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第191話 クロノスの戦い

 東門前。そこより何キロか離れた先には何千匹もの魔物たちが城を目指して走っていた。ボールのような形をしたもの、蛇の魔物、ケンタウロスのような魔物がごっちゃになっている。さらにそこから数十キロ離れた所には、1人の少女が果物を食べながらソファの上に寝そべっていた。そばには青い林檎が山のように積まれている。

 黒の和風メイド服に白のエプロン。髪型は黒い髪をおさげにして結び、結び目には小さな骸骨のアクセサリー。人形のように整った綺麗な顔立ちのその少女はケルーナだった。


「あーむ。さて。出来る限り生み出しまくるけど、どれだけ生き残れるやろうなあ」


 彼女はそう言いながら、腹から次々に卵を生み出していく。そこから新たな魔物が生まれて侵攻している隊列目掛けて走っていく。

 ケルーナの魔術、悪魔工場デモンズ・ファクトリーは魔力と栄養を消費して悪魔と呼ばれる魔物を生み出す能力。そして彼女が口にしているのは魔力を補給できる特殊な果実。故にその果実が尽きない限り、彼女は無限の軍隊を生み出すことが出来るのだ。


「悪いなあカイツ。本当はこんなことしたないんやけど、ストリゴイ様の命令やねん。今回は敵同士、殺す気でやらせてもらうわ」


 例え共に戦った仲間といえど、彼女に躊躇するという心は存在しない。誰が相手であろうと主の敵は全力で殺す。それが彼女の心情だからだ。


「ケルーナ」


 再び果実を齧っていると、上空から声が聞こえ、1人の男が降り立った。炎の羽衣を纏ったボディービルダーのような体格の男、ウリエルだった。


「ウリエルはんやないか。何か用?」

「2分後、侵攻させてる魔物たちを撤退させろ。面倒な奴が来る」

「面倒な奴? そういうのを削るために、わっちがおるんやないんか?」

「あれに魔物をぶつけると、余計に面倒なことになるんだ。俺が合図するまで魔物たちの侵攻はするなよ」

「それはええけど、そんなに面倒な奴ならあんたが対処したらええやないけ。もしかして、あんたでも対処出来ないレベルとか?」

「いや。俺なら一秒あれば片付けられる。だが、あそこにはガブリエルがいる。奴に俺の動きを悟られることは避けたい。あいつと戦ってたら、ミカエル奪還どころではなくなるからな」

「ふーん。まあええわ。じゃ、2分後に撤退やね」









 東門付近。そこでは多数の兵士が城門前に待機しており、その少し前にクロノスが立っていた。


「おいおいおい。なんつう数だよ。あんなのありか?」

「最悪だ。あれじゃ俺たち生き残れねえよ〜」

「……はあ。死ぬ前に彼女欲しかったなあ」


 兵士たちは向かってきている魔物の数に絶望しており、戦おうとする気力はない。


「はあ。こんな雑魚どもより獣女やブラコン女の方が100倍はマシでしたね。まああの程度の雑魚など、私1人でも十分ですが」


 彼女は無数にいる魔物たちに怯えた様子はなく、余裕を持っていた。


「さて。カイツ様の方にも妙な奴らが来てるみたいですし、さっさと片付けるとしましょう」


 自身の周囲にいくつもの青い火の玉を生み出し、それを黒い槍に変換させていく。その間に魔物たちは射程距離にまで近づいてきていた。


「放て!」


 槍は一斉に放たれ、何十匹もの魔物が刺し殺されていく。しかし、その程度殺しただけでは勢いは止まらない。


「ぐるおおおお!」


 大砲を装備したケンタウロスの魔物が真っ黒な巨大レーザーを大砲から放つ。しかし、その攻撃は彼女にあたる前に見えないバリアによって弾かれた。


「鬱陶しいですね。消えろ!」


 彼女がそう叫ぶと、何十体もの魔物がなにかに弾かれたかのように、少し吹き飛ばされる。しかし、効果はその程度だった。


「なるほど。それなりに魔力を込めて作ったからか、耐久力だけはあるようですね。ならば」


 そこからさらに攻撃しようとすると、地面から突如巨大な蛇が飛びだし、彼女を丸のみにして上空へと上がっていく。


「邪魔なんですよ!」


 蛇は即座に内部からズタズタに引き裂かれ、その中からだ液まみれになったクロノスが姿を現す。その隙をつくようにボールのような形の魔物が何百体も飛びだす。そのまま彼女を包み込み、一斉に口から炎を放った。


