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06話 怨嗟

「マサちゃん、頭を上げてくれ」

静寂をダーちゃんが破った。

…その為のエルフです…あれは”ネ”か。


「そうそう、頭を上げてくれマサちゃん。今更十年前の話をしても仕方がない…それに、その子が首謀者でも共謀者でも無いんだろう?」

ドンちゃんが続く。

「俺ももう済んだ事だと思うぜ?兄貴。…今更小娘一人を責めた処で、何も変わらんさ」


「だけど、沢山の者が死んだんだろう?イーストランド王が攻め込まなければ、死ななくても良い命があったハズ」


「そりゃそうだけどさ…魔王と違って無差別じゃないしね~。”世界樹の雫”が欲しかっただけで、イーストランド王はエルフを殲滅しようと思った訳では無いと思うよ?…まあイーストランド軍の行動はとても奇妙(・・)だったんだけどさ。…それにこんな事を(エルフ)が言うのもおかしいと思うだろうけど…少しぐらいあげても良かったんじゃないかな?と思うんだよね…。だって”ノースシーロード大陸”にエルフは住んで居るけど、世界を造ったのは”神アマテラス様”。そして”世界樹の雫”は、その自然の中から出来た物。頑なに拒んだ(先代)も悪いんじゃ無いかな」


…ん?そう言われるとそんな気もしてくるな。

「でもさ、ダーちゃん。”世界樹の雫”は少なくなっていたんでしょう?」


「うん。でも少しは有ったって事さ。イーストランド王妃に使う分くらい、どうにかなった筈なんだよ。これじゃぁエルフが”神の恵み”を独り占めしてるみたいじゃない?…そもそも何でエルフだけが”ノースシーロード大陸”に残ったか知ってる?」


「いいや、知らない」

その部分は誰にも聞いてないしな。


「エルフは寿命が長い…といっても精々、他の倍生きる位だけどさ…弱いんだよ、エルフは。魔法は全ての種族が使えるし、獣人やドワーフの様に膂力(りょりょく)がある訳では無く、人間の様に繁殖力が強い訳でも無い…”ノースシーロード大陸”が人で溢れそうになった時…父と母(タロウとハナコ)の死を境に、人間は”イヤマート大陸”に、獣人とドワーフは”サウスランド大陸”に出て行って(・・・・)くれたんだ…。理由は分からないけど”同族以外での交配を禁止する”っていう掟が有ったから、別々に住むようになったっていう説もあるんだけどさ…。エルフは(他種族)の御蔭でノースシーロード大陸に住んでるって事。だから”くれ”と頼まれたら、少しはあげたって良かったんだよ」


その話も初耳だ。

神アマテラスは”互いに交配も可能です”と言っていた。

交配を禁止したのは誰だ?…各部族の祖先達か?


「オイラ達の祖先は別に国が欲しい訳じゃ無いから、獣人に付いて行ったらしい…ドワーフは酒と鉱石が有れば何処に住んでもいいからね。だからドワーフは”王”を名乗っても”国王”とは名乗らないんだよ」

成程、❛神の眼❜(ホーリー・アイ)で鑑定してもドンちゃんだけ国王では無く”王”と成っているのはその所為か。



「兄貴、俺の親爺はバルドという人間に斬られた。…その事だけを言えば恨まない気持ちを変に思うだろうが、こっちは三十人の部隊でバルド一人を囲んだんだ。もう一歩という時に、一人の人間の男が庇って仕留められ無かった。結局親爺は返り討ちにされ、バルド達は生き残った…人間二人を相手に三十人は卑怯だろって事だが…何を言いてぇかというと…あーーー!どう説明すりゃいいんだ?ダーちゃん!」


