32話
アンジーはドラゴンが再び現れたこの日の為に、町の鍛冶屋に頼んである物を造らせていた。たった1人でドラゴンを倒すための装備を。10年かけて依頼で貯めたお金を少しずつ払ってきたが、ミックのお陰で直前に大きく報酬を得る事が出来た。それらも含めた全財産を叩いて、鍛冶屋にドラゴン殺しの装備を持って来させる。
「ちゃんと集めててくれたんだね。無茶な注文を続けていたのにありがとうね」
「ふん、ちっとも嬉しくねえ。これだけ揃えるのに時間も金もかなり使った。しかも1人でドラゴンを倒せるなんて無理な注文のせいで」
鍛冶屋のドワーフは本当に倒しに行くつもりのアンジーにそう悪態をついた。
「金はやっただろう。どうせ生き残っても死んでも同じようなものさ。それで全財産やったんだから十分足りるだろう?」
「いいや全然足らんね。魔法のかかった装備はそれだけで城が買えるくらいするんだ。これっぽっちじゃ話にならん」
ドワーフが続ける。
「いいか、戻ってきてちゃんと残りの金の支払いに来い。これらは前金として受け取っておく。絶対に払いに来いよ!」
「いわくつきになるだろうけど、装備だけでも戻ってくるようにしておくよ……」
そう言ってアンジーは装備を受け取り外に出た。町の往来から人が消えた。たまに衛兵や冒険者たちとすれ違うだけ。少しの間だったけれど、ミックと一緒にいた期間は楽しい物だった。忘れかけていた仲間との冒険を思い出させてくれた。死ぬ前にそれを味わう事が出来ただけ感謝している。またドラゴン討伐に失敗して周りに迷惑をかけようと、後世に厄介者として名前が残ろうと悔いはない。命を賭けて戦うまでだ。
町の外へ出て目標地点へ顔を向ける。10年前と同じ北の山、そこにドラゴンがいる。
「アンジーさん!」
聞いた事ある呼び声が聞こえて来た。しかし、今聞く事は出来ないはずの声。アンジーは振り返った。そこには駆け寄ってくるミックの姿があった。
「ミック、あんた何してんだい! 町の外に出てきて!」
「ええ、衛兵の人たちにばれないように町を歩くのは大変でした。でも、アンジーさんが来るのを待って、町の門前で待っていたんです」
「これは遊びじゃないんだよ! とっとと町に戻るんだ。死にたいのかい!?」
ミックが言い返す。
「それはアンジーさんの方でしょう! たった一人でパーティも組まずにドラゴン討伐なんて、死にに行くのと同じです!」
「でも、これはあたしのやり残した事なんだよ。それにあんたは関係ない!」
「関係あります! ドラゴンは僕にとっても両親の仇みたいなものです。それに、僕とアンジーさんはパーティじゃないですか! だから僕も一緒に行かないと駄目なんです。アンジーさんのやる事は仲間の僕のやる事でもある。そうでしょ?」