「無駄ですよ。クリエイション!」


 彼女は周囲にいくつもの黒い盾を展開し、その攻撃を防ぐ。防がれるのを予期してたかのように魔物たちが盾に張り付いた。


「! この感じは」


 何かを察した瞬間、魔物たちが一斉に自爆して大爆発を起こした。その破壊力は凄まじく、空の一部を漆黒に染め、兵士たちにも地面を揺らすほどの衝撃波が襲いかかる。彼らは非現実にも思えるその光景を見て、唖然とするしか出来なかった。


「う……嘘だろ。あの人があんな簡単に」

「……終わりだ。もう俺達に戦う術はない。あの魔物たちに踏み潰されて死ぬんだ」

「自殺願望があるなら、勝手に魔物たちに突撃して死んでくださいよ」


 煙の中から声がしたかと思うと、何百本もの黒い槍が雨のように降り注ぎ、魔物たちを刺し殺していく。そして、クロノスはほぼ無傷の状態で地面に降り立った。


「悪いですが、その程度の小細工で殺されるほど、私は弱くないんですよ。」


 自身の腕に筒状の武器を生み出す。それは大砲を小型化したようなものであり、取っ手と小さなボタンらしきものが付いている。


「まとめて消してやりますよ。穿て!」


 大砲のような武器から超巨大な青いレーザーが放たれた。その破壊力は魔物もろとも触れる全てを消し去っていく。

 光が消え去ると、レーザーの中にいた魔物の列は全て消滅しており、地面は深く抉られて黒焦げになっていた。兵士たちの大半は、その圧倒的すぎる威力に唖然としており、中にはその威力に驚いて気絶している者もいる。


「結構殺してるはずですが、まだまだいますね。あっち側からも生み出されてるようですし。本当、めんどくさいです」


 彼女が再び青い火の玉をいくつも生み出すと、魔物たちはいきなり動きを止める。そして、そのまま踵を返して帰って行った。


「撤退……なるほど。そういうことですか」

「ひゃっほーーーい! 中々面白そうなことをしてるじゃないか!」


 上空から1人の男が落下し、辺り一帯に土煙が舞う。


「チッ。面倒な奴が来ましたね」


 煙の中から現れたのはサングラスの男。黒く日焼けした体にアロハシャツと短パンとラフな格好をしていた。


「六神王の1人、ヘラクレスでしたっけ?」 

「覚えていてくれて光栄だな。お前はクロノスちゃんだっよな?」

「気持ち悪い呼び方しないで下さい。吐き気がします」


 彼女は魔物たちが撤退した理由を即座に把握した。ヘラクレスは、目を見た相手を操る魔術を持つ。その魔術で魔物たちが寝返るのを防ぐため、魔物たちは撤退したのだ。


「満足させてくれと言いたいが、今回の俺はひたすらガチに行くぜえ。でないとカーリー様が怖いからな! 耐久を耐久して耐久せよ。我こそは力の悪魔。全てを破壊し、ねじ伏せる。存分に泣け。喚け。絶望しろ!」


 彼の赤い目が輝きを放ち、両手にヒビのような模様が入る。それは腕まで広がっていき、彼の背中から2対4枚の黒い天使のような翼が生えた。


熾天使(セラフィム)

「悪いが、お前はこれで終わりだ。洗脳シャイニング!」


 彼が目を光らせた瞬間、青い火の玉が現れてその光を妨害する。


「なんだこれは」

「スピリットボム!」


 火の玉が爆発し、彼の顔に直撃する。


「ぐおおおお!? こいつは凄いな。最高にロックな痛みだぜ」

「あなたの魔術は目から発せられる光を見た相手を洗脳するもの。ならば、その光を見終える前に邪魔をすればい良いだけの話です!」


 彼女は、さらにいくつもの青い火の玉をヘラクレスの周囲に展開し、一斉に爆発させた。


「ぐぼおおおお!?」


 それによってダメージを与えるだけでなく、彼の視界を遮って魔術の発動を封じていたのだ。


「ふふふ。やるじゃないか。満足するつもりはなかったのに、こんなロックなものを見せられたら、満足したくなっちまうよ。だが、お前の負けは変わらない。洗脳シャイニング!」


