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寂しい侍女は、高慢王子の一番になる  作者: 三国司
建国祭編

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48/48

番外編『自信をつける方法』

寂しい侍女がコミカライズ化されることになりました!

なので記念の小話更新です。

ピッコマ様で今日(2023/7/7)から連載開始してます。

詳しくはツイッターで!

 季節は春。フルートーの屋敷の庭では様々な花が咲き乱れ、風が吹けば華やかな香りが広がる。今日は空も晴れて心地良い陽気だ。

 

「すっかり暖かくなりましたね」


 私は屋敷の裏庭に置かれたベンチに座り、隣に腰掛けているロキオ殿下に話しかけた。

 結婚して一年、私たちは王城からフルートーの屋敷に住まいを移して新婚生活を送っている。


「ああ」


 殿下は言葉少なに返して、握っている私の左手を見つめていた。そして私の薬指を自分の親指でなぞって、すねているような口調で言う。


「指輪は?」


 こちらをちょっぴり睨んでくるロキオ殿下は相変わらず子供っぽいところがある。私は思わず笑ってしまったが、すぐに表情を引き締めて言い訳した。


「綺麗に磨こうと思って外してあるだけなんです。寝室のテーブルにありますよ。手入れしたらすぐにつけます」


 ロキオ殿下を安心させようと早口で言うと、殿下はバツが悪そうに顔を背けた。でも手は繋いだままだ。


「駄目だな。結婚したらいくらか安心できるかと思ったが……」

「まさか私が心変わりすることを不安に思っていらっしゃるのですか?」


 驚いて何度もまばたきしながら殿下を見つめると、殿下は少し頬を赤くしてこちらを睨むように見つめ返してきた。

 ロキオ殿下の素直な反応を見ていると、愛されている実感が持てて嬉しくなる。だから私も、照れくさくてもなるべく素直な気持ちを伝えるようにしている。


「そんなことあるわけないじゃないですか。私の一番はずっとロキオだけです」


 自然にほほ笑んで言う。結婚しても基本的には『殿下』をつけて呼んでいるけど、こういう時は名前で呼ぶようにしている。

 するとロキオ殿下は安心したように穏やかにほほ笑んで、


「うん」


 私に優しく口付けした。

 と、そんなふうに私たちが新婚らしいことをしていると、芝生を踏む軽やかな足音がこちらに近づいてきた。

 その音を聞いて殿下が唇を離したと同時に、殿下の従者であるスピンツ君が裏庭に現れた。


「殿下! やっぱりここにいらっしゃったんですね! ご報告があります!」

「どうした?」


 興奮気味に話すスピンツ君に、何事かとロキオ殿下も真面目な顔を向ける。

 

「あっちの池にオタマジャクシがいました!」

「そんな報告はいらん」


 真面目に聞き返して損したと、ロキオ殿下はため息をつく。 

 

「あと、仕立て屋さんが到着されました。応接室でお待ちです」

「それを先に言え」


 ロキオ殿下はぴしゃりと言って立ち上がると、私には優しく尋ねてきた。


「エアーリアも一緒に来てくれ。新しい服を仕立てたい」

「ええ、分かりました」

「ついでにエアーリアもドレスを頼んだらどうだ? 好きなものを作ってもらうといい」

「いえ、私は……」

「遠慮しなくていい」


 首を横に振る私に殿下はそう言ったけど、別に遠慮しているわけではないのだ。


(もうドレスは十分あるし、次から次へと新しいドレスを着ていたら領民に良く思われないと思うのよね)


 ロキオ殿下は周囲の人からあまり好かれないように立ち振る舞っているせいで、王都では高慢王子と言われることもある。だけどここフルートーではそういう振る舞いを控えていることもあって、領民からは慕われている。

 噂によると、私みたいな地味な女性を妻にしたことを好意的に見ている領民も多いらしい。


(だから引き続き控えめでいないと。そもそも私も『着飾る』ということにそれほど興味があるわけじゃない。私みたいに地味な顔立ちだと、華やかなドレスを作ってもらっても似合わないし)


