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教会に案内された僕らは、年長のシスターに事情を説明して、オークションの金を教会に寄付した。シスターは涙を流して喜んでいたが、それ以上に桃穂と別れることに泣いていた。
桃穂は僕と真白の戦いに共感してくれたのか、僕らに懐いているのか、よくわからないけど……僕らと一緒に来ることになった。相変わらずぼーっとしてるけど、きっと桃穂なりの考えがあるんだろう。
「桃穂が仲間になってくれたんは嬉しいねんけどな、桃穂も雑黒も無茶しすぎやで? 十人相手につっこむて。びっくりしたでほんま」
「そんなこと言っても仕方ないだろう? 緊急事態だったんだから。助けないわけにはいかないよ」
「ん」
無策で敵に突っ込んだ僕と桃穂は、真白に軽く叱られていた。真白は作戦を立てて戦うべきだと考えているようだ。戦闘力を持たない真白にとって作戦は大切なのだろう。確かに力勝負は危険なので、基本的には避けるべきだ。しかし今回はシスターの子が危ない目に遭っていたので、仕方ない。
「まあ、ええわ。雑黒ならそうそう負けへんしな。せやけど相手十人はちょっとヒヤっとするで。今度から行くときは行く言うといてな?」
「わかったよ」
真白の僕への信頼は厚い。僕も真白を信頼している。今回の"泥団子作戦"は事前に口頭で打ち合わせしただけだったけど、ぶっつけ本番で真白がやってくれて、おかげで楽に敵を倒せた。僕らのコンビネーションはいい。さらに桃穂が加われば、クラブハウスを潰すこともできそうな気がしてくる。
「せやけど、ウチらは今回で完璧に目を付けられてしもたし、教会も危なくなってもうた。時間はないねんな」
「そうだな。とりあえず、明日クラブハウスに攻撃を仕掛けよう」
「それが一番ええねんけど……できるん? 敵はオーナーのドラゴンだけやないで? ボディガードがいっぱいおるはずやで」
「大丈夫。桃穂が仲間になったから、数はあまり問題にはならないよ」
「ん」
桃穂は僕の言葉にコクコクと頷く。何も考えてなさそうだけど、敵を怖がらないのは長所だ。戦闘員として心強い。
「雑黒の新技やな。決まればめっちゃ強いで。せやけど、相手がどんな敵かわかってへん。危ななったら一旦退避した方がええ」
「うん、それで問題ないよ」
「ん」
明日クラブハウスに攻撃を仕掛けるが、オーナーのドラゴンは倒せなくてもいい。下っ端を倒せば、クラブハウスにダメージを与えることができる。さらに、僕と桃穂のレベルも上がる。そしたら一旦退避して、また作戦を建て直せばいい。オーナーを倒せるまで、何度でも奇襲を仕掛ける。そんなフワッとした作戦を立てて、話し合いは終了した。
「ところで雑黒、オークションでお金ぜんぶ使たやろ?」
「うん、そうだよ」
桃穂を解放するのは二千万モルモで十分だったが、僕は初オークションの雰囲気に飲まれて、うっかり五千万の所持金を使ってしまった。残りは端数の二百五十万だけだ。
「桃穂の装備も買わなアカンし、これから食費や宿代もかかるで。ウチもあんまりお金持ってへんしな。せやから、今日から宿は一部屋にするんがええと思うねん」
「うっ…………」
真白には以前から節約の為に一部屋で寝泊まりする提案をされていた。僕は今日まで断り続けてきたが、金欠になった今、真白の提案を受け入れるべきだろう。
しかし、僕は真白(すっぴんver)と一緒の部屋で寝れる自信はない。大切な戦闘を明日控えているのに、美少女と同じ部屋で寝て睡眠不足に陥ってる場合じゃないぞ……。
「今日はさすがに……」
「いつもそれ言うとるやん。アカンて。贅沢しすぎやで? 今日はアカン。一緒の部屋で決まりや」
「……」
僕が返事を迷っていると、真白は無言のイエスととったのか、「すいませーん!」と言いながら部屋を出ていった。自分の部屋をチェックアウトするつもりだろうか。もう後戻りはできない。
しばらくすると、小さな荷物を持った真白が僕の部屋に来た。
「ほなよろしくな、雑黒。お風呂何時くらいに入るん? 雑黒先でもええで。桃穂はウチと一緒に入ろなー」
