12話 別れ
広場に転移すると、少し離れた場所で草の上に座り、膝を抱えているサラの姿が見えた。
「…サラ」
「ご主人様……」
名前を呼ばれて振り向いたサラ。
よほど恥ずかしかったのだろう。
顔はさる事ながら、耳まで真っ赤に染まっていた。
「…いやぁ~夜になってもマダマダ暑いね~」
さっきの話に触れないようにしながら、サラに近付く。
「…はい。あ、ご主人様、御近くにどうぞ」
そう言って[アイテム・バッグ]から手拭いを出し、草の上に置く。
そこに座れという事だろう。
と、思ったらサラが手拭いの上に腰を下して仰向けになる。
…なんぞ?
「流石にご主人様でも、衆目に晒されるのは御嫌で御座いましたか…続きをどうぞ」
両手で顔を覆い、信じられない事を口にする。
一歩足を出した態勢で動きを止め、「違うんだよ、サラ…」と否定した。
「あ、失礼致しました…ほうへふへ…?」
今度は[アイテム・バッグ]からチリ紙を出して口に咥える。
…をぃ!作法じゃ無ぇ~よ!
イザベラさんよぉ!何を教えていやがる!
「ゴホン!…そうじゃ無くて…!」
「は、申し訳け御座いません!」
次いで口からチリ紙を落とし、サッと起き上がって三つ指を突く。
「不束者に御座いますが、末永く御願い致します…」
うん、もう面倒臭い。
「よいしょっと」
サラの隣に座り、下げられた頭を撫でる。
「…あれで御座いますか?生理中の女子は不浄だから致さぬと?」
違ぇ~よ!もうその話から離れろよ!
「サラ、まだ話さなきゃ成らない事があるんだ」
真面目な顔でそう告げると、ようやくサラも頭を上げて話を聞く態度になった。
「…サラスティア・イーストランド王女。それが本当の君だった…」
「は?」
瞳を大きく開き、信じられないという顔をする。
まあ、いき成り”君は王女だった”なんて言われてもね?普通変に思うよね。
「❛神の眼❜で確認した真実だよ。”鑑定の宝珠”で確認すれば、誰にでも知られて仕舞う」
「はぁ…、そう申されましても…」
首を傾げ、納得が行かない表情だ。
「サラはサラスティア・イーストランドの元王女。名前もサラから”サラスティア”に戻った」
「…イーストランドと言うと亡国の、で御座いましょうか?」
「そうらしいな」
「亡国の元王女に、何の価値が御座いましょうか」
さあ?この世界の王族にどんな価値があるかなんて知る由も無いし。
サラが興味が無いのならその方が問題は無い。
ただ…
「…君は”闇の住人”という者達を知っているかい?」
問題があるとすればそいつ等の方だ。今も暗躍してるみたいだしな。
サラを何故隠したのか?
そして何故表に出したのか?
その意図が分からない。
「その”闇の住人”と言う者には聞き覚えが有りません」
「知らないならそれで良いんだ。サラはサラだからさ。無理に昔の事を思い出す必要も無いしね。俺の傍にいればいい。何か困ったことがあったら、俺に縋ってくれ」
「はぁ。何事か理解出来ませんが、ご主人様。宜しく御願い致します」
「うん。…じゃ、荷馬車に戻るよ?一緒においで」
「はい…で、致さぬので御座いますか?」
「いたしません!…サラ、あまりイザベラさんのいう事を真に受けるなよ?ゆっくり大人に成れば良いんだからね?」
「…御意」
拗ねた顔で御意は無ぇだろうに。
「ゴホン…じゃあ、先に転移するけど…直ぐに戻って来るんだよ?じゃ無いと、一緒に寝て上げないからね?」
「は、はい!直ぐに行きます!戻ります!!《転移》!」
俺が先にって言ったのに、もの凄い速さで転移を唱えるサラ。
いや、寝るったって添い寝するだけなんだけど…まあ、いいか。
聖歴2302年8月30日。サラは奴隷から解放された…今はその事実を喜べばいいんだ。
「じゃ、俺も戻るかね。「❛聖なる転移❜」
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「では、バルドさん。難民たちの手配は、宜しくおねがいします」
「うむ。御任せ有れ。三国連合の者と手分けして荷馬車への振り分けを行います」
「グスタフさん、第三騎士団の皆さん。ここまでの護衛、有難うございました」
「うむ。グスタフ。御役目御苦労であったな。後で一献如何かな?」
「使徒様、勿体なき御言葉。不肖グスタフ。使徒様の御用とあらば何時でも駆けつける所存。何なりと御用命下さい。…バルド殿。一夜休んだら国に戻らねばならぬ身。短時間ならば構いません」
「連れない事を申すな。朝まで語り合おうぞ!」
「…バルド殿。堪忍してくれ。お主のように底抜けでは無いのだ」
「がっはっは…。嫁候補を九十九人引き連れた者が何をいうか!…で、本命は誰だ?ん?」
「堪忍してくれ…」
バルドさんとグスタフさんが知己の仲というのは本当だったんだな…。
あの後は、特に何の騒動も起きず、10月2日には目的地である『王都トゥーキング』に無事到着した。
三国連合側からも難民移送のための荷馬車が到着しており、俺の荷馬車はお役御免となる。
グスタフさん率いる第三騎士団も、一晩休んだらお別れだ。明日には『神聖ラーナ王国』に向けて出発する。
さてと…。
馬達に近付き「お疲れ様」と労いの言葉をかけ、[陣地の水晶玉][身体強化の水晶玉][防壁の水晶玉]のついた装備を取り外そうとしたら、「ブルル~ン…ブルル~ン」と寂しそうに鳴き、後退って行く。
…いや、やるとは言ってないよ?