「あ~、コテッちゃん。多分、”戦に正義も悪も無い”って事を言いたいんだろう?見る側によって正義は変わるからさ」

「それそれ!人間側からすりゃぁ俺らは悪なんだろうな…その他大勢の奴らは、命令されて戦ってただけだ。だからさ…あーー!もう!何て言ゃあ良いんだ?ドンちゃん!」

「全員が悪人じゃ無いって事だろう?」

「そうそう!…だから、その娘に罪は無ぇって事だ」

「でね、イーストランド王達が死んで、私達は停戦協定を持ち出した。お互い被害が大きかったし…人間側だって戦い続ける理由が無くなった訳けだしね。で、話し合いの結果、”ブルー・フォレスト国””キアタの街””ワイテの街”を貰った。他の二村も私達が治めている。これも誰がどの地を治めようとおかしいよね?だって”神アマテラス様”が造った土地なんだからさ。…結局、戦の始まりからして”どちらも悪い”としか思えないんだ。()してや、当時幼子だったその娘をどうこうする気は無いよ」

「そうそう!」


あんた等が王で良かったよ。

でなきゃ”仕返し仕返し”で、何時まで経っても戦いの螺旋(らせん)だ。

「…ありがとう、皆。皆の話を聞いてホッとしたよ…。な、サラ!」

正座したまま隣で俯いているサラの肩を叩く。


「うひっ!ぅぇっ?…」

真っ赤な顔でハッとするサラ。

お前、また話し聞いてなかっただろ!


「ご、ご主人様…❛硬化❜の魔法で一晩中はチョッと…」


ズゴー---ッ!


ぐっ…今、大事な話をしてたんだよ?お前のさぁ!

「サラ…三国の王はお前を責める気は無いってさ」

「…はぁ…左様で御座いますか???…私はご主人様の御側に居られれば他はどうでも良いので御座いますが…」

頬に指を当てて他人事の様な態度をとる。

まあ、サラは幼子だったんだから責任云々言われてもピンと来ないわなぁ。


「「「あはははっ…その子がそんな感じなら、マサちゃんが付いてれば大丈夫!(だ!)」」」


さてと、王都トゥーキングに帰ろうとなった時、王妃達からもう一度[電話玉]を貸して欲しいと頼まれた。

「私達の姿を娘たちに見せながら話がしたいのです」と言うのだ。

まあ、これから王都トゥーキングを出発したとして、3カ月は掛かる帰り道。

この際なので、[電話玉]は全員に一つずつ配った。

これで旅の途中、何時でも声の連絡は取る事が出来る。

今は別室でサラが王妃達を”撮影”をしながら話をしているのだ。


玉座の間に残った俺達も少し雑談だ。

結局話題は戦争の話しに成ってしまったが。


「サラちゃんの事は別として…さっきも言ったけどさ、あの戦争は奇妙だったんだよ。私達は”七不思議”と呼んでいるんだけどさ」

「ん?どういう事?」

「ある日突然に大群で攻めて来たのを、海岸で漁をしていた者が気付いて報告があった。まず、これがおかしい」

「どこが?」

…何がおかしいのかわからん。プリーズ・説明・ミー。


「それまで幾度(・・)も我が家にイーストランド王は訪れていたんだよ?…大群で来なくとも、”世界樹の雫”を奪う気なら少数精鋭の兵の方が簡単に出来た筈なんだ。森林の中を大群で侵攻するのは難しいと思うよ?」

…そりゃそうだ。

”世界樹の雫”を奪う事だけが目的なら、屋敷に行った時にやればよかったんだし。


「そして二つ目。”ダコハテの海岸”に到着した大群は、そこで野営を始めたんだ…一月半もだよ?攻めもせずにね」

「退路の確保とか?…タロウとハナコの住んでいた地を穢したくなかったとか?」


「まあ、待ってよマサちゃん…。三つめ。流石に戦支度をしていたから最早戦うしかない。で、父は獣人とドワーフに共闘を持ち掛けた…ノースシーロード大陸とイヤマート大陸、ノースシーロード大陸とサウスランド大陸、それぞれ海を挟んで二千キロは離れているんだ。此れは当時の船だと往復で一月はかかるんだよ。で、獣人とドワーフが助けに現れてから待ち構えたかの様に戦争が始まったんだ…どう思う?」

「…それじゃ、敢えて戦争を大きくしたみたいだ…」

全部の種族が集まるのを待っていた?

