50歳、Lv255
「落ち着きましたか?」
もう何でもいいや、と、投げやりな気持ちでコクンと頷く。
「では話の続きを。先ほど魔法の存在する世界と説明しました。
そう、貴方の思っているようなものです。
彼方の世界では、皆、魔力をもっています。大気中に魔素が存在し、呼吸するたびに吸収されます。
体に吸収された魔素は魔力に変換され、蓄積されます。これが魔力、所謂MPです。
MPは人により総量が異なります。HPと同様、MPも枯渇すると危篤状態になります。
各種ポーションや回復魔法で回復させないと、最悪死亡に至ります。死者を蘇らす方法はありません。
死は世の理です。
そこはゲームと違う部分になります。
魔法の属性として、火・風・水・土・光・闇の六属性が存在します。
ガイアースの、魔物を含む全ての生物が、この属性を所持しています。
無属性というのはありません。何も特殊な力はありませんよ?
”身体強化が~”なんて、考えなくていいです。
魔力が高く属性を一つ、もしくは、複数もつ者が魔法師になります。
魔力が少なくても初級魔法は使用できますが、魔法師にはなれません。その者たちは騎士や戦士、冒険者になります。
あ、農家や商人など、一般人もいますよ。
剣や拳は、流儀はあっても、所謂スキルのような技は存在しません。
日本でいう”新陰流”や”空手”のようなものです…。
ですから”飛○御剣流”なんてありませんてば」
もう~!一々、心を読まないで貰いたい。
「次は、Lvの説明です。そうそう、考えている通り、魔物を倒すとLvアップします。
また、肉体や精神の訓練や修行を行うと、Lvアップ時にHPやMPに反映されます。
一概にLvいくつだから、HP・MPがいくつとはなりません。個人差が出てきますから。
ただ、一般人のLvは低いです。精々Lv10になれば良い方です。普通はLv3~8程度ですね。
ちなみに、自分のLvは神殿や冒険者協会などにある”鑑定の宝珠”で知ることができます。
神殿ではお布施が必要ですが。
まあ、農家に生まれて農家で育てば、別に魔力なんか気にしなくても生きて行けますので、自分の才能を知らずに生涯を終える者も多くいます。平均寿命も50歳ですし、珍しいことではありません。
例を挙げると一般人Lv1では、平均するとHP:20~30、MP:10~20。
次に、近衛騎士団長バルド・ゴードンの場合、Lv69の時点でHP:3305、MP:216でした。
最後に魔王ですが、Lv100でHP:9999、MP:9999となっています。
ゲームのような、パラメーターというものはありません。
ただし、大よその予想をすることは出来ます。
先ほど、”肉体や精神の訓練や修行を行うと、Lvアップ時にHPやMPに反映される”と話しましたね?
例えば、攻撃力。
訓練や修行で鍛える(攻撃力を鍛える)→筋力があがる→HPがあがる…。と、こうなります。
逆に考えると、HPが高い→筋力がある→攻撃力がある…。筋力が高ければ防御力だって高くなるでしょう?
HPやMPが多いという事は、その様な訓練や修行をしてきた証とも言えます。
あ、魔物は別ですよ?強い魔物は生まれながらにして強いのです。
野生のトラとかクマのように。
え!何その江戸時代みたいな平均寿命!
って、俺、50歳じゃん!
まあ、葛飾北斎は90歳まで生きたっていうし、個人差もあるんだろうが…。
だいたい、魔王強すぎだろ!人がゴミのように見えんだろう!!
なにそのムリゲー!
「心配しなくても大丈夫です。今から貴方に加護とチートを授けます」
そう言って、何やら空間から機械を取り出した。
TVモニターの様なものとコードの付いた機械…?
あれ?その灰色の機械…見覚えが…??
そのコントローラー!
それ、スーパー○ァミコンじゃね?
しかも、刺さってるのって、PR○アクションリプレイだよね??
「違います。これは神の神器です。今からこれで、貴方の魂にチートコードを刻みます」
いや、今、ハッキリ”チートコード”っていいましたよ?
「お黙りなさい!」
「はい」
静寂の中、神様がコントローラーを動かすカチャカチャとした音が響いていた…。
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「ふぅ~。終わりました」
しばらくチラチラと神様の顔色を伺っていた処、そう言って顔を向けられた。
「今からAボタン…コホン、決定ボタンを押します。肉体と精神の急激な変化で、多少の痛みを感じると思いますが、よろしいですか?よろしいですね?はい!ポチッとな!」
いや。まだ返事してない…ギャア~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!
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どのくらい転げまわっていたのだろうか?
ハアハアと、息を切らしながら瞼を開ける。なんだ?さっきの痛みは?
全身がバラバラに引き千切られるような、ものすごい痛みと感覚。
首と四肢と体幹を、別方向に引っ張られたらあんな痛みになるんじゃないか?
両腕や体を擦ってみるが、特に違和感は無い。
筋肉マッチョになった訳でも無いようだ…。
「大丈夫ですか?」
倒れた俺を覗き込む神様。
「さっきの痛みは、何んだったのですか?」
「肉体と精神の、急激な変化によりもたらされたものです。
彼方の四人と違い、貴方は巻き込まれ転移。勇者の称号が付くかどうか定かではありません。
加護を与えようと思ったのですが…操作がちょっとメンドー…コホン、コホン…。
え~と、貴方には私の”使徒”になってもらいました。これで神と同じ、”神聖属性”の魔法が使えます」
いま、面倒って言ったね?
