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殺人日記  作者: 鬼火
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一月十一日

 一月十一日


 私は冬の寒いのが大嫌いである。


 私が殺人者として宿命づけられている以上、私の生涯は常に(のこ)んの熱っぽさをもった血液を纏っていなければならない。


 私の血肉は私の血肉のみで構成されていてはならぬ。


 誰かの血肉によって存在していなければならぬ。


 冬は私の捕えた他人の血肉を瞬時に凍結させてしまう。


 ……ああ冬よ、私を殺そうとするのか。それもよいだろう。


 かの偉大な小説家は言った、殺されることで殺人者は完成するのだと。



 昨日の雪雲は去った。


 澄明な夕暮れ時の落日を見るに私は今宵の寂寞感を怖れ、「抱き枕」を入手することを決意する。


「抱き枕」にした女は学生証によると跡部奏子というらしい。


 小さな形のよい唇が印象的で、幼く見える女生徒である。


 奏子と私は風呂に浸かった。


 屍人を温めるための湯が大理石の湯船に揺曳し、彼女の未完成で柔弱な体を危うく溺れさせかかる。


 私は私の手によらない殺人をことごとく憎む。


 (けだ)し私の手による殺人は私による人類、殊に女性への愛着の表出なのである。


 やがてみまかったはずの彼女の体が人工的にして人間的な体温を恢復させてゆく。死後硬直はとけない。


 温めた奏子には極上のシャンプーを施した。

 甘いイランイランの香りが立ち昇った。


 それから縞模様のシルクのパジャマを着た私たちはベッドへ移動した。


 さきほどの、小鳥を持ち上げるかのような優しさはどこへ消えたのだろう。

 私は激しく彼女の体を掻き抱いた。


「今日は寒かっただろう。かわいそうに。私が温めてあげるから。だからなにも心配はいらない。愛しているよ」


 すると彼女がこくんと頷くようにみえた。


 私は歓喜に戦慄し、眼前に金と銀の砂塵が舞うのを見た。


 彼女の体が毀れるほどの愛撫と、手跡の残る首筋に激情的な接吻をした。


 やがて私は恐ろしいほどの酩酊感の中、のべつ私を脅かしつづける崩れゆく望楼を彼女に投げ出した。

 獣のような咆哮とともに。

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