第188話 同時侵攻
王都から少し離れた所にある森林。その一番上にプロメテウスとカーリーは立っていた。
「カーリー様、先に侵攻したハデスとアレクトですが、2人共死んだと見る方が良さそうです。彼らの魔力を感じませんし、こちらに戻って来る気配もありませんから」
「そうですか。ああ、あんなにも良い子たちが死ぬなんて悲しいですね〜。泣きすぎてご飯が進みませんよ〜」
彼女は全く悲しさを感じさせないあっけらかんとした様子で言い、持っているサンドイッチをパクパク食べていた。
「ま、あの2人が死んだことは予想外ですが、計画に変更はありません。頼みましたよ。プロメテウス。向こうにいるヘラクレスにも連絡を出しておきます」
「かしこまりました」
話を終えると、カーリーは飛び降り、液体となって地面に染み込んでいった。
「さて。この戦いの先に何があるのか。人類がどこまで進むのか、見せてもらいましょうか」
彼が指を鳴らすと、地面から黒い煙が噴き出し、何体もの人の形を作っていく。それは真っ黒になった偽熾天使のような姿をしているが、ある個体には角が生えてたり、腕のごつい個体、炎を纏った個体など、それぞれに固有の特徴があった。
「急造でこしらえた強化熾天使。これを相手に、奴らはどこまでやれますかね」
Side カイツ
俺はアリアと一緒に北門の前に立ち、敵の攻撃に備えて準備をしていた。門を守る兵士たちは20人ほどしかいない。
昨日の戦いで戦力を削られたのも理由だろうが、城の方に守りを集中させてるのが一番の原因だろう。現在の騎士団の配置はこうなっている。
北門 アリア 俺 王国の兵士たち
南門 ニーア&マリネ 王国の兵士たち
東門 クロノス 王国の兵士たち
西門 バルテリア 王国の兵士たち
マリネの情報では、北門と南門はヴァルキュリア家が一番多くの戦力を投入するようで、俺とアリアの2人で守っている。ウルは対空防衛と門が突破された際に市民を守る役を兼ねてもらっている。
そして、ノース支部から100人近くの騎士団員が来ており、兵士たちと共に、彼女たちも市民を守る役割を持っている。ロキ曰く、他の支部から人を引っ張ったり、休暇中の団員を呼び出したりと、かなり無理をしたらしい。
戦力は十分だと思うが油断はできない。相手はあのカーリーとウリエル。何が来てもおかしくはないからな。
「そういえばアリア。メリナたちの怪我は治せたのか?」
「治せてないよ。というか治せない。今は私の治癒妖精が何とかしてるけど、それでも治るのにはかなり時間がかかる」
「どうして。俺にやったときみたいに、ダメージを受けた過去を破壊すれば」
「無理だよ。確かに私の過去破壊なら、ダメージを負った過去を破壊して治すこともできる。ただ、そのためには数時間以上の過去を破壊しないとならない。ダメージを負っていた過去を全て破壊しないと意味がないからね。そして、20年も生きてない奴らじゃ、たった数時間の過去を破壊されただけでも大ダメージになりかねない。それに前にも言ったけど、過去のダメージをなかったことにするのは負担が大きいんだよ。だから今は、妖精で治すしかない」
「でも、俺を治せた事があるじゃないか。確かに負担はでかかったが。俺だって20年も生きてないぞ。なのに」
「それは例外。カイツの場合、ミカエルの過去がプラスされてる。だから私の魔術の中では、カイツは数万年生きていることになるんだよ。だから、数時間の過去を破壊しても大したダメージにはならなかった。恐らくこれは、器になったことの副作用みたいなものだね」
「なるほど。ともかく、あいつらが完全に治るのは時間がかかるというわけか」
「そういうこと。少なくとも、この戦いに復帰するのは無理だね」
「なら、あいつらが無事治療されるよう、ここを死守しないとな」
「意気込むのはいいけど、武器は大丈夫なの?」
アリアが心配そうに俺の腰に下げている剣を見る。マリネとの戦いでデュランダルが砕けてしまったため、今は兵士たちが使う剣を使っている。今は選り好みしてる余裕はないし、この武器で戦うしかない。
「ま、何とかするさ」