「んっ」
「風呂はどっちでもいいよ」
「そか、せやったらベッドどないする? 一つに三人は狭いやんか。ここは公正にジャンケンがええと思うねん。勝った順にベッド、ソファ、床でどや?」
やはり真白も僕と同じ考えだったのか。三人で同じ部屋になるなら、寝る場所は三人バラバラになる。必然的に二人は床かソファになる。僕もついさっきまではそう思っていた。
「けどさ……よく考えたら、一人はここで寝て、二人は家で寝ればいいんじゃないか? 聖域となりし湖を使ってさ」
聖域となりし湖を使えば、ママの家とこの部屋を自由に行き来できるようになる。ママの家は部屋が余っているので、寝泊まりには困らない。つまり、最初から宿は一部屋で良かったのだ。
真白も僕も、なぜこんな単純な方法に気づかなかったんだろう。
「ちっ」
「ん? 真白、舌打ちした?」
「してへんで」
「なんか不機嫌じゃない?」
「別に? お泊り会が無くなってもウチは全然気にしてへんで? そんなん無くたってウチと雑黒の絆は自然と深まっとるからな。せやから別々の部屋で寝るんはええと思うで。ナイスアイディアや。ちっ」
「いや、今舌打ちしたよね」
「してへん」
真白はどうやらお泊り会の気分を味わいたかったようだ。修学旅行の夜みたいな感じか。わからなくはない。
その後、真白が『宿のお風呂がええねん』と言って宿の女風呂に入り、湯上りの火照った顔&パジャマ姿で僕の部屋に現れるという緊張の一瞬があったものの、その日の夜、僕はなんとか落ち着いて眠りにつくことができた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日、僕と桃穂はクラブハウスへ行った。今日は戦闘員の僕ら二人だけで乗り込む。真白は家で留守番だ。
桃穂は動きやすさ重視で、ピンク色のパジャマのような戦闘服を着ている。昨日服がボロボロになってしまったので、朝一で買ってきたのだ。元々着ていたフード付きのパーカーよりは戦いやすいだろう。そして、手には真白から借りた土蛇抜殻の手袋。土属性の攻撃に耐性がある。ラフな服とグロい手袋がアンバランスだが、見た目はこの際仕方がない。
「準備はいいか? 桃穂」
「ん」
「じゃあ一気に乗り込もう。警備員二人は任せた」
「まかされたっ」
そう答えた直後。
クラブハウスの入り口にいた警備員二人が吹っ飛んだ。
超人の最大の武器はスピードだ。パワー、防御力、回復力、スピード、全ての身体能力が突出している超人だが、スピードは全種族で断トツ。奇襲攻撃をさせたら右に出る者はいない。
通行人の女性アバター数人が悲鳴をあげた。僕は構わず店に向かって走り、あらかじめ用意していた泥団子二つを警備員二人に投げつける。
「グッ…………貴様らっ…………!」
「真昼間から何をするつもりだ……!」
「このクラブハウスを潰しに来た」
僕はそう言いながら、店の中へ入る。ドアはすでに桃穂が吹っ飛ばしていた。
店内に入ると、ムード漂うオレンジ色の明かりの下で、ドレス姿の男女が賭けや酒を楽しんでいた。何人かは僕らに注目しているが、まだ気づかずにのんきに笑っている客もいる。余計な犠牲は出したくない。僕らの敵はあくまでも店の人間だけだ。
「桃穂、予定通り頼む」
「ん」
「ブレドラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! 出てこいッッッッ!」
パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!
僕が叫ぶと同時に、桃穂が天井のライトを破壊し始めた。ピンク色の影が天井を飛び回っている。
僕の怒声、ガラスの割れる音、次々消えていく照明。店内は騒然となった。客は我先にと出口へ向かい、黒服の男達が店のホールに現れる。まるで僕らがテロリストになったような気分だ。
しばらくすると客は消え、店内には僕と桃穂、ガードマンらしき男達三十人ほどが残った。オーナーのブレドラはまだ出てこないが、想定内だ。ガードマンを全員倒せば出てくるだろう。




