第190話 城門前の乱戦
Side カイツ
黒い偽熾天使と戦っている最中、膨大な魔力を感知し、その方を見る。そこには貝殻水着を着た妙な変態女がアリアと対峙しており、2人は水の壁で閉じ込められている。
「誰だ。あの変態女は」
『ガブリエル。妾と同じ四大天使の1人じゃ』
俺の疑問に答えるように、ミカエルが奴の正体を教えてくれた。
「あれがガブリエル。てか、なんでアリアと戦う感じになってるんだ。これもロキ支部長の作戦なのか?」
『それは本人に聞くしかなかろう』
「と言っても」
背後から迫りくる天使たちの攻撃を捌きつつ、横から来た天使の攻撃を避けると同時に、真っ二つに切り裂いた。
「まずはこいつらを片付けないとどうにもならないな」
天使たちは何体も迫って来ており、1体1体が劣化版とはいえ、ニーアたちや俺の能力を受け継いでいる。一々相手にするのも煩わしい。早くアリアの救援に行かないといけないし。
「さっさと片付けてやるよ。剣舞・双龍剣」
剣を2本に増やす。2本の剣には紅い光が纏われ、光は巨大な剣となる。
「これで終わらせる。剣舞・神羅龍炎剣!」
巨大な光の剣を横薙ぎに振るう。何体もいた黒い偽熾天使は消し炭となって消滅した。
「これで片付いた。次はアリアの救援に行かないと」
急いでアリアの所へ行こうとすると。
「ターゲット、発見。撃墜行動を開始します」
上空から何かが飛来して斬りかかってきたので、それを躱して距離を取った。
「次から次へと。なんだ。あれは」
銀色で鎧のような服に身を包んでおり、背中からは黒い翼が生えている。
顔は生気を失ったかのように真っ白で、海のように青い髪をなびかせている。顔つきは少女のような面立ちだが、赤く光るその瞳、白い肌が不気味さを醸し出している。
「何者だ。ガブリエルやロキの仲間か?」
「回答不可。私には、あなたの質問に答える権限は与えられてません。与えられてるのは」
彼女は手をこちらに突き出す。その手には口がついていたのだ。
「あなたを殺す権限のみ」
口から放たれた水の斬撃が襲いかかる。それを躱し、地面を蹴って一気に距離を詰めた。
「なら消えろ。お前と遊んでる余裕はないんだ! 剣舞・龍刃百華!」
剣を横に一振り振り抜こうとすると、俺の首に、水を纏った奴の手刀が襲いかかる。それが首筋に触れる前に離脱し、距離を取った。
「あぶねえ。あの野郎、わざと距離を詰めさせたのか」
「失敗。想定以上の戦闘力と勘の良さ。感心します」
「棒読みで言われても嬉しくないな。剣舞・五月雨龍炎弾!」
無数の紅い光弾を放って攻撃を仕掛ける。
「防御魔術起動。水鏡!」
奴の前に現れた水の盾が光弾を全て防ぐ。
「なるほど。前の奴とは戦闘力が桁違いだな。ガブリエルの改造でそうなったのか?」
「回答不可。私には、あなたの質問に答える権限は与えられてません。与えられてるのは殺す権限のみ」
「あっそ。何回も同じ返答をご苦労さん。剣舞・双龍剣!」
剣を2本に増やし、距離を詰めて斬りかかる。奴は全ての攻撃を水を纏った腕で防御していく。
「感心。これほどの攻撃力は希少。流石はミカエルに選ばれし男。契約者が目を置いていたのも頷けます」
「さっきから棒読みばかりで。鬱陶しいんだよ!」
俺は足に六聖天の力を集中させ、一瞬で背後に回り込む。
「!? これは」
「終わりだ。剣舞・四龍戦禍!」
2本の剣で4つの斬撃を高速で放つが、奴はその攻撃を腕で防御した。
「ぐっ!?」
しかし、水を纏っても攻撃は防御しきれず、奴の両腕を深く切り裂いた。
