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魔道具少女は恋を知らない。  作者: ゆきうさぎ
◆王女様編◆
87/143

◆第87話




「見つけちゃいましたね、隠し通路」

「だな。シャル、ちょっと通ってみろよ」

「丁重にお断りします」


隠し通路を見つけた2人は、それを見ながら言葉を重ねる。

エドワードが風を頼りに見つけた隠し通路を、バラが傷まないように気をつけながら掻き分けると、数枚の板が何かを塞いでいた。

それを力任せに外せば、それなりの大きさの穴が出てきたのだ。

しかし、そこで新たな問題点が浮上してきた。


「これ、本当に通れるんですか?」

「通れるだろ。クマは」

「クマは通れますけど。シェイラ様はどうなるんですか」

「どうしような。だから通ってみろって」


掻き分けたそこにあったのは確かに城の外へと抜け出すことのできる通路であったが、通路と呼べるほどしっかりしたものではなかった。

何より狭くて小さいのだ。

まだ小さい頃の子どもならばいざ知らず、大の大人が通るには体をぎゅっと縮こまらせなければならない。

そのため通れるのかという問題が浮上してきたのだった。

それを検証するために、エドワードは先ほどから自分よりも小柄なマーシャルに通ってみろと言っている。


「わかりましたよ、通ればいいんでしょ、通れば」


マーシャルはやけくそ気味に言うと、しゃがみこんで狭い隠し通路を通る。

途中、バラの棘や蔓に髪の毛が絡まって引っ張られたり、躓いて転びそうになった。

なんとかして奥のほうまでやってきたマーシャルであるが、ここでもまた問題が浮上した。


「出れないんですけど」


ほぼ座っている状態で歩いてきたマーシャルであったが、やってきた先には出口らしきものが全くないのだ。

目の前にある壁らしきものを押しても全くびくともしない。


「エドー?」

「どうした?」

「出口がないんですけどー」

「上だ、上」

「上?」


明るいほうから聞こえてきたエドワードの声に、マーシャルは上を見上げた。

相変わらず視界は暗い。

しかし上を見ると、丸く円を描くように光がこぼれているのに気がついた。

それに首をかしげるマーシャルだったが、またエドワードの声が響く。


「おそらくそれが出口だ。力いっぱい上に押してみろ」


マーシャルはエドワードの言葉どおりに円を上力いっぱい押し上げる。

するとどうだ。

ズズズという音とともに、円が上へと動き出した。

そして聞こえてきたガコンという音と、急に明るくなった視界に、マーシャルは目を細める。

ひょこりと、その先に頭を出してみれば、そこは確かに王城の外であり、鬱蒼とした森が広がっていた。


「まじか」


マーシャルはポツリと呟く。

本当に隠し通路があり、その先に道があった。

そして通り抜けた先には、人気のない森。

マーシャルはため息をつくと、来た道を戻ってエドワードの側に立った。


「・・だいぶ汚れるな」

「うわ、本当だ!」


戻ってきたマーシャルの姿を見たエドワードはとても言いにくそうにそう告げた。

マーシャルはその言葉を聞いて自分を見直す。

しゃがんでいたせいで、ワンピースの裾は土の上をずってしまい、茶色く汚れていた。

髪は蔓や棘に散々絡まりボサボサとなり、頭の上には花びらやら土やらを乗せている。

服に無頓着なマーシャルでも、これはヤバイと思ってしまうほどだ。


「こら、スカートを捲り上げるな」

「でも汚れてるし」

「いいから」


ワンピースの裾についた汚れをとろうとしたマーシャルの手を、エドワードはやんわりとおろさせる。

それに文句は言わないものの不満は持っているマーシャルに、エドワードは内心でため息をついたのだった。


「この道をクマがひとりで通ったんですかね。シェイラ様抱えて」

「いや抱えては無理だろうな」

「抱えなきゃ引きずるしかないですよ?」

「そうなんだよ。でもあの庭師は担いでいったと言った。少なくとも引きずってたらそんな表現はしないだろ」


