第170話 それぞれの思惑
支部長についていき、俺はくっついてる奴らと一緒に町の裏路地まで歩いていく。ウルとメリナは俺の両腕にくっつき、ラルカは俺の肩の上に肩車するように座り、リナーテは俺の隣で歩いている。
「良いなあ。カイツ成分を補給できて」
「強い者勝ちよ。あなたが私達よりも弱いのが悪いの」
「その通りだ。右腕を独占するための戦いはいつだって命がけ。それを理解できなかった矮小なるキサマの負けだ」
「ま、日頃の行いが原因だな。これに懲りたら少しは性格を改めておけ」
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
醜い争いの真っ只中にいる気がするが、関わると面倒そうなので放っておこう。しばらくするとイドゥン支部長が足を止める。何も言わずに指を鳴らすと、俺たちの周囲を緑色の光が包み込んだ。
「これは」
俺が周囲のフィールドに疑問を持つと、それに答えるようにリナーテが話す。
「イドゥン支部長の魔術、切断世界だよ。よくわからないけど、別世界を作り出せる魔術なんだって」
「別世界を!? それって、ヴァルキュリア家のタルタロスのような人工的な異世界を作れるってことなのか?」
「残念だけど~、そんな都合の良い魔術じゃないわ~。私の魔術はね~、空間の一部を切り取って~、風船のようにぷかぷかさせる魔術なの~」
ラルカは理解できていないようで、頭にハテナを浮かべている。
「……つまり、どういうことだ?」
「紙に例えるなら、一部を切り抜いて穴を開けるような感じですね。そして、切り抜いた世界と元の世界を繋げているのは支部長の魔術」
「正解よ~。頭の良い子は理解が早くて助かるわ〜」
「質問があります。穴が開いた部分はどうなるんですか?」
「何もなかったかのように~、閉じるわ~。この力を応用すれば~、建物ごと空間を離して~、侵入不可能な安全地帯にすることも可能よ~。例えば~、ウェスト支部みたいにね~」
「つまり、ウェスト支部を絶対侵入不可能な要塞にするというわけですか」
「その言い方は~、正確じゃないわ~。私が決めた一定の暗号を唱えれば~、はいれるようになるわ~」
なるほどな。ウェスト支部に行ったとき、クロノスが暗号のようなものを唱えてたが、あれはウェスト支部に入るために必要な暗号だったというわけか。
追加の説明をするようにメジーマが話す。
「暗号は1週間に1度変更することになっています。そして、暗号を知るのは騎士団の支部長クラス以上の人間のみです。あなたなら、何を言いたいか分かりますよね?」
「ああ。ほとんど予想通りの内容だったな」
ラルカとリナーテはまだ話の内容を理解できてないようで頭にはてなを浮かべている。
「リナーテ。まさか話の内容を理解してないのですか?」
「はい。お恥ずかしながら」
「全く。ウェスト支部の人間として、それはどうなのですか」
「ううう」
流石のリナーテもこれには言い返せないのか、悔しそうに俯いている。ラルカが気まずそうに俺に質問する。
「右腕、メジーマの言いたいことは何なのだ?」
「ウェスト支部に侵入して壊滅させた敵。そいつは入るための暗号を知っていた。そして暗号を知るのは支部長以上の位の人間のみ。つまり、内通者は支部長の可能性が高く、その中で最も疑いのある者は」
「ノース支部支部長~、ロキ支部長ね~」
ラルカはその言葉に驚いたが、ウルはそういわれるのを分かっていたのか、ほとんど動揺していない。
「ま、そうなるわよね。あいつは色々ときなくさいところが多いし、疑われるのも無理ないわ」
ウルの言うことも一理ある。仲間を疑うことはあまりしたくないが、彼女は少しばかり秘密や真意がわからないところが多い。ガブリエルとの契約に関しても、色んなことを曖昧にはぐらかしているからな。
「我はあいつが内通者と思えんのだが。ヴァルキュリア家の奴らはノース支部を襲撃したのだぞ。支部長が死ぬ危険も高かった。内通者相手にそんなことをするとは思えないのだが」
「そうとも限らないでしょう。あの女だけは殺さないように命令を受けて演技をしていたか、それとも切り捨てられたか、いろいろと考えることはできます」
