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24 新しい生活

 今日は四月一日。今日から新年度だ。

 今朝は少し早く起きて、早めのご飯を食べた。


 ここでの生活は、これで終わり。

 ここには怜良さんとの思い出がたくさんある。

 どれも幸せな思い出。


 初めてここに来た日を思い出すな。

 怜良さんに連れられて。

 それからは毎日怜良さんと一緒。

 起きて、ご飯食べて、お勉強して、練習して。

 お昼ご飯食べて、練習したりお散歩して。

 おやつ食べて、お昼寝して。

 夕飯食べて、お風呂入って、一緒に寝て。

 毎日楽しかったよ。

 怜良さん、ありがとう。


「さあ、行きましょう」

「うん」


 今日も怜良さんと手をつないで、この家を出る。

 何回もお散歩した公園。

 何回も通ったプール。

 何回も肩車された木。

 みんなばいばい。


 家の前の車に乗り込んだ。

 思い出を後にしてゆっくりと動き出す。


 僕は家の姿、周りの景色を見回して、こころに記憶した。

 桜があちこちに見える。


「ここともお別れね」

「うん。怜良さんとの思い出がたくさんあるよ」

「そうね。ここに来た日を昨日のことのように覚えているわ」

「僕には幸せな記憶がいっぱいだよ」

「それはよかったわ」

「怜良さん、ありがとう」

「ふふ。優くんとのここでの生活、楽しかったわ」


 男性居住区画を出た。

 生まれて連れられて来たとき以来だな。

 八年ぶりに外の景色を見た。


 前世では外の景色をみることは、家の周りをかすかに見る以外にはほとんどなかった。

 だからこうして車でただ走るだけでも、特別な感慨がある。

 遠くにたくさんの山が見える。

 その山の方に向かって車がのんびり走る。


 空はよく晴れて、窓を開けると風が気持ちいい。

 閑静な街並みがつづく。

 それでもどこも桜が咲いていて華やか。


 怜良さんとこんなに長くドライブするのは初めて。

 特別感があって楽しい。


「ねえ、音楽つけていい?」

「いいわよ」


 僕はパネルを操作して、気に入ったフォルダを選択した。

 スピーカーから音が流れだす。


「前世界の歌も、いい曲が多いわね」

「うん。僕も結構気に入ってるよ」


 車内をゆったりとした曲が流れて、怜良さんとの時間を楽しませてくれる。

 曲に合わせて鼻歌を歌いながら、流れる景色を眺めていた。





「ねえ、なんか人がたくさんいるよ」

「そうね。たくさんいるようね」


 村の入口が見えてくると、人だかりが目に入った。

 あ、咲坂家のみんながいる。


 やがて車が咲坂家のみんなの前で停車して、二人とも降車した。


「お帰り。長い間待っていたよ。優の故郷だ」

「お帰り、優。やっと帰ってきてくれたわね」

「お帰り。生まれた時から長かったな」

「お帰りなさい。この日が来るのを、みんな首を長くして待っていたわ」

「お帰りなさい、お兄ちゃん」


 みんなが僕を迎えてくれる。


「みんな、ただいま。八年ぶりの咲原だね。これからお世話になるよ。よろしくお願いします」


 僕がそう言うと、みんなが抱きついてきて、もみくちゃにされた。


「君が優くんね。大きくなったわね。私が村長の寺山てらやままなよ。この村は君を歓迎するわ。お帰りなさい」


 進み出て挨拶してくれた人は、黒目黒髪の、優しそうな人だ。


「咲坂優です。これからお世話になります。よろしくお願いします」


 僕はそう言って頭を下げた。


「村の皆さん、お迎えしてくれてありがとうございます。これからお世話になります。よろしくお願いします」


 後ろにいる人たちに挨拶すると、歓声があがった。


「それじゃあ、今日は家に行って休むといいわ。引越しで大変でしょう」

「はい、そうします。ありがとうございます」


 村長に促されて、怜良さんと車に戻った。


「咲坂家の皆さん、あとで伺いますね」

「ああ、待ってるよ」


 怜良さんが声をかけて、車が動き出した。


 村に入ると、どこも桜が咲いている。まだ満開ではないから、平地とは気温が違うようだ。

 菜の花が沢山咲いていて、黄色い絨毯があちこちに広がっている。

 畑が広がって、のどかな景色がつづく。

 山が間近に見えて、迫力がある。

 山は緑が出だしていて、桜もたくさん見える。いろんな色が見えて綺麗だ。

 

 この景色をみるのは、生まれた時以来だな。季節は違うけど何も変わってない。

 これから、この広い世界で生活していけるんだ。

 うれしいな。

 怜良さんとの思い出がたくさん増えるといいな。


「皆さん歓迎してくれたわね」

「うん。よかったよ。これから仲良くなっていけたらいいな」


 しばらく車で走ると、塀に囲まれた建物が見えて来た。敷地がかなり広い。建物が沢山建っている。


「あれが優くんが住むところよ」

「なんかすごく広いよね。あれ全部そうなの?」

「ええ、そうよ。でも住む家は一つだけよ」


 入口の門には人が立っている。すごく背の高い人。

 その門をくぐって、車が一軒の家の前に停車した。

 両開きのドアの前に人が立ってる。


「さあ、着いたわ」

「わぁ」


 大きな家。

 二階建てになってる。

 中に入ると、玄関からすぐに吹き抜けの広いホールになっていて、階段があちこちにある。


「この家にこれから住むことになるわ。この敷地には沢山の人が出入りするから、この家にもそれなりに人が来るわ。入口と門に立っている人は警備よ。今から案内するわね」


 僕は想像していた「家」と全然違うので、呆けていた。

 怜良さんに手を引かれて歩き始める。


「この建物は、優くんが普段生活するエリアの他に、色々な人が出入りするエリアがあるわ。そちらはそのうち覚えてもらえばいいから、今日は優くんの住むエリアに行きましょう」


