◆第143話
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ウィズはじっと、鎖につながれている女を見つめた。
元々着ていたであろう侍女服は拷問に耐え切れずズタボロであり、ところどころが破れ肌を露にしていた。
露になっている肌からは血が滲んでいる。
どうやら酷く叩かれたようで、頬が少しばかり腫れていた。
髪が濡れているため水をつけられもしたのだろうウィズは予想した。
すでにこの国にある拷問の方法はやりつくしたんじゃないだろうかとウィズは思わず苦笑した。
「彼女が?」
「はい。名前も歳もわかりませんが、帝国出身のようです」
「帝国?え、なに、戦争でもしたいの?」
ウィズは少しばかり驚く。
確かに帝国とは陸続きであり、境界線付近の町や村では常に小競り合いが続いている。
何年も昔に戦争を始め、今では停戦協定が結ばれているものの、いつ破られてもおかしくない状態であった。
しかし現在、帝国よりも豊かになった王国はさほど帝国に興味はない。
なにかと敵意を剥き出しにして王国を睨みつけてくるため警戒はしているが、それ以外は特に何もないというのが今の王国側の現状であった。
だが、帝国側は間者を送ってきた。
それもマーシャルの誘拐を企ててだ。
一切干渉しないという停戦協定を破ったのだ。
「それすらも吐きませんから、なんとも言いようがない状態ですね」
「なるほど・・彼女が口を割らない以上ね。え、でもなんでわかったの、彼女が帝国の人間だって」
ウィズの言葉にサーシャは口をへの字に曲げた。
「・・彼女には奴隷の烙印がありましたから」
「そう、」
スッと、ウィズの侍女を見る目が細くなった。
帝国は王国と違い、奴隷の存在を国が認めている。
奴隷商が普通に存在している帝国は、少し裕福な層であれば奴隷を持っていることがひとつのステータスになるのだいう。
そういった家に買われる奴隷たちは人攫いによって連れ去れた子どもや孤児や、中には身寄りがなく連れ去られた成人した者たちまで多種多様であり、共通しているのは奴隷とされた人間には背中に奴隷であるという烙印をおされるのだという。
「帝国も悪趣味だよねぇ」
そう呟きながらウィズは侍女の前にやってくるとしゃがんだ。
別に子どもの身長である為しゃがまなくても良かったのだが、しっかりと顔が見たかったのだ。
覗くようにしてウィズが見ると、無表情の顔が何も反応も示さずにウィズを見返してた。
「君がマーシャル嬢を攫おうとした人?なんか思ってたより普通だ」
「ウィズ様、近寄らないで下さい」
「いいじゃない、鎖にびっちり繋がれて動けないじゃん」
「そういう問題ではありません」
ウィズはため息をつくと2歩ほど後ろに下がった。
サーシャはそれでも不満であったが、ウィズと一緒に来た青騎士に隣にいるように目配せをした。
それに気が付いた青騎士は音もなくウィズの隣に立った。
「僕あんまり気が長いほうじゃないから単刀直入に聞くけど。お前マーシャル嬢に何したの」
普段からその見た目に合った天真爛漫を装っているウィズからは想像もつかない冷たい声色だった。
ウィズから飛び出した殺気に、ウィズの隣にいた青騎士は自分の身の毛がよだつのを感じた。
「僕はね、ぶっちゃけ言うとお前が帝国の人間だろうが、間者だろうが興味ないんだよね。どうでもいいともいうけど」
だからウィズにとっては、侍女が帝国の奴隷であるからといって、特に興味をひくわけではない。
可哀相だとは思いはするが、それまでだ。
「マーシャル嬢を攫ったときに何をして、何を言った」
ウィズは苛立ちを隠しもせずに彼女を睨みつけた。
ウィズは自分でも驚くほどにマーシャルのことを可愛がっていた。
最初こそは人懐っこいが猫のような気分屋の娘だと思っていただけだったが、マーシャルの持つ腕と魔道具に向き合うその姿勢に、とても好感をもてた。