何でそんな事を?


「それだけじゃ無ぇんだよ、兄貴。俺達が着いた時は、後ろの方の船は逃げ出したんだ…戦の口火が切られて間も無ぇってのによお」

「海岸で先頭の部隊とは小競り合いがあった…いや、一方的な戦闘だ。戦に来たのに、奴らは戦わず逃げ出したんだからな。こちらの被害はゼロだ。まるでやられに来たかのようだった」


「そして四つ目。逃げ出したにもかかわらず、途中で帆を下し船を止めたんだ…まるで”追いかけて来い”という感じでね。何か罠があるのかとも思ったが、獣人とドワーフの支援も得たんだからという事で、船で追いかけたのさ」


…いや、もう何が何だかわからん。

初めての戦争?だったからやり方が分からなかったとか?

戦争が初めてかどうかは知らんケド…。


「五つ目。追いかけて上陸した先は”ブルー・フォレストの海岸”だったんだ…”ブルー・フォレスト城”の近くのね…これも変でしょ?普通は城から離れた場所で戦うんじゃないかな?」

「それだとまるで”招き入れた”感じだな」

行き成り首都決戦かよ…。


「そして、その時は既に他国…ミドルランドの兵やウェストランドの兵が続々と現れ始めた。オイラ達ドワーフは山では狼煙で連絡を取り合う事があるが、あれは精々四~五キロが限界。どうやって他国と連絡をとったのか?喩え連絡手段が有ったとしても、他国が集うのに二月や三月はかかるというのに…」


「それが六つ目さ…で、七つ目はイーストランド王と兵達だ。まるで何かに操られているかの様に、全員(・・)で突撃して来たんだよ」


「ああ、ありゃぁまるで死人(しびと)だったな。他国が横から援護に入らなきゃ、一合で全滅してたかもしれ無ぇ…」


…それじゃ自殺行為だ。

王妃の衰弱する(さま)を見て変に成ったとか、或いはキレたからとかじゃ無いね。

「イーストランド王と兵達は、誰かに❛催眠❜の魔法でも掛けられていたという事?」


「❛催眠❜じゃ無いだろうけどね…人間側の他国も、戸惑いながら戦っていたんじゃ無いかな?」

「おう!真面な戦いをしてたのは俺達(三国)と他国だけだったもんな…イーストランド側は突撃しかして来ねぇし」


賢者シモンに話を聞いた時、不思議に思った事がある。

”ある魔術師(・・・)が『世界樹の雫』ならば何とかなるかもしれないと王に進言した”と言った。

だが、何故”賢者シモンはその話を知っているのか?”だ。

斥候がいたとかの話しでは無かったし、賢者シモンを疑っている訳でも無い。

その話を流布した者がいる…何者かが暗躍していたんだ。


イーストランド王と兵達を傀儡(くぐつ)にし、全ての国を戦争に巻き込み、それにより全ての国を衰弱させた者。

何千キロも離れた場所に”情報や噂”を流し、他国を扇動した者。

切っ掛けと成った王妃の病気ですら、何者かの策略のような気がする。

サラに”奴隷契約”をした”闇の住人”――ダメだ。俺の考えじゃ、一本に繋がらない。


「でさ、半年近く続いた戦争も、イーストランド王の死によって終了した…王の死と共にイーストランドの残存兵は、全て何処かに行ってしまったんだ。他国も唖然としていたよ。で、()かさず停戦協定さ。戦争前、人間側の人口は約七億人。エルフ・獣人・ドワーフはそれぞれ約一億人ずつしか居なかった。各国で何万人もの若い男が戦死してしまったからね、このままじゃあ人類滅亡だったから、他国も停戦に合意したよ」


