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滅びたあなたに祝福を、滅ぼすあなたに呪いの詩を  作者: ツンドラ
三章 滅びた者達
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創世

世界が生まれる条件は、現在でも完全に定義されていない。


科学者が定義する一説にはバタフライエフェクトによる時間軸の分岐、一説には突然変異的な事象に対する世界の保護システム、一説には悪戯好きな神の気まぐれ。


これまで世界という曖昧な定義に対する観測システムが確立されて以来、数多の研究者がその理論を確立させようと研究や論文作成を繰り返してきたが、観測が不可能である以上一つとしてまとまった結論はなく、その度に壊すことしかできない人間の頭を一つの認識だけが颯爽とかけていく。


――――――世界の誕生など、矮小な人間が関われるものではない。




「何だ?」


刹那、地面が揺れる。


ハンナを送り返すと共に訪れた静寂、それを一瞬にして打ち破ったのは立っているのが難しい程の振動と。


『世界が生まれる』

「おや、これは……あの狂人女からか。どういう意味だ?」

「……まんまの意味だろ……だとしても、ちっ――――――!」


揺れの強まる地面に、隠そうともしない舌打ちをする。


最初に感じた違和感は、辺りを覆いつくした光だった。


「何だ、何が起きてる?」

「……ふむ、何か強大な気配を感じるな。一人……いや――――――」


二人か。


カミアの言葉に、直後上空に何かの気配を感じ、槍を構える。


降り注いだ何かを弾き、返礼に槍の大砲を放つと同時に、降り注ぐ()()()をカミアが巨大化させた刃で防ぐ。

同時に理解を巡らせた、この明らかな異常事態の原因を。


「ふはははは、ああ……そういう事か!やっぱり君との旅は良い、余りに可笑しな出来事が多すぎる!」


カミアの言葉に、再び聞こえるように舌打ちをすると、視界の先上空に立つ灰色の髪に義足、少しだけ年をとっているように見える、槍を構えた映し鏡に視線を向ける。


「一度滅ぼした世界へ再び訪れる、不思議な気分だ」

「……それに、相手が()()()()っていうのもな」


その言葉に、もう一人のリゼルが僅かに眉を顰める。


それは、あまりに奇妙な光景だった。


「……まさか、本当に世界が作られたのか?」

「さあな、しかしもしそれが真実であるならば、私達の出会いは世界とかいう存在そのものが危機を感じる程のものだったという事だ。なればこそ――――――!」


刹那会話を割って、辺りにいくつもの稲妻が降り注ぎ、収縮していく。


放電機構、否、今のリゼルの脚にこれ程自在に放出できる機能は備わっていないので、これはリゼル達の未来か、あるいは別の何かか。

カミアは背中に、同時に脚から稲妻を放電させると共に加速させると、直後目の前に大剣が突き刺さり、リゼルはその大剣を蹴って上空で反転する。


「放電機構」

「天雷機構」


目の前に振り下ろされた光の剣に、一瞬だけチクリと……どこかが痛んだような気がした。


「……ハンナ」

「驚いた、本当にそっくりなのね。7()()()のリゼルに」


光が弾ける。

振り切られた剣は数度、槍と義足を使って弾くも連戦の影響か一瞬反応が遅れ、その脇腹を一筋の刃が通り抜ける。


「カミア、援護しろ」

「分かっている。だが――――――」


直後、カミアはこちらの横に巨大な瓦礫の盾を作ると、同時にその身体に強い衝撃がかかり、吹き飛ばされる。

地面を踏みしめると共に見えたガシャリという音と、吹き飛んでいるカミアの腕は、リゼルの持つ槍の大砲とも比較にならない程高威力な。


「大丈夫か?」

「ええ、ごめんなさい、仕留め切れなかったわ」

「……問題ない。ハンナが生きてさえいれば」


リゼルの言葉に、隣に立ったハンナは少しだけ笑う。


さっきまで戦っていた相手ととても同一人物には思えない女性の姿は、余りにも成長しすぎている自分自身の態度と繋がっているのかもしれない。


おまけに、少しだけ向こうの方が性格も良いか。


「7年……時間の流れが違うのか?」

「ふは、おまけに向こうの主は随分とお優しい。私も寝返りを検討しようか」

「……勝手にしてろ。ただ向こうはお前が居ない。出会っていないか……或いは――――――」


その言葉に、隣のカミアが「ふは」と短く笑う。


否、どうせ理由は後者。


世界が新しく作られるほどの出来事、それが直近の出来事で引き起こされたのは目の前の二人を見ても分かるが、リゼル一人でもここまでの事になっているかと聞かれれば、答えは否。


