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2-27 ホントなんと言ったら良いのか分からない!

 小人閑居して不善をなす。


 これは俺のような心も身体(からだ)もカラダの一部も小さい男は、自分が優位に立てると分かった途端いらんことをしでかす、という意味である。


 もしかすると昔の偉い人は俺の生誕を予知していたのだろうか。

 ――まさか、地球には未来予知のスキルが存在するのでは!?


 まあ、そんなことはどうでもいいので話を進めると、エドは俺が感嘆の声を漏らした事に少し驚いていた。


「お? 7階建てには旦那も驚いたのか? この世界の技術も捨てたもんじゃないな」


「うん、驚いた。この文化レベルでこの高さの建物が出来るとは…。元々古い建造物や遺跡とかすごい好きだから既にこの街自体が感動だよ」


「遺跡と同レベルかよ! …まあ、旦那の世界はすごい技術なんだろうから仕方ないが。じゃあ、10階建てなんかもあるのか? いや、20階とかもありそうだな。んー…」


 後半部分は独り言のような声だったが、なにか思いついたらしい。


「旦那! じゃあ、旦那の世界で一番高い建物は何階建てぐらいなんだ?」


「んーと、確か…162階だったかな?」


「……――――ひゃ…ひゃく…ええ!?」


「ひゃくろくじゅうにだよ」


 俺は丁寧に言い直した。



 なぜかエドだけではなくベアトリスまで冒険者ギルドを前にして固まってしまったので、誤解の無いように補足説明を入れる。


「あ、でも、それ俺の国じゃないよ。俺の国には世界で2番目の高さのモノしかないから。それに建物じゃなくてタワー? …塔だから」


「ああああの、ご主人様? それはいったいどれぐらいの高さなんですか?」


「具体的に言うと世界一の建物は、正確には覚えてないけど800M以上だったはず。俺の国の塔は634Mだよ。塔としては世界一だけどね。それと世界一の建物は上に塔がくっついてるから何階建てという言い方だと高さは正確に表現できてない…」


「ちょー…ええ!? そんな高さじゃ空を突き抜けちまうじゃないのか!?」


「まさかー。宇宙空間まで地上から100キロぐらいの距離があるんだから抜けるわけないじゃん」


 宇宙との境の定義は曖昧らしいが一般的には100kmとされている。

 これらの知識はディス○バリーチャンネルから得たものである。


「あ、いや、旦那…。例えで言っただけなんだが…。ウチュウ? 空の先なんてホントにあったのか!?」


「うん、あるよ。たぶん、俺の世界…惑星と大きさや質量が同じなら宇宙空間までの距離は変わらないと思う。太陽光を浴びても死なないし、呼吸も普通にできるし、身体も重くない。だから、大気中の成分の割合も自転や公転の速度もあまり変わらないんじゃないかな? まあ、空気中に魔力が含まれてるから一概には同じとは言えないけど。ただ俺が生きていられるのが俺の惑星とあまり変わりがないという証明になると思う。――もし身体を構成しているモノが変わっていなければ、だけどね」


「…旦那の言ってる話が全くわからねー。ベアトリス姐は分かるか?」


「大丈夫! 私も全然分からないから!!」


 これらも某発見チャンネルからの知識である。

 

 この某発見チャンネルでは伝承や迷信まで本気で検証していたりする。

 100万年後の地球はイカが支配しているという仮説など観ていて興味は尽きない。

 

 そして超新星爆発によるガンマ線バーストなど男の浪漫の最たるものではないだろうか。


 だから中途半端な知識だけはかなりあるのだ。

 それにそれらの知識が俺の発明品開発に役立っている。


 最近、星を眺めながら考えていたことがある。

 この世界は俺にとっては異世界ではあるが、パラレルワールド、つまり平行世界のような異次元の存在ではなく地球と同じ宇宙にある遠くの惑星なのではないのか。


 だから、先ほどエドたちに話した内容は説明というより自分の考えを吐露しただけなのだ。


 しかし、それだと別の疑問も残る。

 死んだらこの世界に来た時と同じ時間に戻れるということは時間の逆行、タイムスリップすることになる。それに、レベル制なんて自然現象ではありえないし、俺だけとはいえ、メニューが開けてイロイロできてしまうというのも現実的に考えておかしすぎる。


