第034話 動き出す“嫉妬”
魔界。かつては“傲慢”の漆罪魔の居城だったプライド城。その玉座の間で、サタナスは部下であるバエリアの報告に耳を傾けていた。
「――以上が今回の件の概要です」
「そうか、ご苦労」
霊力を持つ少女とルシフェリアのデビライズ――クイン・ルシフェリア。そして“暴食”を司る漆罪魔・ベルゼのデビライズ姿――スカイ・ベルゼ。
二体の漆罪魔がデビライズして争い、結果ルシフェリア側が勝利を収めた。この結果に、サタナスは満足していた。
「まだ本調子ではないだろうに、それでもベルゼの奴を返り討ちにするとはな。さすがはルシフェリア、と言ったところか」
「ええ。とは言えかなりの接戦だったようですが」
ベルゼの実力は漆罪魔の中では中堅かそれ以下と言ったところ。最強格のルシフェリアならば圧勝してほしい、というのがサタナスの本音ではあった。
「依代が悪いのか、単にまだまだ本調子ではないだけなのか。何にせよ今回だけで判断するのは早計か」
「そうですね」
ルシフェリアが魔界を追放されてから2ヶ月弱。そろそろ完全回復し、本調子を取り戻していても不思議ではない。それくらいの期間は経っているはずだった。
「そもそも霊力で回復しているというのがイレギュラー。普通の魔族の常識は当てはまらん、ということか」
霊力は人間が魔族に対抗するための力。そんな力で回復すること自体が有り得ない。むしろダメージを受けたり、浄化されてしまう方が自然だ。
「サタナス様、次はいかがなさいます? 今回の一件でルシフェリアの大体の潜伏先は絞れましたから、もう追っ手を差し向ける必要はないと存じますが……」
「そうだな……」
サタナスは思案する。他の漆罪魔に先を越される前に始末しなければならない。だが今はまだルシフェリアを討つべき時ではない。ならばどうすべきか。
「バエリアよ、『奴』を呼べ」
「奴……もしや“レヴィア”のことでしょうか?」
「ああ」
「承知しました。ですが、どのようにしてこちらへ? 彼女は魔王の座にはあまり興味がない、という認識ですが……」
確かにバエリアの言う通り、レヴィアは王の座には大して興味がないはず。サタナスも同じ見解だった。
しかし、彼は知っている。レヴィアがルシフェリアに対し、ある「強い感情」を抱いていることを。
「問題ない。ルシフェリアの名を出せば奴は来るさ。……必ずな」
「なになにー、アタシに用事って一体何なワケー?」
プライド城にある一室、円卓の間。漆罪魔が集まり、話し合う場としてルシフェリアが作らせた部屋である。
部屋に入ってくるなり、軽い口調でサタナスに話しかけてきたのはレヴィア。“嫉妬”を司る漆罪魔だ。
「相変わらず騒がしい……ゴホン、賑やかな奴だ」
「それって褒めてるー? それとも貶してるー?」
「安心しろ。貶している」
「ムッキー! アンタこそ相変わらずムカつく奴ね!」
やはり喧しい奴だ、と彼は内心嘆息した。ついつい煽ってしまったことを後悔する。
「それで? 要件は何? まさか馬鹿にするために呼んだワケー?」
「そんなはずがないだろう。我は貴様のように暇ではない。一緒にするな」
「ムカッ! 年下のくせに生意気よアンタ!」
普段は年上扱いすると怒るのはどこのどいつだ? とサタナスは思う。思うがそれを指摘するとまた五月蝿くなるのは目に見えているので堪える。
「ところでレヴィアよ。貴様は最近、ルシフェリアと会っているか?」
「ハァ、ルシフェリア? なんでアタシがあんなじゃりン子にわざわざ会わなきゃいけないワケー?」
「……そうか。ならば奴の近況も知らんのだな?」
「近況?」
魔界を統一して魔王を名乗ろうとしたこと。
人間界に攻撃を仕掛けるのではなく、人間と仲良くするなどという世迷い言を吐いたこと。
サタナスの部下に追われ、人間界へ逃げ込んだこと。
霊力を持つ人間に取り憑き、デビライズまでしてベルゼを返り討ちにしたこと。
サタナスはレヴィアに、要点だけを掻い摘んで伝えた。
「プププ……。それマジ? 超ウケるんだけど! こんな城まで建てて魔王を気取ってたのに、城を乗っ取られた上に魔界を追放されちゃうとかさぁ! プププ……アハハハッ!!」
爆笑と言えるほど大笑いするレヴィア。やはり喧しい、とサタナスは顔を引き攣らせる。
「ゴホン。それで……どうだ? 人間界へ行き、ルシフェリアを始末する。貴様もルシフェリアのことはよく思っていなかったはずだ。やってもらえないか?」
「そうねー、あのクソ生意気なじゃりン子をこの手で始末するのも楽しそうだしー、ついでに人間どもの『嫉妬心』を煽るのも面白そうだしねー」
言い終えると同時にレヴィアは目を閉じる。直後、部屋の空気が冷えていくのをサタナスは感じ取った。
「いいよー、引き受けてアゲる! あの余裕に満ちたクソ生意気な小娘の顔、グチャグチャに潰しちゃうんだからぁ!」
レヴィアは一気に目を見開く。サタナスの持つグラスが一瞬のうちに凍り付く。――これがレヴィアの能力。
「それじゃ、行ってくるとしますかー! ルシフェリアの首、楽しみにしててねー!」
ウィンクをし、円卓の間を後にするレヴィア。サタナスの思惑通り、彼女は話に乗った。ルシフェリアを始末するため、人間界へと赴く。
「ふぅ……。やれやれ」
レヴィアが去った後の円卓の間で、サタナスは深く溜め息を吐いた。
「相変わらず賑やかな方でしたね」
レヴィアの退室を確認したバエリアが入室してきた。彼女も呆れたような表情を浮かべている。
「会話……聞いていたのか?」
「他の者が近づかぬよう見張っていたら聞こえてしまっただけです。もっとも、レヴィアの声だけですが」
「そうか……。本当に喧しい女だな、奴は」
額に手を添え、嘆息するサタナス。わざわざこの円卓の間で話した意味がない。そう感じていた。
「だが……精々役に立ってもらうぞ。ルシフェリアが漆罪魔を返り討ちにすればする程、奴を倒す価値が上がるからな」
「しかしサタナス様、万が一レヴィアがルシフェリアを倒してしまったら?」
確かにその可能性も有る。ルシフェリアはまだ本調子ではないし、依代に足を引っ張られている可能性もある。加えてベルゼ戦での消耗もある。だが。
「これくらいの試練、軽く跳ね除けてもらわねばそもそも倒す価値がない。我は信じて待つさ。……ルシフェリアの勝利を、な」
ルシフェリアと敵対するサタナス。だが彼はルシフェリアの実力を高く買い、信頼している。全ては自身が、真の魔王の座に就くために――
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続く第35話も投稿しております。よろしければお読みください。