これがもし本当にキーラから送られてきた『創世』だとするなら、分岐点は確実にカミアとの出会い。

そして、何らかの原因でもし今目の前にいる二人が共に歩く道を選んだとしたなら、それはリゼル・レインライトという愚かなどっちつかずが、光の境界を選んだということ。


「……カミア、まさかもう一度会うとはな」

「おや、出会って早々浮気のお誘いは嬉しいが、隣にいる恐妻が睨んでいるぞ」

「……ふざけるな、俺の命はずっとハンナと共にある。俺は統合世界を守る()()使()()にして、光の守護者――――――」


リゼルの言葉に、隣のハンナが「落ち着いて」とその頬を優しくなでる。


第一使徒、誇張するにも聞きなれない単語は果たして本当にリゼルの可能性だったのか少しだけ疑わしくなったが、いずれにせよ確かな事は。


「そうか。これは……俺とハンナの可能性か」


視界の先、二人で寄り添う写し鏡のような存在に、小さく息を吐く。


それは羨望、あるいは嫉妬、あるいは未練。


言葉のチョイスは何だったか、いずれにせよもし仮にこれが本当にもう一つの可能性であったとしたなら、リゼルの元に現れたカミアは『衝動』という選択肢をリゼルに取り戻してくれた、正に救世主とでも呼ぶべき存在だったのかもしれない。


きっと、ずっと心の奥底にあった……頭から焼き付いて離れない過去の偶像を。


「リゼル、もう良いわ。郷愁に浸れるのは選択をできるあなたの特権。でも、さっさと彼らを倒して帰りましょう。私達の愛しい世界に――――――」

「はっ、愛しい世界か。そうか、お前は……過去を切り捨てたのか」

「……!違う、俺は選んだだけだ。ハンナはこの世界で俺を暗闇から救ってくれた。頼ってくれた。()()()()()()()、いつかあの時みたいにって――――――」

「おや、だからその女に言われて私の事を殺したのか?これでもそれなりに気は合っていたと思うが――――――」

「……俺の手じゃ、二つは選べない」


大人なリゼルの言葉にカミアは小さく笑うと、こちらへ来て「確かにあれは我が主だ」と愉快そうに肩を叩く。


実際、もし仮に今のリゼルが光の側を選ぶとしたなら、それは確実に今の反対、カミアという選択肢を切り捨ててのはずだ。

自分でも不器用だとは思うが、リゼルのような一人では使徒になる才能も、滅ぼす覚悟も無い天者一人が何かを目指すとするのならば、片方を切り捨てる程度の覚悟が無ければ届かない。


「……はっ、選べなかった世界線なんて下らない」

「ふは、全くもって同意しよう。それに、あやつらは結局少数を切り捨てているだけだ」

「……別に、今更それっぽい詭弁を持ってこなくても、どうでも良い。カミア、俺の命はお前と共にある。お前と初めて会ったあの時から、ずっと光を飲み込む深海の底に……滅びた世界からの使者として。だからあいつらが俺達の道を阻むなら――――――」


殺すだけ、そんな言葉にカミアが笑う。


とはいえ、今の戦局はさっきまで一人でも苦戦したハンナが更に七年鍛錬を積んで、おまけに第一使徒にまで驚きの成長を遂げたリゼルが隣にいる。

対してこちらのリゼルと言えば、さっきまでの戦闘で放電機構のほぼ全てを使い切って、今も少しずつチャージをしてはいるが、それは当然同一人物である以上相手にも知られているうえ、結局彼らの攻撃は捌くだけでも機構を開放しなければ難しい。


