第13話 解釈、そして
時刻は12時。PCの前に座って三十分。画面は真っ白のままだった。
「……どう書けばいいんだよ」
呟いた声は、部屋の中で溶けた。
書くべきものは決まっているのに、文字にして打ち込むと、何か違う。白石さんの話には合った、グジュグジュの傷に触れるような、嫌な感じが出てこない。
「クソっ」
頭が押しつぶされるように痛い。指先も震えている。
……視界に映るAIのページ。
助けてやるよ、と言っているようで、黙れ、と返したくなる。
震える手でキーボードを叩く。
何か違う。そんな思いを抑えて、書き切ってみよう。
……けれど。
「やっぱり……何か足りない」
頭には未だにガンガンと殴られているような衝撃。視界がにじみ出す。
「……あ」
そこで気づく。昨日から、寝ていなかったことに。
キーボードに置いた指が、ゆっくりと滑り落ちた。意識が、遠ざかっていく。
耳の奥で声が響く。
「大切なのは、その話を聞いたあんたの……解釈だ」
意識が、ふっと途切れた。
暗闇の中、目を覚ます。
キーボードを叩き、眩しさに目を細めながら見る21時の文字。
胸中にあったのは、白石さん。
……俺に似ていた。罪も、苦悩も。だから、重ねた。
そう、そうだ!
バンとPCのエンターキーを叩く。軽快な音がこだまする。
「……俺だ」
呟いた声は、さっきまでの自分とは違っていた。
胸の奥が、熱くなる。キーボードに置いた手のひら。指先が、勝手に動く。
どんどん生まれる文字列。それは、苦悩を抱えるシーンで止まった。
ここまでは、白石さんの話だ。けれど、何かが足りない。
――向こう側に、何が見える。何を……想像する。
AIのページが、きらりと輝いた。
次の日、火曜の朝。俺はPCを抱えて走っていた。
いつも聞こえる町の喧騒も何も聞こえず、ただ……
どうしても、見せたかった。
スクールの前に着く。
息を整えることもせず、ドアを開ける。
「……こんにちは」
声が裏返った。けれどもう、どうでもよかった。
白石さんがゆっくりと顔を上げる。
「読んでください。……俺の小説を」
白石さんは、しばらく何も言わなかった。俺の差し出したPCの画面と、俺の顔とを、ゆっくりと往復する。
そして一呼吸おいて、白石さんはゆっくりと椅子から立ち上がる。歩く。俺の方へ。足音が、やけに大きく響いた。
目の前に立つと、白石さんは、ほんの少しだけ息を吸った。
「……見せてください」
俺はPCを差し出す。白石さんの手が、そっとそれを受け取る。
白石さんは、ゆっくりと読み始めた。




