30話
「ぐるる……」
ドラゴンはキングスへ顔を向ける。慌てて武器を構えるが、到底勝ち目がないのは分かっていた。しかし、ドラゴンはこれ以上不必要な戦いを避けたかったらしく、翼を広げるとその場から飛び去った。
これでドラゴンを追い払ったかに見えたが、完全にその地域から離れたわけではなかった様で、魔物の凶暴化は続いた。再びドラゴンを探し出すのにかえって時間を弄することになった。 派遣された騎士団がドラゴンを見つけて数週間も追跡し、ようやくドラゴンはこの地域を離れたが、時間がかかったために、魔物たちの襲撃を受けた北の山の麓にある小さな村が壊滅した。生き残った難民はギルドのある街へと避難し、両親を失った赤ん坊が教会の孤児院で育てられることになった。
キングスとアンジーは生き残りこそしたものの、彼女は右腕を失った。そして、ジェーンは受けた尻尾の一撃でわき腹を抉られ即死。ワイマンも耐えようとした火炎を受け、鎧の中で息絶えていた。ほぼ全滅と言っていい凄惨たる状況で、無謀な戦いを挑んだ愚か者の連中としてパーティの名声は地に落ちた。
そして、リーダーでありながら何もできなかったと痛感したキングスは、教会で神父から治療を受けていたアンジーに一度だけ会いに行き、冒険者を辞める事を告げた。その後、キングスはギルドからも名前を消し、行方不明となった。残されたアンジーが動けるようになった頃には魔物の凶暴化も収まり、元の状態に戻っていた。右腕を失い、他の冒険者からもかえって事態を悪化させた原因と見なされ、軽蔑されながらも彼女はギルドキングスの様に冒険者をやめる事はなく、ギルドに名前を残し小さな討伐依頼を受けて生活をしていた。
そして今、またこの地域にドラゴンが現れた。それもアンジーの右腕を奪い、相手は右目を失った敵同士ともいえる相手が10年越しに再び姿を見せたのだ。
「あたしはドラゴンと戦う。ギルドは認めないけど関係ない。1人であいつを倒すんだ。居なくなった仲間の敵討ちなんだよ」
彼女にそんな過去があったなんて、ミックはこの時ようやく知った。右腕を失った理由、それでも1人で冒険者を続けていた理由を。
「これはあたしの問題だ。あんたを巻き込むわけにはいかないんだガキンチョ」
「でも、それじゃあなお更自殺行為ですよ! 4人で勝てなかった相手にたった1人で挑むなんて!」
ミックが引き留めようとするが、神父に制された。
「いくら言っても彼女は絶対にやめないでしょう。これ以上は無駄です」
何時も厳しくも優しい親の様に接してくれていた神父様から、あまりにも冷たい言葉が出た事にミックは驚きを隠せなかった。