カミアの底は知らないが、恐らく向こうで殺されている以上何らかの限界は存在するのだろうし、万全じゃないという言い訳を加えても余りに分が悪い。


リゼル達が持っているものと言えば、殺した隊員達から奪った過剰な帰還、修復デバイス程度。


「……もう良い。ハンナ」


おまけに、万が一にも彼ら二人ともが使徒としての『証』を持ち得ているのなら。


「ええ。神威武装――――――」


ハンナはリゼルの後方、地面に剣を突き立てる。


これは不味い、とはいえ当然。

自分たちだけで戦うのならまだ勝ち目は0の中でも存在した。


とはいえ神威武装を起動されてしまえば、リゼル達はチャージが完了するまでという制限時間の中で使徒を貫き、強制的に武装を狙わなければいけない。


「ちっ、くそ……また飛ばすか?」

「いや、無理だな。あれが通じるとしたらチャージ後の一瞬。とはいえ、今度は私の手まで熟知した守護者が居る。ふははは、逆境も逆境……ほとんど詰みだな」

「……ちっ、放電機構」


地面を蹴る。


こうなってしまった以上、一瞬も逃していい時間は無い。

地面を高速で蹴り上げると、大回りにハンナの元へ向かい、その前をもう一人のリゼルが阻む。


「カミア」

「分かっている」

「……無駄だ。紫電機構」


足元に巨大な電界が走る。

それは地面を這うように進むと、途中で危険を悟ったのか実体化したカミアが盾で受け止め、その身体が直後に吹き飛ばされる。


――――――ガシャリ。


響いた二対の音に、爆風がリゼルの身体まで後方へと吹き飛ばした。


「ちっ、身体能力から技術、おまけに装備の性能まで上か」

「ふは、月日というものは恐ろしいものだ。加えてあの女は動く気配もない。このままあの一撃で終わらせるつもりだな」

「……ちっ」


頭が回らない。


それは疲労ゆえ、いや、きっと頭が回っていたとしても、この場での最適解など存在しなかっただろう。


覆せる手が思いつかない。

一人でさえ太刀打ちが出来なかった使徒が二人、おまけにこちらの制限時間は後数分。


その間に神威武装を止めて、彼女たちを殺して、彼女たちの世界が有るのならそこへの対策も直ぐに取らなくてはならない。


『無事に帰ってきて』


きっと、もう一人の裏切り者と共に。


「おや、これはあの狂人女か。こんな時に君は随分と愛されているな」

「……!違う。あいつは無駄な事はしない。あいつが帰ってきてって言うなら――――――」


刹那、足元に僅かに電気を纏わせると、カミアは意図を読み取ったのか直後周囲一帯に三重の金属の壁を貼る。


一瞬の判断、同時に懐から帰還デバイスを取り出すと、一方揺らいだ壁は何かを感じ取られたのか。


「逃げるのか?」

「……精々警戒してろ。俺達は天からの滅びを否定する『背滅機関』――――――」


光に包まれた視界、直後に吹き飛んだ壁の向こうから気持ち悪いくらい同じ顔が見える。


今、ここから二人が万に一つの逆転劇を繰り広げるには、余りに手が足りていない。

覆せる可能性があるとすれば、それはここに居ないもう一人の裏切り者にして、諸悪の根源とでも呼べる最悪の科学者、キーラ・メイレン。


とはいえ、彼女はこの戦局を詳しく把握してはいないだろうし、帰還デバイスを利用して移動できる世界はあくまでも、元の統合世界のはず。


「今更だが、あの女も協力者だったのか。気味の悪い女だとは思っていたが――――――」


当然、あんなメッセージを送ってきた以上、全てを何かしらで見ているのだろうが。


「……そうだな。それでも、縋るならキーラしかいない」


目を閉じて思い返せば、いつも思い出すのはあの日の光景ばかり。


人生で唯一穏やかだった日々、人生で唯一必要とされていた時間。


もう境界を越えたリゼルには、引き返す資格も……引き返す理由も無い。


『ぐすっ……お兄ちゃん……』


だから、泡沫の間に見た昔の景色もきっと……未練であるはずなどない。


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