 宝飾品もドレスも化粧品も、必要最低限だけでいいのだ。ロキオ殿下の妻として恥ずかしくない格好はしていたいと思うけれど、華美に装う必要はないかなと思う。


「遠慮しているのではなく、結婚した時にロキオ殿下にもドレスをたくさんいただきましたし、まずはそれを着ていかないと」

「まだ着ていないドレスもあるからな」

「え?」


 私はビクッと肩をすくませてロキオ殿下を見た。


(殿下、分かっておられたんだ……)


 殿下に頂いたドレスは八着。ほとんどが私の好みに合った、深い青や落ち着いた緑の、控えめで上品なドレスだった。だから気に入って順番に毎日着ている。

 でも、一着だけまだ身につけていないドレスがあるのだ。淡いピンクの、華やかなドレス。


「ピンクは……好みに合わないか?」


 ロキオ殿下はこちらに気を遣いながら尋ねてきた。

 私は慌てて返す。


「いえ、そんな……! ピンクは好きです。あのドレスも子供っぽくなく、美しいドレスでした。でも私にはちょっと……似合わないかなと」

「似合わないなんてそんなことはないと思うが……」


 夫婦になったというのにもじもじしながら話をしている私たちを、スピンツ君が不思議そうに見ている。

 殿下は私が嫌がることを無理に勧めたくないらしく、強引に「着ろ」とは言ってこない。着てほしいけど嫌なのかなって、こちらをうかがっている感じがする。こういうところは弱気と言うか、私の気持ちを一番に考えてくれる。

 ちょっと期待しているようなその目を見ると着てあげたくなるが、やっぱり私にはピンクのドレスを着こなせる自信がない。素敵なドレスだったからこそ、私のような地味な人間には絶対に似合わないって分かるのだ。

 私が顔を伏せていると、ロキオ殿下は気を取り直してこう言う。


「まぁ、好きな服を着るのが一番だ。私はエアーリアはどんな色のドレスでも似合うと思うが、気が進まないなら無理に着る必要はない」


 気が進まないなんて……と否定しようとしたが、実際着たくないと思ってしまっているので、私は「すみません」と謝って、殿下やスピンツ君と一緒に屋敷の中に入ったのだった。



 翌日。私は私室でソファーに座り、猫のロクサーヌをブラッシングしていた。部屋にはアンナという名の新しい侍女が一人いて、お茶の用意をしながら私のお喋り相手になってくれている。

 とそこへ、フルートーの屋敷の管理人一家の娘であるサラさんがやってきた。冷静でしっかりしていて、頼れる女性だ。


「エアーリア様、失礼します」


 私が侍女だった頃、サラさんは殿下のお世話をする私を手伝ってくれていた。けれど私が殿下と結婚した今では、彼女が私や殿下の侍女の一人になってくれた。

 私についてくれている侍女はサラさんとアンナの二人だ。

 

「今、お時間よろしいですか?」

「大丈夫よ」


 丁寧に確認すると、サラさんは感情の読みにくい無の表情で唐突に言う。


「エアーリア様、実は私、お化粧や髪結いが得意なのです」

「え? ええ、知っているわ。いつもやってもらっているし」


 何の話だろうと思いながら笑顔で返す。しかしサラさんは淡々とこう続けた。


「いえ、私の実力はそんなものじゃないのです。エアーリア様は元が良いので派手な化粧をする必要も、髪を飾り立てる必要もないでしょう。だから普段は実力を全く発揮できていません」

「元が良いなんてそんな……。えーっと、それで……どうしたの?」


 困ったように曖昧に笑って、首を傾げる。サラさんは普段は物静かで余計なお喋りはしないのに、今日は何だか変だ。アンナも、ロクサーヌですらちょっと驚いてサラさんを見ている。

