09話 聖剣と聖盾
う、重…重たいって…。
重いよ…、堪忍してつかあさい…。
ヒンヒン言うな!
ブルブル言うなって!
な、舐めるなって…顔がベトベトになるじゃまいか!
分かった、分かったから、おまいらもちつけ!
中々、館の中に入ってくれない騎士達の背中を押していた処(せ、セクハラじゃねーし)、馬達がわらわらと俺の前に集まってきた。
「ごめんな…お前たちの事を忘れていた」
そう話しかけて、1頭ずつ顔を撫で、❛聖なる大回復❜を唱えて慰労する。
グスタフさんの話しでは、この世界の馬は、何でも1日150km程走れれば優秀なのだとか。
それは乗り潰した場合であって、連日それで走れる訳では無い。車とは違い、生き物なのだから。
6日で500kmを走って来た馬達。
相当疲れが出ている。
というか、HPとMPが減っていた。
馬なのにLvが28って…サラよりツオイの?優秀なんだな。
地球では馬に触った事など無かったが、俺をジーッと見つめる視線を感じると、何だか愛らしく感じてしまう。
「お疲れ様…」と頬を撫でて回復魔法を唱えて周っていたら、馬達が俺に擦り寄って来たのだ。
お前らな、体重400kgもある奴が人間の上に乗ったら普通、死ぬぞ?しかも3頭同時とか。
はっ、これがホントの馬乗りか!
そんな場合ちゃう!
「…あんたら、見てないで助けてよ!」
「「「はっ!失礼しました!」」」
「「「ほら、ドウドウドウ…来なさい!」」」
騎士達に促されて、厩舎に入って行く馬達。
た、助かった…。
「俺、ナメられてますよね?馬達に」
グスタフさんに話しかける。
「ははっ、使徒様がお叱りに為らぬので、調子に乗ったので御座いましょう」
「俺で無ければ死んでましたよ?」
「…今まで馬に回復魔法をかける者など居りませんでしたので、呆気に取られておりました。申し訳ありません。子供達には注意致します」
「そうして下さい」
「はっ!」
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馬の世話を終えた順に、今度こそ騎士達を館に入れて風呂を促した。
最初、戸惑っていた兵達だが難民たちの笑顔を見てホッとしたようだ。
緊張の糸が解れた感じだ。
子供の笑顔を見れば、態度だって柔軟になる。
サラにボディーソープやシャンプーなどの使い方の説明を任せた。
…サービスシーンなど無い!
「「「キャー!何この泡~!」」」
「「「お肌つるつる~!すべすべ~!」」」
「「「いや~、髪が潤うわぁ~!」」」
「「「はぅ~ん!」」」
をぃ!
最後の”はぅ~ん”って何だ!
つい聞き耳を立ててしまった。
「…気に成りますか?」
いつの間にか背後に忍び寄るサラ。
だから怖ぇ~って!気配を消して近付くなょ。
「うんにゃ・ノット」
首を横に振って否定する。
この世界で24~26歳は行き遅れなのかも知れないが、俺にはそうは見えない。
みんなピチピチのギャルでキラキラしている。
オジサンには眩し過ぎるんだよなぁ…俺が枯れてるだけなのかも知れないが。
「…成程、おばさんには興味なしと」
何、その大福帳みたいなノート!
何処からか筆を出してメモを取るサラ。
おばさんゆーな!
サラの倍だけどさ!
「お姉さんと呼ぼうね?」
「はっ!…それと、マサト様。先程から姫様の姿が見えないのですが?」
「ああ、アリスには先に王都トゥーキングに行って貰った」
アリスこと、アリスティア・ミドルランド王女には三国の姫様達の対応を任せた。
神聖ラーナ王国を経由してもらい、[受信の水晶板・改]を回収。
代わりに[音声送受信の水晶玉]を置いてもらう事にした。
相手の事を思い浮かべて”《送受信開始》”と唱えれば、誰でも使える[音声送受信の水晶玉]。
MPが上がっても、”完璧な[転移の水晶玉]”・[映像の水晶玉]と同様、今の魔力では[受信の水晶板・改]の元となった、[受信の水晶板]すら造り出せなかった。
国王陛下には”聖剣と聖盾”を今夜持って行くから、玉座の間で水晶玉と一緒に待っててねと言伝を頼んである。
「俺が魔王を倒して今日で26日。三国の姫様達を、随分お待たせしているからね」
”電話会談”(?)で、話しが済めばいいのだが…。
神聖ラーナ王国から王都トゥーキングまで約3,600km。馬車で2か月は掛る距離。
キャサリン・ミドルランド女王御一行も、まだ到着できずにいる。
困り果てたシモンさんから[音声送受信の水晶玉]で、『お助け下され』と連絡が入った。
”俺に会うまで待つ”と姫様達は言っているそうだが、事は外交問題に発展する可能性がある。
最初は転移するのを渋ったアリスだが、その事を伝えると流石は王女。行く事を決意してくれたのだ。
俺達の旅立ちは明日。
ワヤマの街から王都トゥーキングまで約4,000kmあり、やはり2か月は掛るのだ。
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一緒に風呂に入った獣人の女の子、ツバキ6歳・ドワーフの男の子、ヴィオラ5歳を両腕に抱えて夕食の席に向かう。
既に食事も人も揃い、俺が座るのを待っていた。
何時もの場所に座り「いただきましょう!」と号令する。
グスタフさんが俺の隣に座ってるせいか、周りに集まるかと思った女性騎士達も、獣人やドワーフの子供達を膝に乗せて食べ始める。
「コレ美味しいわよ~ボクもお食べなさい」
「はい、ア~ン!」
「あ~ん」
「「「「うふふ…可愛いわ…」」」
いそいそと食事を子供の口に運ぶ女性騎士達。
隣で、ふい~と安堵の溜息をつくグスタフさん。
いやいや、これからですよ?