「敵襲! 敵襲! 真っ黒な化け物が3体近づいています!」
アリアと話をしていると、索敵を担当してる兵からの声が響いてくる。その言葉通り、黒い偽熾天使のような敵が3体来ている。数は少ないが、どうも普通の偽熾天使とは違うようだ。あの速さだと、あと数分くらいでこっちに来るだろう。
「六聖天・第2開放」
六聖天の力を発動し、周囲に無数の紅い光弾を生み出す。
「まずは小手調べだ。剣舞・五月雨」
奴らに攻撃しようとしたその瞬間。
「!? アリア!」
「分かってる!」
妙な気配を感じ、俺とアリアはとっさにその場を離れる。その直後、空高くから炎の塊が落下して大きな爆発を起こす。
「なんだ!」
「この気配……あの女か!」
アリアはこの気配に覚えがあるようだが、一体何者だ。こんな不気味な気配を出す妙な奴は。
爆発によって生じた煙が止み、そこから1人の少女が現れた。黒の袖なしワンピースを着た青髪の少女。子供のような顔つきだが、額に炎のような模様が刻まれている。武器は赤い金棒であり、槍のような長さだ。
「カイツ……カイツ」
「不死鳥の魔女、ハイドか。その額の紋様と魔力は何だ?」
こいつの魔力。ウリエルの影武者に似た何かを感じる。一体何をされたというんだ。
「カイツ……カイツううううう!」
奴はうめき声をあげながら、持っていた金棒で殴りつけてきたので、その攻撃を剣で防御するが、ヒビが入ってしまった。
「くっ。なんてパワーだ」
というか、この剣脆いな。魔力を込めてたのに、一撃止めるだけでヒビが入るとは。こりゃまともに受け止めるわけにはいかないか。
「お前のせいでええええええ!」
奴がやたらめったら金棒を横向きに振って攻撃してくるので、それを後ろに下がって躱す。
「逃がすかあ!」
奴が追撃を仕掛けようとしたその瞬間、アリアがその首を刈り取った。
「邪魔なんだよ。消えろ」
彼女が指を鳴らすと、魔女は一瞬で消滅してしまった。過去を破壊して存在を消滅させたのか。これで終わったかと思いきや、奴が消滅した場所から炎が噴き出し、それが人の形を作っていく。そして。
「こんなので……終わると思うなああああ!」
奴は再び復活して金棒で殴り掛かってくる。その攻撃をアリアが受け止める。
「なるほどね。そういう感じか」
彼女は金棒をはじき、奴の腹を蹴って遠くへ吹っ飛ばした。
「アリア。何か分かったのか?」
「なんて言えば良いのかな。火に水をかけると消える。風が吹けば草木が揺れる。それと同じように、奴は何回死んでも不死鳥のごとく蘇る。そういう摂理というか、法則のようなものになってるんだ。人どころかこの世に存在するものとは別次元の何か。ほんと、何をどうしたらこんなもの生まれるんだろうね」
十中八九、ウリエルが何かやったのだろう。それにしても、ウリエルの配下であろうこいつが動き出したということは、他の門にもウリエルの配下とかが侵攻してる可能性があるな。ヴァルキュリア家だけでも頭が痛いというのに。
「カイツ。ここは私に任せて。こいつの戦い方は知ってるし、私の方が適してる」
「分かった。間違っても死ぬなよ」
「誰に言ってるの。存在がめちゃくちゃな奴とはいえ、あんな雑魚に負ける私じゃないよ」
「油断するなよ」
俺はそう言って黒い偽熾天使の元へと向かう。
「GIRIAAAAAA!」
雷のような角が生えた黒い天使が妙な声を出しながら腕を突き出すと、そこから雷が放たれた。その攻撃を躱すと、今度はスライムのように伸びた腕が刃物を持って襲い掛かってくる。それを弾き飛ばそうとするが、それよりも先に腕が剣に絡みついてしまった。
「ちっ。こんなもの」
引き離そうとすると、今度は巨人のような体格の天使が瞬間移動のように現れる。
「なにっ!?」
「GUGOGAAAAA!」
そのまま棘付きの肩でタックルを仕掛けてくる。間一髪で腕に魔力を纏って防御には成功したが、大きく吹っ飛ばされてしまい、剣も手放してしまった。即座に体勢を立て直して着地し、敵を観察する。
不意打ちだったとはいえ、第2開放でも簡単に突き飛ばすほどのパワー。
「なるほど。大体分かってきた」
