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運命の宝冠

「はっ、銃弾程度で私の剣速に敵うと?」

「ふふ、なら試してみる?私は構わないわよ、もう居場所はリゼルやカミアちゃんも分かってる。隠れている大王様を殺すくらいなら、造作も無いわ」


キーラはそう言うと、座ったままの砲塔がゆったりとした動きで再び大岩の近くへ狙いを定める。


表情が少しだけ変わったのは偽物?影武者?らしい目の前の盟主。

ただやはり、こういった状況には慣れているのか、動揺の大きさは辛うじて考えるような仕草と視線から判別がつく程度。


分かりやすさで言えば。


「私達が一度撤退したところで、今度は2人の天者が来るだけだ。ぬしらに勝ち目はない」

「ふふふふふふ、その割には表情が険しいわね?ちなみに、無駄な会話をしたところで、あなたの目の前に置かれた選択肢は変わらないわ。正しい選択をするなら簡単よ、その刀を私達の方へ――――――」


向けるだけ。


近くで妖しく笑うキーラに、この時戦闘が始まってから初めて、小さく息を吐いた。

それは彼女を知っているからこその恐れであり、信頼。

キーラ・メイレンという毒薬は、扱い方を誤れば破滅するが、正しく使えば相手を窒息させる武器にもなる。


彼女の目的は、両親が守ろうとした世界の破滅。

歩む道は同じ、進んだ先の結末も、きっと互いを利する価値も。


「……震撃機構」


数少ない違えるものがあるとすれば、二人の間に流れる血の色だろうか。


「……!放電機構!」

「ふは、ならば私は――――――」


揺らめいた刀に、刹那の間に雷を奔らせる。

ギリギリ打ち返せる、そんな負け犬の考えに直後、棺は何を考えたのか身体を刹那に反転させると、何故か虚空へと刀を振るう。


『発射します。第一砲塔、ロンギヌス』


眼に見えないほどの測度で飛来した巨大な閃光は、彼が切らなければこちらも飲み込まれていたのは間違いない。


「……!」

「がははははは!!魔女が、その程度か」

「当然、第二射もあるわ」

「無論、私もな!」


再び通り過ぎる光に、棺が刀を振るった直後、カミアがすり抜けて岩場へと剣を構え、目の前を一筋の亀裂が奔る。


やはりあの場所に何かあるのは間違いない。

地面を蹴り、上空へ上がると共に雷の砲塔を放つと、直後に目の前に四対の剣が割り込んだ。


「図に乗るなよ。私とて――――――」

「ははははは、背後はがら空きだな!!」


地面から伸びた一筋の剣が貫いた身体は、血の一滴すらなく消え去っていた。


「ふふ、ふははは、あははははははははっ!!!」


続けざま、カミアが愉快そうな声と共に、周囲一帯へ剣の山を放つ。


一見無作為にも見えるその攻撃だが、以外にも後方、ノルン達の方はきっちりと避け、そのまま無数の剣が岩場へ迫った所で棺の刀が一撃でその攻勢を止める。


「雷星剣」

『そこです、第三砲塔(サード)』


剣の山を一等で薙ぎ倒していく巨大なエネルギーの波を雷が正面から受け止め、反対に目の前を一筋の光が奔った。


もはや何が起きているのか分からない。

とはいえ、目の前のエネルギーの波に押され気味の脚を、直後に背中から押し返す柔らかな感触が支え、同時に切り開かれた閃光が、近くに見える鬼との境界を別つ。


「運命の宝冠(アンフェイトクラウン)」


別たれた閃光が岩場を通り抜けるのと同時、辺りに透き通るような声が響いていた。


「うふふふふふ、初めまして第三盟主様」

「……!ふむ、誠に厄介よな、魔女。まさか兄者が読み違えるとは」


先ほどまでこちらを阻んでいた女性と瓜二つな、特に目新しくも無い顔が。


(攻撃をかわした?いや、攻撃を無(・)か(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)に(・)し(・)た(・)……?)


悠然と復活した、倒したはずの盟主に、頭の中を少しだけ整理する。


いずれにせよ、この時点で確認するべきなのは、今のこの状況がキーラの『望む結果』になっているのかどうか。


「勇葉、下がれ」


少なくとも相手の予想を上回っているのは、気配だけで切られてしまいそうな程に鋭くなった、鬼の気配からも分かったが。


「兄者……分かっておる、引くぞ」

「あら、あなた達の方から約束を破っておいて、何のお咎めも無く撤退できると?腕の一本でも置いていくべきじゃないかしら」

「……図に乗るなよ、魔女。おぬしらは私達が戻った時点で――――――」


終わり、小さい白髪の言葉に、そのまま槍を回して装填を完了させる。


いつもより大きく聞こえた音は、それだけ残りわずかしかないエネルギーと、反して研ぎ澄まされていく五感のせいか。


「……分かった。ならば、これで手打ちだな」


そんな弱者の警戒をあざ笑うように、目の前で落ちた一つの『何か』に飛び出そうとしたところを……背中から一つの腕が引いた。


「……!兄者!!!」

「……やっぱり、おかしいわ。棺桶ちゃん」

「がはははははは、何だ?貴様から持ち掛けたことだろう、魔女。言っておくが、私達が撤退時点でおぬしらに……いや、元よりないか。0.1秒差で私が先に出る。構わないな?」