 世界最強の男の死因を考え始めてから色々と考える時間が多くなった。

 そしていつも最後には恐怖に駆られてしまう。


 もし、本当に神が自分の好みで作った箱庭のような世界であったら、気に入らないという理由だけで明日にでも全てが消失してしまう可能性もあるからだ。


 ただ、近代科学を望んでいないにも関わらず地球人をこの世界に呼んでいるのだから、そこに何らかの意図があるのだろう。


 そして、俺には特別な能力が与えられている。大言壮語をするつもりはないが、実際、俺ならこの世界の全てを変えられる。

 

 神はいったい何を望んでいるのだろうか…。


「どうしたんですか、ご主人様。また、悩み事ですか?」


 また自分の世界に入り込んでいて周りが見えなくなっていたようだ。俺が突然黙り込んだので心配になったのだろう。


「ん…ああ。ベアトリスはこの世界…自分がいるこの世界がこの先どうなって欲しい?」


「え? …んー、そうですねー。まあ、ずっと平和がいいですね。――あっ、あと、ご主人様の発明品でもっと便利な世界になったら嬉しいです。…でも、禁忌になる物や世の中がひっくり返っちゃうような物はダメですよ」


「そっか…。そうだよね…。まあ、そういうことだろうね」


 ベアトリスは頭を傾げているが、きっとそういうことなのだろう。



「じゃあ、ギルドの中を見に行こうか」 


 俺はベアトリスとエドに笑顔を向ける。

 二人とも心配そうな顔で俺を見つめていたが、どうやら懸念を払拭できたらしいと感じたのか笑顔を返してくれた。


「旦那は俺たちに言えない悩みがたくさんあるんだろうけど、あまり一人で抱え込むなよ。何の意味があったかは分からないが、今みたいにベアトリス姐の言葉だけで気持ちが切り替えられることもあるんだからな」


「そうですよー。ご主人様の悩んでる姿を見ると私の胸が潰れそうなほど苦しくなるんです。きっとそのうちご主人様の大好きな大きいモノが小さくなっちゃいますよ。――いいんですか? ご主人様の好きなあの修練もできなくなっちゃいますよ?」


 それは一大事である。


「そんなことにならないように私たちが支えますから、ご主人様はいつも通り発明品と男の浪漫とイヤラシイことだけ悩んでいてください」


 ベアトリスの気持ちは嬉しいが、非常に肯き難い。


「分かりましたかー?」


 俺を気遣ってそんな事を言ってくれているのは分かるのだが、ここで首肯してしまうのは逆に何かを失う気がする。


「ぜ、善処します」


「むー。ちゃんと返事してください。じゃないと小さくなっちゃいますよ? いいんですか?」


 良くないに決まってる! ――が、さらにハードルが上がってしまっているのだ。


「早くお返事してくれないと、小さくなったときの予行練習しますよ? 今日からご主人様の好きなあの修練は抜きにしますよ?」


 おかしい…。「俺たちに言えない悩みがたくさんあるんだろうけど、あまり一人で抱え込むなよ」なんて漢気溢れるセリフを吐いたエドは、なぜかこちらを全く見ようとはしない。――完全に『我関せず』の態度である。


「ワカリマシタ…」


「まあ、ご主人様! ありがとうございます。じゃあ、これからはご主人様の大好きな大きいモノが小さくなって、ご主人様の好きなあの修練ができなくならないように、ご主人様はいつも通り発明品と男の浪漫とイヤラシイことだけ悩んで頂けるんですね!」


 今日俺は、余計なことを悩んでいた為に男として大事な何かを失うことになった。

 


 

 男として大事な何かを失った俺は若干黒く見えるベアトリスと裏切り者のエドを伴ってギルドの中へ入る。


 一番奥に受付のカウンターが見える。その前にある壁には大量の依頼が貼り出されているようだ。

 入口付近は4人掛けの丸いテーブルがいくつも置かれている。これは情報交換や冒険者同士の交流を図るためのものらしく、2階には酒や食事を販売している店があるのでここで酒を酌み交わしながら話ができる。しかし、セルフサービスで注文もわざわざ2階へ行く必要があり、酒場ではないのだから飲み過ぎるなということらしい。