あ~いう時の女性は、必ず子供の話しになるハズだ。
「あ~ん!もう滅茶苦茶可愛いわ~!私も早く子供が欲しい~!」
ビクッ!
ほら始まった。
背中をビクつかせるグスタフさん。
「私もグスタフ様の子供が欲しい~」
ビクッ!
「まあ、私がグスタフ様と結婚するのよ?」
ビクッ!
「オホホ…私が正妻。三人までなら側室も良くてよ?」
ビクッ!
…面白い。
女性騎士から言葉が発せられる度に、背中をビクつかせている。
いや、俺の方に視線を向けて助けを求められても、ね~?
俺はこっちで”ほっこり”タイムなんだから。
自分で切り抜けて下さい!
「ツバキちゃん、ヴィオラちゃん、次は何が食べたい?」
「「あれがたべた~い」」
見よ!この子達の穢れない姿を!
「おじちゃん、これおいし~ね」
「「ね~」」
「キュウリもおいしい~!」
「「ね~」」
「おにくもおいしい~!」
「「ね~」」
俺が食事を口に運ぶ度に喜ぶ二人。
獣人とドワーフなのに、まるで姉弟のように同時に頷き合う。
「じゃあ、作ってくれた人に感謝だね」
「「は~い。ごちそうさまでした~」」
食べ終わると直ぐに俺の胸にもたれ掛かる。
もう眠いのか、だんだん体が温かくなってきた。
二人の背中を、トン…トン…とリズムを付けて叩いていると、スースーと軽い寝息を立て始める。
ごめんな。今日はまだ一緒に寝れないんだ。
「…サラ」
小声でサラを呼び、二人を委ねる。
コクリと頷き、二人を隣まで運んでくれた。
見渡すと周りの騎士達の膝に乗る子も、コクリコクリと始めている。
サラが子供達を隣室に運んだあと、皆に伝える事があるのだ。
大よその話しは既にしてある。
王都トゥーキングにエルフの王女、獣人の王女、ドワーフの王女の三人が待機している事も。
「では、話を詰めましょう。質問が有ったら挙手して下さい」
皆頷いている。
「明日の朝食後に『王都トゥーキング』に向かって出発します。荷車は私が50台用意しました。2頭立ての馬車で、1台に20人乗せ、騎士2人に御者をしてもらいます。それを1チームとし、50チームに分かれます。渡した紙に名前が書いてありますから、自分のチームと乗員の名前を憶えて下さい。決して置き去りにしないようにお願いします。…ここまで何か質問はありますか?」
「…使徒様、最前列から最後尾まで、数百メートルの距離に成るかと。非常時の連絡方法は、いかが致しますか?」
「はい。グスタフさん、先ずはこれを騎士全員に配ってください」
渡すのは[音声送受信の水晶玉]の付いたネックレスと[アイテム・ポーチ]。
「行き渡りましたか?では、皆さん、ではこのネックレスを装備して下さい」
只の水晶玉と勘違いしているようで、皆ニヤニヤしながら装備している。
いや、俺がセンス無ぇ~のは仕方ないじゃん!