ざくりと、棺は残(・)っ(・)た(・)腕で刀を地面に刺すと、直後に光が男と、隣の盟主の背後に現れる。


最後まで慌ただしく、何かを画策する暇さえない。

それはリゼルがまだ実力も頭脳も、何一つとして足りているものがない証明であるのと同時に、一方で光が残った後に地面へと転がっている第三使徒の力の欠片は、少なくともキーラの思い通りになったと願うしかない。


「叔父さん、危ないって……!」

「……!!危ないからなんですか、今の戦闘でE地区の見張りをしていた2人が死んだんです!!彼らの無計画な戦闘のせいで――――――!!!」


緊張した身体や神経を解くのと共に、遠くから聞こえてきた声がキーラの感知する外であるのは、ため息を吐かずにいられない。


「嬉しそうだな、狂人女。何点だ?」

「ふふふふ、勿論百点満点よ。ただ次のテストは千点だから、この十倍努力しないといけないわ。十倍の作戦と……十倍の犠牲も」

「ははっ、十倍か。この世界では人間が足りなくなりそうだな。敵を殺してカウントするか、それとも生き返らせてまた殺すか」

「……うふふふふふ」






「それでは、これよりマルガレウム統一王国の国王にして、統合世界盟主ハルス・メリフェリア・ルイン=マルガレウム様より、新たなる使徒の任命式を行います。第十三席、前へ」


少し時間を遡って、統合世界内天滅機関本部。


「あの人?新しい使徒って、レグルス」


そして、それを視界に収めたまま、議場の中(・)央(・)でひそひそ声で話す二人の男達。


「黙れ。王の御前だぞ」

「えー、あ、出てきたよトロイ様。やっぱりそうか」

「……見れば分かるだろうが」


隣で敬礼の姿勢をとったまま、数十歩先に立つ王を見据え、隣から現れる二人の男の気配に耳を潜める。

今、この場には、ハルス王を始めとして統合世界の新使徒に現使徒、8名の使徒候補生、周囲には招待された他世界の盟主や使徒、その他大勢がいる。


新しい使徒の噂はひっきりなしに出回っている。


いわく、卑怯な不意打ちをした悪者。

いわく、力を隠していた本物の強者。


いわく――――――


「初めましてですね。歓迎いたします。新たな光の守護者を、第十三席ゼノン」


目の前で小さな金属のような塊、神威武装を両手に、トロイが片膝をつく。


これは、新たな使徒を迎える際に毎回行われる定例の儀式。

目的は新たな守護者のお披露目と同時に、ある種の意味合いでは実力の上下が定められていない使徒同士が互いの実力を測る交流の場。


「……ああ」


跪いたトロイの手から無礼にも片手で神威武装を取る、乱れた紫紺の長髪に第二世界の天者達のような機械で象られた熱い鎧とマスク、身体の二倍以上もあろうかという巨大な槍を背負った男は、少なくとも相応の実力は伴っているように見えた。


「……あんたが、最強の使徒か?」

「使徒に優劣はありません。私が一席にいるのは、その必要があっただけのこと」

「……勝てば、貰えるのか?」


物怖じという言葉さえ知らない不遜な態度だけは、少なくとも使徒の中でもかなり上位にいるのは間違いない。


「ふふ、その向上心は素晴らしい事です。ですが、先ほども言ったように、席次は強さの位階ではありません」

「……そうか」


トロイの言葉に、小さく息を吐くゼノンと呼ばれた男は、直ぐに興味をなくしたように視線を外すと、次に儀式の侵攻と共に立ち上がった目の前の二人の同僚を見る。


手だけは胸元に敬礼の姿勢を、ただこの儀式は終わる前に。


「あんた達がレグルスとシグルドか」

「気安く呼ぶなよ。雑魚に興味はねえ」

「レグルス、最初からとげとげしすぎじゃないかい?相手は僕たちの後は――――――」


パキり、と、その瞬間、地面を踏みしめるような一つの音がした。


「時還機構」


男、ゼノンが槍を手に取るよりも早く、首元に剣を突きつける。


速度としてはそこそこ、少なくともレグルスよりも遅い。

埋めることのできない時間の狭間に、視線は一拍遅れてこちらを向いていた。


「はーい、僕の勝――――――」

「巡炎機構」


予想以上に諦めの悪い姿は、きっと満足したトロイが止めてくれるまで続くのだろう。


「ちょっ、まだやるの……!?」

「邪魔だ、シグルド。恒炎機構」


直後、視界に飛び込んできた同僚の姿に一歩下がると、目の前で二つの炎が奔る。


片や周りを考えない巨大な炎の渦。

片や周りなど気にも留めない爆炎。


ともすれば酷い被害でも出そうなものだが。


「ケイト、結界出せる?」

「話しかけないでください、軽薄が移ります」

「あははは、相変わらず厳しいね。アンナ、オルヴィス、手伝って」


近くで少しだけ距離を取り始めた候補生たちの一角、ケイト・フェルトールは剣を掲げると、同時に声をかけた二人の候補生を含め、それぞれ氷と水と、近くに防壁を貼った。


当然急ごしらえのこんなものでは、一瞬余波を防ぐ程度しかできないだろうが。


「おい、まだ下らねえ茶番を続ける気か?馬鹿ども」


そして……全ての準備に水を差すように、一つの粗暴な声が辺りに響き渡った。


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