助力を請う
そしてその夜、私はある決意をもってお父様の書斎を訪れていた。
デイル達がいかに手早くお茶会の手配をしてくれていたとしても、数日はかかる。それまでぼんやりしているわけにもいかない。
タイン王子にぶっちゃけたからには、陛下やお父様にいつ伝わってもおかしくない。
それならいっそ、お父様に自分でしっかりとお話しして、助力を請うべきかも知れない、そう思ったから。
「どうしたんだい? おりいって話があるだなんて珍しい」
珍しい、と言いつつもお父様はとっても嬉しそう。周囲からは怖いと評される酷薄そうな目元が、柔らかく細められている。公爵家の象徴ともいえるダークレッドの髪も艶やかな、まだまだ若々しい自慢のお父様だ。
冷酷で厳格そうな見た目とは裏腹にサービス精神旺盛なお父様は、見るからにウキウキした様子で手ずからお茶を淹れてくれた。
「さあ、遠慮はいらないよ、ラウリル。話してごらん」
「実は……先日もタイン王子がおいでになって」
「ああ〜……うん、そっか」
途端にシュンとするお父様。きっと私を不憫に思ってくれているんだろう。なにせ子供の頃から、タイン王子がわざわざ邸に来ては「君を愛せない」と言い続けていることは、お父様だって嫌と言うほど理解している。
「あんまり気にするんじゃないよ、なにせ魔女の呪いなのだから」
そうやっていつだって慰めてくれる。そんな優しいお父様だからこそ、心労を減らしてあげたいとも思っているのよね。
「気にしてはいません。私は以前から口にしているように、この呪いのことも理解しているつもりですし、呪い込みでタイン王子と婚姻することに異論はないのですわ」
「ラウリルは本当に昔っから聞き分けがいい子だね。辛いだろうに」
よしよしと撫でてくれながら、お父様はスン、と小さく鼻を啜る。目頭をおさえているところを見るに、早くも込み上げてきたものがあるんだろう。
お父様はそりゃあもう、涙もろい性質なのだ。
「ですが、愛のない婚姻を忌避するタイン王子のお気持ちも分かるのです。……ですから私、魔女の呪いを解く方法を真剣に探そうと思って」
私の言葉に、お父様は驚いたように目を瞬かせた。
「呪いを解く? 何百年も前の、得体の知れない呪いをかい?」
「はい。解呪の書に、こういった特殊な呪いは、呪いをかけた本人かその血縁者や一門のものなら、解呪できる可能性があると書かれていて……私、呪いをかけた魔女かその血縁者を探してみようと思っているのです」
「気持ちは分かるが……手がかりがないのだよ」
お父様は悲しそうに首を振る。