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第185話 化け物の蹂躙

 side カイツ


 意識を取り戻すと、頭に柔らかい何かがあるのを感じた。目を覚ますと、どういうわけか、アレクトが俺の目の前にいる。横に視線を動かすと、ウルが仏頂面で座っている。

 胸の上には、背中から羽根が2対4枚生えた緑色の小さな人が座っている。これは確か、アリアの治癒妖精(ライフ・フェアリー)。俺の体を治してるようだが。


「マリネ……なんでお前が。それにウルも。一体何がどうなって」

「私は貴様に応急手当をして膝枕しているだけだ」

「私はこいつの監視。変なことされたら困るからね」

「そうか。けどなんでお前がこんなことを」

「貴様に倒れられても困るからな。少しでも体力回復のためにこうしてるだけだ。運べれば良いのだが、私も体力の限界で動けないからな。男というのはこういうので回復するものなのだろ?」


 まあ、確かに心地良いものではあるが、これだけで回復できるものなのか?


「私もあなた達2人を運んで上に行ける力なんてないし、しばらくはここで待機ね。それにニーアが言うには、今外に出るのは危険らしいし」

「……そうか」


 まいったな。今の状況が分からないし、一刻も早く戦線に合流したいのだが。気配の感じからして、相当やばいことになってるみたいだし。そう思って体を動かそうとするも。


「ぐっ……体が」

「無理をするな。私との戦いで、お前はかなりのダメージを負ったんだ。そこのちっこい妖精とミカエルの力でも、回復には時間がかかるだろう」

「冗談じゃない……みんなが戦ってるのに、俺だけこんな」


 無理に体を動かそうとすると、アレクトに頭を押さえつけられた。


「だから大人しくしろと言ってるだろ。今のお前では戦うことは不可能だ。それに、私よりも恐ろしい化け物たちが今向かってるからな。犠牲は少なくなるはずだ」

「? どういうことだ。一体何を」

「化け物どもが暴れまわってるって話だ。少し前にも1人来ていた。そこのサキュバスを引き連れてな」






 カイツが意識を取り戻す数分前。アレクトは彼を膝の上にのせて頭をなでていた。


「全く。ずいぶんと無茶をするものだ。おまけに、私を本気で救おうとして」


 彼女は呆れたように言いつつも、その言葉とは裏腹に微笑んでいた。


「殺気のない奴に負けたのは初めてだよ。テルネがお前を好きになった理由、少しだけ分かった気がする。そんなお前だから私も」


 彼女が遠くを見るように上を見ていると、何かの気配を感じ取ったかのように視線を動かす。


「2人。1人は大したことないが、もう1人はかなりの強者だな」


 彼女が刀の柄に手を置くと、穴の開いた天井からウルとニーアが飛び降りてきた。


「カイツ、助けに……って」

「兄様、大丈夫……って。お前は」

「久しぶりだなイシス。いや、今はニーアだったか」

「アレクト。なぜ貴様が兄様を……膝枕しているんだ?」

「ラルカたちから、あなたはカイツを恨んでると聞いたのだけど」

「色々あって、こいつの行く末を見届けることに決めた。ついでにヴァルキュリア家も裏切ることに決めた。まあ、元から味方のつもりもなかったが」


 その発言に、ウルとニーアの2人は唖然としていた。アレクト自身は気づいてないが、彼女の目は優しさに満ちており、憎しみや敵意とはまるで無縁だった。


「お前。一体何があったんだ。私がヴァルキュリア家にいた頃は兄様を敵視してたはずなのに、そんな目を向けるまでになんて」

「こいつも悪い奴ではないと思ってな。少なくとも、今殺すべきではないと判断した。それだけのことだ」


 彼女はそう言いながら彼の頭を撫でる。


「……ニーア。彼女は、味方と判断していいの? 一応六神王らしいけど」

「味方と判断して大丈夫だ。彼女からは殺意も敵意も感じられない。なにがあったか知らないが、兄様と戦って色々変わったのだろう。それより今は」


 ニーアは別の場所を見るように視線を動かす。ウルは彼女の意図が分かっていなかったが、アレクトは察したようだ。


偽熾天使(フラウド・セラフィム)か。しかも四方から大量に来ている」

「そんな!? 今すぐ迎撃に行かないと!」


 ウルは焦ったように言うが、ニーアは冷静に答える。


「問題ない。この程度の攻撃は想定内だ。今こそあいつらの力を使わせてもらうとしよう」


 胸元からオレンジ色の宝石を取り出し、それに向かって大声で叫ぶ。


「アリア、クロノス。四方から大量の偽熾天使(フラウド・セラフィム)が向かっている。クロノスは東門、アリアは西門に行け! あと、アリアは回復妖精をこっちに寄越せ! この命令に従えば、私がそれなりの褒美を与えてやる!」


 叫び終わると宝石が光りだし、4つに砕けてどこかへ飛んで行ってしまった。


「今のは、なんなの? どこかへ飛んで行ってしまったけど」

「伝達石。特定の相手にメッセージを飛ばす魔道具だ。どれだけ離れていても必ず届く便利なものでな。ヴァルキュリア家で開発中だったもので、退職金代わりに無断で貰った」

「パクったの間違いではないのか?」


 アレクトの手痛い指摘を無視し、ニーアはウルに話しかける。


「ウル。私は南門の対処に当たる。お前は奴を監視しておいてくれ。変なことはしないと思うが、一応念のためにな」

「それは良いけど、カイツはどうやって上に運ぶの? 私の力じゃ上まで運べないわよ?」

「今は下手に外に出るほうが危険だ。あそこまでダメージを受けてるなら尚更な。それに兄様にはミカエルの力があるし、アリアの妖精もある。万が一にも死ぬことはないだろう」

