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第232話 護衛任務はひとまず終了

「ぐっふぉ!? まさか、ミカエル様の未来の旦那の俺が……こんな……所でミカエル」


 ストーキンはその言葉を最後に気絶し、そのまま海中へ落下するかと思われた瞬間。


「おっと。そんな気持ち悪い奴でも、こんな所で死なれるのは困るんだよな」


 突然飛び出してきた紫の紐が彼に突き刺さり、遠心力を利用して彼は大きくぶん投げられる。投げられた先にいたのは、煙草を2本咥えた修道服の男であり、ストーキンを片手でキャッチした。


「救出完了。ルシファーも壊されてないようで良かったよ」


 ニーアは彼をただ者ではないと判断し、魔力と殺気を放って圧をかけ、熾天使(セラフィム)の力を再び発動する。


「何者だ」

「おっと。そういや自己紹介してなかったな。これは失礼。俺はヴァルハラ騎士団サウス支部所属、ガルム・リーデンだ」

「ガルム・リーデン。ディアドール戦線の英雄か」

「へえ。まだその異名覚えてる人がいるのか。嬉しいねえ。もう覚えてる人なんていないと思ってたよ」

「貴様のような奴が助っ人に来るとは。サウス支部、本当に厄介なところだ」


 ニーアがそう言いながら攻撃しようとすると。


「ストップストップストーーーップ! 俺は戦う気はないんだよ。俺の目的は、この妄想中毒野郎とルシファーの回収。お前と戦う気は微塵もない。大体そんなことしたら、ロキ支部長との約束破っちまうし、クソガキアマテラスにボコられるし碌なことにならない」


 不意打ちするための嘘ではないかとも考えられたが、彼の表情や仕草から、本当の事を言っていると判断した彼女は、殺気と魔力を解く。


「ならさっさとこの場から去れ。3分以内に私のから視界から消えなければ殺す」

「怖いなおい。流石に殺されるのはまっぴらごめんだし、俺はこれにて失礼する。今回はうちのクソガキアマ……じゃなくて、アマテラス支部長が迷惑かけてすまないな。天使祭が終わったら、この非礼を詫びよう」


 そう言うと、彼はその場を走りながら去っていった。その姿が見えなくなると、クロノスが質問する。


「追わなくて良いんですか?」

「戦う気のない奴を攻撃する理由はない。他の奴らと違って、話が通じないわけではなさそうだしな」

「ですか。にしても、ずいぶんとボコボコにされましたね。あの程度の雑魚にどれだけ苦戦してるんですか」

「どっかの誰かさんがルシファーとやらについて助言してくれたら、もう少し楽に倒せたんだがな。貴様、あの鎧の能力を知っていただろ。なぜ教えなかった」

「教える理由がありませんからね。対価も頂いてませんし」

「全く。アリアといい貴様といい、どうにも組む相手を間違えた気がするな。お前があれを知ってるのはオルタナティブ関連に由来するからか?」

「いえ。ルシファー自体はオルタナティブには関係ありません。昔、ルシファーを装備したミカエル信徒に襲われたことがありましてね。それで知ってるだけですよ。私の本来の力はミカエルにそっくりですから、バカ信徒が何か勘違いでもしたのでしょう」

「なるほど」


 ニーアがクロノスから教えられたオルタナティブという存在についての情報はかなり少ない。知っているのは熾天使(セラフィム)の原点とも呼べる力だということ。その力は四大天使の持つ力とほぼ同等だということ。どうやってその存在が生み出されたのか、なぜ生み出されたのかについての理由は聞かされていない。何度か聞き出そうと取引を持ちかけたが、それに関しては何をしても口を割らなかったため諦めてしまった。


「それにしても、さっきの奴はなぜ撤退を。あのストーキンとかいう奴と同じ支部の所属のようだから襲ってくると思ったのだが」

『アマテラスとロキが約束をしたってのもあるにゃんけど、ガルムは他のミカエル信徒と違ってまとも枠だから、好き好んでカイツやあんたを襲ったりはしないのにゃん』


 彼女がガルムの撤退に疑問を持っていると、ミルナから通信が入ってくる。


「ミルナか」

『にゃっほー。ニーア、大丈夫にゃんか?』

「私は問題ない。サウス支部の奴らも無事に撃退出来た」

『それは嬉しい報告にゃんね。そんな嬉しい報告をしてくれたニーアにお返しで嬉しい報告にゃん。にゃんと、今日から天使祭まで、サウス支部の奴らは来ないのにゃーん。いえーい! どんどんパフパフにゃーん』