 サラさんは普段とは違う少し強引な態度で言う。


「私に実力を披露させてほしいので、エアーリア様をより美しくさせてください」


 手に持っていた四角い鞄をテーブルに置くと、それを開けて中身を見せてくる。確かに化粧品や髪ブラシ、髪飾りなんかが色々入っているけれど……。


「ちょうど明日はロキオ殿下のお誕生日です。その特別な日にお化粧をして髪を結い、エアーリア様が普段と違う装いをされたら殿下も喜ばれるでしょう。そうだ、以前殿下がエアーリア様に贈られた、ピンクのドレスなど着てみてはいかがですか?」


 サラさんのセリフは棒読みだった。元々感情を込めて喋る人ではないものの、最後の一文は絶対に今思いついたわけではない。

 私は訝しく思ってサラさんを見た。


「サラさん……。もしかして殿下に何か言われた?」


 彼女がピンクのドレスの話をしてくるなんて、ロキオ殿下に何か言われたからとしか考えられなかった。

 サラさんは早々に諦めて白状する。


「殿下はあの淡いピンクのドレスをエアーリア様が着ている姿を一度でいいから見てみたいらしいです。絶対に似合うはずだとおっしゃっていました」


 昨日、私と話しをした後、ロキオ殿下はサラさんにこう打ち明けたらしい。

 

『エアーリアは似合わないからなどと言い訳していたが、似合わないわけがないからあれは嘘なのだ。だからピンクが嫌で着たくないのだろう。だったら無理強いはできない。それに私は落ち着いた色やデザインのドレスを着ているエアーリアもとても好きなのだ。でも普段着ない色のドレスを着ているエアーリアも見たい! 絶対に似合うし、エアーリアの可愛らしさがより強調されると思わないか? 上品で美しいエアーリアが好きだが、たまにはそういうエアーリアも……!』


 私が口をぽかんと開けて聞いていると、サラさんは目を伏せて続ける。


「――と、早口でおっしゃっていました。とても切実な願いだと思い、叶えてあげたいと思った次第です」

「サラさんは殿下に甘いなぁ」


 思わず笑ってしまいながら、眉を垂らして言う。殿下もサラさんを信頼しているので本音を言えるようだ。


「でもそっか、そんなに着てほしいのか……」


 私は腕を組み、「うーん」と迷いながら言う。


「だけど私はあのドレスを着こなせる自信がないわ。殿下は私に似合うと思っておられるようだけど、もっと華やかで可愛らしい子じゃないと」

「またそんなことをおっしゃって。まるで自分が可愛くないみたいに」


 アンナは少し怒って私に言った。彼女はまだ若く、私より年下だが、私が今みたいに自分を卑下することを嫌がるのだ。

 そしてアンナはサラさんに向かって言う。


「やりましょう、サラさん! 明日、エアーリア様にピンクのドレスを着させます! それが私たちから殿下への誕生日プレゼントです!」


 どうしよう、謎にアンナのやる気に火をつけてしまった。


「む、無理よ……。勘弁してちょうだい。私には似合わないったら……」


 もはや半泣きになって縋るように言うが、アンナの決意は揺るがなかった。

 サラさんも私を見て言う。


「まずエアーリア様は可愛らしいです。だからピンクのドレスも似合います。そしていつもとは言いませんが、殿下のことを想うなら、たまには殿下が喜ぶかもと想像しながら自分を飾るのもいいのではないでしょうか?」


 それからサラさんは、ちょっと恥ずかしそうに自分の話をした。彼女は最近、フルートーで小さな病院を営むお医者様との結婚が決まったのだ。

 飾り気がなく控えめで、優しい男性らしい。


「私もエアーリア様と同じで、自分に似合うものは限られていると思っていました。可愛いものなんて似合わないって。だけど婚約者にもらった可愛いらしい花の髪飾りを初めてつけた時、彼はとても喜んでくれたんです。そういう顔が見られて、私もつけてよかったと思えました」


 サラさんは僅かに頬を染めている。婚約の報告を受けた時も淡々としていたけれど、相手のお医者様は良い人なのだろう。最初は結婚に乗り気でなかったように見えたサラさんも、段々と彼に惹かれていっているようで安心した。