 彼の目が再び光り輝こうとしたその瞬間。


「満足したいだか何だか知りませんが、さっきから隙だらけなんですよ」


 何十本もの黒い槍が彼の体に突き刺さった。


「ごびゅっ!?」


 彼の体が頑丈故か深くは突き刺さらなかったものの、その衝撃で彼の姿勢は崩れ、目から放たれた光は明後日の方向へ向けられる。


「やるねえ。だが、こんな槍では俺は殺せないぞ」

「少しでも刺されば十分ですよ。死ね」


 彼女が指を鳴らすと、槍が一斉に爆発し、炎や煙が舞い散る。


「……これでも駄目ですか」


 煙が晴れると、彼の体は焼けており、かなりのダメージを負っているように見えた。しかし。


「嬉しいねえ! こんなにも素晴らしい攻撃をくれるとは。最高すぎて体のあちこちが元気になっちまったよ。今すぐ全裸になって走り回りたい気分だ!」

「あれだけの攻撃を受けてまだ立てるんですね」

「こんなにも素晴らしい攻撃を喰らって寝てられねえよ。さあ! もっともっとすごいのをくれ。俺を絶頂させてくれ!」

「チッ……この技は温存しておきたかったですが、出し惜しみしてる余裕はありませんね」


 彼女は両手の中指、薬指の真ん中部分の背を合わせ、残り3本の指先を重ねる。


「魔術結界 魂の箱庭!」


 その言葉の直後、彼らは真っ赤な花が一面に咲き誇る世界にいた。空は薄暗い不気味な色となっており、現実味の無い世界である。


「すげえ。すげえすげえすげえよ。まさか魔術結界を使えるほどの化け物だとはな!」

「私にも予定があるので、これ以上遊んでる暇は無いんですよ。塵となって消え失せろ!」


 ヘラクレスの魂が吸収され始め、彼がふらついた。


「素晴らしい。肉体の強さに全く関係しない魂への攻撃。最高に満足出来るぜ。その素晴らしすぎる攻撃に敬意を表し、俺も全力で殺すとしよう。カウンターバースト・アームドモード!」


 彼の体から膨大な魔力が放たれ、翼も大きくなっていく。


「これは!? 魂が大きくなってきている!」

「行くぞおおおおお!」


 彼はそういうと、姿を消してしまった。


「消え」

「うおらあああああ!」


 彼はいつのまにか彼女の眼前まで迫っており、全力で顔を殴りつける。そのまま結界を超えて大きくふっとばされ、王都の城門に叩きつけられた。


「がはっ!? このお」

「まだまだああああ!」


 そのまま彼は腹を強く殴り、城門の壁をぶち抜いて大きく吹っ飛ばされる。


「がああ!?」

「ふははははは! どうだ。これが真のカウンターバーストの力だああああああ!」


 最後に地面へと叩きつけられた。その衝撃によって地面がクレーターのようにめり込んだ。


「最高だろ? このカウンターバーストは。蓄積ダメージで発生する力を肉体強化に回す。これこそが俺の真の切り札。俺にこれを引き出させたことは名誉にして良いぞ。にしても、勢い余って王都内部まで来てしまったな」

「ぐっ……こんな奴相手に」


 彼女はふらつきながらも何とか立ち上がる。


「驚いた。骨は確実に砕けてるはずだが、まだ立ち上がれる元気があるのか。」


 彼の目が光輝くと、目の前に再び青い火の玉が出現して光を遮る。


「またか。やっぱりこの魔術は防がれるなあ」

「いい加減鬱陶しんですよ。死ね」


 そのまま爆発を起こすも、彼はそれを避けて彼女の背後に回り込む。


「お前を洗脳するのは大変そうだし、ここで殺すとしよう」


 彼は黒い翼で刺し殺そうとするが、彼女はそれを避けて距離をとる。


「生憎ですが、私はこんなところで死ぬわけには行かないんですよ。魔術結界 魂の箱庭!」


 再び魔術結界を発動し、辺り一面が花畑の世界に変わる。


「素晴らしい。魔力消費の大きい魔術結界を何度も使えるほどの魔力があるとは。だが、いつまでもここで遊んでると、カーリー様に怒られるのでな」


 そう言うと、彼は両腕を交差させ、両手でピースする。


「魔術結界 痛苦の楽園!」


 花畑は彼の放出するどす黒いものに浸食されていき、世界は姿を変えていく。そこはまるで闘技場のような場所であり、空は血のように赤く染まっていた。


「これは」

「残念だが、俺も魔術結界を使えるのさ。それにこの感じを見るに、お前のよりも数段上手のようだな。さあ、満足する時間はもう終わりだ。ここから始まるのは不満足の時間。つまらないが、まあ仕方ないよな。これもヴァルキュリア家のためだ。悪く思うなよ」

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