「損傷。戦闘力20%低下。戦闘続行に支障はありません」
「こいつを喰らっても同じことをほざけるか? 剣舞・絶龍怨嗟!」
俺が指を鳴らすと、奴の両腕がブクブクと膨れ上がる。そのまま爆発するかと思われたが。
「させません」
奴は腕に魔力を集中させ、俺の魔力を押し出して傷口から放出した。
「なるほど。多少はやるみたいだな」
「予想の150%を上回る戦闘力。ノーマルモードでは限界があると判断。これよりモードチェンジを実行します」
奴が両手を横に突き出すと、周囲の空気が変化した。
「なんだ。この不気味な感覚」
「13.15.4.5.3.8.1.14.7.5。実行します」
奴の体がメキメキと姿を変えていき、男の姿へと変化していった。そしてその顔は。
「なっ!? その顔は」
真ん中分けの黒い髪、真っ赤に染まった左目、草食系男子を思わせるような中性的な顔立ち。顔、体格、魔力までもがヴァーユとそっくりだった。まるで、奴が蘇ったかのように。
「モードヴァーユ。戦闘を開始します」
奴が腕を突き出すと、見えない壁に吹っ飛ばされてしまった。
「ぐ!? この威力は」
「追撃開始」
奴が指を鳴らすと、空気の剣が何本も遅いかかかってきた。だがそれは奴との戦いで経験済みであり、全てを弾き飛ばした。
「追撃開始」
奴が指を鳴らすと、弾いた剣が爆弾のように破裂して襲い掛かる。その威力は凄まじく、動くこともままならないほどだった。
「攻撃に対するダメージを確認。攻撃を続行します」
奴は再び空気の壁で攻撃を仕掛け、それを剣で受け止める。
「うおおおおお!」
そのまま空気の壁を破壊するも、剣も砕け散ってしまった。
「くそ。やっぱりこの剣じゃ限界はあるか」
「敵の戦闘力の低下を確認。作戦成功率の上昇を判断」
このヴァーユ。無人島で戦った時よりも強い。手に紅い光の剣を2本生み出す。切れ味は少し鈍いが、今は選り好みをしている余裕はない。
さてどう戦うべきか。そう考えていると、遠くの方で爆発音が響き、東門の方で獣のような咆哮が響いてきた。
「この感じ。まさか」
一方、アリアとガブリエルの戦い。
「獣王剣・天!」
アリアが腕を振り抜き、巨大な斬撃がガブリエルを真っ二つにする。しかし、血は流れておらず、真っ二つにされた体は即座にくっついた。
「恐ろしい攻撃力だ。しかし、私には通用しない」
「あっそ。があああああああ!」
彼女の大地を削る方向が直撃し、体の一部が抉られても、ガブリエルは涼しい顔で受け流していた。
「私は水を司る四大天使。水で出来た私の体に物理攻撃は通用しない。ヴァルキュリア家のカーリーみたいなものだと思えば良いよ。君の過去を破壊する魔術は脅威だが、傷をつけれなければ、そこまで効力を発揮しないというのが弱点」
「相性悪い上に、魔術も把握されてる。なんで私と戦う相手って、こうも面倒な奴ばかりなんだろうね」
「それだけ、君の試練が険しいものということさ」
ガブリエルが指を鳴らすと、手のひらから巨大な水の蛇が何匹も襲い掛かる。アリアはその攻撃を軽く躱して首を刈り取るが、効力はほとんどなかった。
「ふふふ。こうまで相性が悪いと、私と戦うのも大変だろ」
「別に。やり方なんていくらでもある」
指を鳴らすと、ガブリエルは体が硬直する。時間にしてほんの一瞬だったが、アリアにとってはそれで十分だった。
「そこ! 獣王剣・楔!」
ボールを投げるように、彼女は腕を振り下ろし、透明な針のようなものを何本も飛ばしていた。その攻撃はガブリエルも見えており、その攻撃を水のバリアで防いだ。
