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4 初めての家族との面会

 怜良さんが玄関で挨拶をしている声が聞こえてくる。

 知らない声も。

 僕の家族が到着したようだ。

 結構騒がしい。

 どんな人達なのかな。

 

「皆さんおいでになったわよ」


 しばらくすると、怜良さんを先頭に応接間に団体が入ってきた。


 若い人から年寄りまで、五人。

 全て女性だ。

 一人は幼児で、胸に抱えられている。

 優には「家族」という感慨がないが、自分の関係者だからと、背筋を伸ばして座ったまま居ずまいを正す。


 女性達はこちらを見て近づいてこようとしたが、笑顔なのか何か言いたいのか、声を出さないままその場に立ち尽くしてためらう時間が流れた。

 怜良さんは少し離れたところで、何も言わない。


 こうして並んでいるのを見ると、みんな怜良さんのように背が高い。

 だからちょっと威圧感がある。

 入口に佇んでいるので、四十畳ほどのこの部屋では未だ距離があるが、優はソファーからずるっと滑り落ちて姿勢を正して挨拶をした。


「はじめまちて。しゅぐるといいましゅ。さんしゃいです。ようこしょおいでくだちゃいまちた」


 頑張ってゆっくりと声をだし、ぺこりと頭を下げた。

 すると女性達はみんな笑顔になり、近づいてきてしゃがんで応えてくれた。


「はじめまして、優。お母さんのあやですよ。会えて嬉しいわ!」

「はじめまして、ともえです。会えるのが楽しみだったよ!」

「はじめまして、さくらですよ。やっと会えましたね」

「はじめまして、ユリです。立派な挨拶だったよ。よろしくね」


 次々に声をかけてくる。

 すっかり囲まれてしまって、迫力があるよ。

 腕に抱えられて胸に顔を埋めている女の子が頭をなでられて「……八弥やや」とぽそりとつぶやいた。


 それからしばらく「かわいい」とか「実物は違うね」とか、ワイワイと声をかけられ続け、勢いに押された僕は口をつぐんでキョロキョロしていたが、いつの間にか怜良さんがお茶を用意していたので、ティーテーブルを囲んだソファーにみんな着席した。


「では改めまして、咲坂家の皆さん、本日はようこそおいでくださいました。あけぼの国内閣男性保護局第三十八支部所属、咲坂優くん専属一等男性保護官の須堂怜良です。

 規定に則り、今年度より優くんとご家族との面会が解禁されました。今まではご報告ばかりでしたが、これからは面会でもよろしくお願い致します。」


 そう言って怜良さんが僕の隣に座ったまま頭を下げると、僕も皆も頭を下げた。


「いつもありがとうございます。咲坂家一同、保護局の皆さんには感謝しております。今までは写真だけでしたが、ようやく面会が果たせて喜びでいっぱいです。今後とも優の面倒を見ていただくとのことですが、どうぞよろしくお願い致します。」


 一番若い彩さんはおっとりとした口調で言うと頭を下げた。

 紺色の長袖ワンピースを着た彩さんは、怜良さんより少し背が低いくらいで明るい茶色の長髪を一本の三つ編みにして、濃い茶色の目をした色白美人さんだ。

 会話の様子や態度からすると、どうやら怜良さんの立場の方が上のようだ。


「規定により、優くん自身には皆さん咲坂家のことは一切伝えられておらず、今朝になって初めて開示されました。本人はまだ何も知らず戸惑っていると思いますので、本日はゆっくりとお話ください。先にお伝えした通り夕刻までの面会となりますので、それまでご自由になさってください。」