可能性をあげればいろんなものが出てくる。正直なところ、あの人を本当に味方として扱っていいのか分からない所がある。
「ロキ支部長が本当に裏切り者だと? お前たちはそう思ってるのか?」
「その可能性はあると判断しています。ただし、あの女がヴァルキュリア家を己の目的のためにただ利用しているという可能性もあります」
「その根拠は何なのだ。なにか証拠でもあるというのか」
「証拠ならこちらに」
そういって彼は何枚もの写真を取り出す。画質が少し悪かったが、そこに映っていたのはミルナだということは分かった。森、砂浜、洞窟の中で何かを監視するように見ており、何らかの魔術を使ってるようにも見える。
「そこに映ってるのはミルナ・レイート。騎士団の監視と調査を目的としてる監査役です。しかし、最近では監視のほかにも団員のいない地域に赴いたりすることも増えているようなのです。むろん、それだけで何かが怪しいということにはなりませんが、彼女はロキ支部長の懐刀であり、ヴァルキュリア家に関する情報も多く集めていると聞きます」
「聞けば聞くほど怪しい物ばかりだな。裏切り者って言われても普通に信じられそうだよ」
「話聞く限り、ミルナとかロキ支部長って、私よりも性格悪そうだねえ」
性格が悪いかどうかはともかく、メリナの言う通り、怪しい所があまりにも多すぎる。一体何を考えているんだ。
そう思ってると、ウルが質問する。
「それで? 私たちにその話を聞かせて、あなたたちはどうしたいのかしら?」
「協力してほしいんですよ。今回の王都決戦、ロキ支部長が大きく動くとしたら、王都での戦いは絶好のチャンスのはずです。俺たちは彼女の裏切りに備えて作戦を練り、その首を狩る」
なるほど。協力者を募るためにここに連れてきたということか。ま、これも予想通りではある。ラルカは予想外だったみたいだが。
「我に……仲間を殺せというのか」
「ロキ支部長が本当に裏切ってた場合ですよ。今のヴァルハラ騎士団は色々とごたごたが多いんです。この状態で内通者を放置しようものなら、間違いなく騎士団は崩壊し、王都は蹂躙されます。それを防ぐためにも、裏切り者は確実に殺さないといけません」
「メジーマの言うことは物騒だけど~、私も同意見よ~。ただでさえヴァルキュリア家は今までとは次元の違う敵。全力で戦っても勝てるかどうかは分からないわ~。少しでも勝率を上げるためにも~、内部の敵は徹底的に綺麗にしないといけないわ~」
その意見に関しては俺も同意だ。内部の敵をほおっておいて良いことは何もない。倒せるなら倒しておかないといけない。
「この作戦は~、あなたたちにも協力してほしいの~。けど~、嫌なら協力しなくてもいいわ~。自分の上司を殺せなんて命令は~、早々に受け入れられないでしょうからねえ~。でも~」
「協力を拒否した場合は、王都決戦が終わるまでここに監禁します。ロキ支部長にチクられても面倒ですからね」
「あまりしたくないのだけどね~。だって脅迫だし~、はっきり言って外道だもの~。人として最低よ~」
「最低でもなんでも、騎士団の秩序を守るために必要なことです。それに今回に限っては、手段を選ぶ余裕などありませんからね。イドゥン支部長もそれは分かってるでしょう?」
彼がそう言うと、イドゥン支部長は気まずそうに眼をそらした。協力しないとここに監禁だとするなら、協力する以外の選択肢は消滅したも同然だな。
「私は協力するわ。カイツのためにも、裏切り者は絶対に粛清する。なりふり構わず殺してやるわよ」
ウルは覚悟を決めまくってるな。あの感じだと、脅しが無かったとしても二つ返事でOKしていただろう。
「俺も協力する。弱者が虐げられない世界を作るためにも、王都での戦いで負けるわけにはいかない。勝利するためにも、敗北の可能性は潰したいし、ヴァルキュリア家に与する奴は全員殺すと決めてるんだ。躊躇するつもりもない」
思うところはあるが、仲間を裏切るような奴は嫌いだし、倒すことには一切の躊躇はない。
