三月四日
三月四日
ベンチャー企業という名のとある詐欺師集団的会社を率いる社長を殺害。
炉に焚いた火の中に彼を投じる計画を遂行した由なり。
火に入れられる前、俺がいなければ家族だけでなく社員が路頭に迷うぞ、お前は罪のない人間をそんな境遇に陥れていいのか、自分のしていることをよく考えろ、と彼は私に説教をした。
死の間際によく頭が働いたものである。
しかしかなしいかな。
人の悲しみは刹那的なものであり、悲しみはやがてより恒久的かつ宝石のように美しい絶対の原動力をもたらす感情なのである。
憎しみ、奮起、憂鬱、そして真の愛。
死以外によって愛が確かめられるだろうか。
悲哀と愛は相似する。
二つは同じ枝から育った赤椿と白椿。
だから悲しみが生む感情は美しく見えるのだ。
殺人によって私は世界中に愛をもたらす。
キリスト殺しのカエサルのように、そしてカエサル殺しのブルータスのように!
わたしが愛をもって男を殺すことを彼は永久に知らないだろう。
いわんや彼の言うところの残される者においてをや。
私が彼を炉に放り込むと、彼の体は彼の想う人々に向かって赫奕とした炎を爆発させた。
滑らかな炎の舌に危うく私は舐められかけた。
鼻先を刺激する焦げるガソリンのにおいはやがて訪れる悲しみの香りに似ていた。
彼の絶叫は心地よい哀歌。
荒れ狂う炎よ、彼の体を慰撫したまえ。
彼の人生を洗い流したまえ。
私の目を煤で汚したまえ。
それでこそ悲しみは黒煙となって霧散する。
ーー彼の悲鳴はいつの間にか透明になっていた。
彼の死によってこれから真の愛が生まれるだろうか。
それとも生まれないのだろうか。
彼の体が今一度爆ぜる時、私は火の前に跪いて祈っていた。
主よ、彼を赦したまえ。




