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刃の鋭さを知る影法師

はるか彼方から聞こえる爆音。

その数は方向からみると、大まかに二つ。

一つは何かが破裂する様な爆発音、夜目で見えにくいが遥か向こう。

上から確認した時に見えた、一際大きな日本家屋があった辺りで煙が上がっているから、恐らくは間違いでは無い。

もう一つは畑があった辺り。

遠目から見た時に見えた赤外線センサーの網があった場所だろう、煙は立っていないが断続した炸裂音が空気を震わせている。

奈緒美は悩む、今目の前で起きている戦いと遥か向こうで起きている戦争みたいな戦い、どちらが能力者らしいのかと。



壁を一足飛びで越えた後、案の定二人は三人の能力者に囲まれた。

どこにでもいる様な、おっさんと言う風な壮年男性の風貌だったが、その身から漏れる励起波が彼等が能力者と言う事を物語っていた。

三人とも忍者の様な装束で身を包み、匕首の様なモノを構えて既に臨戦体勢。

次の瞬間には身体ごと叩きつける様に匕首を刺してくる、と言う未来予測をした奈緒美は葵に警告しようとする。

が、それよりも早く葵は奈緒美を空に放物線を描く様に投げた。

それの意図する意味に気付いた奈緒美は、反射的に「殺さないで!」と言うのが精一杯。

次の瞬間には、三人の能力者は地に糸が切れたかの様にその場に崩れ落ちる。

まさに静かな閃光、周辺で繰り広げられている戦いとは一線を画す対象的な戦いだ。

奈緒美の声が間に合ったのか、かろうじて生きている三人を壁際に寄せながら奈緒美は聞いた。


「どうやったんですか? 何かの能力ですか?」

「特別な事はしていない、回り込んで昏倒させたそれだけだ」


やっぱりかと奈緒美は声を出さずに納得する。

彼女を空に放り投げ相手の意識が移った瞬間に、神足通で相手の意識外に抜け回り込んで痛打して昏倒させたと言うのが真相らしい。

しかし言葉で言うには簡単だが、やるとなると難易度は高い。

戦闘中の人間の意識から抜ける、しかも三人と言う人数からのだ。

その上に励起法を使う能力者を気絶させる程度の威力に絞る的確な攻撃。

難易度は遥かに高い。

それを当たり前の様に言う葵に、これからの感情のない男との修業に不安を覚えた。


「それよりもだ、これからどうする?」

「どうするも何も、イギーさんの計画は少しズレましたが行動予定表の範囲内です」

「そうか」

「計画通り進めます」


イギーの計画は簡単に言えば、囮班と実行班と待機班の三グループに分け一つのグループが囮になっている間に実行班が動き、実行班が見つかった場合は実行班が囮になり待機班が動くと言うモノ。

この計画の利点は、どの班が失敗しても他の班がいるためフォローが効く事と、今回の様に二班同時に戦闘に入っても計画に支障がない事だ。

作戦前に渡されたイギーの行動予定表の範囲からはまだ逸脱はない。

奈緒美は目の前で立つ雷神だけではなく、蜘蛛の巣の様な計画を立てるイギーの恐ろしさに薄ら寒くなった。

そんな考えに入ってしまった奈緒美を引き戻す様に、平坦な声がかかる。


「侵入経路はどうする?」

「えっあ、スイマセン。侵入経路は………少しマズイですね」

「どういう事だ?」

「先程の方達の心を読んだところ、入口が一箇所しかないみたいなんですよ。此処はどうやら秘密の繊維工場らしくて、使う薬品や材料が爆発物が多く儀式処理をしている耐爆性の壁で囲っている様なんです」

「中にいる人間が逃げる為の出口はないのか?」

「語弊がありました。正確に言えば、この近くにある入口が一箇所しかないです。他の入口はあと二箇所、あっちと」


そうやって指差すのは爆発音が今だに聞こえる日本家屋の方向。


「あっちです」


もう一つは炸裂音が聞こえる畑の向こうにある公民館らしき建物。


「無理だな」

「ハイその通りです。だから今私達が取る方法は、今ここで寝ている人達を……葵さん?」


ここで寝ている人を起こして入口を開かせる方向で行きましょうと説明している最中に、葵は建物の壁際にスタスタと歩いて行っていた。


「どうしました?」

「少しどいていてくれ」


しばらく壁に手を当てていた葵は、壁から距離を取り構える。


「チョッチョット、説明聞いてました? 儀式処理をした耐爆性の壁ですよ⁉ 恐らく厚さ50センチ近い複合合金製です。能力者と言えども簡単にっ⁉」


奈緒美の説明が終わるより早く、葵の手が霞む。

後に残るのは鍔鳴のみ。


「えっ?」


姿勢を戻した葵がそっと壁に足を添えると、壁がユックリと三角形に抜ける。

クッキー型で生地を抜いた様にアッサリとだ。


「先に進もう」

「耐爆性なんですよぅ」


葵の常識外れの力に、奈緒美は誰に言いたいのか解らない呟きを吐き出した。


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