マーシャルはその言葉に頷く。

クマは一体どのようにして気を失ったシェイラを運んだのか。

どれだけ考えても、その答えが出てこないのだ。


「これの先はどうなっていた?」

「森でしたよ」

「森か・・・それなら、確かに人目に触れずにシェイラ様を運ぶことができるな」


しかしそれは、この隠し通路を無事に通ることができればの話。


「どっちにしろ効率悪いですよね」

「効率?」

「だって、シェイラ様は自分でここに来たわけじゃないですか」


その方法も定かではないが、誰もがクマのぬいぐるみを抱えたシェイラを見たと言っている。

つまりシェイラに何らかの魔法をかけられて、この場所まできたことになる。


「それなら、こんなところで気絶させるより、クマを抱えてシェイラ様自身にここを通ってもらったほうがクマが動くより効率よくないですか?」


マーシャルの意見は最もだった。

隠し通路のあるここまで連れてきたのだから、どうせならシェイラ本人に通らせたほうが手っ取り早いだろうことは、誰が見てもわかることだ。

それなのに、シェイラは気絶し、クマがシェイラを担いでいった。

全くもって謎である。


「そのクマのぬいぐるみがあればなぁ。魔道具であることには間違いないんだから、隅々まで調べつくすのに」

「試しに造ってみることもできないのか?」

「いや魔道具として造ることは可能ですけど、中身を知らないんで、性能が全く異なるんですよね」


マーシャルはクマのぬいぐるみはあの日たった一度見ただけで、近くで見たわけでも触ったわけでもない。

だから全くわからないのだ。

それがどういうもので、どういう目的で、どういう性能で造られたものであるのか。

想像すらもできないのだ。


「お手上げですね」


マーシャルはうーんと唸ってからそう言った。

というよりもこれ以上考えても、答えが見つかりそうにないからだ。

それならば、2人で見つけたこの隠し通路についてと、そこで浮かんできた疑問点を話し合い、何人かで議論しあったほうが有意義であるとマーシャルは考えている。


「とりあえず戻るか。ここにいても得れそうなものはもうないな」

「ですね」


エドワードとマーシャルは隠し通路を丁寧にバラで覆い隠すと、庭園の中を抜けていく。

庭園で咲いている花は、どれも美しく咲き誇っており、手入れがとてもいきとどいていた。

これをあの庭師である老人がすべて手がけているのだから驚きである。


「すごいですよね、これだけの花をこの状態で維持できるなんて」


花が愛でられる時間は短い。

それはまるで女のように。

エドワードは、そんなことを言いながら姉であるメアリに縁談を持ってきた貴族を思い出した。

そのせいで、花を見ているのに、エドワードの顔の眉間にはしわが寄っていた。


「エド、そんなに花を睨みつけてどうしたんですか」

「・・いや、なんでもない。庭師の話だったな」

「はい。すごいですねって言ってるんです」

「そりゃそうだろ。ここの庭師は元々魔法師団にいた魔法師だからな」


エドワードはさも当然とばかりに言うが、マーシャルはその事実は初耳である。

思わず食い入るようにエドワードの顔を見た。

見つめ合うこと数秒。

先に口を開いたのはエドワードだった。


「知らなかったのか?」

「知らないも何も、声を聞いたのはこの前が初めてです」


庭師を見かけることはあったが、特別話しかけるような用事もない。

城に来てまだ間もないマーシャルにとっては当然といえば当然だった。


「相当な水魔法の使い手らしい。噂では精霊と契約しているとか」

「ああ、なるほど。花の管理を魔法でしてるんですか」


魔道具と魔法の話しになるとマーシャルの頭は驚くほど回る。

それを少しでもいいから、別の方向に向かせてほしいとエドワードは思うのだった。










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