 ドアをくぐると、そこには普通の玄関があった。

 なんかすごくほっとした。脱力しちゃったよ。


「ここからが住むところよ。靴を脱いで、今までと同じように生活することになるわ」

「よかったよ。やっと家らしい姿を見れて。帰ってきたってことを忘れてしまっていたよ」

「ふふ。始めはそうよね」


 その後は部屋を案内されて、落ち着いたところで、咲坂家でのお昼ご飯にご招待を受けていたらしく、食べに行った。


 九歳になる年度は、こうして始まった。





「須堂怜良。君には新たな任務が追加された」


 悠翔天皇の来訪から一週間後。

 六勝はモニター越しに怜良にそう伝えた。


「はい。どのような任務でしょう」

「その話の前に、先の陛下ご訪問のあと、その日のうちに陛下は緊急権限の発動により、優を特一級要人に指定なさった」

「そんな、まさか……」


 怜良はすぐに事態の重大さを認識した。


「前例がなかったはずですが」

「今回が初の指定となる。指定の意味はわかっているな」


 もちろん怜良はよく理解している。しかし天皇でさえ特二級要人であるはずだ。その天皇よりも上位の指定。この国よりも重い価値とする指定。つまりあらゆる人、物、組織、権限を最優先で用いる。国が滅んでも、国民が全滅しても、天皇を人質に差し出しても、全てを犠牲にしてでも生かす人物。それが特一級要人だ。


「今回の指定は極秘だ。だから他言はするな」

「はい」

「指定に伴い、ただちに要人保護プログラムを発動させた。保護の全権限は私に内密に委任された。よって今後も君は私の指示に従うことになる」

「はい」

「指定が極秘であるため、指定を前提とする権限発動はできない。そこで男性保護局の組織改編及び権限発動を中心に対応する」

「はい」

「須堂怜良、君に本日付で咲坂優保護の現場責任者の地位を与える」

「……はい」

「須堂怜良、君を本日付で特等男性保護官に任命する」

「……はい」

「須堂怜良、君を本日付で内閣男性保護局局長特別補佐に任命する。これは新設ポストだ」

「……はい」

「須堂怜良、君に内閣男性保護局における優先命令権を与える。これは新設権限だ。局長に対する命令権限を含んでいる。権限が及ばないのは、局内では私だけだ」

「……はい」

「須堂怜良、君に局長特別補佐付として、特等男性保護官四名を配属する。配属は一般市民区画での生活が始まる時だ」

「……はい」

「須堂怜良、君に特別予算として、内閣男性保護局機密費の一割を与える。これは君の優先命令権の発動により、金額を予告なく無制限で増額することができる」

「……はい」

「以上の権限を以て、特一級要人咲坂優を保護することを命ずる。これは一等男性保護官としての保護に優先する」

「……拝命します」


 次々と辞令が言い渡される。怜良はこの現実離れした感覚に、第三十八支部に配属された日を思い出していた。


「次に、保護プログラムの内容を説明する。

 保護の実働部隊として、専属警護隊を編成する。事実上の特務隊となる。当面は警護官合計百名とする。一般市民区画での生活が始まる時に配属する。配属に関して咲坂優の名は一切記録に現れない。総理にはすでに指示してある。それまでに徐々に経歴を入れ替え、全国警護隊から選抜する。水準は皇宮警護隊を上回るものとする。

 当然のことながら、専属警護隊の現場指揮権は君にある」

「……はい」


 どんどん責任が大きくなっていく。

 怜良は悠翔天皇のおみやげの和菓子の味を思い出して、現実逃避を始めた。


「次に、君に武器の携行と使用について、制限解除を認める。よって今後はあらゆる武器の携行と使用に制限がなくなる。それに伴い使用車を特別仕様車に変更し、武器その他防御機能を搭載させる。これは現住居の改造を含む」

「……はい」

「次に、監視システムの優先使用を開始する。これは君と咲坂優の二人ともだ。よって君たちは常時、その居場所、行動が全て把握される。発言は把握されないので、緊急の場合は自ら連絡せよ」

「……はい」


 ……プライバシーはもう無いのね。

 私はただの一等男性保護官だったはずよね。


「次に、一般市民区画での生活が始まるまでに、咲原に居住区画を形成する。そして居住区画から半径十キロ以内を警備区域とする。衛星監視を含む監視システムが優先使用される」

「……はい」

「専属警護隊は咲原の居住区画に常駐する。そして警備区域内には警備支援システムが展開される」

「……はい」

「移動の場合には警護隊が警護する。その指揮権は君にある」

「……はい」

「以上のことから、君には各権限を有効に行使するための研修が随時実施される。また各種訓練も再開される。君の留守の間は、私が優の面倒を見る」

「……はい」


 優くんはちゃんとお昼寝してるかな。


「須堂怜良、君には大きな責任がある。優の保護を頼むぞ」

「はい」

「以上は現段階での話だ。今後さらに権限が拡大される予定となっている。将来に特一級要人の指定が公開された場合には、君には内閣総理大臣への優先命令権が与えられる予定だ。とりあえずは今伝えた事項の習熟に励んでくれ。以上だ」


 モニターが暗転した。

 怜良は呆けたままだ。





「怜良さん、何か変だよ?」

「ええ。そうね。変かもね」

「クッキーが口からこぼれてるよ?」

「ええ、そうね。そうかもね」

「今日は僕がお風呂で洗ってあげるね?」

「ええ、そうね。お願いしようかしら」


 怜良が正気を取り戻すには、少し時間がかかった。



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