03話 魔族
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??? side
――時は少し遡る
イビルランド大陸中央のとある山に、日の光から逃げるような生活をする集団がいた。
天然の洞窟を利用し、❛硬化❜魔法で天井や壁が補強され、蟻の巣のように作られた廊下や部屋。
他の大陸から隔絶されたこの場所は、”異形のモノ”と呼ばれる者の住処だった。
住人は、皆一様に黒の神官服を着、黒いフード付きのコートを頭から被っている。
その一番奥に存在する部屋の中で、二人の男が会話をしていた。
「父から戴いた”宝玉”も失ってしまったね…次はどうするのかね?」
壁に背を凭れ掛からせた男が尋ねる。
「魔法で造ったとはいえ、よもや魔王が討たれるとはな…」
その問いに、テーブルの前で椅子に腰かけた男が答えた。
「スパングル。君の策は性急過ぎたのさ。アマテラスが介入して来るとは、私も思わなかったがね」
「ああ、ブラビット。両親が死んで二千年。この星を造ったたけでワシらの事など意にも返さなかったアマテラス。父と母以外の事には興味が無いと思っておった。…それが使徒を遣わすなどと…」
テーブルの上でワナワナと拳に力を入れるスパングル。
「そうだね。私達を庇い育てて下さったのは両親だけ。本当の両親ですら醜い私達を見捨てたと言うのにね。他の者も毛並みが違うと言うだけで私達を蔑んだ…ああ、忌々しい!…まあ、使徒を遣わせたのも”魔王”が出現したからだ。つまりは、アマテラスはまだ私達の事を知ら無い。…私達を只の”魔物”だとしか認識して居ないか――いや、抑々興味が無いだけかもね」
「ふざけおって!」
ドンと机を叩くスパングルと呼ばれた男。
彼らは”魔族”であった。
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タロウとハナコがノースシーロード大陸に立って二百年が経った頃、大陸は人間や獣人、エルフ、ドワーフで溢れるようになった。
純血種の他、背の低い獣人や尻尾の生えたエルフ、耳の尖ったドワーフなど”ハーフ”も誕生したが、三つの世界から違う種族を集めて交配した結果の弊害なのか、希に”異形のモノ”が生まれる事があった。
”異形のモノとは、浅黒い肌に鋭く尖った耳。背中には蝙蝠のような翼があり、額には小さな角が生える者達。
❛鑑定❜魔法では、種族に”魔族”と表示される。属性も”闇属性”であった。
隔世遺伝や血統云々の事をよく知らないタロウとハナコ。
二人は”只の先祖返り”と称したが、皆は”異形のモノだ!不吉だ!”と騒いだ。
その子らの誕生が10人を超えた頃、”魔物と交配する者がいるのではないか?”と言い出す者が現れ始めた。
実際、この子らを連れた親が外に出た時、魔物が近づいて来ても襲われない事があったため、その話を信じる者も多くなった。
自身への迫害を恐れた親は子供を手放し、タロウとハナコに託した。
タロウとハナコは皆同じ子供として慈愛を注いだが、それ以外の者達は彼らを蔑み疎んだ。
親ですら見放す子供達を不憫に思い、原因が解らない二人は同族以外での交配を禁止した。
そして『自分たちが此処にいるのは只の神様の気まぐれなのだ。気まぐれで何時この世界が無くなっても不思議では無い。神様の不興を買わないようにしよう』そう皆に告げて、この事を秘密にするようにしたのだった。
ただ、皆と同じ場所で生活させるのは難しい。
タロウとハナコは南の大陸、イビルランド大陸にこの者達を転移させて生活をさせる事にした。
その地に存在した”魔物”は、やはり”魔族の子供”に敵意を見せ無ず、寧ろ近付いて戯れ合って来る程だったので安心した。
タロウは、とある山にあった天然の洞窟を利用して❛硬化❜魔法で中に人が暮らせる空間を確保。