 2階にはその他にも武器や防具、ポーションなどを販売する店や素材の買取カウンターもある。

 素材の買取カウンターはオークションに出したい品の受付もしており、鑑定スキルが使えるギルド職員が随時待機している。


 また、顧客との面談も出来る様に個室がいくつも設置してあるそうだ。


 3階から5階は冒険者ギルド本部となっていて1階の通常業務とは別に、国中の各冒険者ギルドの取り纏めをしている。


 席に座っている冒険者の人数は思ったより多い。

 王都なのだからモノケロスにいる冒険者の数とは比較になるはずもないが、それにしても予想外の人数である。早い時間から待機することで、新たに貼り出された依頼を真っ先に確認できて割の良い仕事を見つけることが出来る。だから今いる連中は真面目で堅実な冒険者なのだろう。


 うーむ…。

 これでは期待していたテンプレなど起こらないかもしれない。


 仕方ない。大人しく依頼でも眺めてみるか。


 モノケロスでは依頼を受けての討伐はしていない。

 いつも狩った獲物が依頼の中にあるか見ていただけで、当然雑用や護衛などの依頼も受けたことがなかった。


 眺めていると意外と楽しい。

 確かに討伐や採取系の依頼は少ないが、迷子の猫探しや引越しの手伝い、トイレ清掃、Aランク以上の実力がないと討伐できなそうな魔獣の目玉の調達などさまざまだ。


 意中の相手に花束を届けて欲しい、なんて変わった依頼もある。


 エドは知り合いを見つけたらしく俺に許可を取ってからテーブルの方へ行っているが、ベアトリスは面白そうな表情を浮かべて依頼書を眺めている。



 ――そして予想に反して、ついにその時は訪れた。

 

 突然、誰かに話しかけられたのだ!


「兄ちゃん、ちょっといいかい」


 キタ――――――!!


 俺は逸る気持ちを抑えて出来るだけ冷静に振り返る。


 あれ? いない…。あ、いた。


 てっきりエドのような巨漢だとばかり思っていたので視線の先が高過ぎたようだ。

 視線を下げるとそこには俺より背丈が少し低い少年が立っていた。


「その装備? …からすると兄ちゃんも俺らと同じFランクだろ?」


 よく見ると彼の後ろにも同じ年頃の少年が2人いてみんな10代半ばのようだ。

 彼らは3人とも何枚もの木の板を身体に巻きつけ、腰には板を削った木剣を差している。


 そして、俺の装備を某有名RPGに例えるなら


 E 布の服

 E ひのきの棒


 なるほど!!


 恐らく彼らの装備は自作で、いずれちゃんとした装備を買うためにお金を貯めているのだろう。そして同じ境遇と思われた俺に声を掛けたということだ。


「兄ちゃんも仕事探してたんだろ? なら、一緒に依頼をやらないか? 今ちょうど受けてきたとこなんだ」


 いくらFランクの依頼とはいえ、一人でやるより複数でやるほうが効率的である。

 だからこれは俺を見下しているのではなく、完全に彼の好意によるものだ。


 馬鹿で阿呆な冒険者に絡まれることを期待していただけに、これは完全に予想外であった。


 人好きのする幼さ残る笑顔を向けられて、悪意の欠片すら感じられない。


「あ、ありがとう。でも、昼から用事があるんだ」


 隣にいてもメイド服を着ているベアトリスが俺の連れだとは気づいていない。

 当のベアトリスが今や完全に他人のフリをしているのだから、布装備の俺と関係があるとは夢にも思わないだろう。


「大丈夫だって。4人でやれば昼には終わるから遠慮すんなって」


 俺は人から好意を寄せられることが、ひじょ――に少ない。

 こうなると、すご――く断りヅライ。


 彼は俺の手を引いて外へと向かう。

 その際、ベアトリスがエドに耳打ちをして二人で大笑いしている姿を見逃してはいない。

 

 この状況では「あとで覚えてろよー」と捨て台詞を残すことすらできない。

 まさに俺の方がテンプレに敗れた小者のような心境だった。


いつもお読み頂きありがとうございます。

今後とも宜しくお願いします。

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