だんだんキャラが変わってきたよ、神様!
「コホン。魔法の属性は火・風・水・土・光・闇の六属性があると説明しましたよね?
魔王は闇属性しか使えません。対して神聖属性は神の属性、その他五属性の上位になります。
闇属性以外の、形は違えど全ての属性の魔法を使えるのです。
例えばこれ、❛聖なる火❜」
そう神様が唱えると、目の前にゴルフボール大の純白で小さい炎の塊が浮かぶ。
「この聖なる火は、邪悪なモノに対して強い力があります。魔力の込め方で大きさも変える事も可能です。
ゴブリン程度なら、これ一発で充分ですよ。
火属性の❛ファイア❜とは少し異なりますが、木に火を点ける事もできます」
おお~!!
感動した!!
すごい!すごいよ神様!!
「エヘン!」と言い、胸を張る神様。たわわな胸がブルン!と揺れる…。
これが特盛か!!
「…男の子ですね~」
母親のような慈愛の眼差しで見られると、恥ずかしくてバツが悪い。
「さてさて、貴方は”神の使徒”になりました。魔法も、他のシステムも使い方が解るハズです。
先ずはLvを確認してみて下さい。頭の中で思い浮かべるのです」
目を閉じ、頭に思い浮かべてみる。
Lv…Lv…ステータス…ステータス…。
これか!!
【名前】山田聖人
【種族】人間
【職業】無職
Lv:255
HP:65535/65535
MP:65535/65535
【称号】神の使徒
…?
………??
………………???
れ、Lv255って…、HP・MP:65535って…。
PR○アクションリプレイで、Lvに”FF”、HP・MPに”FFFF”って入れただけじゃん!!
何であんなに時間かかったのさ!!
「も~、そう言いますが、結構大変だったんですよ?Lvの概念が無い世界の住人に、Lvをつけるのは~。
サーチしても”00”ばかりで時間がかかったんですよ!
00をFFにしたから、チョッと痛みが伴うかな~と思ったし…ゴメンなさいね」
Lv0からLv255に変えたのか…。そりゃ、死ぬほど痛いわけだ…無茶しやがって…!
”多少の痛み”じゃないじゃん!
ちくしょ~~~!
よくもだましたアアアア!!
だましてくれたなアアアア!!
「ほらほら、そんなこと言ってないで…ね?次は魔法を使ってみなさい」
あっさりスルーしやがった!!
まあいいや、終わった事だ。
よし、次は魔法…魔法…。
…ピコーン!!!
浮かんだ!よし!❛神の眼❜!!
【名前】天照大神
【種族】神
年齢:永遠の17歳
B:90
W:58
H:88
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神様のLvに興味が湧いて鑑定魔法を使ってみたが…。
これ、態と見せてますよね?
しかも神様”男の子ですもんね、わかってます。わかってますよ”てな笑顔でコッチ見てるし…。
ちなうんです、ちなうんです…。Lvを見たかったんですってば!
くっ、殺せ!
「うふふふふ…。魔法も追々、全て使えますよ。というか、ここで魔法や剣での戦い方を
覚えてもらわなくてはなりません。魔王だけではなく周囲には四天王も存在します。
ミノタウロス・グリフォン・ケルベロス・フェンリル、何れもLv90を超えていますし、その他にも多数の魔物の軍団が侵攻しています。
今、時間停止を解いて向こうに行ったら、いくらチートで能力があってもフルボッコになりますからね」
それはムリゲーと言います。ハッキリ言ってクソゲーです。
俺は今まで本格的なケンカをした事がない。
Lv255と言われても自分が今、どのくらい強いのかも分からない。
「大丈夫ですよ?彼方の部屋に、私の弟がいます。彼に訓練してもらいますから。今、扉を開けますね」
ま、待って!アマテラス様の弟って事は、あのスサノオ様ですよね!暴れん坊の!!
「ちょ、ちょっとあの、待っ…」
言い切る前にドゴン!と重苦しい音を響かせて扉が開いた。
中から「ガァ~ハッハッハツ…」と笑い声とともに、世紀末覇者の様な男が現れる。
身長は2mを超えているだろう。拳○だ…。どうみても○王だよ!
「よし、お前に俺様が稽古をつけてやる。姉貴の頼みじゃ断れねえ!
さあ、殺ろうぜ!死合だ!!
な~に、遠慮する事ぁねえよ。死ぬ気でかかってこいや!!」
「あの、すみません。帰ります」
「待てや!」
大きく力強い手が、ガシッ!っと俺の肩を抑え込む。
痛い!痛いです!助けてアマえもん!!
「こら!スサノオ!この方は戦闘初心者なのですよ。キチンと訓練して差しあげなさい!」
「チッ、わかったよ。じゃあ、お前、最初は弱っちいゴブリンやらコボルトやらから始めるからな!
だんだん強ぇえ魔物を召喚して、ドラゴンが倒せたら終ぇは俺が相手だ。
わかったな!わ・か・っ・た・な!!」
答える間もなく、襟首を掴まれてズルズルと隣の部屋に引きずられていく…。