❛ライト❜の魔法を込めた宝珠がふんだんに設置され、洞窟とは思えない明るさを保った。
タロウとハナコは代わる代わるこの地に赴き、魔族の子供達の面倒をみた。
発育は遅く、人間が50歳になる頃にやっと10歳程度の容姿に成る魔族。
手が掛かる子供達だが、二人を親と慕う姿は可愛くて仕方が無かった。
特に甘えん坊な男の子二人には、『耳がクロアゲハ蝶みたい』だから‘スパングル’と。
『こっちは、黒兎みたいだわ』と‘ブラビット’と名付けて一層可愛がった。
『何が異形のモノか…』――転移で一瞬交差する時間に、二人が口にする。
抱き抱えた子供を受け渡そうとすると「あぶぅ~~!うぶぅ~~!」と泣き、服を掴んで離すまいとする。
毎度毎度、後ろ髪が引かれる時間だった。
本来人間の二人にしてみれば、獣人もエルフもドワーフも魔族も無いのだ。
『人は容姿や環境で無く、その人の行いで評価や判断を下されるべきだ』
…子供の頃から貧しく生きた二人が、普段から思っていた事。
自ら育てた子供達が、この子供達を蔑むのが耐えられなかった。
晩年のタロウとハナコの愛情は、殆どこの子等に向けらていった。
皆で一緒に遊び、田畑を造り、家畜を飼いと日々の生活を送ったが、家だけは神様の目から逃れるために造らなかった。
タロウとハナコは神様の恩恵で生きているが、その無慈悲さも知っている。
『何故、自分たちだけ助かったのか。他の乗客全てが悪人だったとは思えない』
『自分たちより惨い生活を送っている者は巨万といる。其方に手を差し伸べないのか』
『そもそも、何故、自分たちが捨てられた時に助けてくれなかったのか…』
…結局、神様の慈悲は、見付からなければ与えられないモノ。不要と見做されれば、何をされるか分からないのだ。
そして常々皆にこう言った。
『この大陸から出てはイケない。神様に見つかるような事をしてはイケない。…君たちが大手を振って生きて行ける時代が来るまで待ちなさい』と。
神アマテラスにタロウとハナコの行為は筒抜けであったが、幸いな事に”ただ魔物の子供と戯れる姿”程度にしか見えていなかったのだった。
数十年後、自分たちの死期が近い事を知ると、タロウは衣食に不便しないよう自らのアイテムボックスを与え、加えて有事の際の為に、最奥の部屋に”大量の魔力を込めた宝珠”を置いた。
その後、二千年の魔力も足されたこの宝珠が、魔王を生み出した”ダンジョンコア”に変化した。
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壁際の棚に一列に置かれた宝玉。
数百に及ぶこの宝玉は、ブラビットの使う❛洗脳❜の魔法で”闇の住人”を縛る”奴隷契約の宝珠”。
ブラビットは長い年月を掛けて戦争や諍いを引き起こし、他種族を衰退させる策を実行している。
対してスパングルは、二千年を経ても魔族の闊歩出来る時代が来ない事に業を煮やし、❛服従❜の魔法でサンド・スライムに多量の魔力を蓄えた”ダンジョンコア”を埋め込み、山の様な大きさの”魔王”を造って急進した。
魔族純血種での交配を行い、やっと魔族が50人を超え、50人目に生まれた少女、ルーシーが人間族の10歳の容姿に成った。
…この子等には日の目を見せる!と考えたのが理由の一つ。
理由のもう一つは、自分たちの余生が長くは無いと感じたからだった。
その壁際の棚の上には祭壇が作られ、タロウのアイテムボックスの中に有った二人の写真が飾ってある。
飛行機に乗る前に『何かあったら遺影にしてもらおう』と、二人で撮影して貰った写真が、本当に彼等には遺影に成ったのだ。
「父よ…母よ…。まだワシ等の時代は来ません。申し訳ない…」
そう言ってスパングルが頭を垂れる。
肩を竦めてみせるブラビット。
と、その時、パリン…と小さく音を立てて一つの宝珠が砕け散った。
「「なっ!!」」
驚いた二人の視線が重なる。