 そしてサラさんの話を聞いて、私もロキオ殿下を喜ばせたい気持ちにはなった。本当に喜んでくれるならピンクのドレスを着たい。でもいかんせん私という素材が悪過ぎて、逆にがっかりさせてしまうのが怖い。

 私が弱気でいると、サラさんもアンナも腕まくりして胸を張り、二人で同時に言う。


「私たちに任せてください!」


 彼女たちの熱意に押されて、私は殿下の誕生日にピンクのドレスを着ることに同意した。もしも似合わなかったら二人ならきっとはっきりそう言って、ドレスを変えてくれるはずだから。


 

 ロキオ殿下の誕生日の日、私は初め、お気に入りの紺色のドレスを着ていた。そして午後になり、殿下の誕生会という名目で開かれたパーティーにピンクのドレスを着て出席することになった。

 このパーティーは屋敷の庭で開かれ、貴族も出席するけど人数は多くないし、主にフルートーで働く役人や地域に貢献してくれている庶民を呼んでいて、気軽なものになる予定だ。


 国王陛下や王妃様、ロキオ殿下の兄王子二人は出席されないが、代わりに誕生日を祝う手紙や贈り物が届いた。

 私という伴侶がいる今では、殿下は自分の家族に対する複雑な感情はほとんど消えたみたい。晴れやかな顔で素直に贈り物を受け取っていた。それが午前のことだ。


 そして午後になると私はサラさんとアンナに連れていかれて着替え、髪を結い、化粧をした。


「化粧は厚くなり過ぎないように。エアーリア様の透明感はそのままで、可憐な感じ」

「でも子供っぽくならないようにしないとですね!」

「ええ、髪も巻いてから普段より華やかに結って、髪飾りは……」


 やる気満々な二人にてきぱきと飾り立てられ、思っていたより早く準備は終わった。2時間くらいはかかると思ったのに、もっと時間をかけなくて大丈夫なのだろうか? 化粧もしっかり濃いめにやってもらわないと、顔がドレスに負けていないだろうか?


「さぁ、できましたよ」

「完璧です!」


 化粧台の鏡に映る私は、確かに普段より華やかで素敵だった。緩く結われた髪は大人っぽくもあり可愛らしくもあったし、真珠の髪飾りが清廉な印象を与える。化粧は控えめだけど、ドレスと同じ淡いピンクの口紅が目を惹く。とても可愛い色だけど、意外にも私に似合っている。

 ドレスは色もさることながらフリルも多めで、シンプルなドレスばかり着ている私には難易度が高いと思ったけど、案外ちぐはぐさはなくてホッとした。髪型とお化粧にも合っていて、ふわりと可愛らしい雰囲気だ。

 ドレスは胸元がざっくり空いているわけではないけれど、鎖骨が見えて、殿下から貰った繊細で美しいダイヤの首飾りがよく映える。


「綺麗、だけど……」

 

 サラさんとアンナは本当によくやってくれたと思う。

 でもいつも自信がなく、自己卑下が常になってしまっている私は、綺麗になった自分を見てもまだ不安だった。

 するとサラさんは私を立たせながら言う。


「そんな弱気な顔をなさらず、さっそく殿下に見せに行きましょう。実は早めに参加者の方々がお集まりになったので、パーティーももう始まっています」

「えぇ!?」


 主役の妻がいないのはまずいと、私は慌てて庭に向かう。みんながもう集まっているのに、私だけ後から出ていくというのも目立って嫌だ。


(落ち着いた薄いピンクだし、私もまだピンクを着ていい歳だと思うけど……。でもあんな地味な子がピンクのドレスなんか着て、って思われたらどうしよう。似合わないって笑われたら)


