21話:手合わせ1
「俺と勝負?」
「そ。一人でやるよりも二人でやった方が得るものも大きいでしょ? まぁ……あんたにとってはアタシなんかが相手じゃ何も得るものなんてないかもだけど」
「いや、そんなことはないぞ」
「えっ?」
「人と剣を交えることで初めて分かることは数知れないからな」
今までの経験で分かったことだ。
当然だが、俺は全知全能ではない。
俺の知らない剣、剣術、戦い方……知らないことはまだまだ沢山ある。
実際、俺が騎士を志して旅を始めた頃なんて、無知も無知だった。
そこから色々な場所へ赴き、ロンド騎士団に入った。
そこでも発見はあった。
今となっては過去の話だが、俺の周りにいた貴族騎士たちは優秀揃いだったからな。
一応指揮官として上の立場にあったが、そいつらから学んだこともあった。
力だけが全てじゃない。
騎士としての有様とかを。
そう考えてみれば、騎士団での生活も俺の騎士人生の中でも大きな糧となったと言えるだろう。
終わり方は最悪だったが。
「だから、俺がフィオナと剣を振るうことで知ることもあるかもしれない。そもそも剣で語り合うというのは知恵の共有を意味する言葉でもあるからな」
「そう……なのね。じゃあ、あんたはアタシとの勝負を受けるってことでいいのかしら?」
「もちろんだ。どちらにせよ、その内一戦交えないといけないからな」
指導する身として力量を知る必要がある。
目で見るだけでもいいんだが、俺の性格上身体に覚えさせたいタイプなんでな。
「んじゃ、早速始めるか」
「ちょちょちょ、ちょっと待った~~っ!」
剣を構えるとフィオナから待ったの声があがる。
「ん、どうかしたか?」
「どうかしたか? じゃないわよ! あんた、まさかそれでやり合うつもり?」
「それ……? ああ、つい……」
手に持っていたのは俺の持ち剣。
こういう模擬戦とかする際は実剣ではなく、訓練用の木刀を使うのがポピュラーだ。
あまりにも自然な流れで勝負になったから、気が付かなかった。
「すまん、実剣で戦うつもり満々だった」
訓練用の木刀を手に取り、再度戻って来ると。
「別に悪いことをしたわけじゃないから、いいわよ。でも昨日のことは流石に驚いたわ」
「昨日のこと?」
「お父様相手に実剣で勝負を申し込んだことよ。騎士王相手に実剣で勝負だなんて、自殺行為だわ。普通に一撃を受けるだけでもケガをするかもしれなかったのに……」
確かにそうだ。
命の取り合いでもない場面で、身の安全を考えればフィオナの言うことは正しい。
「でも、そっちの方がスリルがあっていいじゃないか。勝負をしているって感じがしてさ」
「スリルって……」
「それに、実戦形式で戦った方が相手のことをより知ることが出来る。練習だろうが何だろうが、そっちの方が楽しいし、勉強にもなるだろ?」
これはあくまで俺の持論だが……
「……ふふっ。やっぱり、あんたは少し変わってるわ」
フィオナは自信満々にそう話す俺を見ると、頬を歪め笑いだした。
「そうか?」
「うん。でも良い意味でね。アタシは結構好きな考え方よ」
そう言いながら、今度は微笑みかけてくる。
「じゃあ、お話の続きは鍛錬後にして……そろそろ始めましょ!」
「だな」
俺とフィオナは互いに剣を向ける。
さっきまでの穏やかな雰囲気から一変、互いの眼と表情は戦士の風格へと変わっていく。
「一応言っておくけど、アタシは手を抜く気なんてないから。あのお父様を退けたあんたが相手なら尚更ね」
「俺も同じだ。練習とは言っても温い試合をするつもりはない。負けたくなければ、全力でかかってこい」
「言うわね。なら、遠慮なくやらせてもらうわ!」
フィオナの眼がマジモードに切り替わる。
俺もどんな攻撃が来てもいいように、臨戦態勢を整える。
そして。
フィオナは剣先をこちらに一直線に向けると、俺の懐めがけて猛進してくるのだった。
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