黒い偽熾天使は白いのとは強さが桁違いであり、固有魔術の使用も可能。少し厄介な相手だが、六神王よりは遥かに楽だ。
「力量は把握した。六聖天・第3開放」
天使のような羽が3枚生え、俺の両腕が真っ白に染まる。目元にヒビのような模様が入り、両の瞳が赤く染まる。そして、首に白いマフラーのようなものが巻かれた。
放出される魔力に危機感を感じたのか、ゴツい天使が瞬間移動で俺の前に現れる。
「GUGOOOOO!」
またもやタックルを仕掛けてくるが、俺はその攻撃を躱すと同時に、紅い光の剣を生み出してその首を斬り落とした。
「一度見れば、どう対処すれば良いのかはすぐに分かる」
「GUGOGAAAAA!」
首を落としても奴は死ぬことなく、後ろから掴んでこようとするが、それを躱して上空へ飛び上がる。すると、スライムのような腕が襲いかかり、鎖のように俺の体を縛り上げる。
「ベタベタして気持ち悪いんだよ。剣舞・龍烙波動!」
魔力を込め、それを熱の波動を変えて拘束を引き離した。そして腕を伸ばしている本体も見つけた。黒い体に緑色の水玉模様が浮かんでおり、ずいぶんと気味の悪い見た目をしている。
「GUGERRRRRRR!」
奴は気味の悪い叫び声をあげながら、刃物を持った両腕をスライムのように伸ばして攻撃してくる。
「邪魔だ!」
紅い剣を投げ飛ばし、奴の体を突き刺す。
「GRR!?」
「剣舞・絶龍怨嗟!」
指を鳴らすと、奴の体がぶくぶくと膨れ上がっていき、粉々にはじけ飛んだ。地面に着地し、奴に取られた剣を回収する。残りは雷のような角を生やしたあいつのみ。
「GIRAAAAAA!」
角をはやした奴が怒り狂ったかのように雷の攻撃をしてくる。その攻撃を躱し、一気に距離を詰める。
「剣舞・龍刃百華!」
横に剣を振るい、奴を切り裂く。その直後、無数の斬撃が奴の体をズタズタに引き裂いた。
「3体目。思ったより楽な相手だったな」
それなりの力はあるようだが、油断さえしなければ簡単に倒せる。だが、ヴァルキュリア家が用意した手駒だ。この程度で終わるとは思えない。
前の方を見ると、巨大な羽を空を掲げる天使が2体、俺を超えて王都へ向かおうとして飛んで行こうとしていた。1体は緑の角が生えており、もう1体は鎧のようなものに身を包んでおり、背中には小さな筒がいくつも生えている。
「行かせるかよ」
首のマフラーを二又に伸ばし、奴らの足に絡みつけて捕らえる。
「そーらよ!」
そのまま奴らを投げ飛ばし、地面に叩き落とした。
「GUGIGA!?」
「GUGO!?」
奴らは気味の悪い叫びを出した後、土埃を払いながら俺の方を睨みつける。
「GUIGAAAAA!」
角の生えた方が緑色のレーザーを俺に向かって乱射してくる。
「剣舞・龍封陣!」
刀を突き出し、その切っ先から紅い魔法陣を展開する。それで防げるかと思いきや、レーザーは簡単に俺の魔法陣を貫通してきた。
「なっ!? くそ」
間一髪で直撃は避けたが、肌を少しだけ掠めてしまった。
「!? この感じ」
ほんの少ししか喰らってないが間違いない。威力は落ちてるが、これはニーアの魔術と同じものだ。
「どういうことだ。なぜこいつが」
色々と理解不能なことが多いが、今はそれを考えてる余裕は無かった。
「GUGOОООО!」
今度は鎧の奴が背中の筒から炎を噴き出して飛んできた。まるでびっくり人間ショーだな。
それを躱して攻撃しようとするも、奴は翼と背中の炎を器用に使って躱した。そして方向転換し、再び襲いかかってくる。
「なんなんだよ。てめえらは! 剣舞・五月雨龍炎弾!」
紅い光弾を無数に生み出して放つ。奴はその攻撃に対して動きを止め、腕から光の盾を展開する。光弾が当たった瞬間、盾に吸い込まれるようにしてそれは消えてしまった。
「なに!?」
「GUGOOOO!」
そして、盾から俺が放ったものよりも威力の低い光弾が襲いかかってくる。
「GUGUGAAAAA!」
それと同時に、角の生えた方が俺に向かって緑のレーザーを何発も撃ち、挟み撃ちの状態になってしまった。
「ちっ。これはめんどくさいな」