だから多少強引でもマーシャルを守るために塔に入れた。
ウィズを敬いこそするが恭しく扱おうとしないマーシャルは、ウィズにとってはとてもありがたかった。
幾度となく弟子にしてほしいと言われてきたウィズであったが、いつだってその首を横に振ってきたが、マーシャルだけは別だった。
マーシャルになら、自分の研究成果全てを譲渡しても良いと本気で思えた。
それは別に恋愛感情ではない。
どちらかといえば、親が子に抱く感情だった。
「ふふっ」
ウィズの言葉に、女から笑い声が聞こえてきた。
今まで黙秘を続けてきたせいか、少しだけ声を出しづらそうだった。
彼女はしばらく笑い続け、そして笑い終えた後は疲れたようにウィズを睨みつけた。
「事実を教えてあげただけだわ」
彼女はウィズを睨みつけながら無表情でそう言った。
「事実?」
「そうよ。あなたもわかっているのでしょう?彼女の異常さを。あの子さえいればすべてを滅ぼすことができるのよ」
ウィズは翡翠の瞳を大きく見開いた。
彼女が言ったことは、マーシャルの技術を目の当たりにし、その性能を実際に感じた人間ならばすぐに気が付くことだ。
他の魔道具の比ではないということを。
しかしウィズは以前マーシャルに似たようなことをレイモンドを交えて話したことがあったはずだと考える。
マーシャルはいつだって自分の腕が相当のものであるということに気が付いていなかった。
少し前にようやく気が付いたというところだろう。
そしてウィズたちが兵器すら造り得てしまうだろうという憶測を、マーシャル自身は大して気に留めていなかった。
ようは造らなければよいのだと、高を括っていた。
しかし実際に兵器を造るために帝国に攫われそうになったマーシャルはその現実性に気が付いてしまった。
そしてそんな自分に怖くなったのだ。
「まさかそれを言ったのか」
「言ったからどうなるというの。マーシャル・レヴィ自体が兵器の何物でもないでしょう」
ウィズは苦虫を噛み潰したかのような表情をしてみせた。
マーシャルは自分が本当にこの国を滅ぼしてしまう可能性に気が付いてしまったのだ。
ウィズは忌々しげに彼女を見た。
ウィズはマーシャルにはいずれ気付いてもらって、その上で魔道具を造っていってもらうつもりだったが、まさかこうも唐突に事実を突きつけられるとは思ってもいなかった。
「やってくれたね、本当に」
ウィズは舌打ちをついてそう言うと、サーシャに「戻るよ」とだけ告げて地下牢から出た。
外に出ればとても心地の良い風がウィズの頬を撫でたが、彼の心の中はとんでもなく吹き荒れていた。
どうしてくれるんだ!というやり場のない怒りをぶつけるかのように、ウィズは地下牢へと続く道を振り返り睨みつけた。
とはいっても、ウィズ自身もマーシャルの気持ちがわからなくもない。
彼とて技術士としては天才と呼ばれる部類に入り、多くのものを造ってきた人間なのだ。
いつだったか、ウィズに嫉妬した人たちが『そのうち国を滅ぼすぞ』という心無い言葉をかけてきた。
そのときは自分の腕をおそろしく思ったものだ。
そのため今のマーシャルの気持ちは痛いほどわかるし、だからこそ乗り越えてほしいとウィズは思う。
断じてマーシャルは兵器ではないということをウィズはわかっている。
とにかく行動しなければならない。
「いいところに、焔鬼殿」
「・・ウィズか」
まさかばったり会うとは、とウィズは思ったものの、マーシャルのことならとりあえずエドワードに任せるのが一番だろうと考えた。
「焔鬼殿、次の休みはいつですか?」
「休み?明後日くらいが非番だったが」
「明後日ですね」
よし、とウィズは頭の中にメモする。
そんなウィズを見てエドワードは首をかしげた。
「どうかしたか?」
「マーシャル嬢とデートしてきてください」
にっこりと笑ってそう言ったウィズにエドワードは「・・・は?」という何とも間抜けな声を出した。




