に燻っていた。




