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第166話 ジキル&ハイドとの決着

 ラルカは鎖を出して敵の攻撃を防御し、その光景をアリアは面白そうに見ていた。


「へえ。思ったよりやるじゃん」

「あんた、こうなること分かってたんか?」

「分かってたというよりは、ああなったら良いなあと思って投げたんだよ。魔術師は死の直面に立たされた時、魔術を進化させることがある。思った以上にすごいの出せてびっくりしたよ。魔術師って案外やるんだね」

「えらい博識やの。その知識は、フェンリルお得意の転生術で得たんか?」


 その言葉を聞いた瞬間、アリアの顔が少しだけこわばったが、小さい笑みを浮かべ、ケルーナのことを興味深そうに見つめた。


「へえ。知ってるんだ。フェンリルの特性」

「ま、これでも100年近くは生きとるからな。ほんま、あんたらの特性は恐ろしいもんやわ。にしても、フェンリル族として覚醒してる割には、種族繁栄のこととか考えてへんねんな」

「どうでもいいことだし。私はカイツと一緒にいれればそれだけで良いから。愛する人と一緒にいられること。それ以外は何もいらない」

「ふーん。えらく依存しとるんやねえ。危ない雰囲気がプンプンするわ。あんた、そんなんやと大変やで?」

「頭の隅には置いといてあげるよ。それよりあの六神王どもを何とかしないと。これ以上好き勝手されてもうざいだけだし」





 ラルカが着地した瞬間、何本もの鎖がジキルとハイドの周囲の地面から飛び出し、2人の体をがんじがらめに縛りあげる。


「ぐうう!? この俺がこんな鎖ごときに!」

「こんなもの!」


 ハイドは炎の翼を出そうとするも、翼を出すことができなかった。


「なんで!? なんで私の魔術が使えないんだよ!」

「その鎖は封魔の首輪と同じ性能を持っている。魔術は使えないぞ」

「ならば俺の力で!」


 ジキルが紅い翼を出し、鎖の拘束を破壊した。


「ちっ。やはり貴様の力は封じられないか。ならば!」


 ラルカは炎を纏った鎖を放つも、それは紅い翼で弾かれてしまった。


「くそ。我の鎖を」

「ハイド。今助けるぞ!」


 彼が紅い翼でジキルを縛ってる鎖を破壊しようとした瞬間。


「そんなことさせるわけないじゃん」


 アリアは彼の隙を突いてその首を刈り取った。今はハイドの魔術が使えず、ダメージの肩代わりは不可能。つまり。


「か…かはっ」

「ジキル……噓でしょ……やだ。ジキル死なないで!」

「逃げろ……ハイ」


 彼が言い終わる前に、アリアはその頭を握りつぶして完全に絶命させた。


「うるさい。永遠に黙ってろ」


 それと同時に、ハイドの作っていたフィールドが消滅する。流石のラルカも彼女の殺し方は惨いと思ったのか、少しばかり引いている。


「おいアリア。その殺し方はいくら何でも」

「敵だから殺すのは当たり前でしょ。またゾンビ戦法みたいなことされても面倒だし。さて。後は1人だけ」


 ハイドは絶望した表情をしており、完全に戦意喪失していた。


「ジキル……なんで、なんでジキルが。くそおおおお!」


 彼女は涙を流し、力任せに引きちぎろうとするも、鎖はびくともしなかった。


「無駄だ。我の鎖はそんな力任せで千切れるものではない」

「黙れ! よくも、よくもジキルをおおおおお! お前ら、絶対に許さない! 私の愛する人を!」

「うるさい鳥だなあ。耳障りだし、これで終わらせる」


 アリアがとどめを刺そうとすると、天井の一部がくりぬかれ、地面に落下してきた。


「よっとと。大丈夫かアリア!」

「カイツ。上にいたウリエルはどうしたの?」

「ぶっ倒した。偽物だったけどな。それより今の状況は」


 彼は周りを見渡し、即座に状況を把握した。


「カイツ。組織の裏切り者!」

「不死鳥の魔女か。まさかお前が来ているとはな。その様子だと、まだカーリーを崇拝してるんだな。あの外道のどこを尊敬してるんだか」

「あの人は人類を幸せにするために頑張ってる素晴らしい人だよ。お前みたいな自分勝手なクズとは違う!」

「あの女がそんな殊勝なことを考えてると思ってるのか? お前だってヴァルキュリア家が人体実験をやりまくってるのを知ってるだろ」

「野望を果たすためには犠牲も必要なんだよ。確かに人体実験は褒められたことじゃないけど、ちゃんと被験者と取引は出来てるって聞くし、あの方は少しでも犠牲を減らせるように動いている。何も知らないようなカスが好き勝手いうな! あの方は、聖母のように優しくて美しい人で、人の幸せを願える素晴らしい人なんだよ!」