「ちっ。流石に読まれてるか」
「過去が1秒でも破壊されれば魔術は乱れる。私の魔術が乱れ、実体化する隙を狙ったのだろう? そんな小細工は2000年前に経験済みだ」
「無駄に長生きしてるだけあって、ほんとめんどくさいね」
「有意義に生きてると言いたまえ。これでも色々試行錯誤してるのだからね!」
手のひらから水の矢を何十本も生み出して放つが、それらはすべて躱されていった。
「早いね。ならこれはどうだい?」
アリアの足下から水の刃が砲弾のように襲い掛かる。しかし。
「こざかしい。獣王剣・龍!」
彼女が腕に魔力を込めて1回転すると、竜巻が守るように覆い、水の刃を全て弾いた。
「ま、この程度は防がれるよね」
「獣王剣・鴉!」
腕を振ると、斬撃が鳥の形をして襲い掛かる。それらはガブリエルの体をズタズタに切り裂くも、すぐにくっついてしまった。ガブリエルは攻撃を受けながらこの攻撃の理由を考えていた。
(ふむ。こんなことをしてもまず致命傷にはならない。さっきのような小細工が通用しないのは彼女も分かり切ってるはず。あの子犬ちゃんは何を考えてるのかな)
思考してる間も攻撃が止むことはない。
「まだ終わらない!」
彼女は一瞬で距離を詰める。
「獣王剣・華!」
そのまま爪で切り裂いて首を刈り取ろうとすると。
「させないよ」
その攻撃は掴んで止められてしまった。
「!? これは」
「無数の斬撃を出す技だろ? だが初動をつぶせば、大して怖くない。そしてその赤い爪」
アリアの爪は赤く光っており、熱したかのように熱くなっていた。
「なるほどね。大方、攻撃の最中に爪を研いで熱を起こしたといったところか。原理としては火打石に近いものだね。流石はフェンリル族。なかなかに面白い」
「どうでもいいけど、離してよ!」
彼女がもう片方の腕で攻撃しようとすると、腕を離して攻撃が躱される。
「中々面白い相手だ。だがこのままでは少し面倒だし、少し本気を出そう。六聖水・第4開放」
彼女の背中に2対4枚の水の翼が生える。それと同時に魔力の圧がさらに上昇し、空気を揺らし始める。
「この魔力。流石は四大天使といったところか」
「四大天使の本当の力を見せてあげるよ。枯れろ。アクアウィザー」
ガブリエルが手を突き出すと、アリアの動きが硬直してしまった。
「あが……これは。体の水分を」
「全ての生命に共通することだが、水がなければ死んでしまう。水を司る私にとっては、倒しやすくて助かるよ」
「くっ。このお」
「安心してよ。殺しはしない。人類の試練が終わるまでは、ここで待機してもらう」
「悪いけど、そんな待ってられないよ!」
アリアが舌に傷をつけると、水を失った過去が破壊され、動けるようになった。そのまま一瞬で背後に回り込む。
「早いね。流石は神獣だ」
「死ね。獣王剣・天!」
腕を振りぬいて零距離から巨大な斬撃を放つ。しかし、ガブリエルはその場から一瞬で姿を消してしまった。
「どこに」
「ずいぶんと恐ろしい能力だね。自分に使ってダメージを受けた過去を壊すとは」
声のした方を見ると、地面から水が飛び出し、それが人の形を作ってガブリエルとなった。
「今の攻撃は自信あったんだけどなあ」
「ふふふ。その程度の攻撃なら避けるのは造作もない。さて。今度はもっと体内の水分を」
話している最中、遠くのほうで爆発音が響くと共に獣のような咆哮が聞こえてきた。
「この感じ。ケルーナの作った奴か」
「へえ。ウリエルが動き出したみたいだね。これは予想外だけど、面白くなってきたじゃないか」