「…イーストランドの残存兵は何処に行ったと思う?」

「分からない…何処かの山間にでも落ち延びたのかな?」

「それが”闇の住人”に成ったって可能性は?」

「大いに有り得るね。何たって私達がこの城に入った時は、全ての金品は持ち去られていた…残っていたのは王妃の(むくろ)だけだったんだよ」


…ご冥福をお祈りいたします。

しかし、そうすると”闇の住人”が暗躍し始めたのは戦後という事。

戦争前から戦時中にかけて暗躍していたのは誰なんだ?

…薄ら寒いモノを感じる。

国王達にも注意をしておこう。


「誰かがこの世界を破滅させようとしているのかも知れない。[鑑定玉]も渡しておくから王妃達にも配って。小さいから持ち運びに便利だし、疑わしい者は直ぐに鑑定した方が良い。それと、何かあったら[電話玉]で俺に連絡をして。絶対助けに来るよ!」


「「「おお、有難い(てぇ)」」」

お互い硬く握手をした処で、用事の住んだサラが入室して来た。

今度こそ本当に王都トゥーキングに戻ろう。


「じゃ、王女達の事は任せてね…3カ月位で戻って来れると思う」

「マサちゃん、宜しくね」

「マサちゃん、頼んだ」

「兄貴、任せたぜ!」


「あいよ!サラ、転移するよ?❛聖なる転移❜ホーリー・トランスポート

「はい、ご主人様。《転移》」






6回ほど❛聖なる転移❜ホーリー・トランスポートを繰り返し、王都トゥーキングの玉座の間に戻ると…そこには怖い顔をしたキャサリン・ミドルランド女王が、賢者シモンとバルドさんに腕を掴まれて立っていた。

開口一番、「マサト様!あのような年増の女に手を出して、私に手を出さぬとはどういう料簡(りょうけん)ですか!」と怒声を上げる。


…しまった…サラに実況中継されていたんだった。

「いえ、流石に女王陛下に手を出すのは不味いですよね?」

「私が”良い”って言ってるんだから、良いんですよ!…がるるるるる」

あ、野生に成ってる。


女王の腕を掴む賢者シモンとバルドさんを見ると”早く行け”という視線。

「皆、準備は良い?」


「はい、マサト様」

「ご主人様、何時でも行けます」

「旦那様、私も大丈夫です」

「にーちゃん、こっちもOKだよ」

「(コクコク)」


「では、逃げるよ!」

「「「「「は~い」」」」」


全員で玉座の間から逃げ出した。

「ぎぃ~~~やぁ~~~!まぁ~~~てぇ~~~~!!」

怨嗟(おんさ)の声を背に受けながら、俺達は城から脱出したのだった。

王国から出て❛聖なる箱❜(ホーリー・ボックス)から[荷馬車]を一台出し、二階部分を取り外す。

馬はいない。俺が曳くのだ。少しは軽い方が良い。

トイレと台所は付いている為、重量は800kgを超えるが、今の俺なら簡単に曳ける。

まあ、下男みたいで見っとも無い事を除けば問題は無い。

王女達を歩きで連れて行く訳には行かないしな。


サラは「そんな…ご主人様にその様な真似をさせる訳には…」と渋ったが、「俺にも少しは格好を付けさせてよ」と頼むと何とか承知してくれた。

そして昼間はサラが寝て、夜に俺が寝ている時に警護を担当してくれる事になった。

既に四人の王女は乗っている。

ふんっ!と力を込めて、リヤカーの様に曳き始めると、難なく進み始めた。

小走りで時速20km程まで速度を上げても身体にはなんの問題も無い。


馬並みなのねん。

流石はチートだ。24時間でも戦えるんじゃ無ぇ?

それでは!ブルー・フォレスト国に向かってレッツラゴーだ!




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