第二部 世界が広がること 第八章 六歳の夏
六歳の夏に、公民館の集まりで「得点制度」について教えてもらった。
先生が絵を使って説明した。丸い図。矢印。数字。
「みんなが大人になったら、この得点というものを使って生活していきます。持ち点が高い人は、たくさんのことができます。持ち点は試験の結果で決まります。だから試験を頑張りましょう」
俺は手を挙げた。
「持ち点が低い人は、できることが少ないの?」
「持ち点が低いと、使えるクレジットが少なくなったり、評価点の上限が低くなったりします」
「最初から持ち点が低い人はずっと低いままなの?」
「ちゃんと試験を頑張れば上がっていきます」
「試験を頑張れば、誰でも同じくらいになれる?」
先生は少し間を置いた。
「みんながちゃんとやれば、公平です」
公平。
俺はその言葉を頭の中に入れた。
公平って、なに。
全部が同じになることが公平なのか。それとも、全部に同じチャンスがあることが公平なのか。チャンスが同じでも、スタートが違ったら?
俺はそこから先が、うまく続かなかった。
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家に帰って、ソラに聞いた。
「公平って、なに」
「一般的には、全員に対して同じルールが適用されること、または結果が平等であること、などを指します」
「同じルールがあれば公平なの?」
「そう定義する考え方もあります」
「でも——」
「でも?」
「同じルールでも、スタートが違ったら同じになれないよね」
「そうです。そのため、公平には複数の定義があります。機会が同じことを公平と呼ぶ考え方と、結果が同じことを公平と呼ぶ考え方と、その間にもさまざまな考え方があります」
「どれが正しいの」
「それは、まだ世界中の人間が議論しています。答えが一つに決まっていない問いです」
止まった。
ソラが止まった場所に、大きな「なんで」がある。
「なんでひとつに決まらないの」
「それぞれの定義が、それぞれの状況で正しいことがあるからだと思います。どれかが完全に間違っているわけではなく、どれかが完全に正しいわけでもない」
「それって、答えがないってこと?」
「答えがないのではなく、今はまだ、みんなが納得できる答えが見つかっていない、ということだと思います」
「俺が見つけられる?」
「わかりません。でも、考え続けることはできます」
俺はその夜、公平について考えながら寝た。
考えながら寝ると、夢になることがある。でもその夜の夢は覚えていない。