寂しそうにされて心が痛んだので、騎士達に外してもらおうと視線を移すと、今度は騎士達もネックレスと[アイテム・バッグ]を手で押さえ、ザザザッっと後退って行く。
いや、あんたらのはあげる心算でいたよ?
馬用の装備を外して欲しいだけで…
などと考えていたらグスタフさんが前に出て「使徒様、このような真に素晴らしい品を拝領致し、感謝に堪えません。有難う御座います!…皆の者!礼を!」と言い出した。
「「「「はっ!使徒様、有難う御座います!」」」」
「え~と、そうじゃ無くて「有難う御座います!」…」
…なんだろう、このやるせない雰囲気
騎士達全員がニコニコとしながら”有難う御座います”を連呼する。
これはあれだ、デパートで買い物をして、レジの前でやっぱり買うのを止めようとした時の店員の対応に似ている。
「あの…」
「「「「使徒様、有難う御座います!」」」」
むう…。
まあいいか、馬用の装具も全部上げるか。
[石英]は1,000個以上あるんだし。
「…どうぞ。差し上げますので、末永く使って下さい…」
「「「「「はい!!」」」」
騎士達や難民達にお別れをし、玉座の間に向かう。
賢者シモン・エリュク、一足先に到着したキャサリン・ミドルランド女王。アリスや三国の王女達と会うためだ。
「行くよ?サラ」
「はっ!」
右横にサラを従え、城の中に歩いて入った。
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グスタフ side
使徒様と別れ神聖ラーナ王国に戻ると、私は子爵に叙爵され『ワヤマの街』の領主に任命された。
イザベラ・スージーを正妻に、ヘレン・ダイアン、エバ・スーザンを側室にし、三男六女を儲け皆でこの国を護った。
私も当年とって七十四歳。
既に一人ではベッドから起きられぬ身体に成ってしまった。
間もなく御迎えが来るであろう。
本日は二十六になる長男のアレンを呼び出し、正式に領主を継ぐように任命する日だ。
使徒様から拝領した[聖剣バレンタイン]。
これを息子に手渡す時が来た。
「父上」
「来たか、アレン。…そこにある[アイテム・バッグ]を私に」
「はっ!」
息子から手渡された[アイテム・バッグ]から[聖剣バレンタイン]を取り出す。
「アレンよ。私はもう永くない。この、使徒様から拝領した聖剣とワヤマの街の領主をお前に託す。よいな」
「はっ!このアレン・バレンタイン。謹んで拝命致します」
「では”契約の宝珠”に手を置くのだ」
「はっ」
二人で手を繋ぎながら宝珠の上に手を乗せる。
「グスタフ・バレンタインは、息子のアレン・バレンタインを”ワヤマの街”の領主に任命する。私は今を以て領主の座を退く」
”契約の宝珠”が光を放ち、契約が恙無く終了した。
「アレンよ、その聖剣は”自らを護り、民を護り、国を護り、この世界を護れ”と、使徒様から拝領致した物。お主も努々忘るるな」
「はっ!このアレン・バレンタイン。使徒様の御恩に報いる為にも、自らを護り、民を護り、国を護り、この世界を護る所存に御座います!」
「…うむ。少し疲れた…席を外してくれ」
「父上、大丈夫で御座いますか?」
「ああ、少し眠るだけだ」
「はっ。では退室致します」
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少しなどではない。もう直ぐに御迎えが来る時間で有ろう。
そう思った時、ベッドの横に純白の眩い光が現れた。
――「此れは此れは使徒様。三十年ぶりに御座いますか…」
「そうですね、グスタフさん。お久しぶりです」
「しかし…使徒様は三十年前と少しも変わらぬ御姿に御座いますな」
「…ええ、なんか年を取らないみたいでして…」
「死ねぬのも、御辛う御座いますな…」
「………」
「して、本日は如何様で御座いまするか?」
「神アマテラス教よりお告げがありました。…グスタフさんが身罷られると。”貴方の魂は神の元に戻りますので、何の心配も要りません”との事です」
「それは有難い事。もしや、見送りに来て下さったので御座いますか?」
「はい…」
「そうですか…それはそれは……」
まだまだ話し足りないが、急激に微睡みがやって来た。
使徒様の御顔を見て、あの楽しかった護衛任務を思い出す。
「グスタフ!…汝の贖罪は終えた!胸を張って彼の世で祖霊の列に加わるが良い!」
耳元で使徒様が声を荒らげる。
次いで額にポトリと温かい雫が落ちた…
「――ああ、ああ!……
声は既に出ないが、使徒様には伝わるだろう…
その言葉、感謝致します…
私の為に涙など…勿体のう御座います…
自らの嬉し涙が頬を伝のが分かった…
自然に瞼が閉じて行き、やがて身体からは全ての力が抜けていった……
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第三章 完