 怜良さんは笑顔でそう言うと、僕と皆を見回した。


「急に私達が現れて戸惑っているだろう。優と血のつながった家族だよ。元気そうで何よりだ。新しい生活はうまくいっているかい?」


 そう問いかけてきたのは、ユリおばあさんだ。

 黒長髪を結い上げ、メガネをかけた黒目で色白美人さん。山吹色の着物を着た端正な雰囲気の女性だ。


「あい。まいにちたのちく、しゅごちてましゅ。」


 たどたどしく答えると、みんな目を輝かせた。


「賢い子だね! さっきの挨拶もそうだけど、保護局の教育はしっかりしててびっくりだよ。」


 巴さんが大きな声で言うと、みんな口々に同じような感想をもらした。

 巴さんは怜良さんより背が高く、濃いグレーの肩までの短髪、黒目の色白美人さん。

 グレーのパンツスーツスタイルの元気な女性だ。


「私達は優が生まれたときから、こうして会えるようになるのをずっと待ち続けていたのよ。元気でいてくれて本当に嬉しいわ」


 そう言って涙ぐむのは桜さん。巴さんと同じく濃いグレーの綺麗な長髪で、後ろでまとめている。メガネをかけた黒目の色白美人さん。

 マダムな感じの紺色スカートと丸襟ジャケットで、上品な感じ。

 八弥を膝に乗せて頭を撫でている。

 子供好きなのかな。


 こうして並んでいると、どうやら彩さんの年上が巴さん、その上が桜さん、一番年上がユリさんのようだね。

 みんな顔が似ていて、家族とはこういうもののようだ。


 それからしばらく、僕は質問攻めにされることもなく、自己紹介を兼ねてみんなが思い思いに話をしているのを僕がおとなしく様子をうかがいながら聞いていると、


「咲坂家の土地はここから車で二時間くらいの山あいの高原にあって、皆さんでキャベツ農業を営んでらっしゃるのよ。桜さんは市役所勤務で、ユリさんは内科医師をなさってるわ」


 隣の怜良さんがそう言って僕に教えてくれた。

 咲坂家は農家なんだね。色白な人ばかりだから意外だった。

 ユリおばあさんはお医者さんかあ。前世の記憶がふつふつと。

 ちょっと怖いお医者さんかな?


「そんな難しいことはわからんだろう。まだ三歳だからな。もう少し大きくなったら色々と教えてやろう」


 なんか威厳のある感じでユリおばあさんが言うと、


「優くんはちゃんと理解していますよ。とても賢い子ですから」


 と怜良さんが少し自慢げに答えた。

 まあ、理解には問題ないよね。前世の知識があるから。

 それに頭脳は大人だしね。

 すると巴さんが


「ええっ、そんなに頭いいの? なんか大人みたいじゃん! もしかして天才?」


 なんて騒ぎ出す。この人はパワフルだね。

 中年だけど若者みたいな言葉遣いだ。おかしくないけど。


「はい。この一か月で幼年教育が修了してしまって、明日からは小学生の教育範囲に進む予定です。おそらくそれもすぐに終わるんじゃないでしょうか。稀にみる秀才ですね」


 そう怜良さんが答えると、みんな「おおっ」と感嘆の声をもらした。


「あい、ちゃんとわかっていましゅ。いろいろおちえてくだしゃい」


 僕がゆっくりとそう言ってぺこりと頭を下げると、みんなぽかんとした顔になってしまった。


「報告が十分ではありませんでしたが、優くんの頭脳の発達は特に優れていると思われます。その理由は定かではありませんが、とりあえず皆さんにとっては十分にコミュニケーションがとれるとお考えください」


 怜良さんがそう言うと、ようやくみんな理解してくれたようだ。


「これは驚いた。まさか咲坂家から男子が生まれただけでなく、神童が出るとはね。こりゃあ、村のみんなが知ったら大騒ぎだねえ」

「ええ、わが子ながら私からこんな子が生まれるなんて、誰も信じないわね」


 ユリおばあさんと彩さんがそんなことを話している。

 そこで僕はさっきから気になっていたことを聞いてみることにした。


「あのね、おとおしゃまはいないの?」


 そう言うと、場が静かになった。

 みんな顔を見合わせている。何か口をつぐんでいるようだ。

 すると怜良さんが


「ご報告の通り、この国の男性のことはまだ優くんには教えていません。小学三年生以降の教育課程で教えることになっていましたから。しかし今回の面会解禁に先立ち、教育課程の履修状況と人格の発達度合いを鑑みて、優くんにはわが国の男性の実態の情報を開示してよいとの特例許可を保護局本部から得ています。

 その結果、本日から優くんには社会の基本情報全てを開示することができることとなりました。今後は成人の一般居住区住民と同じ情報取得許可があるものとお考えください」


 とみんなに答えた。


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