 ぐるぐる考えながら廊下を小走りで進む。一人でいるとどんどんネガティブになってしまう。こういうところを直さなきゃって思うけど、性格はなかなか変えられない。

 だから私にはロキオ殿下が必要だ。私を一番に愛してくれる人が……。


「わ、たくさん集まってくださったわね」


 参加者の人数は把握しているけど、実際に見るとそれより多く感じられた。みんなそれぞれお喋りしながら飲み物を飲んで、気軽で楽しい雰囲気だ。

 庶民も参加する昼のパーティーだから、参加者の服装もそこまできっちりしていない。私の明るくて可愛いドレスも馴染んでる。


「ロキオ殿下はどこに……」


 きょろきょろと辺りを見回す私に、サラさんが「あちらです」と教えてくれたのと、その先でロキオ殿下がこちらを振り返ったのはほぼ同時だった。


「……」

「殿下?」


 ロキオ殿下は私を見るとそのまま動かなくなってしまった。まばたきも止まってしまっている。

 少し距離があったので、私はドレスの裾を軽く持ち上げながら殿下の元へ向かった。


(やっぱり似合ってないかな?)


 不安に思いながら恐る恐る近づくと、殿下の周りに集まっていた人はみんな私に気づいて道を開けてくれた。殿下だけじゃなく、他のみんなも動きを止めてこっちを見ている。


(そんなに変!?)


 ここだけしんと静まり返ってしまったので、私は泣きそうになった。恥ずかしくて頬が赤くなっていくのが自分でも分かる。もう逃げ出したい。


「お、遅れて申し訳ありません……」


 居たたまれない気持ちで殿下に声をかける。

 すると殿下は短く息を吐いて、驚愕しているような顔で私を見たまま、胸に片手を当てて言った。


「……驚いた。驚き過ぎて息をするのを忘れていた」

「そんなに似合っていませんか?」

「いや逆だ!」


 半泣きの私に、ロキオ殿下は強く反論した。


「すごく似合っている。可愛らしくて見とれてしまった。エアーリアの新たな魅力を発見した気分だ。結婚式の時、ウエディングドレスを着たエアーリアは清楚で美しく、女神と見間違えるほどだったが、今のエアーリアは妖精のようだ。こんな素敵な女性が妻だとは、私はなんて幸せ者なんだと改めて感動している。とっても綺麗だ」


 とめどない褒め言葉を浴びせられて、今度は私が固まってしまった。

 するとロキオ殿下は私を溶かすように甘ったるくほほ笑んで、優しく頬に手を添えてくる。


「本当に可愛い。やはりそういうドレスも似合う。綺麗だ」

 

 顔が一気に赤くなる。恥ずかしさと嬉しさと喜びが、からだ中を駆け巡っている。

 卑屈な私が、自分一人で自信をつけるのは難しい。でもロキオ殿下がこうやって褒めてくれるから、私は少しずつ自分を好きになっていく。

 自分には似合わないと思っていた可愛いドレスも着ていいんだと思える。殿下がこんなふうに喜んでくれるなら、これからも着たいと思える。


「私のために着てくれたんだな。ありがとう」

「サラさんとアンナが一生懸命やってくれて……」

「そうか、二人には感謝しないとな」


 私と殿下は、少し離れたところから見守ってくれているサラさんとアンナに視線を向けた。二人も満足げにほほ笑んでいる。


「エアーリアさん、お人形みたいに可愛いです!」


 殿下の後ろにいたスピンツ君も手を叩いて褒めてくれた。

 そして参加者の人たちも、驚いた顔をしたり、ほほ笑ましそうにこちらを見たりしながらこんなことを話している。


「いやいや、印象が変わりましたな」

「元からお美しい奥様でしたけど、今日は雰囲気が違って可愛らしいですわね」

「奥様の印象も変わったが、殿下の印象も……」

「ええ、愛妻家で素敵ですね」


 二人で一緒にいれば、私たちは本来の自分に戻れるのかもしれない。育ってきた環境によって失ってきたものを、二人でいれば取り戻せるのだ。


「私の誕生日に、これ以上ないプレゼントだ」


 殿下はそう言って私にキスをしようとして、寸前で「口紅がついてしまうな」と気づいて笑う。

 そして代わりに頬に優しく口づけを落としたのだった。

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