「…皆さん、これは只のアクセサリーでは無く、[音声送受信の水晶玉]というアイテムです。ここに手を当て、相手を思い浮かべて《送受信開始》と唱えると相手と話す事が出来ます…チョッと私が外に転移してグスタフさんに話しかけますから見てて下さい。《送受信開始》!❛聖なる転移❜!」
「…グスタフさん、聞こえますか?」
「…はい。使徒様、聞こえます。これはサラ殿がしていた、あの時のネックレスと同じ物なのですね?」
スッっと再びグスタフさんの隣に転移。
「「「「凄いですわ!」」」
「「「…聞こえますか?」」」
「「「グスタフ様!」」」
戻ってみると、銘々が既に使い始めていた。
「はい!お静かに!」
パンと両手を合わせ、静まるよう促す。
「「「「「…………」」」」」
流石は貴族様、直ぐに静かになった。
「このアイテムは、どんなに遠くに離れていても使う事が出来ます。もし逸れてしまったり、何か緊急事態があった場合は迷わず使って下さい。私が転移しますから」
「「「「「はい」」」」
「…使徒様…」
捨てられた子犬のような目で俺を見るグスタフさん。
はいはい。分かってます。
「これは緊急時に使用する物です。まあ、多少の雑談は容認しますが、決してグスタフさんに私用で使わないで下さい。いいですね?」
「「「「…はい。分かりました…」」」」
肩を落とす騎士達。両手を合わせて俺を拝むグスタフさん。
まあ、任務中は真面目にやってもらわないとね。
「次はこの[アイテム・ポーチ]です。このように装備します」
俺が初めに付け方の見本を見せる。
本当はアリス用に取って置いた物なのだが、転移する時渡すのを忘れた。テヘッペロ。
似合わね~!
実際に装備して、腹に装備した自分の姿を見る。
背広にウエストポーチは似合わんよ。ダサッ!
「グスタフさん、やってみて下さい」
グスタフさんはヒップバッグ方式で装備をした。…ぐっ…ダンディーな男は何付けてもかっけーな。チクショゥめ。
「では、留め金を外して、中に手を入れてみて下さい」
「なっ、何ですかこれは!」
[アイテム・ポーチ]の蓋を開けて、上を見上げながら手を出し入れしている。
「こ、これは凄い。手を入れると目の前にアイテムの姿が浮かび、手を出すと消える。…これがタロウ様とハナコ様が使われていたと言われる”アイテム・ボックス”なのですか?」
あ~タロウとハナコしか使えなかったのか…。まあいい。
「いえ、[アイテム・ボックス]とは違い、容量に制限があります。その[アイテム・ポーチ]に入れられる物は9種類×9個までの数量。入る物の重量制限は有りませんが、蓋の開口部を通る大きさだけです。目に浮かんだ物を出してみて下さい」
「おお~こ、これが神の御業ですな!…うん?これは?[エリクサー]??、使徒様、この[エリクサー]というのは?」
エリクサーの瓶を取り出して疑問を言うグスタフさん。
この世界には[エリクサー]って無いのか?
「それは薬です。HPやMPの完全回復。部位欠損以外の大怪我、病気、毒、呪い、マヒ、石化などの状態異常を治癒します」
❛聖なる大回復❜のお薬バージョンだ。
「な、何と!それは”世界樹の雫”ではないですか!!」
「「「「「ザワ…ザワ…」」」」
騎士達がザワつき始めた。
世界樹の雫?…何それ、つおいの?
「え~と、この世界に[エリクサー]とか[HPポーション]や[MPポーション]って無いんですか?それに”世界樹の雫”って何です??」
ここは聞いた方が早い。
この世界に[HPポーション]や[MPポーション]が無いのだとすれば、俺はまた馬鹿な事をやった訳だ。
「いえ、ポーションは御座います。ただ、[エリクサー]というものは聞き及びません。効能自体は”世界樹の雫”と同じものですが」
あ、そうなの?良かった。
「では、皆さんも装備してみて下さい。中には薬と食べ物や水などが入っています。非常時はこれで凌いで下さい」
ガチャガチャと音を立てて装備し始める。
「「まあ、砂糖が」」
「「これが[エリクサー]!」」
「「「二つずつしか入ってません…」」
しょうが無いだろうが!255個しか無いヤツもあるんだからさ!
全員が装備し、蓋の中に手を入れて、中のアイテムを出し入れしている。
サラは右肩から斜めにベルトを掛けて、背中に[アイテム・ポーチ]を装備していた…なにそれ!カッコいいな!
「サラ、それ蓋に手が届くのか?」
「このようにすれば届きますが」
スルッとベルト部分を引っ張ると、背中の部分にあった[アイテム・ポーチ]が胸の前に来る。
成程ね、頭いいな!
「この様にしないと腰の刀を抜くのに邪魔になるのです…いけませんか?」
「いや、使いやすいようにすれば良いよ」
「はい」
「…余にもくれ!!」
サラ…またネックレスを使っていたのか…。
再び国王陛下の声が聞こえた。
こいつ、クレクレタコラかよ!