「いい答えをありがとうございます。ラルカはどうしますか? 協力するのですか?」
「我は」
迷ってるか。まあ無理もない。自分の上司、仲間が裏切ってる可能性が高いからその時に備えて殺す準備をしろなんて言われても、普通の奴は動揺するものだろう。
「……やるさ。矮小なる愚か者を矯正するのも偉大なる我の務めだ。貴様らに協力してやる」
「ラルカ。無理をしなくても俺とウルが」
「右腕と矮小なる者に任せっきりでは、偉大なる我の名に傷がつく。己がやるべきことは己でこなす。それが我の流儀だ!」
「承諾してくれて良かったです。では、ロキ支部長が本当に裏切ってた場合、どう殺すかについての作戦を話します」
裏切ってた場合か。あまり考えたくないものだな。願わくば、ロキ支部長に何らかの事情があったなら助かるのだが。
同時刻 支部長室にて
支部長室ではロキ支部長が机の上に足をのせて座り、手に刻まれた青い模様を眺めており、ミルナは積み木で遊んでいた。
「ロキ支部長~。にゃーたち疑われてそうだけど、大丈夫にゃんか~?」
「問題ない。今の状況では、奴らも今すぐには行動を起こさないだろうからな。それより例の改良品はどうなってる?」
「うまいこといってるにゃーん。王都の決戦にもばっちり間に合わせられるにゃん」
「なら、次の王都での戦いではそれを使おう。そいつとガブリエルの力でヴァルキュリア家とウリエルを殲滅し、計画を次の段階に進める。全ては美しき世界、その再来のために」
「にゃははは。ガブリエルの方は大丈夫にゃんか? あいつ、気まぐれなところあって協力を仰ぐの難しそうにゃんけど」
「問題ないさ。奴は確かに気まぐれだが、やりたいことは私と同じだ。だからこそ、私と契約したのだしな。それにしても、敵の方の動きが速くなっている。こちらも動きを速めないといけないな。そのためにも、カイツやクロノス、ニーアの血がもっと必要だ。どうやって手に入れようかね」
はたまた同時刻 とある世界にある赤い宮殿にて
そこにあるのは全てが真っ赤に染まった巨大なベッド。四大天使が1人、ウリエルはそのベッドで女性の服に抱き着いて寝ていた。ちなみにその服はミカエルがかつて着ていた服であり、彼がそれを盗みだして家宝にしている。同じ場所で吸血鬼のストリゴイとその部下、ケルーナがお茶をしていた。
「全く。旦那様も酷いことするわ。まさかわっちを捨て駒のように扱うとはな。びっくりしたで。しかも次の王都での戦いでカイツはんたちを家畜にしようと考えてるとは思わんかったよ」
「嫌なら協力しなくてもいいぞ。お前などいなくても、俺の計画に支障などない」
「相変わらず冷たいお人やなあ。あの人たちを家畜にするのは気が引けるけど、わっちは旦那様のために生きると決めてるし、お手伝いするで。どんなことでもやりますわ」
「そうか。ならば死ぬ気で働け。騎士団の人間は半殺し程度にとどめろ。抵抗するようなら足の1本や2本ちぎっても構わん」
「了解や。旦那様のお期待に沿えるよう頑張るでえ」
「分かってると思うが、この作戦に失敗は許されない。何が何でも絶対に成功させろ。己の命など度外視で働け。良いな?」
「分かってますよ。命燃やして戦いますわ」
「それなら結構。ヴァルハラ騎士団は強い人間が集まる組織と聞く。そんな奴らの血を逃す理由はない。絶対に手に入れてやる。ああ、奴らの血はどんな味がするのだろうか。想像するだけで満腹になってしまいそうだよ」
彼はよだれをだらだらと垂らしながら子供のような笑みを浮かべており、騎士団の人間の血を飲むのが楽しみで仕方ないという感じだった。彼女はそんな彼を見てはあとため息を吐く。
「相変わらず食欲に貪欲やのお。ま、そこも旦那様のええところなんやけど」
彼女は、宮殿から覗く青空を眺めながらふとつぶやく。
「カイツはん、あんたには申し訳ないと思うとるけど、わっちにとっては恩を返すよりも旦那様の方が大切やねん。たとえどんな命令であろうと、わっちにとってはそれに従うのが幸せで幸せで仕方ないんや。やから、次会う時は敵同士や。すまんなあ。せめてもの情けとして、あんま痛みを与えんように頑張るわ」




