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「大根と飯と私」

 私はよくスーパーに行く。スーパーは行く度に発見がある。

 冷やし中華や生サンマで季節の移り変わりを知り、瀬戸内レモンや食べるラー油で流行を知る。時には半額シールが貼ってあるものから、お宝を掘り出す事もある。私にとってスーパーとは楽しい場所。例えば遊園地は非日常的楽しさであるが、スーパーは日常的楽しさ。行けば行くほど、楽しいのだ。

 そんな楽しいスーパーであるが、どうにも理解できないことがある。それが今。

 私の目に入ったのは大根の漬物。たくあんではない、白い大根の漬物。


 その時ふと思ったのだ。これ、誰が買うんだろうって。


 今や飽食の時代。漬物なんて貧乏臭い食べ物より美味いものは、ごまんとある。漬物というのは、言わば日本の貧しさの象徴。塩で漬けた野菜で、飯を喰らう。何と悲しい話ではないだろうか。炭水化物という主食を食うために、主菜を食う。例えば欧米ではステーキという主菜に、マッシュポテトもしくはフライドポテトを添える。中国ではそれらを一体化した餃子を食べる。どれも動物性の蛋白質と共に、炭水化物を食べている。現代社会において、野菜のみで炭水化物を食べるなどベジタリアンくらいであろう。

 しかしながら、スーパーとて馬鹿ではあるまい。経営学を学ぶ者が、ごまんといる世なのだ。この大根の漬物とて、需要があるからここにあるのだ。つまり、誰かがこれを食べているのだ。


 普段の私なら買わなかった。けれど、今日は少し気分が良かった。どれ買って食ってやろう、と思ったのだ。少し驕った態度だが、時にはこういう気分の時もある。


 私はそれをカゴに放り込んで家に帰った。


 台所まで荷物を運んだ私は、今日の収穫物を眺める。本日の収穫は中々のものだろう。特売のリキッドティーはいつも通り購入できたし、まだ賞味期限が十分にあるポン酢も半額だった。特筆すべきは生鰹。秋の生鰹は美味い。鰹と言えば初鰹が持て囃されているが、これが持て囃されたのは江戸時代。脂のノったものが苦手だった彼らには初鰹の方が美味しかったかもしれない。けれども今は時流れ、現代。秋の脂のノった戻り鰹の方が、現代人にとっては美味しい。鮪に勝るとも劣らない味わいである。これを炊き立ての飯と共にワシワシと食べるが、実に楽しみである。

 そんな風に生鰹を見てニヤけていた私だが、視線の端にある大根の漬物が主張してきた。


 どうしたものか。勢いで買ってしまい、少し後悔がある。

 それを残したまま他を冷蔵庫に入れた私は、とりあえず味を見ることにした。朝食に出すにしても、丼ものに添えるにしてもまず味を知らなければ。



 そんな考えで、私は大根の漬物を切った。



 覚えているのはここまで。ふと気が付けば大根の漬物は無かった。私の体も台所にはなく、テーブルの前に居た。

 最初は理解できなかった。何が起こったのか、わからなかった。けれど、テーブルの上を見て恐怖した。乱雑に置かれた箸と空の茶碗。これが意味する事がわからぬほど、私は馬鹿ではなかった。

 それでも、確認したかった。これをやったのは自分ではないと、考えたかった。

 私はそんな焦りから、冷凍庫を開き中を見る。


 冷凍したご飯は綺麗になくなっていた。


 私は、やってしまったのだ。自らの欲に逆らえず、自らを止めることができなかったのだ。

 思わず自分の体をきつく抱きしめる。ただ怖かった。誰かに縋りたいという反応を紛らわせるために取った行動だ。けれど、この場にいるのは私一人。ただガチガチという歯が噛み合う音しか聞こえない。


「ひぃっ!」


 いや、大根の漬物がここにいた。その衝撃に思わず私から声が漏れる。

 残りの大根達が私に話しかけているように見えた。モットクエ、モットクエと言っていた。

 私は自分の体を押さえきれず、残っている大根から一口分切り出した。



 明日になって私はまた、スーパーに来た。季節ものも流行りものも、半額品にも目をくれない。

 大根の漬物を見た。



 また大根の漬物を、買った。



誇張しています。

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