俺が微妙な顔をしていたんだろう。
サラが「申し訳ありません。ご主人様の偉大さを知らしめようと致したのです」
と謝って来た。
「いや、いいんだよ」
悪いのは国王陛下だ。
102個造った[アイテム・ポーチ]。アリスの分は後で造ればいい。
どうせ俺には必要ないからな。
何かと煩い国王陛下に、直ぐに届けて話を続けよう。
幸い、今はここに100人の騎士がいる。5分や10分、俺が居なくても大丈夫だろう。
いや、直ぐに戻るケドね。
「グスタフさん、少し任せます。何かあったら連絡を」
「は。お任せ有れ」
「では、❛聖なる転移❜!」
・
・
・
一瞬で場面が変わり、神聖ラーナ王国の玉座の間に転移。
多数の水晶玉が置かれたその場に、ダニエル・ウェストランド王が一人佇んでいた。
「…待ちわびたぞ…」
「陛下、遅くなりました。はいこれ、[アイテム・ポーチ]です」
「おお、これが[アイテム・ポーチ]か…アリスが[受信の水晶板・改]を持ち去ってしまい、声しか聞こえぬので難儀したぞ」
アリスはちゃんと[受信の水晶板・改]を回収できたんだな。
持ち去ったという事は、抵抗したんだろう。こんにゃろ!
「では、約束通り、水晶玉を戴いていきますね」
「待て待て!」
「えっ?」
「他には?」
「はあ?」
「他にも有るであろう?」
水晶を貰おうと思ったら、待ったがかかったのでゴザル。
「何でもいいとおっしゃったではないですか」
「”剣”とか”盾”と言ったではないか!」
チッ、覚えていやがった。
「はいはい、分かりました。では、”聖剣”と”聖盾”と、どちらがいいですか?」
「なっ、両方あるのか!では両方!」
「………」
ジーッと冷めた目で見つめる。
「…”聖剣”や”聖盾”と言えば、男の憧れのアイテムであろうが!普通、一生掛けても手に入らぬ物なのだぞ!分かってくれ!」
あ~コイツ、厨二病だわ。気持ちは分かるけどね。
「コホン…では陛下、もう一つお願いを聞いて下されば、両方差し上げましょう」
「本当か!願いとはなんだ?」
「以前『ワヤマの街』を下さると言いましたね?あれ、この護衛任務が終わったらグスタフ・バレンタインさんに上げてくれませんか?」
「うむむ…。それは難しい。叙爵ならば余の裁量でどうにでもなるのだが、領地を与えるとなると他の貴族達が反発する恐れがある。確約できん」
「あれ?私には簡単にくれると言っていたでは無いですか?」
「それは、ヤマダ殿が”使徒様”だからだ。ここは神聖ラーナ王国。使徒様に盾突く貴族はおらぬ。それに使徒様がこの地に住めば、何れ大陸中を治める事も出来よう」
成程ね~政治的に利用する気だと。
「でも、その私が認めた男ですよ?」
「ぐぬぬ…」
俺の事は諦めて欲しい。
ここは物欲センサーに訴えよう。
「でも、これが欲しいんでしょう?」
チラチラと、❛聖なる箱❜から”聖剣”と”聖盾”を出し入れして見せびらかす。
「うぐっ」
「ほらほら、素直に成って下さい」
チラッ…チラッ…
オリハルコン製の”聖剣”と”聖盾”
剣の形は普通のロングソード。
鞘もオリハルコンで造り、鞘の部分にミスリルでアマテラス様のモニュメントを付けた。
盾は”ロトの盾”に形を似せて造ったもの。
同じくミスリルで、縁と中央にアマテラス様のモニュメントを付けてある。
目立つように、中央部分は60cmのモニュメントだ。
「ほらほら…」
これじゃ、どっかのヤ○ザ屋さんのようだな。
「ぐっ…相分かった!余が何とか致そう」
勝った!
「では、どうぞ」
そう言って、”聖剣”と”聖盾”を渡した。
「おおおおっ!これが聖剣!凄い…凄い…」
国王は剣と盾を構えて自分の世界に旅立って行った。
俺は水晶玉を❛聖なる箱❜に入れる。
使えるかどうかは分からないが、無いよりマシだ。
…集めた水晶玉は483個に成った…。
何で?アマテラス様、1種類、255個が上限じゃ無いの?
❛聖なる箱❜を何度確認しても[水晶玉]×483と成っている。
――あの女!、ただ単に”FF”ってやりたかっただけかよ!
「…ぬふふ…格好良い!…シャキーン…シュイーン…」
戻らぬ旅人を後目に、俺は❛聖なる転移❜で館に戻った。
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第二章 完