父や母は勿論、この世界は”魔物”しか闇魔法を使えない。
当然、両親の残した書物や、見聞きしたモノから自分たちで闇魔法を編み出すしかなかった。
オリジナルは❛催眠❜と❛契約❜の魔法。
”奴隷契約の宝珠”には、ブラビットが年月を掛けて編み出した❛洗脳❜の魔法が掛けてある。
この魔法は、死んでも相手の心に枷をはめるモノ。
死ねば宝珠の色が変わるが、自然に割れる事など考えられなかった。
近付いて割れた破片を確認するブラビット。
「…これはサラスティア・イーストランド元王女の宝珠だね。隣にある死んだ王妃の宝珠には何の問題がない…だが、宝珠が自然に割れるなんてあり得ないよ」
「サラスティアとは、ミドルランドに送り込んだ者だったか?」
「ああ。元々15歳に成れば昔を思い出すように契約してあったのさ。正気に戻った時に自分は奴隷で卑しい者。それが目の前に華やかな王族がいれば、どんな行動をとるか楽しみにしていたのにね~。其れまでの待遇を思い出して逆上し、あわよくばミドルランド王を殺せたかも知れないし、元王女と担ぎ上げる者が出てイーストランドに攻め入ってくれたかも知れなかったのに…残念だね」
「本当にお主は底意地の悪いやり方が好きだな」
「褒めてくれてありがとう」
「いや、褒めてはおらんぞ?」
「いいんだよ…他種族なんて全て滅びれば――尊敬する人間は父と母しか居ないしね」
「ああ。それは同意する」
「さ~て、私は次の策を出すかね~」
「因みに、次の策はどんなモノなのだ?」
「…何でもウェストランド国を放逐された”ロベルト・ラインザック元男爵様ってのがいてさ。これが個人的に使徒やアリスティア・ミドルランド王女を恨んでいるらしくてね。簡単に❛洗脳❜出来たのさ。このラインザック家ってのがウェストランドの伯爵家。元を辿れば国王に血が繋がる。で、この男にアリスティア王女を殺させたら……ワクワクしな~い?」
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マサト side
サラが転移して直ぐ、『ブルー・フォレスト国』に当たる黒い部分が❛聖なる地図❜に表示された。
だが、色は灰色のままだ。これは”認識はされたが転移は出来ない”と言う事。
城が改築されている可能性を考えてか、サラは庭に転移してくれたようだ。
❛完全隠密❜の魔法を使用しているとはいえ、周囲には10人の敵味方不明の[黄▼]が確認出来る。
…緊張する一瞬だ。
「返事無用…確認出来た。戻れ」
「…ボソッ…《転移》」
フ~~~ッ。どうやら無事に外に出る事が出来たようだ。
”[受信の水晶板・改]”には違う街の景色が映し出されていた。
「サラ。確認出来た。次」
「はっ!《転移》」
サラには”[MAP玉]”も渡してある。
自らも場所を確認しながら、俺の為に目視出来る範囲で転移を繰り返している。
[受信の水晶板・改]にはビュンビュンと景色が飛んで行くのが映った。
「確認出来た。次」
「はっ!《転移》」
「確認出来た。次」
「はっ!《転移》」
数回繰り返す事で、『ワイテの街』『ヤギーの村』『クシューマの砦街』『バラキンの街』も❛聖なる地図❜に表示され、サラが玉座の間に帰還した。
これに沿って転移すれば、俺も数秒で『ブルー・フォレスト国』に行く事が出来る。
「サラ。お疲れ様。ちょっとヒヤヒヤしたよ?」
「…私もです」
…やっぱりそう思っていたか。
よしよし。良い子良い子と頭を撫でてやろう。
「マサト殿、これが和平を願う書状じゃ」
サラの頭を撫でていた処、そう言って賢者シモンに手紙を手渡された。
これで準備は整った。
では転移を始めるか…。
「マサト様!このネックレスを御使い下さい!これなら一瞬です!」
アリスがネックレスを外し、俺に渡そうとする。
いや、空気読んでよアリス。
それじゃあサラが細かく転移して帰ってきた意味が無いじゃん!