「……そうか。ならそう思っとけよ。哀れな焼き鳥女」

「カイツ、あのゾンビ女を知ってるの?」

「研究所で何度も見かけたことがある。それよりジキルはどうしたんだ? 奴はハイドとセットで来るはずだが」 

「ジキルなら私が殺した」

「アリアが殺したのか。流石だな。あの男に勝つとは」

「ま、私からすればあんなのは雑魚だったよ。簡単に倒せちゃった」

「待て待て待て! 確かにとどめを刺したのはアリアだが、そこまで追い詰めたのは我だぞ!」


 自分の功績を主張するようにラルカが出てくる。


「我が鎖で縛り、不死女の力を封じたから勝てたのだろうが!」

「鎖。そういえば魔女も鎖で縛られてるな。まさかお前、魔術を使えたのか!?」

「ああ。最初は妙なフィールドが出たせいで魔術を使えなくなったが、我は偉大なる者だからな。その程度の逆境など簡単に乗り越えられるのだよ」

「凄いなラルカ。流石は偉大なる魔術師だ!」


 カイツは嬉しそうにラルカの肩をたたく。彼女は少し照れていたが、嬉しそうに笑っていた。


「ふふふ。そうだろう! 我は偉大なる魔術師! 矮小なる者とは格が違うのだ。はーはっはっ――ふぎゃ!?」

「うるさい」


 彼女の頭をごつんと叩いたアリアが質問する。


「それよりカイツ。あいつにとどめを刺さないと」

「いや、あれはあのままでいい」

「なんで? あいつは六神王だよ? まさかとは思うけど、女だからって殺すのが可哀想だとでも?」

「んなわけあるか。あいつには聞きたいことが山ほどあるんだ。騎士団にいると思われる内通者は六神王と繋がってるはず。だから、奴から内通者の正体を聞き出すんだ」

「なるほど。流石はカイツ。頭良いねえ。かっこいい!」

「問題は、誰があいつを見張るかだが」

「その役は我がやろう。あの女1人なら我でも完封できる。いざというときはケルーナも……あれ?」


 いつの間にか一緒にいたはずのケルーナがいなくなっていた。ラルカはきょとんとした顔をしてるが、アリアは特に困惑しておらず、それを既に把握しているようだった。


「どうする右腕。探しに行くか?」

「……いや、あいつのことは放っておこう。そう簡単に死ぬ奴じゃないだろうし」

「だが」

「それに、少し気になることもある。今回の場合は、あいつをただの味方と思わない方がいいかもしれない」

「? それはどういう」

「後で話す。とりあえずクロノスの元へ向かおう。あいつの所にも六神王が来ているかもしれ――!」


 彼の脳裏に嫌な予感がよぎる。アリアも何かを察したようで、目つきを鋭くした。


「剣舞・龍封陣!」

「獣王剣・楓!」


 剣から紅い魔法陣を展開し、その周囲を暴風のような風が包み込んだ直後、壁を溶かして強大な炎が襲いかかる。炎は風と魔法陣で弾かれて周囲にとび、床を簡単に溶かしていった。


「にぎゃああああ!? なんだこれはあああ!」

「ちっ。こんな時に面倒なのが」


 炎が消えると、溶けて穴の空いた壁に1人の男が立っていた。逆立つ炎のような髪、赤い羽衣、筋骨隆々の肉体、強い目つきと番長を思わせるような怖い顔つきの男、ウリエルだった。


「てめえ」

「よお塵。よくも俺の大切な仲間を殺してくれたな」

「大切? 俺には使い捨てにしたようにしか見えなかったがな」

「酷いことを言うねえ。一応、あの女にはそれなりの愛を与えてはいたんだがな」

「あっそ。それより何の用だ。お前と遊んでる余裕はないんだが」

「お前などに用はない。だが」


 ウリエルはハイドの方を見て笑みを浮かべる。


「なに?」

「お前の体。少し使えそうだ」


 彼は手のひらから炎の針を飛ばす。それは彼女の首に突き刺さり、彼女は気絶してしまった。それに全員が嫌な予感を感じ取る。そして、地面から飛び出した炎の槍がついた鎖が彼を貫いた。


「これは」

「殺人術・焔刺し。悪いがじっとしてもらうぞ」

「ふむ。心臓や足を狙った攻撃は悪くないが、この程度のぬるい炎など効かん!」


 彼は魔力の衝撃波を放ち、鎖を粉々に破壊した。


「我の鎖をああも容易く。化け物め」

「なら俺が!」


 カイツは一気に斬りかかろうとするも、炎の壁が行く手を塞ぐ。


「遅い。貴様のような塵の動きなど簡単に見抜ける」

「なら私の動きはどうかな?」


 アリアは炎の壁が出るよりも先に動いており、ウリエルの懐に潜り込んでいた。


「流石は神獣。あの塵とは実力が段違いだな。だが」


 彼女の攻撃は確実に当たるかと思われたが、彼の体は煙のように攻撃をすり抜けてしまったのだ。ハイドの姿もいつの間にか消えており、彼女を縛っていた鎖は熱で泥のようになっていた。


「!? これは、蜃気楼か」

「正解だ。俺は既にそこにはいない。目的も果たしたし、ここは退かせてもらうとしよう」

「待て! お前は一体何を企んでいる。俺を殺すことがお前の目的じゃないのか!」

「まあな。だが、お前は思ったよりも簡単に殺せそうだし、優先順位は下の方だと判断した。今は他にやることがある。ミカエルを幸せにするために、こなさないといけない仕事がいくつもあるのでな。塵を殺すのはそのあとで良い」


 その言葉を最後に彼の幻影は完全に消えた。気配も辿れず、追うことが不可能だった。仮に追えたとしても、今のカイツ達がウリエルに勝負を仕掛けるのはほとんど死にに行くようなものであり、そんな自殺行動をしている余裕など存在しない。


「なんなのだあの男は。意味の分からないこと言って消えおったぞ」

「奴が何を考えていようと、俺たちはやるべきことをやるだけだ。クロノスの元へ急ぐぞ。恐らく、あいつの元にも六神王が来ているはずだ!」

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