「それは嬉しいことだが、一体何があってそうなった」

『ロキ支部長からの話によると、サウス支部支部長のアマテラスって奴が、ストーキンが苦戦してるのを見て拗ねて諦めたとかにゃんとかって話にゃん』

「そのアマテラスって奴がどうやって私とストーキンの戦いを観測してたのか気になるが、拗ねて諦めたってどういうことだ。そんな子供が癇癪起こしたみたいな」

『あながち間違ってもないにゃんね。アマテラス支部長はクソガキみたいな奴にゃんから。んで、足止めをしてたロキ支部長に、天使祭が始まるまでにカイツを襲わないから、帰らせてくれって駄々こねながら泣き喚いて頼んでいたのにゃん』

「……突っ込みどころ満載なんだが。そのアマテラスとやらは10歳にも満たないガキなのか?」

『いんや。確か今年で30歳になるはずにゃん。まあそれはそれとして、ロキ支部長もずっと喚かれるのは迷惑だったから、その約束を了承して仕方なく帰したのにゃん。てわけで、ニーアたちの仕事は一旦終了だから、こっちに戻ってきて欲しいのにゃん。天使祭の前に片付けたい仕事が色々あるにゃんからね。出来ればカイツも連れ戻してくれると助かるにゃん』


 その言葉を最後に、通信が切られた。


「色々と気になることはあるが……ひとまず、兄様の危機はとりあえず去ったらしい。帰還命令が出てるし、兄様を連れて支部に戻りたいが。居場所は分かるか?」

「一応分かりますけど、行くことは無理です。結界が張られているので侵入不可能ですから。せめて結界に穴が開いてくれれば助かるのですが」

「あれ。女狐から鬱陶しい信徒を追い払うように頼まれたんだけど、もういなくなってたんだね」


 クロノスたちが話をしていると、アリアが遥か上空から飛び降りてきた。なぜか彼女は殺気を撒き散らすように放っており、ニーアはそれに顔をしかめたが、特に何も言わなかった。


「アリアか」

「やほー。その姿を見るに、ずいぶん苦戦したみたいだね。ブラコンサイコパスにしては珍しいじゃん」

「厄介な武器をぶつけられてこのザマだ。それより、なぜお前がここに」

「ミカエルの力で転移したり、変な方舟にぶち込まれたり色々あってね。で? 次のミカエル信徒はどこから来るの? どこの連中が差し向けてるか知らないけど、カイツに並々ならない敵意を持ってるみたいだし、2人だけってことはないでしょ」

「いや。ひとまずは2人で終わりだ。向こうの支部長が拗ねて帰ったみたいでな。天使祭が始まるまでは手出ししないと、ロキ支部長と約束したらしい」

「向こうの支部長ってアマテラスのこと?」

「知ってるのか」

「ミカエルから教えてもらったからね。拗ねて帰ったっていうのが意味わからないけど。あ、ミカエルからの伝言。カイツはしばらく支部に帰らないよ。天使祭に向けての鍛錬があるらね」


 それを聞いたニーアは、通信できーる君でロキに話しかける。


「とのことだが、どうするんだ。ロキ支部長」

『引きずってでも連れてこいと言いたいが、天使祭の為にも鍛錬は必要だし、他のミカエル信徒が襲ってこないとも限らないから、ミカエルに保護してもらった方が安全そうだな。彼のことはミカエルに任せて、お前たちはアリアを連れてこっちに戻ってこい』

「了解した。アリア、一緒にノース支部に戻るぞ。仕事がたんまりあるらしいからな」

「別に良いけど、ノース支部へは、ここから走って行くの? 結構距離ありそうだけど」

「そんなわけないでしょう。私の転移魔術で移動します」


 そう言うと、クロノスの右手に強大な魔力が貯められていき、魔力の圧で周囲の空間が揺れていく。アリアはそれを感知すると、驚いたかのように目を見開く。


「この感覚は大天使パワーに。それに、クロノスは転移魔術なんて持ってなかったはずだけど」

「後で私が説明する。にしてもアリア。お前何があった?」

「……なんのこと」

「とぼけるな。ここに来てから、いや、来る前から殺気を撒き散らしまくってるだろ。一体何があったらそんなことになるんだ」

「……鬱陶しいバカ天使とお茶会でもしてたらそうなるんじゃない?」

「本当に何があったんだ」

「悪いけど答えるつもりないから。思い出すだけでも不愉快だし」


 ニーアが疑問に思いながらも、アリアは答えようとはしなかった。


「本当に鬱陶しかったよ。あのクソ天使も何もかも。カイツを狙う悪女は皆消えちゃえば良いのに」


 アリアがボソリと呟いたその言葉は、誰にも聞き取ることは出来なかった。

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