それに何だかRPGのマップ埋めみたいで、ちょっとワクワクしてたのにさぁ。
未だ表示されないニホンカイ側も、何れは行ってみたいなぁ。
「アリス。その装備は君にあげた物。大事にしておくれよ?」
「は~~~ぃ…」
微妙な雰囲気を感じたのか、スゴスゴとアリスが引き下がった。
「ゴホン…では行ってきます。❛聖なる転移❜」
❛聖なる地図❜で灰色表示が無くなるのを確認しながら転移を繰り返す。
直線上にあった村や街が、綺麗にマップ表示される様は何とも面白い。
そして遂に『ブルー・フォレスト国』に到着した。
転移を止め、城門の前に立つ。
和平の使者なのだから、ちゃんと城門から中に入ろう。
城門の前には二人の門兵が佇んでいた。
「あの~済みません。”神の使徒”なんですけど、国王様にお取次ぎをお願いします」
右側に立つ、猫耳の女性兵士に話しかけてみた。
「ニャ!?…いまニャンと言いましたかニャ?」
…お前は○ケット団のニャー○か?
だいたい猫じゃ無くて豹族なんだろ?
「はい。私は”神の使徒”です。人間国側の代表として、和平の使者としてこの国に来ました。国王様にお取次を」
「ちょ、待つニャ!…ちょっと聞いてくるニャ!」
そう言いながら門の中に走り去るニャー○。
暫くすると息も絶え絶えに戻ってきて「ど、どうぞニャ…ハァ…ハア…」と言いながら中に通された。
城の中を案内され、大きな扉の前に着く。
「ニャ!…コテツ様!使徒様をお連れしましたニャ!」
「おお~。入れや~~」
何ともやる気のない返事が中から聞こえた。
「案内、ありがとうございました」
ニャー○に会釈して中に入る。
『王都トゥーキング』と同じように広い玉座の間。
雰囲気が違うのは、皆が床の上に直接座っているからだろうか?
❛神の眼❜を使う。
玉座の椅子の前に胡坐を掻く耳の尖った細身の男。
女性の様な中世的な印象のエルフだ。
【名前】ダールトン・シルフィー
【年齢】30歳
【種族】エルフ
【状態】正常
【属性】風・水
【職業】エルフ国国王・魔法師
Lv:46
HP:1749/1749
MP:3128/3128
【称号】王国の統治者・聖地の守護者
エルフって、何百歳とかだと思っていたら普通の年齢だった。
まあ、とても30歳には見えないが。
その右隣に座る、口髭を生やした背の小さい男。
【名前】ドンゴ・アイアン
【年齢】31歳
【種族】ドワーフ
【状態】正常
【属性】火・土
【職業】ドワーフの王・鍛冶師
Lv:48
HP:2256/2256
MP:156/156
【称号】鍛冶師の王
そして左隣で腕枕で横になる緊張感のない男。
【名前】コテツ・サクラ
【年齢】29歳
【種族】獣人
【状態】正常
【属性】火
【職業】ブック・ベア国国王・戦士
Lv:45
HP:2235/2335
MP:123/123
【称号】王国の統治者・獣王
酒を呑みながら談話していたのか、部屋の中は酒臭かった。
三人の国王がいるのなら話は早い。
俺は一歩前に出た。
「ダールトン・シルフィー王、ドンゴ・アイアン王、コテツ・サクラ王。始めまして。私は神の使徒、名前を”ヤマダ・マサト”と言います。ヤマダでもマサトでも、好きなようにお呼び下さい」
「「「なに!?」」」
挨拶をしたのに皆で目を見開いている。
なんだ?何かマズったか?
左で寝そべっていたコテツ・サクラ王がスクッと立ち上がり、「へぇ…その名を使うかぃ…父の名を使うたぁ、気に入ら無ぇ野郎だ!俺が成敗してやんよ!」
そう言って近寄って来る。
…ああ、こいつはスサノオ様と同じ脳筋バカだわ。
そう言えば獣人族では”タロウとハナコの名前は付けない”ってゼンジさんが言ってたっけ。
”ヤマダ”もダメだったのか?
立ち上がった獣人の王は、身長2mはある。
威圧感もハンパ無い。
「にーちゃん、行くぜ?…おらぁ!」
❛聖なる防壁❜は身体の表面に薄く伸ばして展開してある。
問題は無いだろう。
ドゴン!と音を立てて俺に叩きつけられた拳。
「いってぇぇぇええええ!!!」
それ見た事か。
右手を押さえて転げまわるバカがそこにいた。
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