「わかったわ。気をつけて」

「ああ」


 ニーアは空高く飛び、穴のあいた天井へと入っていった。






「というわけで、イシス……ではなくニーアはとっととどこかに行ってしまった」


 俺が気絶してる間にそんなことがあったとは。今は体を動かせないし、仮に動かしてもマリネたちに止められるのがオチだろう。今はニーアたちを信じるしかない。




 ニーアが伝達石を飛ばした頃。アリアは時計塔の上で何十体もの偽熾天使(フラウド・セラフィム)を狩り続けていた。


「カイツと六神王の戦いが終わったか。せっかく助けようと思ってたのに」


 愚痴りながら天使の首を引きちぎってると、石の欠片が彼女めがけて飛んできたので、それをはたき落とそうとするも、石は手をすり抜け、頭の中に入ってしまった。


「ちっ! 一体なにが」


 疑問に思うよりも早く、ニーアの言葉が彼女の頭の中で響き、自身への命令を理解する。


「……はあ。カイツはともかく、他の奴らなんてどうでもいいんだけど。断ったら面倒くさそうだな。治癒妖精(ライフ・フェアリー)!」


 手のひらから緑の人形妖精を出し、それをカイツの元へ飛ばした。


「さて。行くか」


 そのまま時計塔から西門へとひとっ飛びで飛んでいく。門付近は酷い状況だった。


「右側の守りが薄くなってる。兵士を増員しろ!」

「うわああああ! 助けてくれええええ!」

「嫌だ。こんな奴らに連れ去られるなんてえ!」

「ごはっ!? 嘘だろ……こんなところで」


 何十人もの兵士たちが偽熾天使(フラウド・セラフィム)に殺され、連れ去られ、兵士たちは既に戦う力をほとんど失っている。既に防衛陣は崩壊しており、天使たちは何十体も侵入している。


「あっちの天使の数は500以上か。ていうか、もう防衛の意味為してないじゃん。これだから雑魚は嫌いなんだよ。獣王剣・楔!」


 ボールを投げるように、彼女は腕を振り下ろし、透明の針を何本も飛ばした。それらは天使たちのうなじを正確に貫いて殺していく。そして落ちていく天使たちを足場にして飛んでいき、西門の前へと飛び降りた。


「な、なんだ。誰だお前は!?」

「あの服。確か騎士団の」


 兵たちがアリアのことについて話してたり、質問したりするも、彼女の耳にそれは届いていなかった。


「さっさと終わらせるか。獣王剣・天!」


 腕を振りぬき、巨大な斬撃を繰り出して天使たちを一斉に撃退する。


「獣王剣・龍!」


 腕に魔力を込めて1回転すると、巨大な竜巻が現れ、天使たちの肉をズタズタに切り裂きながら殺していく。必死にそれから逃れようとするも、竜巻の吸い込みは敵を逃すことなくとらえ、鋭い刃で容赦なく蹂躙していった。


「うわあああああ!? 助けてくれええええ!」

「くそ! 掴まれ!」


 後ろでは竜巻に巻きこまれる寸前の兵士たちが阿鼻叫喚していた。そして兵士の1人が掴む場所を失い、吸い込まれるように竜巻の元へ向かった。


「いやあああああああ!? 誰かああああ!」

「チッ。めんどくさいなあ」


 彼女が指を鳴らすと、竜巻は一瞬にして消え、兵士は巻き込まれることなく助かった。彼女からすれば助ける価値のない人間だが、もし見捨てた場合、ニーアがうるさいだろうと思って嫌々助けたのだ。

 竜巻が消えたことで天使たちも被害を免れ、王都に侵入しようとしたり、彼女に攻撃しようと動き始める。数は減ったとはいえ、まだ300体以上残っていた。


「今ので全部終わらせようと思ったのに。ほんと嫌になる。獣王剣・鴉!」


 腕を振ると、斬撃が鳥のような形になって襲い掛かる。鳥たちは何体もの天使を貫通して殺していくが、何回も斬撃を飛ばして殺し続けるも、それでも攻撃が衰えることはなかった。


「これじゃ埒が明かない。なら!」


 彼女は空高く飛び上がって天使を足場にし、それらを殺しながら空中を飛び回っていく。その姿はまるで、空を瞬く流星のようだった。


「な、なんて速さだ。羽の生えた化け物が一方的に」

「あいつ。めちゃくちゃ強い」


 兵士たちはただ見ていることしかできず、呆然としていた。そして10分も経つ頃には、300体以上いた天使は全滅し、門は守られた。


「これで終わり。なに見てんの? 邪魔だからどっか行ってほしいんだけど」

『す、すいません!』


 アリアが射抜くように兵士たちを見ると、彼らはすぐに委縮して彼女から遠く離れてしまった。


「これで良いんでしょ。ニーア。褒美はしっかりいただくからね」

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